大嫌いな後輩と結婚することになってしまった

真咲

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 デート、デートである。
 レオはこれまでにないほどソワソワとしていた。今までのレオは一番の課題を性行為としていたため、あらゆる予習、対策をそこに注ぎ込んできた。
 健全なデートは練習不足も良いところである。

 だがまあ、一般的なデートと言えば、良い服を着て、美味しいものを食べて、美しい景色を眺めることだろう。レオより美しいものがあるかどうかは別として、想定外が起きる可能性は低い。

「……着飾るといってもなんでも似合ってしまうしな…」

 鏡の前でかれこれ数時間、悩みっぱなしである。

「俺の顔が良いばかりに…」

 レオの悩みは結構な割合でそこから来ているので、長所と自信を持って言うこともできないが、大抵の人が聞いたら呆れそうな自己評価である。
 その大抵の人に含まれない男がレオの部屋をノックした。

「レオ、支度ができたら教えてくれ」
「わかった」

 取り敢えず試着していた服をそのまま着ていくことにする。
 どうせ全部似合うし…というのがレオの言である。

 扉を開け、ヨアヒムと向かい合ったレオはピシリと固まった。
 下町デートだというのに、彼の格好は結婚式以来の正装であった。当然のように高級ブランドで固められたコーデに、レオの瞳と同色のカフスボタン。

「おい! パーティに行くなら言え! 違う服を着てくる」
「下町に行くよ? 美味しいパン屋ができたらしいんだ」
「パン屋にその格好で!?」
「何かおかしい? こういう服って何着もあるし、レオには一番格好いい僕を見てパンを食べてもらいたいから」

 デートへの気合の入れ方が変な方向に捻じ曲がっている。

 天才肌のヨアヒムにとって世界は狭かった。家族とレオ、その他大勢で構成された地で、その場に合った服装だとかをいちいち考えるのは面倒だ。人に合わせることにも人に合わされることにも慣れていない彼が到達した結論は、取り敢えず良い服を着ていれば失礼には当たらない、ということである。
 出かける時は正装、更に今日は想い人とのデートなのだから、当然一番良い服を選ぶ。

「折角着飾ってくれて悪いけど、早く着替えてきてくれ。もっとラフな格好に…家で着ているようなものでいい…」
「んん、そう? レオがそうしてほしいなら…」

 素直である。
 レオは早くも頭痛がしてきていた。

 ヨアヒムは頭の回転も早く、大体のことが人より上手くできるし、努力までする。ちょっと独占欲が強いところがあるけど金と能力のある、完璧に近い男だと思っていた。
 ただ、彼は大衆と合わせることに関してはまったくの素人。
 天賦の才に甘やかされ、個で生きることに慣れてしまっている。

 もしかするとこの下町デート、一番想定外を引き起こしそうなのはヨアヒムかもしれない。
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