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第2章 【パーフェクト・アイドル】の香り
夢で逢えても目覚めりゃ涙③
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『えーっ!?
よりにもよって、一体全体何の因果で聖蘭様と戦わなきゃならないんだよオッッ!?』
急転直下、強引に火蓋を切られた憧れのアイドルとの戦いに頭がパニック状態となった冬河黎輔を絆獣聖団三代目団長の桂城聖蘭は容赦なく一喝する。
「何をボーッと突っ立っているのっ!?
言っておくけど、私は真剣よッ!
たとえあなたが無抵抗だとしても完全に〈敵〉と見做して攻撃するから、油断してたらほんとうに死ぬわよッ!!」
かくて美しき魔法剣士は右手に握りしめた白く輝く精霊剣を高く掲げ、昂然と《宣導呪文》を唱える。
「降魔の波よ、立ち上がれッ!
この清らかなる湖と森の平安を守るため、そして大自然の厳然たる秩序を踏みにじる悪鬼を駆逐するため…、
今こそ元素の中心部に息づく超自然力を発動させよ!
さあ疾るのだッ!水の閃刃よッッ!!!」
鮮烈な叫びと同時に白き聖剣はより眩さを増し、穏やかだった湖面が一変した。
桂城聖蘭が立つ棺の前に高さ五メートル、直径三十センチもの水柱が出現したと思いきや、それはみるみる細く…いや薄くなり、おそるべき刃へと変貌した瞬間、未だファイティングポーズすら取り得ていない岸辺の錬装者に向けて解き放たれたのだ!
『ウワッ! は、迅ええッ!!
だ、だがよ、しょせんは水だろ!?
鋼鉄より硬え錬装磁甲に歯が立つわけがねえッ!!』
水刃の出現と同時に躰の自由が戻ったのを幸い、かくなる上は真正面から受け止めてやるとばかり拳を握りしめて両腕をクロスさせた黎輔であったが、新聖団長&精霊剣が発生させた湖の魔刃の威力は想像以上であった!
「バ、バカなッ!?
磁甲に防護されてるはずの腕が何でこんなに痛えんだよッ!?
し、しかもこの圧力!
一旦錬装すればダンプカーにも押し負けねえはずのこのオレが思いっきり踏んばってるってのになす術なくズルズルと後退しちまってるっ…信じられねえッ!
い、一体、三代目…い、いや聖蘭様って何者なんだよッ!?」
錬装磁甲と精霊魔法の奇怪な激突からおよそ一分後に巨大なる刃は水へと戻り、ざあっと大地に降り注いだが、およそ十メートル近くも森の黒土に深い轍を刻みつつ後退らされた末にようやく難を逃れた黎輔は、湖面から自分が佇立する地面まで凄まじいまでの裂け目が生じているのを目の当たりにして戦慄した。
『ま、まるででっけえ回転ノコギリが分厚い板を疾り抜けた跡みたいじゃねえか…!
し、しかもこの腕の傷みと痺れ…、
冗談抜きに皮膚がザックリと裂けてる気がする…。
ただの水をこんなアブねえ超兵器に変えちまうなんて…、
聖蘭様、ヤバすぎるぜ…!』
一方の白い剣士は愛剣に白マニキュアが光る美しい指を滑らせつつ、静かに語りかけていた…。
「…このままひたすら《水刃連撃》を喰らわせてやってもいいんだけど…、
どうせ彼には防ぎきれないし、何より刃の数を増やせば森の樹々に被害を及ぼしてしまう危険性があるから、《水龍轟牙》に切り替えて水中に叩き込んでやるわッ」
“──心得ました。
ですが、あの重そうな鎧を着たまま湖面に放り出されればたちまち溺れ死にそうですけど…よろしいのですか?”
ここで桂城聖蘭は最近では滅多に信奉者たちにも披露しない“完璧なる微笑み”を浮かべた。
「…錬装磁甲をまとってる限りそれはないと思うけどね…。
けれど装着者がアレじゃ、せっかくの危険防止機能もうまく作動しないかもしれないな…。
──ほんと、手のかかる子…!
でも、せっかくの舞台装置を使わない手はないでしょ…だから《風獄螺門》と併用して死なない程度に痛ぶってやるわ…」
“…かしこまりました“
しかし物言う剣の返事が終わる前に聖蘭は黎輔を挑発していた。
「全くだらしがないわねッ!
あれしきの攻撃を、しかもただ一発食らっただけでもう戦意喪失!?
そんな体たらくじゃ、“生身のSILKY⚔BLADESの親衛隊長”にも負けちゃうわよッ!!
こんな言い方したくないけど、冬河クン、キミは選ばれし錬装者…しかも中国支部の首督でしょ!?
──そして、筋金入りのシルブレストでしょッ!?
よく考えてみてよ、あなたは今この瞬間、推しの桂城聖蘭とたった二人きりでこの空間にいるのよっ!?
ここにはキミと私しかいないのよッ!?
あなたの私への想いはこんな初歩的な精霊魔法もはね返せないほど生ぬるいものなのッ!?
いい?ここがキミの聖団員としての…
そして男としての正念場よッ!
気合を入れなさい!!
もし万が一、あなたが勝てば…私を自由にしていいからッッ!!!」
よりにもよって、一体全体何の因果で聖蘭様と戦わなきゃならないんだよオッッ!?』
急転直下、強引に火蓋を切られた憧れのアイドルとの戦いに頭がパニック状態となった冬河黎輔を絆獣聖団三代目団長の桂城聖蘭は容赦なく一喝する。
「何をボーッと突っ立っているのっ!?
言っておくけど、私は真剣よッ!
たとえあなたが無抵抗だとしても完全に〈敵〉と見做して攻撃するから、油断してたらほんとうに死ぬわよッ!!」
かくて美しき魔法剣士は右手に握りしめた白く輝く精霊剣を高く掲げ、昂然と《宣導呪文》を唱える。
「降魔の波よ、立ち上がれッ!
この清らかなる湖と森の平安を守るため、そして大自然の厳然たる秩序を踏みにじる悪鬼を駆逐するため…、
今こそ元素の中心部に息づく超自然力を発動させよ!
さあ疾るのだッ!水の閃刃よッッ!!!」
鮮烈な叫びと同時に白き聖剣はより眩さを増し、穏やかだった湖面が一変した。
桂城聖蘭が立つ棺の前に高さ五メートル、直径三十センチもの水柱が出現したと思いきや、それはみるみる細く…いや薄くなり、おそるべき刃へと変貌した瞬間、未だファイティングポーズすら取り得ていない岸辺の錬装者に向けて解き放たれたのだ!
『ウワッ! は、迅ええッ!!
だ、だがよ、しょせんは水だろ!?
鋼鉄より硬え錬装磁甲に歯が立つわけがねえッ!!』
水刃の出現と同時に躰の自由が戻ったのを幸い、かくなる上は真正面から受け止めてやるとばかり拳を握りしめて両腕をクロスさせた黎輔であったが、新聖団長&精霊剣が発生させた湖の魔刃の威力は想像以上であった!
「バ、バカなッ!?
磁甲に防護されてるはずの腕が何でこんなに痛えんだよッ!?
し、しかもこの圧力!
一旦錬装すればダンプカーにも押し負けねえはずのこのオレが思いっきり踏んばってるってのになす術なくズルズルと後退しちまってるっ…信じられねえッ!
い、一体、三代目…い、いや聖蘭様って何者なんだよッ!?」
錬装磁甲と精霊魔法の奇怪な激突からおよそ一分後に巨大なる刃は水へと戻り、ざあっと大地に降り注いだが、およそ十メートル近くも森の黒土に深い轍を刻みつつ後退らされた末にようやく難を逃れた黎輔は、湖面から自分が佇立する地面まで凄まじいまでの裂け目が生じているのを目の当たりにして戦慄した。
『ま、まるででっけえ回転ノコギリが分厚い板を疾り抜けた跡みたいじゃねえか…!
し、しかもこの腕の傷みと痺れ…、
冗談抜きに皮膚がザックリと裂けてる気がする…。
ただの水をこんなアブねえ超兵器に変えちまうなんて…、
聖蘭様、ヤバすぎるぜ…!』
一方の白い剣士は愛剣に白マニキュアが光る美しい指を滑らせつつ、静かに語りかけていた…。
「…このままひたすら《水刃連撃》を喰らわせてやってもいいんだけど…、
どうせ彼には防ぎきれないし、何より刃の数を増やせば森の樹々に被害を及ぼしてしまう危険性があるから、《水龍轟牙》に切り替えて水中に叩き込んでやるわッ」
“──心得ました。
ですが、あの重そうな鎧を着たまま湖面に放り出されればたちまち溺れ死にそうですけど…よろしいのですか?”
ここで桂城聖蘭は最近では滅多に信奉者たちにも披露しない“完璧なる微笑み”を浮かべた。
「…錬装磁甲をまとってる限りそれはないと思うけどね…。
けれど装着者がアレじゃ、せっかくの危険防止機能もうまく作動しないかもしれないな…。
──ほんと、手のかかる子…!
でも、せっかくの舞台装置を使わない手はないでしょ…だから《風獄螺門》と併用して死なない程度に痛ぶってやるわ…」
“…かしこまりました“
しかし物言う剣の返事が終わる前に聖蘭は黎輔を挑発していた。
「全くだらしがないわねッ!
あれしきの攻撃を、しかもただ一発食らっただけでもう戦意喪失!?
そんな体たらくじゃ、“生身のSILKY⚔BLADESの親衛隊長”にも負けちゃうわよッ!!
こんな言い方したくないけど、冬河クン、キミは選ばれし錬装者…しかも中国支部の首督でしょ!?
──そして、筋金入りのシルブレストでしょッ!?
よく考えてみてよ、あなたは今この瞬間、推しの桂城聖蘭とたった二人きりでこの空間にいるのよっ!?
ここにはキミと私しかいないのよッ!?
あなたの私への想いはこんな初歩的な精霊魔法もはね返せないほど生ぬるいものなのッ!?
いい?ここがキミの聖団員としての…
そして男としての正念場よッ!
気合を入れなさい!!
もし万が一、あなたが勝てば…私を自由にしていいからッッ!!!」
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