魔人戦界ラージャーラ

幾橋テツミ

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第一章 地上から来た教軍超兵

ティリールカの守護神⑧

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 しかし凡百の犯罪者がそうであるごとく、この“教界反逆者”もまた自らの邪謀をがえんじようとはしなかった。

「──ナリツ=ウィゴですと?

 たしかにその奇妙な名には聞き覚えがあります…何しろわたくしが勇仙領セシャークに足を踏み入れた回数は優に20を超えておりますし、理由はゼド様もご存知のとおり彼の地はラージャーラでも一、二を争う無所属フリーの戦士集団の宝庫なのですから……。

 そして“最強の超兵ハンター”として知る人ぞ知る存在である彼に興味を持ち、接触を図ったことも記憶しております。

 ですが神牙教軍が全土で猖獗を極める現況にあって、腕の立つ者は傭兵としてまさに各教界から引く手あまたなのでありますから、結局のところナリツ氏自身と直接対面することは叶いませんでした。

 そういうワケですからそもそも一面識もない彼がわたくしを陥れるかのごとき虚偽の密告を行ったことは不可解千万なのでありますが、

 といいますのも当のセシャークは【アルシャーラ海】、【ザチェラ大砂漠】、そして【コータリヤ中央山脈】等々と並ぶ〈毒神獣伝説〉の聖地である【ヤーゼリ妖樹高原】を擁しておりますからで、何とか解明の糸口を掴むべく現地で遭遇した有力な情報屋たちへもアプローチをしておったのでありますが、ある日旅籠はたご屋で食事中、【影の糸】(ナリツを頭領とする職業的殺戮集団)関係者を名乗る二人組が同席を求めてきまして、そこで驚くべき未確認情報を提供されたのです。

 それによると伝説どおり毒神獣【ゲラルマ】は存在し、妖樹高原のとある地点に鎮座する巨岩の地下深くに眠っていることがある原住民によって発見され、組織はその人物を確保しているというではありませんか!

 そしてどうやら、勇仙領を束ねる教率者一族もそれを把握している模様らしいのですが、前任のロギル氏はラージャーラ全界の7割超のシェアを占める健康乳飲料ミピーハ輸出がもたらす富によって対教軍に向けての軍拡を推し進めてはいたものの、万一ゲラルマが覚醒し地上に出現することとなればある意味それ以上の惨禍が懸念されるとあって、巨岩への接近をはじめとする一切の干渉を慎むことを後継者のロッスム氏にも厳命され、当面はその方針が堅持されたというのですが……」

「……」

「──いよいよ迫ってきた神牙教軍の侵攻により、全面的な見直しを迫られるに至ったようなのです。

 ラージャーラ全教界が空前の危機に直面する今こそ“天響神の化身”とされる毒神獣を解き放つべき時なのではないかと──たとえそれがより深刻な破滅に繋がろうとも、我が身を亡ぼすほどの覚悟を示さぬ限り、鏡の教聖を打倒する術はないのではないかと……」

「……」

「されどゲラルマの脅威が勇仙領のみに留まるものか確信が持てぬ以上、隣接する教界はもとより少なくとも周辺10カ所の教率者からの支持なくば憎悪の矛先が自陣に向きかねぬとしてロッスム氏は近く使者を派遣する腹積もりのですが……」

「──らしかった、とは?」

「何と、教軍首領自ら毒神獣の存在を理由にセシャークへの侵攻を自重すると一方的に通告してきたというのですッ!!」

「ぬう……たしかに勇仙領に隣接する4教界は陥落したというのにセシャークのみは無傷で教界運営を続けているのをおかしいとは思っておったがよもやそのような裏事情が……。

 もしその話が真実とすれば、伝説の神獣の威光は鏡の教聖すらもたじろがせるということか……。

 となると今や命綱そのもののゲラルマをロッサムどのが手放せぬのは当然……」

「──まさに仰るとおりでございます。

 こうして教率者様がお命じになられたように毒神獣によるティリールカ防衛の見込みが消えて途方に暮れかけたわたくしに彼らは【影の糸】の最精鋭部隊を愛華領防衛の一助にどうかとの打診を受けたのでしたが、それはどうしても承諾できぬ事案であったのです……!」

「──君の命懸けの交渉によって招聘に成功した、現在我が教界の最前線で防衛任務にあたってくれている【チェイズ闘士団】と影の糸が不倶戴天の、文字通り血で血を洗う鍔迫り合いを繰り広げてきた宿敵…いや怨敵であったからか……!?」

「──そのとおりです。

 もしナリツ一派を愛華領に呼び込めば、彼らは任務そっちのけで〈私戦〉をおっ始めるに違いありませんし、場合によっては共闘して乗っ取りに動くことさえあり得ると愚考した次第であります……」

「それで申し出を断った結果、連中は腹いせに君を陥れるための“幻のクーデター計画”をでっち上げたと──どうやらそう言いたいらしいな?」

「は、はい……そのとおりであります……」

「まあ、とにかく服を着ることだ。

 どんなに意を尽くして力説しようとも、発言者が素っ裸である時点でその言説は説得力を著しく欠落させてしまうのだからな……」

「は、はい、かしこまりました…」

 脇へ退いたゼド=メギンの傍らを通って寝台によろよろと歩み寄ったメテウ=ウェーゼンは、鈍い動作でパンタロンを拾い上げると必要以上に時間をかけて左右の足を突っ込むのであった。

「なるほどな……君の弁明は大体そんなところか……。

 しかし残念なことに、先方は君との密談を克明に記録した証拠映像を既に我々に送信してきているのだが……それにはどう反論するつもりだ?」

「──そんなものは捏造ですッ!

 たとえそれがどれほど精緻な映像であったしても現代の技術であれば捏造は容易であることは自明の事実なのですから、詳細に分析すればそれが作為的産物であることは火を見るより明らかッ…ぜひとも科学的精査をお願い致しますッ!!」

「──ウェーゼン研究員、情報の専門家である君に講釈するのも口幅ったいが、容疑者の拘束の要因として映像及び音声に依拠する場合、その吟味にそれなりの時間を費やすことは大前提のはずではないかね?

 事実、本件が明るみになったのも前日早朝であったにも関わらず、一昼夜以上の時を経て私が推参したということ自体がどれほど慎重に提供資料が精査されたかの証左と理解できようものだが……」

「──ウ、ウソだッ!

 これは陰謀なのだッ、私を陥れるためのッ!

 愛娘を奪われたくない一心の哀れな父親のッ!!」

「──よしたまえ、これ以上罪の上に罪を重ねるのは……!

 ここらで口を噤まねば、君の反逆の意志が矯正不可能なほど強固であると自白するようなものだぞ……」

「何を言うかッ、これまで散々人の心を愚弄しておきながらッ!

 ミッションが今回で終了というなら、何故最初からそう言わなかったッ!?

 もしそれが分かっていれば、ティリールカを愛することでは人後に落ちぬこの私があのような計画を抱懐することなどなかったであろうにッ!

 いかに教率者だからとて、純愛に燃える教民の心をここまで蹂躙してよい権利があるのかッ!?

 いいかよく聞けッ!

 教民は決して教率者の奴隷でも、ましてや玩具ではないぞッ!!

 今にして宣言するが、このメテウ=ウェーゼンはキサマら極悪非道なメギン家に弓を引いたことを些かも後悔してはおらんッ!

 たとえここで私が斃れたとて、必ずや志を継ぐ者が現れるはずだッ!!

 死ねえッ、悪魔の小倅よッッ!!!」

 パンタロンのポケットに忍ばせていた、1センチほどの猛毒針が先端に仕込まれたこれも直径1センチの金属弾を時速200キロで撃ち出す、小型懐中電灯に似た形状の暗殺武器を復讐者が未来の教率者に向けて躊躇いなく発射すると同時に定位置である部屋の一隅に蹲っていたのっぺらぼうの人造人間が弾かれたように跳躍した!

 だがミュコスが期したのはあくまでも主人の標的であるゼドの注意を逸らさせて必殺の毒針への対応を封じることであったのだ!

 されど、それは失敗に終わった。

 何故ならば殺意の放射をキャッチしたゼドのローブの襟元から生地と同色の覆面マスクが出現して一瞬にして主の頭部を覆い尽くし、みごと胸板に命中した毒針はこれも瞬時に鋼の鎧に匹敵する硬度に変化したクリーム色の長衣によって弾き飛ばされていたからである。

 そして下手人はゼドが右手に隠し持った長さ4センチほどの銀色の楕円形=万能キーの先端から迸った神経麻痺光線によってあっさり気絶し、仰向けのまま寝台上にひっくり返ったのであった……。

 かくて役目を終えた防御マスクはローブの襟に再収納され、ゼド=メギンの美貌が露わとなるが、その表情はやるせなさと哀しみの翳りを帯びていた。

 一方、想像以上のジャンプ力を見せつけたミュコスであったが主人を守るべく床を蹴った医門機によって空中で取り押さえられ、無情にも凄まじい握力によって頭部をグシャグシャに揉み潰されてしまう!

 これにより完全に沈黙した異形のラブドールは藍色のカーペット上に横たえられ、それを見下ろす次期教率者は強烈な嫌悪を込めてこう命じた。

「よいか、この破壊された人造人間を担いで最下層の〈汚物分解槽〉まで降り、ボディを断ち割って収納されている数百本の冷凍アンプルを全て廃棄せよ!

 それが済んだら抜け殻の素材と部品は作業用ロボットとして再利用すべくそのまま〈リサイクルコンベア〉に乗せるがいい……」

 指令を実行すべくミュコスの残骸を担ぎ上げた医門機が一礼して退出するのを見送ったゼド=メギンが振り返った時、もう1体が反逆者に服を着せ終えていた。

「──よし、ご苦労。

 それでは行くか、父上がお待ちかねだ。

 教民は教率者の奴隷でも、ましてや玩具でもない…それは君ごときに指摘されるまでもない絶対的真実だ。

 だが、そこには天響神によって定められた厳然たる断層があり、一教民たる君がそれを乗り越えようとすれば多少の試練は克服してのけねばならぬのもまた自明の理というものなのだよ……。

 そして君は果敢にそれに挑み、誠に残念ながらあと一歩のところで敗退してしまった訳だが、君と同様に我々教率者一族もまた痛烈な無念を味わっていたことを分かってくれるだろうか?

 しかし先程、

 ……!

 そうとも…今回の不幸な事件でこれだけは真実と断言できるのは唯一つ、我が妹こそが誰よりも傷ついた真の被害者ということ──されど現在、全身全霊で打ち込んでいる万能戦闘艦がどうやら新たな〈恋人〉と成りつつあるらしいのを兄として安堵してよいものか……?

 むろんラユナが真に愛しているのは鋼の塊などではなくこのティリールカ愛華領そのものであることは明白。

 そしてその愛はおそらく私や、もしくは父上よりも深遠なものなのであろう……」
 
 噛みしめるように呟いた次期教率者は、軽々と犯罪者を担ぎ上げた銀色の機械人間を従えて決然たる足取りで出口に向かった。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 
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