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一人で住むには大きいこの屋敷で、レオはグラウと共同生活を始めた。
覚悟していた衛兵は来なかったので、伯父は通報を躊躇ったらしい。
「狩りの技術がこんなところで活きるとはな」
屋敷の周りは基本的に野山なので食べ物には事欠かない。動物も食べられる植物も沢山ある。どうしても足りない物は伯父の言っていた隣町に降り、骨董屋を避けて買い物をした。
そうして数日が経ったある日。
「レオ様、お久しぶりです。エーリヒでございます」
機嫌良さげなエーリヒが尋ねてきた。
「エーリヒ!」
「そう大きな声を出さないでください。これでも急いで来たので疲れているんですよ」
レオにとって唯一の共犯者であるかつての執事だ。
目を白黒させ、彼を観察する。エーリヒはレオより少々年上で、レオの母が死ぬ前から仕えてくれていた優秀な男だ。金にがめついところと、ちゃっかりしているところは特に買っていた。
「少し…痩せたか?」
「葬儀の手続きで忙しかっただけです。折を見て辞職願を出し、これまでの給料と一緒にトンズラして来ました。レオ様が行方不明になったことで混乱状態だったのでやりやすかったですよ」
エーリヒには逃亡先候補を予め連絡しておいたとは言え、姉たちのどこかの家に行って騒ぎが収まるまで…レオが捕まるまで静かにしておくのが一番安全だったはずだ。
「貴方が囮になって私の逃げる時間を稼ごうとするのはわかっていました。でも、私に貴方を一人で逃亡させるなんてことできません」
びしり、とテーブルに置かれたとれたてホヤホヤの鳥を指差す。
「貴方はまともな料理も作れません。精々焼いて塩をかけるくらいでしょう。それに朝に弱いし、寝相が悪くていつだってベッドから落っこちる! 放っておけません」
「……ふは、確かに」
レオは今まで、捕まっても構わないと思って来た。
けれど。
「お前となら、地の果てまで逃げてもいいかもな」
きっと楽しい。
溢れた笑みに、エーリヒが硬直する。
「貴方は……はあ、もういいです。レオ様の人たらしは今に始まったことじゃありませんからね」
久しぶりに食べたエーリヒの料理を腹に詰め、硬いベッドに横になる。
エーリヒの逃亡エピソードを聞きながら、レオも伯父に会ったこと、脅したので衛兵が来るかもしれないことを話した。
「それじゃ明日の朝には此処をたちましょうか。王国さえ抜ければ衛兵も追って来ません」
エーリヒの提案は至極真っ当だ。
「……そうだな」
脳にちらつくのは、後輩の影。もしも亡命すれば、今度こそ本当に会えなくなるだろう。
忘れたくて、無理矢理目を閉じた。
久しぶりに見た嫌な夢を見た。
そのせいで、エーリヒが起こす前に朝っぱらから床に落っこちる羽目になる。
「痛い」
「相変わらず寝相が悪いですね、レオ様は」
「……最近はそんなことなかったんだ」
言い訳っぽくなってしまう。
「……最近。……レオ様、もしかして結婚生活中に悪い夢を見たりしなかったんですか」
「え? それは…確かにそうかも」
父という身近な脅威がなくなったこともあるし、ヨアヒムの側は安心できた。彼はレオを尊重してくれる。
「ヨアヒムの横で寝ると、ぐっすり眠れたからな」
ベッドが馬鹿みたいに大きいからかもしれないが。
「…………」
エーリヒがいつになく静かだった。
「エーリヒ?」
「レオ様、レオ様が出て行った後、ヨアヒム様が陛下とお会いになられたんです。ヨアヒム様は……レオ様の為に、何かするおつもりです」
覚悟していた衛兵は来なかったので、伯父は通報を躊躇ったらしい。
「狩りの技術がこんなところで活きるとはな」
屋敷の周りは基本的に野山なので食べ物には事欠かない。動物も食べられる植物も沢山ある。どうしても足りない物は伯父の言っていた隣町に降り、骨董屋を避けて買い物をした。
そうして数日が経ったある日。
「レオ様、お久しぶりです。エーリヒでございます」
機嫌良さげなエーリヒが尋ねてきた。
「エーリヒ!」
「そう大きな声を出さないでください。これでも急いで来たので疲れているんですよ」
レオにとって唯一の共犯者であるかつての執事だ。
目を白黒させ、彼を観察する。エーリヒはレオより少々年上で、レオの母が死ぬ前から仕えてくれていた優秀な男だ。金にがめついところと、ちゃっかりしているところは特に買っていた。
「少し…痩せたか?」
「葬儀の手続きで忙しかっただけです。折を見て辞職願を出し、これまでの給料と一緒にトンズラして来ました。レオ様が行方不明になったことで混乱状態だったのでやりやすかったですよ」
エーリヒには逃亡先候補を予め連絡しておいたとは言え、姉たちのどこかの家に行って騒ぎが収まるまで…レオが捕まるまで静かにしておくのが一番安全だったはずだ。
「貴方が囮になって私の逃げる時間を稼ごうとするのはわかっていました。でも、私に貴方を一人で逃亡させるなんてことできません」
びしり、とテーブルに置かれたとれたてホヤホヤの鳥を指差す。
「貴方はまともな料理も作れません。精々焼いて塩をかけるくらいでしょう。それに朝に弱いし、寝相が悪くていつだってベッドから落っこちる! 放っておけません」
「……ふは、確かに」
レオは今まで、捕まっても構わないと思って来た。
けれど。
「お前となら、地の果てまで逃げてもいいかもな」
きっと楽しい。
溢れた笑みに、エーリヒが硬直する。
「貴方は……はあ、もういいです。レオ様の人たらしは今に始まったことじゃありませんからね」
久しぶりに食べたエーリヒの料理を腹に詰め、硬いベッドに横になる。
エーリヒの逃亡エピソードを聞きながら、レオも伯父に会ったこと、脅したので衛兵が来るかもしれないことを話した。
「それじゃ明日の朝には此処をたちましょうか。王国さえ抜ければ衛兵も追って来ません」
エーリヒの提案は至極真っ当だ。
「……そうだな」
脳にちらつくのは、後輩の影。もしも亡命すれば、今度こそ本当に会えなくなるだろう。
忘れたくて、無理矢理目を閉じた。
久しぶりに見た嫌な夢を見た。
そのせいで、エーリヒが起こす前に朝っぱらから床に落っこちる羽目になる。
「痛い」
「相変わらず寝相が悪いですね、レオ様は」
「……最近はそんなことなかったんだ」
言い訳っぽくなってしまう。
「……最近。……レオ様、もしかして結婚生活中に悪い夢を見たりしなかったんですか」
「え? それは…確かにそうかも」
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「ヨアヒムの横で寝ると、ぐっすり眠れたからな」
ベッドが馬鹿みたいに大きいからかもしれないが。
「…………」
エーリヒがいつになく静かだった。
「エーリヒ?」
「レオ様、レオ様が出て行った後、ヨアヒム様が陛下とお会いになられたんです。ヨアヒム様は……レオ様の為に、何かするおつもりです」
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