魔人戦界ラージャーラ

幾橋テツミ

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第三章 凶幻獣戦域の覇者

【空の破壊神】を撃て!⑩

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 ザヌザから樊尨が離脱した事実を、不覚ながらスペンサーらはさとることができなかった。

 何故ならば、最高幹部用のキーゴには超高性能の透明化機能が備わっているからだ──とはいえそれにも時間制限があり、およそ1アトス(約3分)後には視認は難しいまでもデルタスライダーの強力レーダーならば十分捕捉可能となるはずであったのだが……。

 ともあれ最強教軍超兵が事実上見捨てたことで飛翔系巨大刃獣からは益々生気が失われ、加えてこれまで蒙った呵責ない砲門攻撃によるダメージの蓄積も甚大なものがあるらしく、しばらく前から光線攻撃を中止して虚空に佇立したまま硬直状態に陥ってしまっているのである。

「残り5個か……ふーっ、どうやら終わりが見えてきたようだな。

 だが油断はできん──刃獣アイツなりの知恵を働かせて、こっちを引き付けるだけ引き付けといて一斉発射する逆転劇を狙ってるのかもしれんからな……!

 しかも体内にどんな強力爆弾を内蔵してるか分からんから、そもそも迂闊に接近することは御法度だ……失礼ながらウォベルさん、万能戦闘艦とやらはそろそろスタンバイしてくれてるんでしょうかね……?」

 十数秒ほどの沈黙の後、張りつめた声音での返答があったが、それはスペンサーと雪英の表情を青ざめさせる衝撃的なものであった!

「何かが起こったようだ──というのもガーギル行動隊長が全く呼びかけに応えてくれないばかりか、ゼド=メギン氏も同様なんだッ!

 指令室の映像は最初から非公開だから内部の状況を窺うこともできんし、残念ながら今後の行動は各自の判断の下で行うしかないようだッ!!」

「何と!?──では私の方からもう一度試みてみましょう」

 されど当然ながらスペンサーのコールも不発に終わり、続いた雪英も同様であった。

「これは困ったことになったな……一体、ご両人に何が起きたというのか……!?」

 煩悶する三人の操縦士は名案もないまま沈黙するしかなかったが、それを救済する神助のごとく全機のメインスクリーンに白いローブ姿の若い美女のバストアップ映像が登場したことに驚かされる!

 尤もソロ機乗の闘士団員を除いて画面観察はサブパイロットの役目であり、彼らが声を上げたことで気付いたのであるが。

 しかも驚きはプラチナブロンドのショートヘアを煌めかせる彼女の美しさによって倍加されていたが、不可解なのはその蒼星のごとく玲瓏な双眸が泣き腫らした後であるかのように霞んでいることである……。

「──はじめまして。

 わたくしは教率者シーオ=メギンの長女・ラユナと申します。

 (微かに震える声で)兄のゼドが申しておりましたように、巨大刃獣の砲門が壊滅すると同時に万能戦闘艦は出撃致します。

 といいますのも敵が切り札として自爆攻撃を決行する懸念が拭えぬため、何としても滞空時に勝負を決める必要があるからですが、優秀なあなた方の奮闘のおかげで砲門潰滅は間近のようですね……まことにありがとうございます。

 なお、兄がお伝えしましたとおり艦の完成度は6割弱というのが実際のところであるため、攻撃はただ一度の主砲発射のみが可能であり、万一仕損じるようであればそのまま体当たり攻撃を敢行する計画です。

 したがって本艦は遠隔操作によって駆動していることを予めお伝えしておきます──そして主砲にせよ特攻にせよ命中時の爆発はかなりの規模となることが予想されますので、任務完了後はつつがなく避難されますようお願い致します……それでは後ほど」

 深々と一礼して教率者令嬢は消滅し、勝利を確信した勇士たちは託された任務を完遂するため改めて操縦桿をギリッと握りしめるのであった──。

         ✦

 首領が搭乗する飛翔系絆獣に同伴して灰色のキーゴを飛翔させるザナード=レグラの心中は複雑であった。

 意外にも彼が手を下すまでもなくティリールカ愛華領次期教率者は反逆者の凶弾に斃れ、この一点をもって何故か満足したらしい鏡の教聖は、かねて目星をつけていた依巫たちと念願の萩邑りさらをついに手中に収めたことで、大いに上機嫌の体で〈計画変更〉を通達してきたのである。

 それによれば、未来の主を喪い、もはや空洞化した愛華領は極智の眼と絆獣聖団残党の標的となることは必至で、両勢力の共倒れを期待して当面放置し、彼自身には新たな任務として次期侵攻対象であるウビラス星心領への潜入と天響神との交信者として極智の眼の中核を担う若き教率者・フェセウ=シェリヌスの暗殺が託されたのであった。

『予想はしてたが、やっぱり神牙教軍ここも人使いが荒いぜ……。

 だがまあ、元々愛華領あそこは特異な位置付けの教界だったし、次期教率者が殺られちまったってんならこの方針転換も納得いくけどな……。

 それにあくまで勘だが、“わが永遠の好敵手”ナーヴィン=オルゼム氏がいよいよラージャーラに足を踏み入れそうな気配が濃厚であるな……ま、実力伯仲の勝負はそれこそ水物だから結果はどう転ぶか分からんが、そろそろ彼奴とも完全決着をつけて執拗な付きまといから解放されたいところだぜ……!

 さらに気になるのが教聖仰るところの“選別遂行者”【毒神獣】の動向だ──判明しているだけでも4体いるとかいうコイツらが、封印を解かれてひとたび暴れはじめたら現在の戦争すらたちまち無意味化するだろうってんだから全く凄まじい……一体どんだけヤベえバケモンどもなんだよ……!

 ──ん?何かアイツ、言いたいことがあんのか?』

 尤もその視線はだいぶん前から感じていたものの、忌わしい煬赫によって蒙ったトラウマによるものか発言を躊躇していたものらしい指月 亘が意を決して口を開こうとするのに先手を打つ形で”灰色の独殺者”は(できるだけ)優しく話しかける。

「何か訊きたいことがあるんなら言ってみな。

 オレに分かることなら何でも答えてやるぜ……」

 機先を制されて全身を震わせるほどギクリとした“異世界遭難者”であったが、既に敬意すら抱きつつあった美青年の親切な申し出に半ば感激しながら震える声で問いかける。

「あ、ありがとうございます……あの……こ、このはもしかしてダロバスラに向かってるんでしょうか?」

 少年の素性と今後の計画については首領から聴取済みであるため、教軍総本陣を知っていても何ら不思議はない。

「──ああそうだ、よく知ってるな。

 だがあまり心配することはないぜ…というのも教聖はキミをかなり重視しておられて、として大切に育てるおつもりのようだからな……!

 実はオレも、魔法王界ヴァーメリア産の妖晶珠を使った【招獣魔法】をぜひとも伝授してやってほしいと依頼されてるくらいでね……ま、キミの資質にかかわらず懇切丁寧に、そして粘り強く指導させてもらうつもりだよ……」

 この心の籠った返答を受けて、質問者の心に怖れと同時に感激が湧き上がったことを察知したザナードは、久しく忘れていた憐憫という感情が込み上げてきたことに自分でも戸惑っていた。

 そして照れ隠しに自分がいかに傑出した戦士であるかをレクチャーしてやろうとした刹那、いずれかつての千年宝国において鎬を削ったイムメッド=デゼルのごとき手ごわい競争相手となるであろう“地極将”樊尨が駆る濃紺色のキーゴが合流すると同時に、衝撃映像付きのメッセージがもたらされたのである。

 それによれば、大地をスライドさせ、地下要塞の格納庫からからゆっくりと浮上する万能戦闘艦をなす術もなく呆然と見下ろすザヌザは瞬く間に青白い炎に包まれ、直後に爆散してしまったのであった!

「……ご覧のとおり、残念ながら我が軍の巨大刃獣は密かに建造されていたものらしい“ティリールカの守護神”によって撃破されてしまった模様だ。

 さて、貴君のこれからの任務については偉大なる教聖から予め周知されていたとおりであるが、ひとまず極天霊柱に帰還後、直ちに挙行されるユミハ・ナザキへの【受躰の儀】に、シヅキ少年を従えて粛々と列席されることを要請させて頂く……!」

        【完】

 

 

 

 

 



 

 
 

 


 



 





 
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