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第二章 和食が食べたい(切実)

エレン倒れる

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「あっ、あんたねぇ! あたしが友達って言ったら、世界中どんなやつでも友達なのよ!」
「は……はぁ。そうですか」

 そんなつもりじゃなかったのだが、あたしをバカにしているのだろう。言葉が丁寧だがしれないが、かわいそうなものを見るかのような目で見てくる。
 おのおかげで、緊張が緩んだ。

「……コホン。実は色々あって、あたしはお城の連中が嫌いなのよね。敵の敵は味方って言うし、むしろ好意を持っていると思ってもらって構わないわ」
「貴女に好意を持ってもらっても嬉しくないのですが」
「あのねぇ!いい加減城につきだされたくなかったらあたしの好意くらいありがたくいただいときなさいよ!さっきからあたし、恥ずかしいやつなんですけどおおおおお!」

 最後に不満をぶちまけたおかげか、心のイライラも少し癒された。

「耳を隠したりするのは後で考えるとして、とりあえずご飯でもつくってもらいましょ! バカミヤに!」
「……お前なぁ」

 そう言いながらも、バカミヤはしぶしぶ台所の方へと向かう。
 なんだかんだ言って、こいつは歌唱力の低さとナルシストに目をつぶりさえすれば、何でもかなりできるやつだ。幾度か料理をつまみ食い……もとい、いただいたときに感じたことである。

 ーーそのとき。

「おいっ、リーナはいるか!」

 荒々しくドアを開け放ったのは、先程別れたはずのレノである。
 初めて見るはずのルーカスには目もくれず、何か慌てた様子であたしの手を握る。

「……何かあったの?」

「それが……大変なんだ。エレンが倒れた。ひどい熱だが様子がおかしい。なにより、なぜかみんなが近寄れないんだ。どうこう言うよりも、きっと来てもらったほうがわかる……」

 大切な妹を案じてなのだろう。
 レノの声には焦りがにじんでいた。
 勿論、あたしの判断はすぐである。

「ごめん、バカミヤ、ルーカス! ちょっと行ってくる!」

 返事も聞かず、レノと共に家を飛び出す。
 みんなが近寄れない、という症状に心当たりがあった。ひとつだけ。前世のそれではない。今世でのことではあるのだが、実はそれ、平民がかかるようなものではないはずだ。

「エレンはひょっとして、貴族の血でもひいているのかしら?」
「あ?それはねーと思うぜ?あいつが赤ん坊のときに、あいつの母親が泣きながら捨てたらしいがな……カルシュ兄曰く、ボロボロの、つまりは俺らみたいな服を着てたらしい」

 この都市では、みんなそれなりの服を着ている。レノたちほどのボロボロの服を身につけているのは、よっぽど貧しい家か孤児くらいなものだ。それも、レノやユノが走り回るからボロボロになっているせいで、二人以外の家族はエレンなどの裁縫が得意な人のおかげでだいぶ綺麗なものを着ている。

「そうなの……」

 あたしは、再び何か考えようとしたが、廃墟のような例の家についたのでそれきり思考をストップした。見る方が早い。

「リーナ様!」

 すでに、他の家族たちはまた違う場所に移らせたのだろう。待っていたのはカルシュのみだった。レノも、カルシュの指示でその場を離れる。

「ーーっ!」

 ひどいありさまだった。
 吐瀉物が床にかかり、臭いがひどい。エレンだけのものではないだろう。おそらく、他の何人かの家族の吐瀉物。

 部屋の中心でうずくまり、苦しげに息をするエレン。
 その姿に、あたしは確信を持ちながらも疑問が沸いてくる。

「これ以上は僕も……」

 カルシュもあまり近づけないようだ。顔色が悪い。そりゃそうだろう。にとって、は嘔吐感を催す毒だ。

「これは、貴族の子供なら一度はなったことのあるーー『魔力発作』。エレンは魔力を持っているということよ」



 あり得ない。

 
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