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第九章 再び潤の部屋にて
潤の心が
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「そんなはずないよ。そう思い込まされてるだけだって。誰かがそう言ったんでしょ?」
「ううん。俺は、可愛いがってもらえると思って、すすんで、いやらしいことに応じたんだ」
「ほら、応じたんでしょ? ということは、最初は、誘われたんでしょ?」
「わからないよ、覚えてない。覚えているのは、後ろめたい感じ。俺が誘ったっていうこと。みんなも、そう言う、だからきっとそう」
「潤。それだったら、僕も、潤を誘ったことになるね。僕が先輩を誘って、譲さんを誘って、叔父様を誘って……違う?」
「瑤は、誘ってないと思う。瑶を、俺が誘ったんだ。藤木さんが瑶を誘って、譲が瑶を誘ったんだ」
「それと同じだって。経験ないのに、どうやって誘うんだよ。僕は、そんなこと考える余裕なんかなかったよ」
「瑶は、誘ってない。だけど、俺は誘ったっていう感覚があるんだ。だって、いつも、罪悪感が……」
「それ、相手の感じた罪悪感だよ。それを、潤が感じてるだけ」
潤が、泣き出した。僕に抱きついた。
「どうしよう、話してしまった。人に言ったらいけないのに。叔父様に叱られる」
やはり叔父様なのか?
「叱られたら、僕と逃げよう?」
「逃げられないよ」
「マンションに帰るだけのことじゃない?」
「俺も、最初はそう思った。でも、お金だって仕送りしてもらわなきゃいけないし、俺は一人じゃ何もできない。逃げたって、何の解決にならないんだ。俺は、無力なんだ。この状況から、逃げられないんだ」
「潤は、無力なんかじゃないよ。そう思わされているだけだよ。ちゃんと力も能力も知恵もあるから。だから、あきらめないで。潤だって、本当は、あきらめてないんでしょ?」
「どうしてそう思うの」
「だって、僕に心を開いてくれたから。本当にあきらめていたら、僕を家に招いたりしないよね?」
僕は、潤が、洋講堂で僕に声をかけたこと、僕を突然、潤の実家に誘ったことを、偶然だとは思わなかった。潤の無意識が、あるいは何か知らない大きな意志が働いたのだと信じた。潤の救われたいという気持ちが、僕を動かしたのだと思った。
「そんなんじゃないんだ、ただ、瑤で、苦痛を紛らわしたかっただけ……俺一人じゃ怖いから。一人で秘密を守るのは、もう無理なんだ。壊れそうなんだ。言ってしまいそうで、通りで大声で叫んでしまいそうで、怖かった……。ううん、可愛い瑶がくれば、みんな喜ぶ……ターゲットは俺だけじゃなくなる。俺は、瑶を玩具にする……? 汚い考えだ……ああ。わからない……ほんとにそんなこと考えてたかな。ううん、違う……何も考えてないんだ……俺の考えなんて、何もないんだ……なのに瑤を巻き込んで、ごめん」
「それだけかな? 僕に味方になって欲しかったんじゃないの? 味方を待っていたんじゃないの? 待っているって、言ってたじゃない」
潤は、洋講堂で、部屋で、救いを待っていると言っていたような気がした。
「うん……そうかも……でも、助けられないよね。そんなの甘えだ。他人に、無理だよね。依存なんて迷惑だし」
「助けたいんだから、迷惑なんて思わないよ。だけど潤が、そう思うなら、潤が、自分で逃げるんだよ。潤が自分で逃げることは価値があると思う。そしたら、どこにいっても、もう絶対つかまらなくなるから。僕は、味方になるから」
「自分でなんて、できる? どうやって?」
「少しずつ、癒していくんだ。潤の痛みや悲しみを。そしたら、潤の中に、エネルギーがたまっていって、自分で逃げられるようになる」
「本当?」
「潤の心が、そう言っている」
「俺の心が?」
「そうだよ」
「ううん。俺は、可愛いがってもらえると思って、すすんで、いやらしいことに応じたんだ」
「ほら、応じたんでしょ? ということは、最初は、誘われたんでしょ?」
「わからないよ、覚えてない。覚えているのは、後ろめたい感じ。俺が誘ったっていうこと。みんなも、そう言う、だからきっとそう」
「潤。それだったら、僕も、潤を誘ったことになるね。僕が先輩を誘って、譲さんを誘って、叔父様を誘って……違う?」
「瑤は、誘ってないと思う。瑶を、俺が誘ったんだ。藤木さんが瑶を誘って、譲が瑶を誘ったんだ」
「それと同じだって。経験ないのに、どうやって誘うんだよ。僕は、そんなこと考える余裕なんかなかったよ」
「瑶は、誘ってない。だけど、俺は誘ったっていう感覚があるんだ。だって、いつも、罪悪感が……」
「それ、相手の感じた罪悪感だよ。それを、潤が感じてるだけ」
潤が、泣き出した。僕に抱きついた。
「どうしよう、話してしまった。人に言ったらいけないのに。叔父様に叱られる」
やはり叔父様なのか?
「叱られたら、僕と逃げよう?」
「逃げられないよ」
「マンションに帰るだけのことじゃない?」
「俺も、最初はそう思った。でも、お金だって仕送りしてもらわなきゃいけないし、俺は一人じゃ何もできない。逃げたって、何の解決にならないんだ。俺は、無力なんだ。この状況から、逃げられないんだ」
「潤は、無力なんかじゃないよ。そう思わされているだけだよ。ちゃんと力も能力も知恵もあるから。だから、あきらめないで。潤だって、本当は、あきらめてないんでしょ?」
「どうしてそう思うの」
「だって、僕に心を開いてくれたから。本当にあきらめていたら、僕を家に招いたりしないよね?」
僕は、潤が、洋講堂で僕に声をかけたこと、僕を突然、潤の実家に誘ったことを、偶然だとは思わなかった。潤の無意識が、あるいは何か知らない大きな意志が働いたのだと信じた。潤の救われたいという気持ちが、僕を動かしたのだと思った。
「そんなんじゃないんだ、ただ、瑤で、苦痛を紛らわしたかっただけ……俺一人じゃ怖いから。一人で秘密を守るのは、もう無理なんだ。壊れそうなんだ。言ってしまいそうで、通りで大声で叫んでしまいそうで、怖かった……。ううん、可愛い瑶がくれば、みんな喜ぶ……ターゲットは俺だけじゃなくなる。俺は、瑶を玩具にする……? 汚い考えだ……ああ。わからない……ほんとにそんなこと考えてたかな。ううん、違う……何も考えてないんだ……俺の考えなんて、何もないんだ……なのに瑤を巻き込んで、ごめん」
「それだけかな? 僕に味方になって欲しかったんじゃないの? 味方を待っていたんじゃないの? 待っているって、言ってたじゃない」
潤は、洋講堂で、部屋で、救いを待っていると言っていたような気がした。
「うん……そうかも……でも、助けられないよね。そんなの甘えだ。他人に、無理だよね。依存なんて迷惑だし」
「助けたいんだから、迷惑なんて思わないよ。だけど潤が、そう思うなら、潤が、自分で逃げるんだよ。潤が自分で逃げることは価値があると思う。そしたら、どこにいっても、もう絶対つかまらなくなるから。僕は、味方になるから」
「自分でなんて、できる? どうやって?」
「少しずつ、癒していくんだ。潤の痛みや悲しみを。そしたら、潤の中に、エネルギーがたまっていって、自分で逃げられるようになる」
「本当?」
「潤の心が、そう言っている」
「俺の心が?」
「そうだよ」
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