魔人戦界ラージャーラ

幾橋テツミ

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第二章 かくて【中立教界】は戦場となった

神牙教軍、侵攻開始⑥

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 ティリールカ愛華領の制圧に向けて大型飛翔刃獣を出陣させた神牙教軍首領・鏡の教聖は実に二十数年ぶりに〈謁見室〉へ足を踏み入れていた。
 来訪者はラージャーラとは近接していながらも完全なる別空間である魔法王界【ヴァーメリア】からしてきた、彼の地で“灰色の独殺者”と畏怖された凶戦士・ザナード=レグラである。

 その異名にふさわしく、粋な仕立ての衣服チュニックもそして髪色も、さらに瞳さえもグレーに染め上げられた、類稀な美形ながらも濃霧のごとく陰鬱な印象を与える長身にして痩せぎすの青年は、さらに頭一つ高い黄金の仮面を被った足元まで覆い隠す黒衣の魔人と頭頂部分を断ち割ってテーブルに仕立てた、巨大な髑髏を象った黒い石卓を挟んで向かい合っていた。

「……すると、わたくしにそのゼド=メギンなる有力人物を抹殺せよと仰るのですね?」

 こう言ってから口元に黒水晶の杯を運ぶ殺し屋に、鏡の教聖は小さく頷く。  

「うむ。次期教率者である彼奴を亡き者にすれば、愛華領は文字通りガタガタとなり、容易く我が軍の傘下に収めることができよう──そして君は“教軍初の異世界人執教士長”としてラージャーラとヴァーメリア両界の歴史に名を刻むことになる訳だ……!

 しかし余も密かに注目していた千年宝国が、若き領袖・ギレナム=ミコーラ氏の早すぎる死によってあえなく瓦解したのは取り返しのつかぬ痛恨事であったが、本音を吐けば彼と組織を支えるべく絶えざる奮戦を続けてきた魔法王界屈指の戦士である貴君を迎えることができたことは慶賀に堪えぬ。

 しかも聞くところによればラージャーラによって宝国復興の狼煙を上げ、戦力を蓄えていずれ故郷に逆侵攻をかけることを念願としているとあっては、余としても大いに激励せざるを得ぬ──特に現在取りかかっておる愛華領攻略において、戦勝後の管理責任者選びに頭を悩ませていた矢先だったから、大望への足がかりとして如何いかがかなとばかりに声をかけさせてもらった次第……」

 耳を傾ける者の情緒をこの上なく蠱惑的に揺さぶり立てる中性的な美声に空の杯を手にしたまま聞き入っていたザナードは、かすかな笑みを口元に刻みながら静かに質問する。

「──大いに恐縮であり、また光栄であります。
 しかもラージャーラにおいて些かの実績をも有せぬ新参者のわたくしに対して過分なお言葉を賜りまして、魂の震えるような至福と同時に困惑すら覚えておる次第であります……。

 ですが旧千年宝国におけますわたくしの手駒もヴァーメリア王立警察とその走狗である武法戦隊との戦闘においてあらかた喪ってしまっておる始末でありますゆえ、によって守護されし該教界を攻略することはかなり困難であると見込まれるのですが……」

「うむ、しかしその懸念は無用だ──なぜならば先刻出動させた、我が腹心である地極将(樊尨)が搭乗する刃獣の来襲を合図として、愛華領内部に複数確保している潜入兵たちが一斉に決起する手筈となっておるのでな……!

 何しろこれまでの事案とは異なりティリールカはいわゆる地下要塞形式にて運営されているため、我が軍の斬り込み隊長である餓駆竜ゾグムをはじめとする地上侵襲部隊の活躍が見込めぬのでな、いわゆる搦手から攻略しようという訳だ……。

 されどここで例のごとく、一つの無視できぬ障害が存在している……」

 と語りながら卓上の火焔土器に酷似した形状の黒い酒瓶を取り上げる。

「──たしか絆獣聖団、でしたかな?」

 首領自らの酌を受けて些か緊張気味の客人の呟きに「うむ」とそっけなく頷いた鏡の教聖は、何故か愉快げにこう続ける。

「実はなザナードくん……意外に思われるかも知れぬが、余はそろそろこのラージャーラでの果てなき戦争にみつつあるのだよ。

 まあ愚かな教率者どもと招かざる異世界から迷い込んできた痴愚の集団は断じて認めぬだろうが、既に大勢は決した──即ち我が神牙教軍の完勝だ。

 そして、化石のごとき旧世代人どもとはあらゆる面で見解を異にする、ゼド=メギンら新世代の指導者たちは聡明にもその厳然たる事実を明確に認識しておる模様だ──それゆえに、彼らは蒙昧なる前代の遺物というべき教界という枠組とは異なる、彼ら独自の連合体ともいうべき【極智の眼】なる新組織を水面下で旗揚げした。

 余の見立てでは、我が軍の攻勢がさらに進行することによって各教界の崩壊が進めば進むほど、この動きはもはや隠し遂せず万人の知るところとなろう……。
 
 さて、ここで一つ衝撃的な事実を明かそうか──実はを……まあ尤も、今回のゼド=メギンのようにやむを得ぬ事情で犠牲となってもらうケースは時折発生しようがな……。
 
 そればかりか、高所から俯瞰したなら、ここからの我が軍の活動はむしろ彼らを後押しするかのように映るであろう……そして事実そうなのだ。
 したがってラージャーラ全界がいわばという未踏の領域に踏み込もうとするこの千載一遇の機会にあって、君の悲願である“千年宝国復興”も、ティリールカ支配を皮切りに大いに見込めるということになる訳だ……どうかね、ここまで聞けば端倪すべからざる実力者である君の胸奥に灯ったのではないかな?

 “我、この世の覇者とならん”

 という熾烈なまでの野望の焔が……!」


 

 

 





 
 
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