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第4章 【覇闘】直前狂騒曲
錬装者煉獄篇①まさか、コイツが…!?
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『ちっ、救護車が故障だって?
…全くとことんロクなもんじゃねえな、中国支部の扱われ方って…。
この暗転ムードのせいで、あの最重要クエスチョンが切り出せなくなっちまったじゃんか…!』
冬河黎輔の嘆きをよそに、険しい表情で立ち上がった宗 星愁は、那崎恭作を見下ろす。
「どうも研究所が気になるな…。
恭作、すまんがオレと一緒に来てくれ。
二人はとにかく覇闘に集中して…そろそろアップを開始していた方がいいぜ」
「なんぼ何でも早すぎらあ!
大体、開始時刻は10時だろうが、このクソ暑い中、あと2時間半もダラダラと汗流してられっかよ!
“剛駕流”ではよ、何よりも〈イメージトレーニング〉を重視するのさッ!
──こう半眼になって集中力を極限まで高めるとな、すぐ目の前に今日の対戦相手の像がありありと…」
「…それに似た話、とある格闘マンガで読んだなあ…。
ちなみにボクはそんな超人的なイメージ力をとても持ち合わせちゃいないけど、スタミナ削られるのがヤなんであと1時間ばかりコレ聴いときますわ…せめて気分の方をアゲるために…」
昨日と同じ黒短パン(モノは別)のポケットから青いワイヤレスイヤホンを取り出して嵌めた黎輔は卓上の青いスマホで音楽アプリを開く。
「へえ…何聴くの?
あッ、SILKY⚔BLADES!
…そういや自分、熱狂的シルブレストだっつってたもんなあ…」
画面を覗き込んだ恭作が合点がいった表情になるが、黎輔はそれを聞いた〈事情通〉の表情にひたすら注目していた。
──されど残念ながら、苛立っている時の癖で眉間に深い皺を刻んだ星愁は彼を一瞥もせずに踵を返したのである…。
「…じゃ、とりあえず行って来るわ…」
友の肩をぽんと叩いて立ち上がった若者が先行者と同じく小走りとなって後に続く。
残された二名の当事者は虚ろな視線を一瞬絡み合わせたものの年少者はすぐにそれを外して所在なさげにため息をつく。
「…黎輔、おまえがファンとは知らなかったが、SILKY⚔BLADESってサイコーだよな…」
この意外な告白を受け、思わず少年は左斜め前で毛むくじゃらの腕を組む巨漢に視線を戻す。
「こりゃ意外…あっ、失礼…。
でも嶽さん、マジで聴いてるんですか?」
『…思わぬ所で同好の士を発見したんだからフツーなら心弾むはずなのに、そうはならない…むしろ薄っすら不快な気持ちになるのは何故なんだろう…?』
と訝しみつつ冬河黎輔は訊ねた。
だがこれまた予想に反し、剛駕嶽仁は自分がいかに早く従来のアイドルユニットとは一線を画すSILKY⚔BLADESの革新性に注目し、既にその時点で現在の怪物的ともいうべき規模にまで進化を遂げるのを予見し、それが現実化してゆく過程を途切れることなく見守ってきたのかを口角泡を飛ばしつつ一瀉千里に滔々とまくし立てたのである!
しかしながら、それらの与太話(そうではないかも知れぬが)は黎輔にとってどうでもいいことだった。
──関心はただ一つ、〈覇王〉の推しが誰なのか?
その一点のみである。
「へえ、スゴい眼力ですねえ…。
何しろ、デビュー当初は歌もダンスも…そしてルックスも何もかもがあまりにも衝撃的すぎて、逆にキワモノ扱いされちゃったらしいってんですからアンビリバボーな話ですよね…。
ところで、嶽さんの推しは誰なんですか?
まあやっぱり、順当にド真ん中の…」
この問いかけに嶽仁は意を得たりとばかりにニヤリと笑い、訊き手の背中には悪寒が疾った。
「──ここで桂城聖蘭の名を挙げる輩はシロウトよ…!
もちろん、チーム(ファンはグループをこう呼ぶ)をここまで押し上げた大エースの功績に不断の敬意を抱くのはシルブレストの嗜みとしてイロハのイだが、彼女に全リビドーを捧げるのはそれこそ(オマエみたいな)〈雑兵〉に任せときゃいい…。
いいか黎輔、どんな分野でもいわゆる通ってヤツはなあ、表面の華やかさをホントの意味で成立させてる根っこにこそ着目するんだよッ!
SILKY⚔BLADESを例に取るなら、聖蘭(女神を平然と呼び捨てにする先輩にこの時黎輔は殺意を覚えた)が光り輝く太陽であるのは誰しも認めるところだが、その煌きを全身に浴びて主役のみならず聴衆たちをも霊妙且つ幽玄に照らし出してみせる名月のごとき存在…それができるのは“ルナサク”こと乾 朔耶しかいねえッ!
チーム最年少にして最も小柄であるってのに、あの娘が一番、アイドルユニットってもんの本質を理解してるぜ!
彼女こそまさに真のプロフェッショナル…“可憐なる仕事師”と讃えられるべき〈裏エース〉さッ!いや、全く見上げたもんだッ!!」
だが覇王の熱弁も虚しく、自他共に認めるヒネた性格の冬河少年はその言を鵜呑みにはしなかった。
『ふん…聞いたふうなことホザいてやがるが、〈変態ロリ枠〉のルナサクを持ち出したのは大方オレが聖蘭様信徒であることを勘繰ってのことだろ…“オレはテメエみてえな凡庸極まる〈量産式エロガキ〉じゃねえ”ってな…。
でもよ、そもそも30代の人妻にあれだけ血道を上げる〈性欲ゴリラ〉がたとえ疑似恋愛でもあんなチビスケ(失礼!)相手で満足できる訳ねえだろうが…。
まあ、どーせはぐらかすんなら最年長のマンギクさん(万菊美佐穂=スポーツ万能で174センチのマッチョバディを誇るチームの〈守護神〉)でも持ち出しゃ、こっちもダマされたかもだが…』
だが、嶽仁のめくれ上がった分厚い唇から続いて吐き出された言葉に、黎輔の脳天は落雷を浴びたかのごとき衝撃を受けた!
「…だが黎輔よ、シルブレストの端くれであるオマエによしみで〈決戦の餞〉として超弩級の仰天情報を教えてやろうか…?
尤もオレも昨晩、神田口から聞いたときにゃあ我が耳を疑ったもんだが…いや全く、最近これほどオドロいたことはないぜ!
──実はな、桂城聖蘭の兄貴…名は慧斗とかいったっけが…目下売れっ子のフィジカルトレーナーやってるらしい彼、何と最強クラスの錬装者にして三代目聖団長最有力候補らしい…!!」
…全くとことんロクなもんじゃねえな、中国支部の扱われ方って…。
この暗転ムードのせいで、あの最重要クエスチョンが切り出せなくなっちまったじゃんか…!』
冬河黎輔の嘆きをよそに、険しい表情で立ち上がった宗 星愁は、那崎恭作を見下ろす。
「どうも研究所が気になるな…。
恭作、すまんがオレと一緒に来てくれ。
二人はとにかく覇闘に集中して…そろそろアップを開始していた方がいいぜ」
「なんぼ何でも早すぎらあ!
大体、開始時刻は10時だろうが、このクソ暑い中、あと2時間半もダラダラと汗流してられっかよ!
“剛駕流”ではよ、何よりも〈イメージトレーニング〉を重視するのさッ!
──こう半眼になって集中力を極限まで高めるとな、すぐ目の前に今日の対戦相手の像がありありと…」
「…それに似た話、とある格闘マンガで読んだなあ…。
ちなみにボクはそんな超人的なイメージ力をとても持ち合わせちゃいないけど、スタミナ削られるのがヤなんであと1時間ばかりコレ聴いときますわ…せめて気分の方をアゲるために…」
昨日と同じ黒短パン(モノは別)のポケットから青いワイヤレスイヤホンを取り出して嵌めた黎輔は卓上の青いスマホで音楽アプリを開く。
「へえ…何聴くの?
あッ、SILKY⚔BLADES!
…そういや自分、熱狂的シルブレストだっつってたもんなあ…」
画面を覗き込んだ恭作が合点がいった表情になるが、黎輔はそれを聞いた〈事情通〉の表情にひたすら注目していた。
──されど残念ながら、苛立っている時の癖で眉間に深い皺を刻んだ星愁は彼を一瞥もせずに踵を返したのである…。
「…じゃ、とりあえず行って来るわ…」
友の肩をぽんと叩いて立ち上がった若者が先行者と同じく小走りとなって後に続く。
残された二名の当事者は虚ろな視線を一瞬絡み合わせたものの年少者はすぐにそれを外して所在なさげにため息をつく。
「…黎輔、おまえがファンとは知らなかったが、SILKY⚔BLADESってサイコーだよな…」
この意外な告白を受け、思わず少年は左斜め前で毛むくじゃらの腕を組む巨漢に視線を戻す。
「こりゃ意外…あっ、失礼…。
でも嶽さん、マジで聴いてるんですか?」
『…思わぬ所で同好の士を発見したんだからフツーなら心弾むはずなのに、そうはならない…むしろ薄っすら不快な気持ちになるのは何故なんだろう…?』
と訝しみつつ冬河黎輔は訊ねた。
だがこれまた予想に反し、剛駕嶽仁は自分がいかに早く従来のアイドルユニットとは一線を画すSILKY⚔BLADESの革新性に注目し、既にその時点で現在の怪物的ともいうべき規模にまで進化を遂げるのを予見し、それが現実化してゆく過程を途切れることなく見守ってきたのかを口角泡を飛ばしつつ一瀉千里に滔々とまくし立てたのである!
しかしながら、それらの与太話(そうではないかも知れぬが)は黎輔にとってどうでもいいことだった。
──関心はただ一つ、〈覇王〉の推しが誰なのか?
その一点のみである。
「へえ、スゴい眼力ですねえ…。
何しろ、デビュー当初は歌もダンスも…そしてルックスも何もかもがあまりにも衝撃的すぎて、逆にキワモノ扱いされちゃったらしいってんですからアンビリバボーな話ですよね…。
ところで、嶽さんの推しは誰なんですか?
まあやっぱり、順当にド真ん中の…」
この問いかけに嶽仁は意を得たりとばかりにニヤリと笑い、訊き手の背中には悪寒が疾った。
「──ここで桂城聖蘭の名を挙げる輩はシロウトよ…!
もちろん、チーム(ファンはグループをこう呼ぶ)をここまで押し上げた大エースの功績に不断の敬意を抱くのはシルブレストの嗜みとしてイロハのイだが、彼女に全リビドーを捧げるのはそれこそ(オマエみたいな)〈雑兵〉に任せときゃいい…。
いいか黎輔、どんな分野でもいわゆる通ってヤツはなあ、表面の華やかさをホントの意味で成立させてる根っこにこそ着目するんだよッ!
SILKY⚔BLADESを例に取るなら、聖蘭(女神を平然と呼び捨てにする先輩にこの時黎輔は殺意を覚えた)が光り輝く太陽であるのは誰しも認めるところだが、その煌きを全身に浴びて主役のみならず聴衆たちをも霊妙且つ幽玄に照らし出してみせる名月のごとき存在…それができるのは“ルナサク”こと乾 朔耶しかいねえッ!
チーム最年少にして最も小柄であるってのに、あの娘が一番、アイドルユニットってもんの本質を理解してるぜ!
彼女こそまさに真のプロフェッショナル…“可憐なる仕事師”と讃えられるべき〈裏エース〉さッ!いや、全く見上げたもんだッ!!」
だが覇王の熱弁も虚しく、自他共に認めるヒネた性格の冬河少年はその言を鵜呑みにはしなかった。
『ふん…聞いたふうなことホザいてやがるが、〈変態ロリ枠〉のルナサクを持ち出したのは大方オレが聖蘭様信徒であることを勘繰ってのことだろ…“オレはテメエみてえな凡庸極まる〈量産式エロガキ〉じゃねえ”ってな…。
でもよ、そもそも30代の人妻にあれだけ血道を上げる〈性欲ゴリラ〉がたとえ疑似恋愛でもあんなチビスケ(失礼!)相手で満足できる訳ねえだろうが…。
まあ、どーせはぐらかすんなら最年長のマンギクさん(万菊美佐穂=スポーツ万能で174センチのマッチョバディを誇るチームの〈守護神〉)でも持ち出しゃ、こっちもダマされたかもだが…』
だが、嶽仁のめくれ上がった分厚い唇から続いて吐き出された言葉に、黎輔の脳天は落雷を浴びたかのごとき衝撃を受けた!
「…だが黎輔よ、シルブレストの端くれであるオマエによしみで〈決戦の餞〉として超弩級の仰天情報を教えてやろうか…?
尤もオレも昨晩、神田口から聞いたときにゃあ我が耳を疑ったもんだが…いや全く、最近これほどオドロいたことはないぜ!
──実はな、桂城聖蘭の兄貴…名は慧斗とかいったっけが…目下売れっ子のフィジカルトレーナーやってるらしい彼、何と最強クラスの錬装者にして三代目聖団長最有力候補らしい…!!」
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