転生したら、主人公の宿敵（でも俺の推し)の側近でした

推しに休息を覚えさせる方法

　——休むことは、罪ではない。
　でも、それがわかっていても、実際に休めない人間は多い。俺もそうだった。転生前の俺は、休むことに罪悪感を覚えていた。
「仕事が終わっていないのに休むなんて、怠慢じゃないか？」
「他の人はまだ頑張ってるのに、自分だけ休むなんて……」
「もっと努力すれば、もっと成果を出せるかもしれない……」
　そう思い続けて、結局 身体が限界を迎えるまで 走り続けてしまった。そして、そのまま死んだ。
（……だからこそ、俺は知っている）
　レオナルトが、 休息を取れないまま生きている ことを。
　——今日も、公爵閣下は執務室で机にかじりついていた。
　時刻はもう夜を回っている。なのに、彼はロウソクの明かりを頼りに書類をめくり続けていた。
「閣下。もう夜中ですよ」
　俺がそう声をかけても、レオナルトは顔を上げない。
「まだ終わっていない」
「終わらなくても、今日はもう切り上げて休むべきです」
「……」
　レオナルトは手を止めない。
（……やっぱりな。）
　彼は「終わらせなければならない」という呪いに囚われている。俺は、そっと彼の手元からペンを取り上げた。
「……？」
　レオナルトが怪訝そうに俺を見上げる。
「このままだと、閣下は身体を壊しますよ」
　俺は落ち着いた声で言った。
「俺が言うんだから、間違いないです」
「お前が言うなら……？」
「……転生前の俺も、そうやって無理をし続けて死にましたからね」
　レオナルトの手が止まる。俺は静かに続けた。
「俺も、ずっと『頑張らなきゃ』って思ってました。結果を出さなきゃいけない、期待に応えなきゃいけない、ちゃんとしなきゃいけない……って。でも、それを続けたら 死ぬまで頑張ることになった んです」
レオナルトは、ゆっくりと目を細めた。
「……それで、死んだのか」
「あのままじゃ、俺はどれだけ頑張っても報われなかったでしょうね」
俺は苦笑した。
「だから閣下には、俺と同じ道を歩んでほしくないんです」
「……」
レオナルトはしばらく沈黙した後、俺をじっと見つめた。
「お前は……」
「？」
「……時々、俺よりも年上に見えるな」
（うん……まあ、一回死んでるしな……）
「俺よりずっと年下のはずなのに、何故か説教じみたことを言う」
「お褒めに預かり光栄です」
　俺は軽く笑ってみせた。
「閣下。まずは 『今日のところは休む』 ことから始めましょう。いきなり『ゆっくり生きろ』とは言いません。でも、まずは 『明日も戦うために休む』 ことを意識してください」
　レオナルトは、俺の言葉を吟味するように少し考え込んだ。そして——
「……わかった」
　そう、短く答えた。俺は思わず、ほっと息をつく。
「じゃあ、今日はここまでです。部屋までお送りしますよ」
「……俺は子供じゃない」
「閣下は疲れてると、廊下で寝そうなので」
「……」
　俺の冗談に、レオナルトは呆れたような顔をした。
　——でも、わずかに微笑んでいた。