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レオは自分の頬を力強く叩いた。
「俺はやれる」
ヨアヒムをその気にさせ、寝床を共にする。結婚初夜に求められるのは単にそれだけである。ヨアヒムはレオとの結婚を恐らくただの嫌がらせ程度に考えているだろう。やけに手がこんでいるだけタチが悪い。
レオが個人的に使える部屋として与えられたのは、客室がただの物置に思えるほど豪華なものだった。絨毯やソファ、テーブル、棚はランクアップし、高価そうな絵も飾られている。
まるでレオを愛しているかのような厚遇ぶりである。
ベッドがないので寝室は別にあるからだ。
ソファが十分大きいため、そこで寝ることもできないわけじゃなさそうだが、意図した使い道ではないのだろう。
全身映る鏡で自分をじっくり見る。
風呂に入り、体の隅々まで綺麗にしたレオはほんのり肌に赤みを帯びている。バスローブは意図的に少しはだけさせておいた。
ヨアヒムにその気がなくても、自分の容姿を活かしさえすればきっとどうにかなる。ヨアヒムを惚れさせ、お金を貰って仕送りをする。
奇しくも父の言いなりになってしまうが、今のレオの肩には領地の税率がかかっている。再び彼らを重い税で苦しめるわけにはいかない。
つまらないプライドでヨアヒムと喧嘩したり、彼の嫌がらせに付き合ってやる暇はないのだ。
覚悟を決めたレオは先程ハンネスに教えてもらった寝室に足を運ぶ。
ノックをすると、ヨアヒムの「どうぞ」という短い返事が返ってきた。
ドアを開けると部屋は薄暗く、落ち着いた香りが焚かれていていた。小さなテーブルにはワインがあって、ヨアヒムは既に飲んでいる様子だった。
「来るとは思わなかった」
「俺は腰抜けじゃないさ」
後ろ手で扉を閉め、鍵をかける。
初夜の寝室に誰も近寄らないのはわかっている。自分の退路を断つためだった。
「何故施錠する?」
「どうせ朝まで出ないのだから構わないだろう」
そろりとヨアヒムの側寄った。ワインは既に半分程飲んでいるようだ。お酒が回っているのか、目がぼんやりしている。
「そこまでザルじゃないだろう、あまり飲みすぎるとよくない」
「レオ、は」
ヨアヒムがバスローブの裾を掴んだ。
行動がいちいち過去の彼と重なる。今は大きな図体をしているが、昔のヨアヒムは可愛かった。ヨアヒムへの庇護欲はあの日全てなくなったと思っていたが、案外今も残っているのかもしれない。
「なんだ?」
「僕と結婚したくなかっただろ」
初夜で、こちらの覚悟は決まっていると言うのに今更か。
「そんなことはないさ。相手がヨアヒムでよかったよ」
「嘘を言うな」
嘘だ。嘘でもなんでも、とにかく良い雰囲気を作ろうとするレオの努力を潰さないでほしかった。思い切って腕に絡んでみる。
振り解かれないことにほっとして、ヨアヒムの方を見やる。
目があった。
そのまま、顔を近寄らせてみる。
拒まれないのをいいことに、頬に唇を寄せてみた。小さなリップ音に恥ずかしくなるものの、嫌悪感はなかった。
額、頬、首元。彼の指。
ひとつひとつキスを落としていく。
「なあヨアヒム」
「……」
「勃ってる」
やや兆している彼のものを指摘してやる。
安心した。自分の容姿に自信はあったが、それでもヨアヒムをその気にさせられるかは五分だった。
「ベッドに行こう。俺のこと、好きに扱っていいから」
耳元で囁き、彼を誘導する。
ヨアヒムはふらりと立ち上がり、レオを抱き上げる。それからそっと丁寧にベッドに下ろした。
「僕が、昨日からずっと君を避けているのは気づいていただろう」
もう我慢するのも辛いだろうに、ヨアヒムは会話を選択する。彼の理性はレオの計算よりも強靭だった。
「まあな」
レオが屋敷に到着した時。結婚式の間。ヨアヒムはレオに近寄ろうとしなかったし、レオが寄るのも許さなかった。
レオのことが嫌いで、この結婚が嫌がらせであるためだと思っていたが。
「僕が君を襲わないようにしていたんだ」
「──え?」
「俺はやれる」
ヨアヒムをその気にさせ、寝床を共にする。結婚初夜に求められるのは単にそれだけである。ヨアヒムはレオとの結婚を恐らくただの嫌がらせ程度に考えているだろう。やけに手がこんでいるだけタチが悪い。
レオが個人的に使える部屋として与えられたのは、客室がただの物置に思えるほど豪華なものだった。絨毯やソファ、テーブル、棚はランクアップし、高価そうな絵も飾られている。
まるでレオを愛しているかのような厚遇ぶりである。
ベッドがないので寝室は別にあるからだ。
ソファが十分大きいため、そこで寝ることもできないわけじゃなさそうだが、意図した使い道ではないのだろう。
全身映る鏡で自分をじっくり見る。
風呂に入り、体の隅々まで綺麗にしたレオはほんのり肌に赤みを帯びている。バスローブは意図的に少しはだけさせておいた。
ヨアヒムにその気がなくても、自分の容姿を活かしさえすればきっとどうにかなる。ヨアヒムを惚れさせ、お金を貰って仕送りをする。
奇しくも父の言いなりになってしまうが、今のレオの肩には領地の税率がかかっている。再び彼らを重い税で苦しめるわけにはいかない。
つまらないプライドでヨアヒムと喧嘩したり、彼の嫌がらせに付き合ってやる暇はないのだ。
覚悟を決めたレオは先程ハンネスに教えてもらった寝室に足を運ぶ。
ノックをすると、ヨアヒムの「どうぞ」という短い返事が返ってきた。
ドアを開けると部屋は薄暗く、落ち着いた香りが焚かれていていた。小さなテーブルにはワインがあって、ヨアヒムは既に飲んでいる様子だった。
「来るとは思わなかった」
「俺は腰抜けじゃないさ」
後ろ手で扉を閉め、鍵をかける。
初夜の寝室に誰も近寄らないのはわかっている。自分の退路を断つためだった。
「何故施錠する?」
「どうせ朝まで出ないのだから構わないだろう」
そろりとヨアヒムの側寄った。ワインは既に半分程飲んでいるようだ。お酒が回っているのか、目がぼんやりしている。
「そこまでザルじゃないだろう、あまり飲みすぎるとよくない」
「レオ、は」
ヨアヒムがバスローブの裾を掴んだ。
行動がいちいち過去の彼と重なる。今は大きな図体をしているが、昔のヨアヒムは可愛かった。ヨアヒムへの庇護欲はあの日全てなくなったと思っていたが、案外今も残っているのかもしれない。
「なんだ?」
「僕と結婚したくなかっただろ」
初夜で、こちらの覚悟は決まっていると言うのに今更か。
「そんなことはないさ。相手がヨアヒムでよかったよ」
「嘘を言うな」
嘘だ。嘘でもなんでも、とにかく良い雰囲気を作ろうとするレオの努力を潰さないでほしかった。思い切って腕に絡んでみる。
振り解かれないことにほっとして、ヨアヒムの方を見やる。
目があった。
そのまま、顔を近寄らせてみる。
拒まれないのをいいことに、頬に唇を寄せてみた。小さなリップ音に恥ずかしくなるものの、嫌悪感はなかった。
額、頬、首元。彼の指。
ひとつひとつキスを落としていく。
「なあヨアヒム」
「……」
「勃ってる」
やや兆している彼のものを指摘してやる。
安心した。自分の容姿に自信はあったが、それでもヨアヒムをその気にさせられるかは五分だった。
「ベッドに行こう。俺のこと、好きに扱っていいから」
耳元で囁き、彼を誘導する。
ヨアヒムはふらりと立ち上がり、レオを抱き上げる。それからそっと丁寧にベッドに下ろした。
「僕が、昨日からずっと君を避けているのは気づいていただろう」
もう我慢するのも辛いだろうに、ヨアヒムは会話を選択する。彼の理性はレオの計算よりも強靭だった。
「まあな」
レオが屋敷に到着した時。結婚式の間。ヨアヒムはレオに近寄ろうとしなかったし、レオが寄るのも許さなかった。
レオのことが嫌いで、この結婚が嫌がらせであるためだと思っていたが。
「僕が君を襲わないようにしていたんだ」
「──え?」
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