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率直に言って、レオの予想は的中した。
ヨアヒムの短所は下町において思う存分発揮されたのである。
救いがあるとすれば、彼自身は非常に素直で先輩の言うことをよく聞くことだろうか。
下町まで馬車で来た二人は、早速ヨアヒムが調べた美味しいと評判のパン屋に向かった。活気に溢れ、皆楽しそうに働いている。レオが元々いた領地でも今頃こうなっていると良い。ヨアヒム自身も領主な上矢鱈ガタイが良いので目立つし、レオもいくら下町風の服を着ても美貌を隠すことができない。
チラチラと好奇の視線に晒されるのは慣れているが、隣にヨアヒムがいるのでいつもの二倍は浴びた気分である。
パン屋の前は昼時というのもあり、行列ができていて繁盛していた。
「りょっ領主様!?」
パン屋の店員は勿論、客人たちもヨアヒムとレオが近づくとざわめき合う。
「ああ、この店が美味いと聞いたもので。パンはまだあるだろうか?」
「は、はい、今日は多めに焼きましたもので……」
行列の奥から店主が揉み手で現れた。突如として現れた領主に緊張するのもわかる。ヨアヒムはそんなことしないだろうが、領主がひとつ命じれば、この店は取り潰しになるかもしれないからだ。
「今日は新婚の夫を連れていてな、ようやく取り付けた初デートなんだ。彼が僕に惚れてくれるほど美味しいパンを買いたい」
一瞬の間があり、大勢の客達の目の色がいっせいに変わった。領主による不定期な視察かと思ったら、急に惚気られたのだから当たり前だ。ある者はニヤニヤし、ある者は口笛を吹く。冷やかすというより、祝福と応援の込められた生暖かい眼差し。
レオは今すぐここから逃げ出したくなった。
何故この後輩は、大衆の面前でこうも堂々とデートだなんて話すんだろう。他人を気にしない故なのだろうが、これじゃ公開告白されたようなものだ。
「領主様、頑張ってください!」
「応援してますよ!」
「すごく別嬪な方ですが領主様も男前です! 勝ちの目はあります!」
「ああ、ありがとう。ずっと片想いしていた人なんだ。愛の伴わない結婚理由だったが、僕は彼を愛しているし、きっと幸せにするよ」
ちょっと不敬気味でさえある客達に丁寧に返答するヨアヒム。
というかどんどん状況が悪化している。
そういう理由ならお先にどうぞ、と行列の人々が気前よく譲ってくれた為、パンはすぐに購入できた。噂に違わず美味しそうなバターロールだ。
「景色の良い公園がある。そこで食べよう。……どうかしたか? 顔が赤いぞ」
ヨアヒムが紙袋を満足気に抱えている。
「頼むから、公園では新婚だとかデートだとか触れ回らないでくれ」
「? 美味しいパンのおすすめを知りたかったので現状を伝えただけなのだが…レオが望むならそうするよ」
悪気はないために怒るに怒れない。
少しだけ嬉しかった自分もいたために、それ以上は言えなかった。
ヨアヒムの短所は下町において思う存分発揮されたのである。
救いがあるとすれば、彼自身は非常に素直で先輩の言うことをよく聞くことだろうか。
下町まで馬車で来た二人は、早速ヨアヒムが調べた美味しいと評判のパン屋に向かった。活気に溢れ、皆楽しそうに働いている。レオが元々いた領地でも今頃こうなっていると良い。ヨアヒム自身も領主な上矢鱈ガタイが良いので目立つし、レオもいくら下町風の服を着ても美貌を隠すことができない。
チラチラと好奇の視線に晒されるのは慣れているが、隣にヨアヒムがいるのでいつもの二倍は浴びた気分である。
パン屋の前は昼時というのもあり、行列ができていて繁盛していた。
「りょっ領主様!?」
パン屋の店員は勿論、客人たちもヨアヒムとレオが近づくとざわめき合う。
「ああ、この店が美味いと聞いたもので。パンはまだあるだろうか?」
「は、はい、今日は多めに焼きましたもので……」
行列の奥から店主が揉み手で現れた。突如として現れた領主に緊張するのもわかる。ヨアヒムはそんなことしないだろうが、領主がひとつ命じれば、この店は取り潰しになるかもしれないからだ。
「今日は新婚の夫を連れていてな、ようやく取り付けた初デートなんだ。彼が僕に惚れてくれるほど美味しいパンを買いたい」
一瞬の間があり、大勢の客達の目の色がいっせいに変わった。領主による不定期な視察かと思ったら、急に惚気られたのだから当たり前だ。ある者はニヤニヤし、ある者は口笛を吹く。冷やかすというより、祝福と応援の込められた生暖かい眼差し。
レオは今すぐここから逃げ出したくなった。
何故この後輩は、大衆の面前でこうも堂々とデートだなんて話すんだろう。他人を気にしない故なのだろうが、これじゃ公開告白されたようなものだ。
「領主様、頑張ってください!」
「応援してますよ!」
「すごく別嬪な方ですが領主様も男前です! 勝ちの目はあります!」
「ああ、ありがとう。ずっと片想いしていた人なんだ。愛の伴わない結婚理由だったが、僕は彼を愛しているし、きっと幸せにするよ」
ちょっと不敬気味でさえある客達に丁寧に返答するヨアヒム。
というかどんどん状況が悪化している。
そういう理由ならお先にどうぞ、と行列の人々が気前よく譲ってくれた為、パンはすぐに購入できた。噂に違わず美味しそうなバターロールだ。
「景色の良い公園がある。そこで食べよう。……どうかしたか? 顔が赤いぞ」
ヨアヒムが紙袋を満足気に抱えている。
「頼むから、公園では新婚だとかデートだとか触れ回らないでくれ」
「? 美味しいパンのおすすめを知りたかったので現状を伝えただけなのだが…レオが望むならそうするよ」
悪気はないために怒るに怒れない。
少しだけ嬉しかった自分もいたために、それ以上は言えなかった。
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