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第九章 群雄凶戦譜
“漆黒の戦鬼”葬送曲〈前編〉
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助手席の怪少年が僅かに俯き、表情が俄に翳ったのを敏感に察した詠斗は、単身死地に乗り込んだ怜我の身に凶運が訪れたことを覚った。
「…何があったのか、よかったら教えてもらえるかい…!?」
小さく頷いた太鬼真護が陰鬱な口ぶりで応じる。
「…どうやらわれわれはあの蒼頭星人を甘く見すぎていたようですね…。
みごと飛翔基地内に潜入したまではよかったものの目当ての怨敵はあっさり取り逃がしたばかりか、早くも復活した人工戦士に背後から奇襲されてメッタ斬りにされている模様です…」
もはや殺伐とした展開には麻痺してしまったのかさして驚いた様子もない詠斗であったが、さすがにこれには思うところがあったらしく気色ばむ。
「──復活だと?
ということは、先日アイツが破壊してのけた3体に逆襲されてるのか?」
「いえ、出現したのはカマキリみたいな顔つきの、両手首から刃物を出すヤツだけですね。
尤も修理中のためか緑色の表皮無しの中身剥き出しですけど…名はたしか幻護郎とかいったっけな…」
「…何やってんだよ、全く…」
一切の忖度抜きに腹の底から絞り出された失望コメントに真護も一応は頷いたものの、その表情には釈然としきれぬものがあった。
「たしかにレイガル氏らしからぬ油断があったのは事実のようですが、少し妙なところも感じますね…」
「──妙なところだって?」
「ええ…うまく表現しかねるんですが、つまりその…いくら何でも幻護郎強すぎね?って思うんですよね…」
「そこがさっきキミが言ってた、蛸ノ宮を甘く見すぎてたって部分に繋がるんじゃないのかい…!?」
「まあそうなんですが…。
ただ、いくらアイツが銀河有数の天才科学者兼技術者だろうと、これほどの短期間であそこまで強化できるものなのか?という疑問をどうしても払拭できないんですが…。
エルドさん、誇張抜きにこの幻護郎なら、今すぐ銀魔星の連中と五分の勝負がやれそうですよ…!」
この断言にはさすがの“ペティグロス最強戦士”も驚いたようであった。
「──マジかよッ!?
しかしそういうことなら納得がいく。
つまり銀魔星は自分らに匹敵する機械戦士の軍団が誕生することを未然に防ぐために蛸ノ宮を自陣に加えようとしてるんだ…!」
「もちろん、それはあるでしょうが…それにしてもスゴいな。
ところでレイガルVS3体の映像はご覧になりましたか?」
「ああ、見た…というかザジナスに見せられた。
何せ後からレイガルと話して分かったことだが、どうやらあの野郎、オレたちを戦わせて共倒れさせようって魂胆らしかったんだよ…。
しかしありゃレイガルによる一方的な虐殺で、戦いなんて立派なモンじゃなかったぜ…」
「それが、立場を替えて現在行われてるんですよ──正確には幻護郎による冷酷極まる報復行為が…」
「…でも、そりゃ背後から不意打ちを食らったからだろ?」
「それはそうなんですが…けれども真正面からブツかったとしても同じ結果になったと思いますね」
ここまで聞いてはじめてエルドも未曾有の事態が発生していることに思い至ったようであった。
「何だとッ!?
だとしたら具体的に言ってくれよ、一体あの人工戦士がどう超進化してのけたのかをなッ!?」
「了解です。
一言で言えば迅いんですよ──とはいっても俯せになった相手をひたすら斬撃してるだけなんですが、そのスピードが誇張抜きに目にも止まらぬっていうレベルなんです。
いかに蛸ノ宮とて、この短期間でこれだけの新機動システムを実装できたとはどうしても思えないんですが…」
「そりゃ只事じゃねえな…。
だがよ、もしかしたら100%幻護郎の自律駆動じゃなくて蛸ノ宮による遠隔操作じゃねえのか?
それによ、一切抵抗できずに膾斬りにされてるってんなら、信じたくはねえがレイガルの野郎、既に事切れちまったってことなのかい…!?」
「どうやらもう意識は無いみたいですね…残念ながら逝くのは時間の問題でしょう…」
✦
幻護郎の動きがおかしいということは、レイガル自身がかつて味わったことのない苦痛によって誰よりも痛感していた。
されど、それは今や身命を賭した喜悦であったのだ!
何故なら頸動脈を断たれた瞬間、彼はある声を聴いたのだから…。
永遠の別離が二人を隔ててから、再び耳にすることを何よりも切望してきた桜城和紗の声を!
“──怜我さん、一体どういうことなの?
私というものがありながら、逢ったこともないはずの雷の聖使を妻に望むなんて…!?
あの悪魔のようなザジナスに心臓の鼓動を止められてから、私はずっとあなたを待っていたというのに…。
あなたの気持ちにはそれこそ邂逅した日から気付いていたし、あなたになら全てを奪われてもいいとすら思ってた…。
そうよッ、ずっと悔やんでいた通り、あの時あなたが起ち上がればよかったのよッ!
そうすれば…そうすれば全ては上手くいったのに…!!
私たちだけの新しい王国をこの星の上に築き上げることができたのにッ…。
でも…でもこれもまた運命だったのだと自分に言い聞かせることができたのは、あなたが私を失ったことでこの世の全てに絶望し、直ちに破滅的な戦いを起こしてすぐに冥府に来てくれるものと信じたからなのよッ!
それなのに…それなのにあなたは新しい夢を見はじめてしまった──しかもあろうことかあんな白痴同然の小娘をその中心に置いてッ!!
愛する人がそんな悪夢に翻弄されるのをこの私が黙って傍観できると思ってッ!?
冗談じゃないわッ!
だからたまたま目に入ったこのガラクタを使って強制的に目を覚まさせてあげようというのよッ!!
でも、もう分かってくれたみたいね──何故って、もはや絶命寸前のあなたは何も考えられず、ただただ死の女神である私の胸に抱かれるしかないのだからッ!!!”
「…何があったのか、よかったら教えてもらえるかい…!?」
小さく頷いた太鬼真護が陰鬱な口ぶりで応じる。
「…どうやらわれわれはあの蒼頭星人を甘く見すぎていたようですね…。
みごと飛翔基地内に潜入したまではよかったものの目当ての怨敵はあっさり取り逃がしたばかりか、早くも復活した人工戦士に背後から奇襲されてメッタ斬りにされている模様です…」
もはや殺伐とした展開には麻痺してしまったのかさして驚いた様子もない詠斗であったが、さすがにこれには思うところがあったらしく気色ばむ。
「──復活だと?
ということは、先日アイツが破壊してのけた3体に逆襲されてるのか?」
「いえ、出現したのはカマキリみたいな顔つきの、両手首から刃物を出すヤツだけですね。
尤も修理中のためか緑色の表皮無しの中身剥き出しですけど…名はたしか幻護郎とかいったっけな…」
「…何やってんだよ、全く…」
一切の忖度抜きに腹の底から絞り出された失望コメントに真護も一応は頷いたものの、その表情には釈然としきれぬものがあった。
「たしかにレイガル氏らしからぬ油断があったのは事実のようですが、少し妙なところも感じますね…」
「──妙なところだって?」
「ええ…うまく表現しかねるんですが、つまりその…いくら何でも幻護郎強すぎね?って思うんですよね…」
「そこがさっきキミが言ってた、蛸ノ宮を甘く見すぎてたって部分に繋がるんじゃないのかい…!?」
「まあそうなんですが…。
ただ、いくらアイツが銀河有数の天才科学者兼技術者だろうと、これほどの短期間であそこまで強化できるものなのか?という疑問をどうしても払拭できないんですが…。
エルドさん、誇張抜きにこの幻護郎なら、今すぐ銀魔星の連中と五分の勝負がやれそうですよ…!」
この断言にはさすがの“ペティグロス最強戦士”も驚いたようであった。
「──マジかよッ!?
しかしそういうことなら納得がいく。
つまり銀魔星は自分らに匹敵する機械戦士の軍団が誕生することを未然に防ぐために蛸ノ宮を自陣に加えようとしてるんだ…!」
「もちろん、それはあるでしょうが…それにしてもスゴいな。
ところでレイガルVS3体の映像はご覧になりましたか?」
「ああ、見た…というかザジナスに見せられた。
何せ後からレイガルと話して分かったことだが、どうやらあの野郎、オレたちを戦わせて共倒れさせようって魂胆らしかったんだよ…。
しかしありゃレイガルによる一方的な虐殺で、戦いなんて立派なモンじゃなかったぜ…」
「それが、立場を替えて現在行われてるんですよ──正確には幻護郎による冷酷極まる報復行為が…」
「…でも、そりゃ背後から不意打ちを食らったからだろ?」
「それはそうなんですが…けれども真正面からブツかったとしても同じ結果になったと思いますね」
ここまで聞いてはじめてエルドも未曾有の事態が発生していることに思い至ったようであった。
「何だとッ!?
だとしたら具体的に言ってくれよ、一体あの人工戦士がどう超進化してのけたのかをなッ!?」
「了解です。
一言で言えば迅いんですよ──とはいっても俯せになった相手をひたすら斬撃してるだけなんですが、そのスピードが誇張抜きに目にも止まらぬっていうレベルなんです。
いかに蛸ノ宮とて、この短期間でこれだけの新機動システムを実装できたとはどうしても思えないんですが…」
「そりゃ只事じゃねえな…。
だがよ、もしかしたら100%幻護郎の自律駆動じゃなくて蛸ノ宮による遠隔操作じゃねえのか?
それによ、一切抵抗できずに膾斬りにされてるってんなら、信じたくはねえがレイガルの野郎、既に事切れちまったってことなのかい…!?」
「どうやらもう意識は無いみたいですね…残念ながら逝くのは時間の問題でしょう…」
✦
幻護郎の動きがおかしいということは、レイガル自身がかつて味わったことのない苦痛によって誰よりも痛感していた。
されど、それは今や身命を賭した喜悦であったのだ!
何故なら頸動脈を断たれた瞬間、彼はある声を聴いたのだから…。
永遠の別離が二人を隔ててから、再び耳にすることを何よりも切望してきた桜城和紗の声を!
“──怜我さん、一体どういうことなの?
私というものがありながら、逢ったこともないはずの雷の聖使を妻に望むなんて…!?
あの悪魔のようなザジナスに心臓の鼓動を止められてから、私はずっとあなたを待っていたというのに…。
あなたの気持ちにはそれこそ邂逅した日から気付いていたし、あなたになら全てを奪われてもいいとすら思ってた…。
そうよッ、ずっと悔やんでいた通り、あの時あなたが起ち上がればよかったのよッ!
そうすれば…そうすれば全ては上手くいったのに…!!
私たちだけの新しい王国をこの星の上に築き上げることができたのにッ…。
でも…でもこれもまた運命だったのだと自分に言い聞かせることができたのは、あなたが私を失ったことでこの世の全てに絶望し、直ちに破滅的な戦いを起こしてすぐに冥府に来てくれるものと信じたからなのよッ!
それなのに…それなのにあなたは新しい夢を見はじめてしまった──しかもあろうことかあんな白痴同然の小娘をその中心に置いてッ!!
愛する人がそんな悪夢に翻弄されるのをこの私が黙って傍観できると思ってッ!?
冗談じゃないわッ!
だからたまたま目に入ったこのガラクタを使って強制的に目を覚まさせてあげようというのよッ!!
でも、もう分かってくれたみたいね──何故って、もはや絶命寸前のあなたは何も考えられず、ただただ死の女神である私の胸に抱かれるしかないのだからッ!!!”
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