【プロトタイプ】魔皇帝の息子。無自覚に魔導と錬金を極めて平和に無双する。【旧題 魔法の国の皇子は魔導師ではなく錬金術師を目指すようです。

えぞぎんぎつね

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15 エラの心配

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 急に弟子入りを認められてラウルは驚いた。

「嬉しいけど、薬草を採集してきてないよ? いいの?」
「ああ」
「弟子にしてくれてありがとう! 師匠!」
「だが、普通のことしか教えられるのじゃが、本当に構わぬかや?」
「もちろん!」

 弟子入りが決まった後、ラウルはエラと一緒に錬金術師ギルドに登録しに行った。
 それからエラの工房の近くにボロ長屋の一室を借りる。
 ちなみにラウルの部屋の隣はイルファの部屋だ。
 手続きは全部エラが進めてくれたのだった。


 部屋を借りた後は みんなでエラの工房に集まる。

 そこでラウルは元気に尋ねた。
「なにか仕事ないかな!」
「さっそく弟子の仕事をしたいのかや?」
「そうそう」
「そうじゃなぁ。普通の雑用しかないのじゃが……」
「もちろん雑用でもいいよ! 弟子だからね!」
「ふむ。素材集めをお願いしようかのう」

 そしてエラは必要な素材のリストを紙に書いていく。
 書き終わったそれをラウルに手渡した。

「いっぱいあるね!」
「別に急がなくてもよい。それにすべてを集めようとしなくともよい」
「全部集めなくていいの?」
「あったら嬉しい素材を全て書いたものじゃからな」
「ふむふむ。でもあったら助かるんでしょう?」
「それはそうじゃ。だが、到底集めるのが難しい物もあるゆえな」
「そんなに難しい素材もあるんだ」
「難度の高い物は手に入れずともよい。それは情報を仕入れるだけでも助かるのじゃ」

 それからエラは工房の説明に移った。
「工房にある器具などは好きに使ってよい。わからないことがあれば聞くがよい」
「はい!」
「ただし、素材に関してはわらわが使うのじゃ。自分で使いたい分は自分で集めるがよい」
「わかりました!」

 ラウルは素直に返事をする。
 エラは街の薬師として、依頼をうけて薬を製作している。
 その仕事には、当然期日や必要数があるのだ。

 いまエラの工房にある素材は、その仕事に必要な素材である。
 勝手にラウルが使ったら困ってしまう。

 そんなことをエラは改めて説明した。

「素材を集めさせておきながら、素材を使うなと言うのは心苦しいのじゃがな」
「弟子だし、当然だよ!」
「すまぬな」

 それから、ラウルとイルファはエラの作った夜ご飯をごちそうになった。
 食事の後、ラウルはケロと一緒に帰宅する。


 イルファはラウルとは一緒に帰らず工房に残った。
 そんなイルファにエラが言う。

「正直、わらわよりラウルの方が錬金術の腕は上じゃ」
「そうなの。すごいわね」
「うむ。それも少し上どころではない。わらわが弟子入りすべきぐらいじゃ」

 エラが弟子にしたのはラウルに錬金術師としての常識がなさ過ぎたからだ。
 瓶詰の仕方。薬の値付け方法。
 素材の買い取りや販売の相場。患者の優先度の判断法。

「わらわが、教えられる常識など、ラウルはすぐに覚えるじゃろう」
「でも患者の診断法とか、教えてもなかなかできないんじゃないかしら」
 錬金術の技術の中には、座学の知識ではどうにもならないものもある。
 特に患者の診断には熟練が必要だ。

 だが、エラは首を振る。

「ラウルの薬は診断法など、どうでもよいぐらい万能じゃ」

 ラウルのキュアポーションを使えば、ほとんどの病気は治るだろう。
 そうエラは判断した。
 少なくとも、エラが作れる薬で治る病気は全て治せてしまう。

 診断などせず、とりあえずラウルのキュアポーションを投与する。
 それだけでエラが診断して適した薬を投与するよりも、よい治療結果が得られるだろう。
 そんなことをエラは正直にイルファに告げた。

「それほどなのね……」
「うむ。だからこそ危険なのじゃ」
 エラは真剣な表情でそう言った。

「なぜ危険になるのかしら?」
「考えてみるがよい。ラウルの薬は神の奇跡クラスじゃ」
 エラはラウルの作ったキュアポーションを掲げながら言う。

「それほど?」
「ああ。聖教会も黙ってはおるまい。それに王宮もな」

 神の奇跡を独占している聖教会は面白く思わないだろう。
 そして、王侯貴族はラウルを抱えこもうとするに違いない。

「神の奇跡があるからこそ、聖教会には王侯貴族も逆らえないのじゃ」

 王侯貴族も人の子。当然病気にもなれば怪我もする。
 そのようなとき、聖教会の神の奇跡にすがりたい。
 だから、王侯貴族と言えど聖教会には頭が上がらない。

 ちなみに魔法皇国は聖教会にさほど敬意を払っていない。
 だから、聖教会から嫌われて神の奇跡を扱えるものを派遣してもらえないのだ。

「ラウルの錬金術は政治的な力関係を大きく動かしかねぬのじゃ」
「……そう聞くと恐ろしい気がしてきてたわ」
「ラウルを王侯貴族、聖教会の手から保護しなければなるまいと思うてな」

 そしてエラは遠い目をして言う。
「だから先代の弟子にしようと剣聖は考えたのやも知れぬ」

 先代のエラ・シュリクは二百歳を優に超えたドワーフだった。
 正確な年齢は、弟子である当代のエラも知らない。

 先代が錬金術師の世界に入ったのは二百年ほど前だ。
 錬金術ギルドの最古参。重鎮だった。
 王侯貴族や聖教会にも、コネを持っている。

「危ういラウルを保護するならば、先代は適役といえるのじゃ」
 そういって、エラはため息をついた。
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