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第二章 かくて【中立教界】は戦場となった
神牙教軍、侵攻開始①
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ゼド=メギンが室外に出た時、そこには“特級操獣師チーム”【暁のドゥルガー】前隊長で現スーパーバイザーの竹澤夏月が仁王立ちしていた。
絆獣聖団員の戦闘服ともいうべき特殊な合成皮革製のジャンプスーツの色は黒みがかった紫で、錬装者(男性)の場合は所属するチームのシンボルカラーで統一されているが、操獣師たちは基本的に天響神に授けられた、常に額に装着している聖幻晶に因んだカラーで染め上げているのだ。
なお、夏月の場合は2ヵ月前の【ルドストン凱鱗領攻防戦】において、実に18年の長きに渡って苦楽を共にした相棒の“地獄絆獣”ギャロードを教軍が満を持して投入した“超巨大刃獣”魔王蛸との歴史に残る死闘の果てに喪い、21年間の血みどろの現役生活に終止符を打ったのであるが、当時纏っていた戦闘服の背中には全面に般若が刺繍されており、“伝説の殺戮姫”なる異名と共に聖団内外から常に畏怖される竹澤夏月の象徴として広く認知されていたものだった。
身長は165センチ余り、体重は50キロ台半ばという、40代半ばの日本人女性としては中程度の体格であるが、男性的に短くカットされた金髪と、日焼けサロンに何年通えばここまでのマホガニー色に仕上がるのかと思わせるほどの皮膚、そして何よりも左目尻から唇まで深く刻まれた刃物傷?が魁偉な容貌に決定的な凄みを付与している。
予め事情を話していたためか医門機が失神した部屋の住人を肩に担いでいるのを目の当たりにしても夏月のはむしろそれを愉しんでいるかのようにニヤニヤと笑っていた。
「今さっき、医門機の兄弟が頭のブッ壊れた人造人間背負って出て行ったけど、アレって地上でいうところのいわゆるダッチ◯イフってヤツなのかい?」
むろん異世界人に通じないことが前提の下ネタジョークであったが、愛華領次期教率者は持ち前の生真面目さもあって初耳である謎のワードを苦笑しながら復唱する。
「──ダッチ……何ですって?
まあ、アレの用途についてはご想像にお任せします──大して外れてはいないと思いますよ……。
ところで隊長(操獣師を引退したことはむろんゼドも知っていたが、夏月が未だこう呼ばれることを好むことをとある聖団関係者から耳打ちされていたのだ)、わざわざここにおいでになったということは地表で何かあったということなのですか?」
両者の立場は建前上は五分のはずであったが、やはり長らく〈非武装中立〉の旗印を掲げてきた該教界の指導者としては、あくまで〈共闘〉というスタンスで臨めた他の教率者たちとは異なり、どうしても聖団の庇護を恃むという引け目があるせいか、もとより紳士的なゼドの口調はより慇懃な響きで“殺戮姫”の紫水晶の髑髏ピアスが光る耳朶を心地良く打った。
「実はねえ、ご明察のとおり始まっちまったみたいなんだよ…喧嘩が……。
まあ尤もメデューサが来てる時点でその危惧はあったし、今日あたりそろそろヤベえ予感がしたんでアンタの秘書のドリィを萩邑たちに張り付けさせてもらってたんだけどさ……」
ボリボリと頭を掻きながら、ボソボソとバツの悪そうに為された報告を受けてにわかに険しい表情になったゼド=メギンは簡潔な口調で医門機に教令部に向かうよう命じると、それとは反対の方角に竹澤夏月と歩き出す。
「すると、やはりリサ…ハギムラ操獣師が相手なのですね?
何ということだ……しかもほんの少し前、当教界に潜入した神牙教軍の“異形の斥候”がまさに僥倖によって錬装者の手で捕獲され、いよいよ開戦が目睫の間に迫ったと実感させられた矢先にそのような内輪揉めをされては、こちらとしても困惑するばかりですよ……」
その声色がやや固くなったことからもゼドの萩邑りさらに対する好意を超えた感情が窺えると同時に、この緊急時にそれも依頼者の庭で、何故それを守らねばならぬ者同士が争わねばならぬのだといわんばかりの静かな憤りが絆獣聖団幹部の胸にひしひしと迫ってくる。
「──その怒りはご尤もだ。
でもねえ、アンタも昨日【砦】から飛来してきたアイツと顔合わせして分かったと思うけど、あのメデューサって操獣師は一応組織の一員ではあるけどとてもその枠に留まって大人しくしてることができない、殆ど一匹狼の賞金稼ぎみたいな存在なんだわさ……。
もちろんそんな傍若無人な態度を取って許されるのは誰もコイツには敵わないと認めさせるだけのとんでもない実力が必須なんだけど、最悪なことにあのバケモンはそれを持ってるんだわ……。
まああたしがあと10年も若けりゃタイマンの絆獣バトルでヤキを入れてやるところなんだが、哀しき未亡人の身としてはそうもいかん……」
「ですが、相手の事情は知りませんがハギムラ操獣師の【レオーラン】は現在、来たる決戦に向けて聖団の専門家による入念な調整を受けているはずではないですか?
と、いうことは……ま、まさか、生身の格闘戦でやり合っているというのですかッ!?」
頑なにメデューサの名を口にしようとしないところにゼドの彼女に対する位置付けがハッキリと窺えたが、その響きの氷のごとき冷ややかさによって世知に長けた竹澤元隊長はむしろ腹心のりさらよりも、彼女に熾烈な想いを寄せるこの若者こそが最強操獣師の不倶戴天の宿敵となりそうな予感を覚えたのであった……。
絆獣聖団員の戦闘服ともいうべき特殊な合成皮革製のジャンプスーツの色は黒みがかった紫で、錬装者(男性)の場合は所属するチームのシンボルカラーで統一されているが、操獣師たちは基本的に天響神に授けられた、常に額に装着している聖幻晶に因んだカラーで染め上げているのだ。
なお、夏月の場合は2ヵ月前の【ルドストン凱鱗領攻防戦】において、実に18年の長きに渡って苦楽を共にした相棒の“地獄絆獣”ギャロードを教軍が満を持して投入した“超巨大刃獣”魔王蛸との歴史に残る死闘の果てに喪い、21年間の血みどろの現役生活に終止符を打ったのであるが、当時纏っていた戦闘服の背中には全面に般若が刺繍されており、“伝説の殺戮姫”なる異名と共に聖団内外から常に畏怖される竹澤夏月の象徴として広く認知されていたものだった。
身長は165センチ余り、体重は50キロ台半ばという、40代半ばの日本人女性としては中程度の体格であるが、男性的に短くカットされた金髪と、日焼けサロンに何年通えばここまでのマホガニー色に仕上がるのかと思わせるほどの皮膚、そして何よりも左目尻から唇まで深く刻まれた刃物傷?が魁偉な容貌に決定的な凄みを付与している。
予め事情を話していたためか医門機が失神した部屋の住人を肩に担いでいるのを目の当たりにしても夏月のはむしろそれを愉しんでいるかのようにニヤニヤと笑っていた。
「今さっき、医門機の兄弟が頭のブッ壊れた人造人間背負って出て行ったけど、アレって地上でいうところのいわゆるダッチ◯イフってヤツなのかい?」
むろん異世界人に通じないことが前提の下ネタジョークであったが、愛華領次期教率者は持ち前の生真面目さもあって初耳である謎のワードを苦笑しながら復唱する。
「──ダッチ……何ですって?
まあ、アレの用途についてはご想像にお任せします──大して外れてはいないと思いますよ……。
ところで隊長(操獣師を引退したことはむろんゼドも知っていたが、夏月が未だこう呼ばれることを好むことをとある聖団関係者から耳打ちされていたのだ)、わざわざここにおいでになったということは地表で何かあったということなのですか?」
両者の立場は建前上は五分のはずであったが、やはり長らく〈非武装中立〉の旗印を掲げてきた該教界の指導者としては、あくまで〈共闘〉というスタンスで臨めた他の教率者たちとは異なり、どうしても聖団の庇護を恃むという引け目があるせいか、もとより紳士的なゼドの口調はより慇懃な響きで“殺戮姫”の紫水晶の髑髏ピアスが光る耳朶を心地良く打った。
「実はねえ、ご明察のとおり始まっちまったみたいなんだよ…喧嘩が……。
まあ尤もメデューサが来てる時点でその危惧はあったし、今日あたりそろそろヤベえ予感がしたんでアンタの秘書のドリィを萩邑たちに張り付けさせてもらってたんだけどさ……」
ボリボリと頭を掻きながら、ボソボソとバツの悪そうに為された報告を受けてにわかに険しい表情になったゼド=メギンは簡潔な口調で医門機に教令部に向かうよう命じると、それとは反対の方角に竹澤夏月と歩き出す。
「すると、やはりリサ…ハギムラ操獣師が相手なのですね?
何ということだ……しかもほんの少し前、当教界に潜入した神牙教軍の“異形の斥候”がまさに僥倖によって錬装者の手で捕獲され、いよいよ開戦が目睫の間に迫ったと実感させられた矢先にそのような内輪揉めをされては、こちらとしても困惑するばかりですよ……」
その声色がやや固くなったことからもゼドの萩邑りさらに対する好意を超えた感情が窺えると同時に、この緊急時にそれも依頼者の庭で、何故それを守らねばならぬ者同士が争わねばならぬのだといわんばかりの静かな憤りが絆獣聖団幹部の胸にひしひしと迫ってくる。
「──その怒りはご尤もだ。
でもねえ、アンタも昨日【砦】から飛来してきたアイツと顔合わせして分かったと思うけど、あのメデューサって操獣師は一応組織の一員ではあるけどとてもその枠に留まって大人しくしてることができない、殆ど一匹狼の賞金稼ぎみたいな存在なんだわさ……。
もちろんそんな傍若無人な態度を取って許されるのは誰もコイツには敵わないと認めさせるだけのとんでもない実力が必須なんだけど、最悪なことにあのバケモンはそれを持ってるんだわ……。
まああたしがあと10年も若けりゃタイマンの絆獣バトルでヤキを入れてやるところなんだが、哀しき未亡人の身としてはそうもいかん……」
「ですが、相手の事情は知りませんがハギムラ操獣師の【レオーラン】は現在、来たる決戦に向けて聖団の専門家による入念な調整を受けているはずではないですか?
と、いうことは……ま、まさか、生身の格闘戦でやり合っているというのですかッ!?」
頑なにメデューサの名を口にしようとしないところにゼドの彼女に対する位置付けがハッキリと窺えたが、その響きの氷のごとき冷ややかさによって世知に長けた竹澤元隊長はむしろ腹心のりさらよりも、彼女に熾烈な想いを寄せるこの若者こそが最強操獣師の不倶戴天の宿敵となりそうな予感を覚えたのであった……。
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