THUNDER⚡️ANGELS

幾橋テツミ

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第九章 群雄凶戦譜

復讐鬼レイガル②

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 黒蛇星爵の言葉通り、酸鼻を極めたババイヴ処刑映像の一切を視ていた因堂怜我レイガルは、持ち前の超人的な自制心で安全運転を維持していたものの、その胸中は文字通り寒風吹きすさぶ荒野と化していた。

 されどそれは決して大教帝への失望などではなく、自分自身の優柔不断さがもたらした、愛するもの全てを喪ってしまうという最悪の結果への悔恨である。

『何故、昨日の朝…桜城和紗メラミオが出発した直後に蹶起できなかったのか──あの時ならば敵といえるほどの存在はエルドのみ、しかも15秒はかかる特装戦甲の装着前ならば文字通り赤子の手を捻るようなもの…。

 続いて酒毒によってより一層無力となったザジナスを屠り、有無を言わさずケイファーをシメ上げてババイヴ様を目覚めさせればそこで王手チェックメイトとなっていたものを…!

 後はメラミオがルリアと神野を捕獲して戻るのを待って全身全霊で愛を伝えれば、きっと分かってくれたはず──何故ならば、彼女は少なからず私に好意を持ってくれていたはずだからだ…!!』

 されど全ては後の祭り…自分を取り巻く環境が完全に暗転してしまった今、とにかく何にもまして優先すべきは大教帝殺害の下手人への報復である。

『──蛸ノ宮め、赦せん…!

 だが飛翔基地の頭脳ともいうべき指令室を完全に毀損してしまった以上、このまま宇宙に逃亡する訳にもいくまい。

 奸智に長けたヤツのこと、地上か或いは地下に“第二の活動拠点”を設えているのは間違いなかろうから、ひとまずそこに逃げ込んで修復にかかるに違いない…いやひょっとしたら、そこに巨大な長距離航行用宇宙船を隠匿している可能性は大いに考えられる…!

 その場合は直ちに乗り換えて逃亡するだろう…ならばグズグズしているヒマはない。

 このまま追って単身アジトに乗り込み、われわれの怨みをその醜悪な躰でたっぷりと味わってもらおうではないか…!!』

 そこで問題になるのは、いうまでもなく前方を走る車中の二人である。

 心眼で追跡トレースし続けているサンダーベースを実際に追尾するとなると、当然ながら進路を分かたねばならぬ瞬間が訪れるからだ。

『むろん太鬼は私が視たのと同じ光景を目の当たりにしたはず──であれば即座に蛸ノ宮の追跡に入ったことを覚るだろう。

 一応エルドと協議はするだろうが、果たしてどう出るかな?

 今すぐ、或いは車の進路を変えた時点でテレパシーか電話で説得してくるか?

 それとも一切関知することなく放置するか…そう見せかけて黙って尾行してくるのか?

 ──ま、いかなる展開になるにせよ、…!』

        ✦

 黒蛇星爵との脳内交信を切り上げた太鬼真護の口調は何事もなかったかのように従来のそれに戻り、その第一声が

「──些か取り乱しまして、失礼しました」

 であったためか、張りつめた表情であった網崎詠斗ラゼム=エルドは思わず吹き出してしまう。

「かはははッ…いや全く、突然どうしちまったんだと思わず身構えちまったぜ。

 もしこれが敵の心霊攻撃か何かだとしたら、いきなりハンドルにしがみつかれて思いっきり回されちまうことだってあり得るワケだからな…!

 だが相手があの黒蛇だったんなら、話の内容がとんでもなくヘビーなのも納得ってモンだぜ…!!」

「ええ、これまで相対した中では間違いなく最もおそるべき相手でしたよ…。

 何しろ先制パンチとして私が飛翔基地の内部を透視するのを完封してのけた訳ですから…!

 ですがご親切にもw、結果だけは教えてくれましたよ──勝ったのは蛸ノ宮です。

 ババイヴはまんまとヤツの奸計にハマり、無残にも指令室ごとペシャンコにされてしまったらしいですね…!」

 思わず絶句してしまったエルドであったが、思い出したようにこう呟く。

「そうなると…レイガルはすぐこの足で報復に動くな…!」

「間違いないでしょう。

 さて、どうします?

 私としては不干渉でしばらく泳がせてみたいんですが…。

 何故ならどちらが勝とうがいずれ黒蛇に襲われるのは変わりない訳で。

 むろんわれわれとてもうじき到着するD‐EYESに付け狙われている以上、優雅に高見の見物ができる立場でもありませんがね…」

「うむ、それで異存はないが…。

 だがその復讐戦の透視も妨害してくるなんてことはないだろうな?」

「それはないでしょう──何故なら多大なサイコパワーを費消してまで負極界むこうの作戦でもないこの一戦を目隠しする必要が無いですからねえ…。

 ですが…!」

 暫しの沈黙の後…ラゼム=エルドは苦笑混じりで頷いた。

「──同感だ。

 しかし蒼頭星人にしてみればそれはあくまで〈前門の虎〉を撃破したに過ぎず、背後からヒタヒタと〈後門の狼〉=D‐EYESが迫っているワケだが…」  

 背凭れに上体を預けつつ、闇黒の鬼公子が事もなげに言葉を継ぐ。

「…であるからこそ、…!」






 






 






 

 



 
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