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11 ラウルとエラ・シュリク
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高名な錬金術師、エラ・シュリクの家はとてもボロボロだった。
周囲の家は小ぎれいなので、余計ぼろさが際立っている。
「ボロボロでしょう?」
「そうだね」
「錬金術って儲からないみたい」
「へー。意外かも」
魔皇国では、錬金術師は薬師として生計を立てている。
魔皇国は、魔法技術が他国と比べてはるかに進んでいる。
そんな魔皇国でも治癒を魔法では行えないために錬金術師には需要があるのだ。
「ガローネの人たちは、怪我したり病気になったときどうするの?」
「ええっと……」
「神の奇跡?」
「神の奇跡は扱える人が少なすぎるから……」
高名な聖職者が扱う神の奇跡による回復は絶大な威力だ。
神に愛されし聖者による奇跡ならば死んでいさえいなければ助かるとすら言われている。
だが、奇跡を授かる聖職者は本当に少ない。
そのうえ、奇跡を行使する際の消耗が激しすぎるのだ。
奇跡を扱える聖職者でも数日に一度行使できるかどうかである。
「ガローネでもそうなんだね……」
奇跡を扱える聖職者が沢山いれば、みんな助かる。
だがそうはいかない。
だからこそ、錬金術師が必要なのだ。
ちなみに魔皇国は聖教会と仲が悪いので、奇跡を扱える聖職者はいなかったりする。
「でも、それなら、もっと家が立派でもおかしくないと思うけど……」
「それにもいろいろあってね……」
イルファが説明を開始しようとしたとき、エラの家から声がした。
「いつまで家の前で無駄話をしておるのじゃ!」
「あ、ごめんなさい。聞こえてたかしら?」
「聞こえとるわ! 用があるならさっさと入ってこぬか!」
「はーい」
家がぼろいので、隙間風とともに音も届くのだろう。
イルファはニコッと笑って、ラウルを見る。
「怒られちゃった。入ろうっか」
「うん!」
「きゅる!」
ラウルとケロはイルファと一緒にエラの家の中へと入った。
家の中には、メガネをかけた二十代半ばに見える美女がいた。
服装は粗末で、ところどころ穴が開いている。
だが、黒い髪の毛は腰の長さまである。サラサラで綺麗だ。
髪の毛のおかげか、服がボロボロでも清潔感がある。
「イルファよ。持ってきてくれたか?」
「はい。エラさま。これよ」
「すまぬな。助かるのじゃ」
「いえいえ。いつでも頼ってくれていいわよ」
そして、エラはラウルと肩の上のケロを見る。
「で、そなたは何者じゃ?」
「はい! ラウルと言います!」
「どこから来たのじゃ?」
「えっと、魔法皇国から」
「えぇっ!」
魔法皇国と聞いて、イルファが興奮し始める。
「ラウルくんって、魔法皇国出身だったの?」
「そうだよ。魔法皇国を知ってるの?」
「もちろん! ものすごく強い魔導師が沢山いるのよね?」
「うん。でも僕は魔法の才能があんまりなくて」
「……そうだったのね」
魔法の盛んな魔法皇国で魔法が苦手と言うのは大変なのだろう。
そう考えて、イルファは少し同情したようだった。
一方、エラは腕を組んでラウルをじっと見た。
「随分と遠いところからやって来たのじゃな。で、ラウルとやら。何か用か?」
「錬金術の弟子にしてもらうために来ました!」
「弟子じゃと?」
エラは眉毛をピクリと動かした。
イルファもまさか弟子入り希望だと思わなかったのか驚いている。
「はい。アンドレスさんに錬金術のいい師匠を紹介してくれと言って……」
「アンドレスじゃと? どのアンドレスじゃ?」
「えぇっ?」
怪訝な顔をするエラに対して、イルファが驚いていた。
エラはそんなイルファの顔をびくりとして見つめる。
アンドレスとはラウルの友達の名前だ。
世間的には剣聖アンドレス・ジェイコブと言う名で知られている。
そう、五歳の時にラウルに敗れた例の剣聖のことである。
「はい! これがアンドレスさんに書いてもらった紹介状です」
ラウルは笑顔で元気に紹介状を差し出す。
エラは紹介状を受け取ると、じっと見つめる。
それからラウルの顔をちらりと見て、再び紹介状を見つめて、封を開いた。
紹介状を読みながら、エラが言う。
「確かに剣聖アンドレスの字じゃ。しかも弟子にしてやれと書いておる」
「はい! 弟子にしてください」
「ラウルとやら。アンドレスとはどういう関係なのじゃ?」
「お友達です」
「友達ねぇ」
疑いの目でエラはラウルを見つめている。
一方、イルファは少し頬を紅潮させながら興奮気味に言う。
「ラウルくんって、お爺様とお友達なの?」
「お爺様?」
「あたしはアンドレスお爺様の孫なの」
「そうだったんだ! 凄い奇遇だね」
「お爺様はお元気にしてらしたかしら?」
「僕が最後にアンドレスさんに会ったのは一年前だけど、元気にしてたよ」
それを聞いて、イルファは少し安心したようだった。
「そうだったのね。それならよかったわ」
「アンドレスさんはこの街に帰ってきてないの?」
「そうなの。ガレーナの街を旅立ってから三年ぐらい帰ってきてないけど……」
「そうなんだ、アンドレスさんらしいや」
「そうね、お爺様らしいわね」
そういって、ラウルとイルファは互いに顔を見合わせて笑った。
周囲の家は小ぎれいなので、余計ぼろさが際立っている。
「ボロボロでしょう?」
「そうだね」
「錬金術って儲からないみたい」
「へー。意外かも」
魔皇国では、錬金術師は薬師として生計を立てている。
魔皇国は、魔法技術が他国と比べてはるかに進んでいる。
そんな魔皇国でも治癒を魔法では行えないために錬金術師には需要があるのだ。
「ガローネの人たちは、怪我したり病気になったときどうするの?」
「ええっと……」
「神の奇跡?」
「神の奇跡は扱える人が少なすぎるから……」
高名な聖職者が扱う神の奇跡による回復は絶大な威力だ。
神に愛されし聖者による奇跡ならば死んでいさえいなければ助かるとすら言われている。
だが、奇跡を授かる聖職者は本当に少ない。
そのうえ、奇跡を行使する際の消耗が激しすぎるのだ。
奇跡を扱える聖職者でも数日に一度行使できるかどうかである。
「ガローネでもそうなんだね……」
奇跡を扱える聖職者が沢山いれば、みんな助かる。
だがそうはいかない。
だからこそ、錬金術師が必要なのだ。
ちなみに魔皇国は聖教会と仲が悪いので、奇跡を扱える聖職者はいなかったりする。
「でも、それなら、もっと家が立派でもおかしくないと思うけど……」
「それにもいろいろあってね……」
イルファが説明を開始しようとしたとき、エラの家から声がした。
「いつまで家の前で無駄話をしておるのじゃ!」
「あ、ごめんなさい。聞こえてたかしら?」
「聞こえとるわ! 用があるならさっさと入ってこぬか!」
「はーい」
家がぼろいので、隙間風とともに音も届くのだろう。
イルファはニコッと笑って、ラウルを見る。
「怒られちゃった。入ろうっか」
「うん!」
「きゅる!」
ラウルとケロはイルファと一緒にエラの家の中へと入った。
家の中には、メガネをかけた二十代半ばに見える美女がいた。
服装は粗末で、ところどころ穴が開いている。
だが、黒い髪の毛は腰の長さまである。サラサラで綺麗だ。
髪の毛のおかげか、服がボロボロでも清潔感がある。
「イルファよ。持ってきてくれたか?」
「はい。エラさま。これよ」
「すまぬな。助かるのじゃ」
「いえいえ。いつでも頼ってくれていいわよ」
そして、エラはラウルと肩の上のケロを見る。
「で、そなたは何者じゃ?」
「はい! ラウルと言います!」
「どこから来たのじゃ?」
「えっと、魔法皇国から」
「えぇっ!」
魔法皇国と聞いて、イルファが興奮し始める。
「ラウルくんって、魔法皇国出身だったの?」
「そうだよ。魔法皇国を知ってるの?」
「もちろん! ものすごく強い魔導師が沢山いるのよね?」
「うん。でも僕は魔法の才能があんまりなくて」
「……そうだったのね」
魔法の盛んな魔法皇国で魔法が苦手と言うのは大変なのだろう。
そう考えて、イルファは少し同情したようだった。
一方、エラは腕を組んでラウルをじっと見た。
「随分と遠いところからやって来たのじゃな。で、ラウルとやら。何か用か?」
「錬金術の弟子にしてもらうために来ました!」
「弟子じゃと?」
エラは眉毛をピクリと動かした。
イルファもまさか弟子入り希望だと思わなかったのか驚いている。
「はい。アンドレスさんに錬金術のいい師匠を紹介してくれと言って……」
「アンドレスじゃと? どのアンドレスじゃ?」
「えぇっ?」
怪訝な顔をするエラに対して、イルファが驚いていた。
エラはそんなイルファの顔をびくりとして見つめる。
アンドレスとはラウルの友達の名前だ。
世間的には剣聖アンドレス・ジェイコブと言う名で知られている。
そう、五歳の時にラウルに敗れた例の剣聖のことである。
「はい! これがアンドレスさんに書いてもらった紹介状です」
ラウルは笑顔で元気に紹介状を差し出す。
エラは紹介状を受け取ると、じっと見つめる。
それからラウルの顔をちらりと見て、再び紹介状を見つめて、封を開いた。
紹介状を読みながら、エラが言う。
「確かに剣聖アンドレスの字じゃ。しかも弟子にしてやれと書いておる」
「はい! 弟子にしてください」
「ラウルとやら。アンドレスとはどういう関係なのじゃ?」
「お友達です」
「友達ねぇ」
疑いの目でエラはラウルを見つめている。
一方、イルファは少し頬を紅潮させながら興奮気味に言う。
「ラウルくんって、お爺様とお友達なの?」
「お爺様?」
「あたしはアンドレスお爺様の孫なの」
「そうだったんだ! 凄い奇遇だね」
「お爺様はお元気にしてらしたかしら?」
「僕が最後にアンドレスさんに会ったのは一年前だけど、元気にしてたよ」
それを聞いて、イルファは少し安心したようだった。
「そうだったのね。それならよかったわ」
「アンドレスさんはこの街に帰ってきてないの?」
「そうなの。ガレーナの街を旅立ってから三年ぐらい帰ってきてないけど……」
「そうなんだ、アンドレスさんらしいや」
「そうね、お爺様らしいわね」
そういって、ラウルとイルファは互いに顔を見合わせて笑った。
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