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ルークラフト家の兄妹
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「そ、それは確かですの!? ナタリー姫様が、あそこに……?」
マーガレットが聞き返すと、イザベラはきょとんとしてこ首を傾げる。
「いいえ? 居るはずがありませんもの。メイガス・リバーが見せた幻影みたいなものでしょう? でも確かにナタリー姫様でしたわぁ。町娘のような格好をしていたけれど、気品は隠しきれませんもの。それでわたくし、その話を思い出しましたのよ? なんだか、ナタリー姫様が後押ししているようで」
「何だ? 話がさっぱり見えてこないが……。ナタリー姫と言えば、先日亡くなった、あのナタリー姫だろう?」
「そうなのです! 幽霊となってまで、わたくしに伝えに来たのかと思いまして……。その、わたくし……故人の方、それも高貴な方のことをこう言うのは良くないんですけれど、ナタリー姫様のことが少々、えっと、恐ろしくて……」
「あぁ。そうだったな」
言いづらそうにモジモジしているイザベラに、ジークフリードが同情するような目線を向けた。
「何? どういう事ですの?」
「イザベラはナタリー姫に嫌がらせを受けていた。昔からだ」
「ナタリー姫様から、というのは初耳ですわね? 他のご令嬢からという話は幾度となく聞きましたが」
「ジーク様にしか、言えませんでしたもの」
「ナタリー姫が主導していたらしい」
マーガレットは首を傾げる。イザベラは女性受けがとにかく悪い。故に高位貴族でありながらも社交界でも女性たちから無視されたり、爪弾きにされることもあるらしい。
けれどナタリーからと言うのはピンと来なかった。彼女はあの通り男勝りでサッパリとしているし、学園ではみんなの中心で……いや。そんなことはない。
「だってあの方、公女という以外はパッとしたところはありませんでしたわよ? 王位継承権もありませんので、社交界でもそこまでの影響力はないのでは?」
マーガレットは若干自分の思考に違和感を覚えたが、もとよりナタリーのことを深く知る訳では無い。
だがイザベラをいじめたくなる気持ちはわかるので、果たして主導している人間がいるのかも半信半疑である。
「そう……ですわね。でも、お姫様ではありますし、影響力はあったのでは、と……? とにかくわたくし、あの方に圧をかけられると逆らえませんでしたので。今回も彼女が見えて少し恐ろしくもなって……。ナタリー姫様のお話は、『やりなさい』と言うことになるので……」
「それで思い立ってわたくしを?」
「多分そうです……。マーガレット様と入れ替わったら楽しそう、とも思いましたが」
嫌がらせやいじめと言うよりは、刷り込みか、洗脳なのか。はたまた暗示か催眠か。
イザベラを貶めることが目的とは思えない。もしそうなら、狙いはやはりマーガレットかギルバート、あるいはルークラフト家なのだろう。
「イザベラ。お前はマーガレットを殺そうとした訳では無いのだな?」
「そんなわけありません!」
「だが、あまりに愚かな行為であることはわかっているか?」
「はい。マーガレット様が落ちていくのを見た時には、本当に恐ろしくて……。どうしてこんなことをしてしまったのかと。本当に、ごめんなさい」
イザベラはしおらしくうなだれる。せめてずっとこの態度でいてくれたら周囲の印象は違うのにとマーガレットは思う。
「いや。俺に謝る必要は無い。短絡的に行動して君の話を聞こうとしなかった俺の方がもっと愚かであった。謝罪の言葉は、妹に」
「マーガレット様、この度は本当に、」
「いえ。謝罪はもう必要ありません」
マーガレットは言葉を遮る。
「わたくし、謝罪を受けても許すつもりはありませんの」
そして、冷たい口調で続けた。イザベラは息を飲むのみである。
「ギルの怪我が完治して、後遺症なども残らないようであればその時改めて、ギルにも謝罪をしてくださいませ。それで彼があなたを許したなら、私も受けいれます。勿論それなりの慰謝料は支払ってくださいませね」
「そ、それは勿論ですわ……!」
「そして万が一、ギルに後遺症が残ってしまうようであれば。……そうなったら一生許しませんわ。然るべき報復を、その際は改めて考えますわ。手加減はいたしませんので、そのおつもりでいらして?」
マーガレットが睨みつけると、イザベラは冷や汗を流して固まった。張り付いた表情はやはり、口角が上がっている。
「お前、報復って」
「ですから、今貴女を極刑に処すわけにはいきませんの」
「きょ、極刑!?」
ヒヒ、と妙な声をイザベラは上げる。やはり、恐怖を感じると笑うようにひくついてしまうらしい。
「当然ですわ。公爵家の娘の殺害未遂容疑よ。お父様は全力で貴女を処すことに力を注ぐわ。ですから、おとぎ話でした、なんて話では済みませんの。少しはご自身の立場を理解したかしら? 理解出来たならその緩くなりがちな口元を引き締めなさい。そして、しおらしく、淑女らしい態度を心がけて。くねくねした態度もやめて、背筋を伸ばして凛としていなさいな。お父様は媚びることしか脳の無い方をとても嫌うわよ」
「は、はい……!」
「さぁ、お立ちになって!」
マーガレットはイザベラの手を取って無理やり立ち上がらせる。
「貴女は踏み板がぐらついているのに気がついた。それでわたくしに手を伸ばしたけれど、間に合わずに落下しましたのよね?」
「え……それは、ちが、」
「わたくしの言うことに、間違っていることなどあるのかしら?」
まだ飲み込みきれていないイザベラの言葉を、圧力を込めて遮る。
「え……えと、はい、そう……だと思います……」
「真実なのですから、もっと迷いのないお返事をなさい」
「はい! わたくしは、マーガレット様をお助けしたかったのですが、間に合いませんでした!」
ヤケクソ気味の叫びに、マーガレットは満足そうに頷きながら微笑む。
「ええ。わたくしも見ていましたとも。そうですわね? お兄様。貴方はつい気が動転して、ルークラフト家の責務の元、イザベラ様を捕らえてしまった」
「あぁ。情けないが相違ない」
「貴方達も、今の話を聞いたわね?」
「は……はい」
マーガレットは衛兵一人一人を順繰りに見る。少なくとも反抗的な態度をとる人間は見当たらない。
「しかし、父……公爵様がご納得するかどうか」
ジークフリードが心配そうに言う。どうやらマーガレットの強引さについて行くので精一杯らしい。
「……わたくしに、考えがありますの」
マーガレットは浮かない顔でそう言った。
―――――――――――――――――――――――――――――
【おしらせ】
今日まで毎日更新して来ましたが、ストック追いついたこと、
また想定していた展開と変わってしまい
次話の構成を推敲中です。
ラストまで考えてあるのでかならず完結しますので、
更新頻度は減るかもしれませんが、
引き続き読んでいただけると嬉しいです……!
忘れられない程度に更新再開したい……!
マーガレットが聞き返すと、イザベラはきょとんとしてこ首を傾げる。
「いいえ? 居るはずがありませんもの。メイガス・リバーが見せた幻影みたいなものでしょう? でも確かにナタリー姫様でしたわぁ。町娘のような格好をしていたけれど、気品は隠しきれませんもの。それでわたくし、その話を思い出しましたのよ? なんだか、ナタリー姫様が後押ししているようで」
「何だ? 話がさっぱり見えてこないが……。ナタリー姫と言えば、先日亡くなった、あのナタリー姫だろう?」
「そうなのです! 幽霊となってまで、わたくしに伝えに来たのかと思いまして……。その、わたくし……故人の方、それも高貴な方のことをこう言うのは良くないんですけれど、ナタリー姫様のことが少々、えっと、恐ろしくて……」
「あぁ。そうだったな」
言いづらそうにモジモジしているイザベラに、ジークフリードが同情するような目線を向けた。
「何? どういう事ですの?」
「イザベラはナタリー姫に嫌がらせを受けていた。昔からだ」
「ナタリー姫様から、というのは初耳ですわね? 他のご令嬢からという話は幾度となく聞きましたが」
「ジーク様にしか、言えませんでしたもの」
「ナタリー姫が主導していたらしい」
マーガレットは首を傾げる。イザベラは女性受けがとにかく悪い。故に高位貴族でありながらも社交界でも女性たちから無視されたり、爪弾きにされることもあるらしい。
けれどナタリーからと言うのはピンと来なかった。彼女はあの通り男勝りでサッパリとしているし、学園ではみんなの中心で……いや。そんなことはない。
「だってあの方、公女という以外はパッとしたところはありませんでしたわよ? 王位継承権もありませんので、社交界でもそこまでの影響力はないのでは?」
マーガレットは若干自分の思考に違和感を覚えたが、もとよりナタリーのことを深く知る訳では無い。
だがイザベラをいじめたくなる気持ちはわかるので、果たして主導している人間がいるのかも半信半疑である。
「そう……ですわね。でも、お姫様ではありますし、影響力はあったのでは、と……? とにかくわたくし、あの方に圧をかけられると逆らえませんでしたので。今回も彼女が見えて少し恐ろしくもなって……。ナタリー姫様のお話は、『やりなさい』と言うことになるので……」
「それで思い立ってわたくしを?」
「多分そうです……。マーガレット様と入れ替わったら楽しそう、とも思いましたが」
嫌がらせやいじめと言うよりは、刷り込みか、洗脳なのか。はたまた暗示か催眠か。
イザベラを貶めることが目的とは思えない。もしそうなら、狙いはやはりマーガレットかギルバート、あるいはルークラフト家なのだろう。
「イザベラ。お前はマーガレットを殺そうとした訳では無いのだな?」
「そんなわけありません!」
「だが、あまりに愚かな行為であることはわかっているか?」
「はい。マーガレット様が落ちていくのを見た時には、本当に恐ろしくて……。どうしてこんなことをしてしまったのかと。本当に、ごめんなさい」
イザベラはしおらしくうなだれる。せめてずっとこの態度でいてくれたら周囲の印象は違うのにとマーガレットは思う。
「いや。俺に謝る必要は無い。短絡的に行動して君の話を聞こうとしなかった俺の方がもっと愚かであった。謝罪の言葉は、妹に」
「マーガレット様、この度は本当に、」
「いえ。謝罪はもう必要ありません」
マーガレットは言葉を遮る。
「わたくし、謝罪を受けても許すつもりはありませんの」
そして、冷たい口調で続けた。イザベラは息を飲むのみである。
「ギルの怪我が完治して、後遺症なども残らないようであればその時改めて、ギルにも謝罪をしてくださいませ。それで彼があなたを許したなら、私も受けいれます。勿論それなりの慰謝料は支払ってくださいませね」
「そ、それは勿論ですわ……!」
「そして万が一、ギルに後遺症が残ってしまうようであれば。……そうなったら一生許しませんわ。然るべき報復を、その際は改めて考えますわ。手加減はいたしませんので、そのおつもりでいらして?」
マーガレットが睨みつけると、イザベラは冷や汗を流して固まった。張り付いた表情はやはり、口角が上がっている。
「お前、報復って」
「ですから、今貴女を極刑に処すわけにはいきませんの」
「きょ、極刑!?」
ヒヒ、と妙な声をイザベラは上げる。やはり、恐怖を感じると笑うようにひくついてしまうらしい。
「当然ですわ。公爵家の娘の殺害未遂容疑よ。お父様は全力で貴女を処すことに力を注ぐわ。ですから、おとぎ話でした、なんて話では済みませんの。少しはご自身の立場を理解したかしら? 理解出来たならその緩くなりがちな口元を引き締めなさい。そして、しおらしく、淑女らしい態度を心がけて。くねくねした態度もやめて、背筋を伸ばして凛としていなさいな。お父様は媚びることしか脳の無い方をとても嫌うわよ」
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「貴女は踏み板がぐらついているのに気がついた。それでわたくしに手を伸ばしたけれど、間に合わずに落下しましたのよね?」
「え……それは、ちが、」
「わたくしの言うことに、間違っていることなどあるのかしら?」
まだ飲み込みきれていないイザベラの言葉を、圧力を込めて遮る。
「え……えと、はい、そう……だと思います……」
「真実なのですから、もっと迷いのないお返事をなさい」
「はい! わたくしは、マーガレット様をお助けしたかったのですが、間に合いませんでした!」
ヤケクソ気味の叫びに、マーガレットは満足そうに頷きながら微笑む。
「ええ。わたくしも見ていましたとも。そうですわね? お兄様。貴方はつい気が動転して、ルークラフト家の責務の元、イザベラ様を捕らえてしまった」
「あぁ。情けないが相違ない」
「貴方達も、今の話を聞いたわね?」
「は……はい」
マーガレットは衛兵一人一人を順繰りに見る。少なくとも反抗的な態度をとる人間は見当たらない。
「しかし、父……公爵様がご納得するかどうか」
ジークフリードが心配そうに言う。どうやらマーガレットの強引さについて行くので精一杯らしい。
「……わたくしに、考えがありますの」
マーガレットは浮かない顔でそう言った。
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