黒き深淵の彼方で

阿院修太郎

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復讐の契約

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プロローグ

漆黒の闇が全てを包み込む世界で、彼女は目を覚ました。冷たい石の床、腐臭の漂う空気、そして遠くから聞こえる、かすかな囁き声。見覚えのない場所で、自分の名前すら思い出せない。だが、その胸に渦巻く不安は確かなものだった。

「ここは……どこ……?」

震える声で呟くと、突然、頭の中に鋭い痛みが走る。断片的な記憶がフラッシュバックのように蘇る。目の前に広がる、血に染まった大地、倒れ伏す無数の死体。そして、笑う男の顔――彼女の全てを奪った、残忍で冷酷な殺人鬼の顔。

「思い出したか?」

突然、闇の中から低い声が響く。影の中から姿を現したのは、黒衣に身を包んだ男だった。目の前の男は、かつて彼女が知っていた人物とは異なり、その瞳には狂気が宿っていた。

「お前が、すべての元凶だ……!」

彼女は咄嗟に男に飛びかかろうとするが、その瞬間、身体が鉛のように重くなり、動けなくなる。彼女の周りに黒い紋様が浮かび上がり、足元から冷たい触手のようなものが絡みついていた。

「無駄だ、お前に逃げ場はない」

男は不敵に笑う。彼の背後には、巨大な黒い門がゆっくりと開かれていく。門の向こう側には、底知れぬ深淵が広がっており、その奥からは不気味な叫び声が聞こえてくる。

「さあ、選ぶがいい。闇の中に消えるか、それとも、私の手駒となるか」

彼女は必死に抗おうとするが、身体は既に限界を超えていた。視界が徐々に暗くなり、意識が遠のいていく。その瞬間、彼女の耳元で囁き声が聞こえた。

「――復讐を果たしたければ、闇に身を委ねよ」

その声は、不思議と温かみを帯びており、彼女の心に僅かながらの希望を灯した。迷うことなく、彼女は心の中で叫んだ。

「……受け入れる」

その瞬間、彼女の身体を縛る触手が解け、黒い門から放たれた光が彼女を包み込んだ。彼女の瞳に、新たな決意の炎が宿る。

「私は、必ずお前を――いや、全ての元凶を破壊してやる」

  真夜中の静寂の中、彼女は再び目を開けた。
今度は、どこか見覚えのある場所に立っていた。灰色の空の下、廃墟と化した街並みが広がり、所々からは黒い煙が立ち上っている。
かつては平和だったこの街も、今や戦火の跡が生々しく残っていた。

「...ここは、私の故郷?」

かすかに覚えている。ここは彼女が幼い頃を過ごした街だ。しかし、今はその面影すらない。荒れ果てた街を歩きながら、彼女の心には様々な感情が渦巻いていた。怒り、悲しみ、そして何よりも強い復讐心。

彼女の右手には、奇妙な章が浮かび上がっていた。これは彼女があの闇の契約を受け入れた証一一新たな力を手に入れたことを示すものだった。

「この力で......必ず、復讐を果たしてやる」

決意を固めた彼女は、廃墟の街を進んでいく。そこに現れたのは、一人の少年だった。彼はまだ幼さの残る顔で、彼女を見つめていた。だが、その瞳には恐怖が宿っていた。

「お、お姉ちゃん......?」

少年は、かすれた声で彼女を呼んだ。その声を聞いた瞬間、彼女の心は激しく揺れ動いた。目の前にいるのは、確かに彼女の弟だった。しかし、彼の姿はどこかおかしい。
服はボロボロで、体には無数の傷が刻まれている。

「どうして......こんな姿に......?」

彼女は、震える手で弟に触れようとした。しかし、その瞬間、弟の体が崩れ落ち、血の海の中に沈んでいった。

「嘘でしょ......?」

彼女の足元に広がる赤い液体が、彼女の意識を揺るがす。弟の姿は、彼女がかつて知っていたものとはかけ離れていた。そして、その背後には、黒い影がじっと彼女を見つめていた。

「これは.....現実じゃない.......!」

彼女は必死に目を閉じ、冷静になろうとする。しかし、目を開けた時には、既に弟の姿は消え、彼女の前には無数の影が蠢いていた。彼女を取り囲むように現れたそれらは、黒い霧のように形を変えながら、徐々に彼女に近づいてくる。

「これは幻だ.....落ち着け、私は......」

だが、影たちは容赦なく彼女に襲いかかってきた。彼女は咄嗟に手を振り上げ、力を解放する。黒い炎が彼女の周りに爆発し、影たちは一瞬で焼き尽くされた。

「......私の力が.....」

彼女は、自分の手に宿る新たな力を感じ取った。しかし、その力は同時に彼女を深淵へと引きずり込む危険なものであることも理解していた。

「これが、契約の代償.....」

彼女は深く息をつき、立ち上がった。もう一度、弟の姿が目に浮かぶ。その幻影が彼女に問いかけるように見つめていた。

「私は......決して屈しない」

その言葉と共に、彼女は再び歩みを進めた。この先に待ち受けるものが何であれ、彼女はもう後戻りはできない。

「全てを破壊し、そして......取り戻す」

深い闇の中で、彼女の決意が揺らぐことはなかった。復讐の旅は、今始まったばかりだ。
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