悪役令嬢だけど、男主人公の様子がおかしい

真咲

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 療養期間が終わり、ドラゴンの管理についても話がまとまったが、私が学園に戻ることはしばらく叶わなかった。というのも、学園側がドラゴンなんて危険な生き物を受け入れる用意が整っていなかったためである。
 学園は私だけではなく、大勢の生徒の安全を確保する義務がある。
 一週間で用意を、などというのは土台無理な話だったらしい。

 中々自由に動けないのはライナスも変わらなかったようで、実際にドラゴンを目撃した貴重な人物として、王城に頻繁に呼び出されているらしい。恐らく、ステラとも再会を果たしていることだろう。胸の底が少しもやっとするような気がするが、それを吹き飛ばすほど……。

「お嬢様、ウィンズレット公子からお手紙ですよ」

 手紙が、届くのである。
 こんもりと。

 もはや山。

「あ、ありがとう……」

 生暖かい視線を送ってくるメイドたちにお礼を搾り出しながら、私は連日届く手紙に封を解く。季節の挨拶から始まるところは貴族らしいのだが、半ばに差し掛かったあたりからライナスのライナスたるところがじわじわと溢れ出してくる。

『フェリシア。元気にしているみたいで安心した。ドラゴンに名前をつけるか迷っているって前回の手紙で言ってたよな。ペットだもんな。お前のペットなら、きっと高貴な名前が似合いそうだ。手紙で聞く日を楽しみにしているよ』

 手紙は次のページにも続いていた。
 文字はたまに荒ぶっているところがあるが、基本的に貴族らしい、綺麗で気取った文字だ。ユーリに習ったのだと言う。私の知らなかった場所でライナスが立派な貴族になるために努力していたのだとわかった。

『俺の家の庭に、赤い薔薇が咲いていて、お前を思い出したよ。フェリシアは華やかだから、薔薇が似合うよな。サロンの周りに薔薇が咲いてるから、余計にそういうイメージがあるよ。薔薇の花束を作って贈ることも考えたんだが、あまりに美しいから手折るのに躊躇してしまった。いつか俺の屋敷に招待して、お前に庭師の育てた薔薇を見せられたらいいな』

 そして最後には、

『君をいつも想ってるよ。 ライナス』

 という、明確な言葉にはしないけれども耐性のない私は真っ赤になってしまうような甘やかさの滲む文字が踊っている。
 きょ、今日もなんとか読み切ることができた。
 ふう。

 対面でこんなことをされていちゃきっとすぐにキャパオーバーになっていたことだろう。そういう意味では手紙で慣れることができて良かったのかもしれない。
 うん。

「今日も百面相してるな」
「ななっ」

 ドラゴンが私の頭上を旋回していた。慌てて手紙を隠すように抱きしめてしまう。

「はは、見なくてもお前の顔色を見たら大体どんな内容か察しがつくよ」

 ニヤニヤと意地悪い顔をしている。
 さて、私の目下の課題はこの謎めいた性悪な生き物に固有名をつけることだった。ライナスには高貴な名前と言われてしまったし、適当にポチとかつけるのは良くないだろう。こいつはそれでも面白がりそうだが。
 意地が悪いだけで、気性が荒いわけではない。
 おっちょこちょいのメイドが尻尾を踏んだことがあるのだが、ドラゴンは苦言を呈して泣き真似をしたくらいで、全くこれっぽっちも怒っているようではなかった。

 そういうわけで、私とこのドラゴンは不本意ながらも打ち解けてきており、会話を重ねるにつれて相手の名前がないことを不便に思ってきていたのだ。
 私が飼い主なのだから、私が名づけるべきだろう。

 さてな。
 どうしたものか。

「ロサル」

 ドラゴンの目が輝いた。

「もしかして、おれの名前か」
「そう。私の……私の、世界の言葉で薔薇の木という意味よ」
「それはまた、お前のペットだと喧伝するような名前だな」

 不服? と目で問い掛ければ、ロサルはくるりと一回転して楽しげに自分の名前を呟いていた。

「ロサル……ロサルか。悪くないな。むしろ良い。高貴で上品で、おれに相応しい。飼い主であるお前がわざわざ自分の世界の言葉でつけたところも気に入った!」

 そうやって喜んでくれると悪い気はしない。

 早速ライナスに手紙を書こう。
 名前の由来は話せないが、彼ならきっと良い名前だと褒めてくれるはずだ。

 レターセットを手に取ろうとした時、満足げに飛んでいたロサルがぴたりと動きを止めた。

「どうかしたの?」
「いや……。ああ……これは。いや、そうとも限らないか……だが、不可能ではないのでは……。どうやらあちらの世界と縁が繋がったらしいな……」

 ロサルはそのまま、窓を出てするりと外に出ていってしまった。
 不審に思うところもあったが、彼だって一人(一匹)で考えたいことだってあるだろう。

 その時の私は大して気に留めることなく、今度こそレターセットに手をかけた。




 私がドラゴンと共に学校に戻ることを許されたのは、それから数ヶ月後。
 私やライナスが、すでに高等部に自動的に進学してからのことだった。
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