悪役令嬢だけど、男主人公の様子がおかしい

真咲

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 ドラゴンが学園に入ることについて、結局騎士団がものものしくも学園全体を警護することによって決着がついたらしかった。特に私には突き刺さるほどの視線が絡みついている。
 そういうものは、騎士からだけではない。

「あの、フェリシアさん。もし良かったら今日のお昼──」
「ごめんなさい。先約があるの」

 異性から声をかけられることも増えた。
 中等部の頃はまだ未成熟だった容姿が高等部にきて華開いたこと、レンテリア公爵が縁談を考えているという噂がまことしやかに広まったせいで、ぐんと声をかけられる割合がアップした。
 というか、首にロサルを巻いている時か、ライナスかユーリと歩いていないときはもう休む暇もないほど話しかけられる。

 なんだ? 鬼ごっこでも始まったのか?
 ライナスが痺れを切らして私にロサルと一緒にいるようお願いしてきたのには思わず吹き出してしまった。彼はドラゴン自体を快く思っているわけではないが、ロサルが私に害を及ばさないことに関しては一定の信を置いているらしかった。

「先約って……」
「悪い、ちょっとバリケードに手間取ってしまって……行こう、フェリシア」

 バリケードってなんだ。怖い。

 ライナスが燦然と輝く笑顔をひっさげて私に近づいてくる。ここまで眩しいイケメンぶりを見せつけられると、誰もが逃げ出したくなるらしく、先ほどまでしつこく誘ってきた男が一目散に駆けて行った。ああ待って。私も逃げたい。

 後退りそうになるのを許さないかのように、ライナスが私に手を伸ばす。エスコートする、ということだろう。油を差していないブリキ人形のようなぎこちなさで、出された手に自分のものを乗せた。
 僅かな触れ合いだが、ライナスの頬がふわりと紅潮する。
 私を見て、照れたようにはにかんでくる。

「フェリシア。今日は晴れているから、中庭でランチにしないか?」

 貴族令嬢としての体面がなければ、パンチの強さに崩れ落ちていたに違いなかった。
 ライナスの! アプローチが! 全部直球すぎて! 心臓がもたない!

 中庭は案の定カップルでいっぱいだったが、私たちも高等部に入学するなり常に一緒にいる新星のビッグカップル(恋人ではない)みたいなものなので、きっと同じように見えてるんだろう。

 ライナスのアプローチはすごい。
 可愛いとか綺麗とかはそこまで言われないのだが、全部態度に出るためこちらに筒抜けなのである。ある意味では貴族らしさに欠けるとも言える。しかしそれが彼の長所でもあるのだ。自分に素直に、感情を表に出すことを怖がらない。
 かといって押し付けがましいものはない。

 手と手が触れ合って恥ずかしそうに赤くなったりすることから始まり、私が騎士学科の見学に顔を見せるとたちまちぱああっと顔を輝かせる。彼が犬だったら、たぶん尻尾をブンブン振っていたことだろう。
 加えて休日はよくデートに誘われた。
 軽い散歩のようなものが多い。会話は大きく盛り上がるわけでもないが、途切れるわけでもない。

 ふとした瞬間に愛おしげなオリーブグリーンと目が合うことがあり、こちらが赤くなってしまう。言葉にこそされないが、学園中にライナスが私に恋をしていることは一瞬のうちに広まったらしかった。

 昼休みを終え、騎士学科の訓練場に向かうライナスと連れ立って歩く。
 今日は普通学科にも午後の授業があるため、見学はできない。

 途中でライナスと別れたところで、今度はユーリに話しかけられた。

「やあ。今日もライナスがベッタリだね」

 茶化すような口調だが、その顔には疲労の色が混じっている。
 私が長く学園を開けた間、サロンを回してくれていたのはユーリだった。彼自身は固辞しようとしたらしかったが、流石に下級生に押し付けるわけにもいかず、ずるずると代理を務めていてくれた。

 私がサロンに戻ったことで仕事は減るかに見えたのだが、学園高等部はそれだけ中等部よりも生徒数が増える。つまり仕事も増えた。
 結果、ユーリにはそれなりに負担してもらっている形になる。向いていないと言いつつ、できてしまうタイプであるユーリは私とある意味同類だった。

「ええ。まあ、よく誘ってくれているわ」

 ユーリの視線がさらっと私を通る。

「ふうん。昔の君なら、良い迷惑だとか、虫除けに丁度良いとか言っていそうだけど、そういうライナスに対するおかしな棘はなりを潜めているみたいだね」

 なるほど。
 彼は私が、親友であるライナスの恋心を弄んだり傷つけたりしていないか、確認しにきたらしかった。

「うん、問題なさそうだ。虫除けは双子のご令嬢がたも頑張っているようだけど、君の人気が高まりすぎて追いついていないらしいからね。君も気をつけて。……今の君になら、ライナスを任せてもいい。あ。誤解しないでほしいんだけど、オレは別に、君の態度を警戒していただけで、君自身に悪感情はないよ」

 うんうん、と一人で納得し去っていく後ろ姿。
 いや、私はライナスを受け入れるともまだ言っていないけどね?

 外堀を着々と埋められているような……。
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