魔人戦界ラージャーラ

幾橋テツミ

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第二章 かくて【中立教界】は戦場となった

神牙教軍、侵攻開始⑧

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 むろん鏡の教聖ともあろう者が実際の数字を知らずにこんな問いを発するはずがないであろうから、ザナードとしては自身の記憶に則って正確に答えるしかなかった。

「そうですね、たしか6体といったところでしょうか……。
 
 予想はしておりましたがやはり連中の膂力は凄まじく、わたくしにとって無二の相棒ともいうべき浮幽獣(複数の極難魔法を合成使用することで発現させる、凄まじい殺傷力を秘めた人工霊獣)たちの助力があってこそ単独で立ち向かえたといえますが部下たちは遺憾ながらそうもいかず、三人一組となってようやく鋼人兵1体と五分という状況であったばかりか、それでも次々と討ち取られてゆくという目も当てられぬ体たらくであったため、やむを得ず地下階全体を水浸しにしてようやく侵入者どもの進撃を阻止し得たのは、今思い返しても痛恨の事実であります……」

 されど言葉とは裏腹に“灰色の独殺者”がこの運命の選択を心底から悔やんでいる様子はなく、その口ぶりからはあくまでも現場の状況に即した最も合理的な戦術を選択したまでだとの開き直りが些かも気負いを感じさせることなく漂っていた。

「……ふふふ、なるほど。
 ということは、結局勝利こそ収めたものの未だ存命であるというナーヴィン=オルゼムが君を追ってこのラージャーラを来訪する可能性は大いにあるというべきだな……」

「──そうかもしれません。
 何しろ彼奴のわたくしに対する粘着的な執念を鑑みるならば、それは大いにあり得ることと存じますし、それであるならば次回の対決こそ文字通りの決着戦であろうと認識しております……」

 ここで神牙教軍首領は「くっくくく、粘着的とはよかったな……」と珍しくも口元に手をやって含み笑ってから異様な欲望を告白するのだった。

「実は余も只ならぬ執着を抱いている対象があってな……それは誰あろう、誅戮すべき絆獣聖団に所属するユミハ・ナザキなる少女操獣師なのだが、もとより地極将には速やかな捕獲を命じているものの、万全を期すためこれから当地に赴く君の心の隅にも銘記しておいてもらいたいのだが──むろん彼女の容姿と使用絆獣については後ほど詳細な資料を提供させてもらう……」

 この申し出が大いに意外であったのであろう、ザナード=レグラは一瞬あっけにとられた表情を見せたが、すぐに頷いて「畏まりました」と承諾する。

「ところで現地において樊尨と君の連携に齟齬があってはならぬゆえにここで確認させておいてもらいたいが、貴君が駆使する浮幽獣とやらは、ラージャーラにおいてもつつがなく機能しうるのかね?」

「ええ、それは十分可能です──いやむしろ、いかなる理由かは判然としませんが、古巣の魔法王界ヴァーメリアにおけますよりもより生き生きと活性化しております気配すらうかがえますようでして……」

 莞爾として返答する異世界からの来訪者に「ほほう、それは朗報だな」と頷いた仮面の超魔人は、おもむろに席を立ちながらこう告げる。

「……それでは君にティリールカまでの〈足〉を提供させてもらおうか……ついてきたまえ」

         ✦

 およそ5分後、T字型に配置された八本の極天霊柱の上辺中央部の頂上に現れた教聖とザナードは、そこに直径10メートルほどの不気味な灰色の球体を前にしていた。

「もはや周知のことだろうが、これが我が股肱の教軍超兵たちが長距離移動に使用する飛翔刃獣・キーゴである。

 ふふ、お察しの通り君のシンボルカラーで彩っているということは、今この時からこやつが君のラージャーラにおける乗り物ということになる訳だ………
 
 樊尨には余から指示しておくゆえ、現地にて行動に不如意は覚えぬはずだ──それでは健闘を祈る」

 新たな主君の激励を受けて深く頭を下げた“灰色の独殺者”は、教えられた通り右掌を滑らかなグレーの表面にあてがった途端にずぶずぶと飛翔刃獣の内部へと吸収されてゆく……。

 そしてキーゴが搭乗員を【操縦座】に固定して飛翔すべく一瞬にして50メートルも浮上した時、神牙教軍首領の姿は影も形も無かったのである……。

 

 
 

 

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