底無しポーターは端倪すべからざる

さいわ りゅう

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第五十一話 エレメンタルドラゴンさん

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「あちら、ノスティア大森林のエレメンタルドラゴンさんです」

 僕は崖の上に鎮座する風竜をベルハイト達に紹介した。

「ご近所さんみたいなテンションで紹介するのね……」

 ローガンがまた何か言っているが、その間にエレメンタルドラゴンはバサリと翼を広げ、風と土埃を舞い上げながら僕達の前に下り立った。

『あれから何年か経つというのに相変わらず小さいな、小娘。ちゃんと食べているのか?』

「それなりに食べてますよ」

 それなりどころか、周囲に引かれるくらい食べることもある。
 昔よりはだいぶ大きくなったと思うのだが、やはり平均より小さいし、ドラゴンから見れば大した差ではないだろう。

「もう親戚のおじさんじゃん……、ぅえ゙っ」

 小声で呟いたローガンの脇腹を、ベルハイトとユリウスが両側から小突いた。そんなやり取りは気にも留めず、エレメンタルドラゴンは首を傾げた。実は意外と可愛い仕草をするのだ。

『それで、こんな場所まで何をしに来た?もう随分前に、森を出たのだろう?』

「仕事でバライザへ行くところです。運び屋ポーターをしてまして」

『ぽーたー?とは何だ?』

 今度は反対側に首を傾げるエレメンタルドラゴン。

「物を運ぶ仕事です。今運んでるのは物じゃないですけど」

『物でないものを運んでいるのか。よく分からん仕事だな』

 まあ普通は物しか運ばないから、運び屋ポーターを僕基準で説明するのは、よろしくないかもしれない。

『それはそうと、二年ほど前にヘイムゼルの炎竜が人間に討たれたと風の噂に聞いたが、知っているか?』

 ヘイムゼルの火竜。
 その言葉に、一拍置いてベルハイトが「あ」と声を漏らし、僕は肩の位置で挙手した。

「それ、僕です」

 ヘイムゼル魔窟ダンジョンの深層に棲むエレメンタルドラゴン。火を司るその竜は、討伐依頼を受けて僕が討伐した。
 以前ベルハイトに「一番手強かった魔物は?」と訊かれ、その火竜を挙げた気がする。

「ねぇ、ベルくん。お嬢ちゃんがなんか怖いこと言ってるんだけど」

「あの人、無意識に常識から逸脱してるみたいなんです。というか、その呼び方やめろって言いましたよね?」

 常識から逸脱。あとで詳しく訊かねば。
 
 後ろでひそひそと話すベルハイト達とは、あとで常識のすり合わせするとして。

『……お前が奴を?』

「はい」

 琥珀の眼がじっと僕を見下ろす。
 もしかしてマズい状況だろうか。同じエレメンタルドラゴンを討ったとなれば、警戒されてもおかしくは――。

『……フ、ッハハハハハ!それはいい!』

 なかった。警戒されなかった。

『奴は昔から血の気が多くてな。それだけであれば放っておいても良いのだが、ヘイムゼルに立ち寄った風の精霊にまで手を出したのだ。だがわれが直々に縊り殺してやろうかと思っていた矢先、人間に討たれたというではないか。まさかお前の仕業だったとはな』

 エレメンタルドラゴンはくつくつと喉の奥で笑い、

『小娘。先程、バライザへ行くと言っていたな?王都へ行くのか?』

「はい。急用で」

 答えると、エレメンタルドラゴンはニヤリと笑った。

われは今、実に気分がいい。特別に王都まで送ってやろう』

「乗せてくれるんですか?」

『阿呆。なぜわれがお前らを乗せて飛ばねばならんのだ。魔法で送るに決まっているだろう』

 ここから王都までは更に三日はかかる。それが短縮されるなら、願ってもない。

「だそうです。良かったですね」

 そう言って後ろを振り返ったが、

「話についていけてません……」

 ベルハイトが疲れた顔で言い、他の三人も一様に頷いた。おかしいな、喜ぶと思ったのに。

 なにはともあれ、移動時間の短縮は非常に喜ばしいことだ。

「お礼にこれあげます」

 [無限保存庫ストレージ]からレッドモメントを取り出すと、エレメンタルドラゴンは細い目を僅かに丸くした。

『お前、時空魔法の適性があったのか?』

 使えるようになったのは森を出てからだったから、彼は知らないのだった。

「はい。使えるのは[無限保存庫ストレージ]だけですけど」

『ならば、[空間転移トランステラ]も使えるようにしてやろう』

 なんでもない事のように言った。

「そんなことできるんですか?」

『出来るから言っているのだ。われを誰だと思っている』

 フン、と得意げに鼻を鳴らすと、エレメンタルドラゴンはその鼻先を僕の額に近づけた。

 瞬間、体内の魔力がぶわりと沸騰するように沸く。その間隔が全身を駆け巡り、やがて吸収されるように収束した。

「っ、」

 ぐらりと視界が揺れ、傾きかけた身体を足に力を込めて立て直した。

「ルカさん?!」

「大丈夫、です」

 背中を支えようとしたベルハイトに応え、軽く息を吐く。目眩はほんの一瞬で治まった。

『ふむ。少し負荷がかかったか。だが元々、時空魔法に適性があるのだ。すぐに馴染むだろう』

 僕は胸に手を当て、自分の魔力に意識を集中した。
 根本的なものは変わりないが、やはりが違う。悪い意味ではなく、色が増したような、音が鮮明になったような明快な感覚だ。

『転移といっても、どこにでも移動できるわけではない。お前が行ったことがある場所、つまりえにしのある場所だ。魔力消費量は距離や移動させる質量によって変わるから、気をつけるのだぞ』

「はい。ありがとうございます」

 僕の力量しだいだが長距離移動ができたらすごく楽だな、なんて思っていると、ベルハイトが心配そうにこちらを見ていることに気づいた。

「スキルアップしました」

 ドヤッ、とベルハイトを見上げると、彼は複雑そうに苦笑いしながら、

「それはとても良い事ですけど…。[空間転移トランステラ]も神秘術アルカナですからね?」

 おっと……。それは知らなかった。

「でも、便利ですし」

「それはまあ……、便利ですけどね。ルカさんがいいなら、俺は構いませんよ」

 ロズ家の監視対象となる神秘術アルカナを二つ持つことになった僕を、おそらく心配してくれているのだろう。

「大丈夫ですよ」

 そう言うと、ベルハイトは目を瞬いたあと、小さく微笑んだ。

『その男はお前のつがいか?』

 唐突に、エレメンタルドラゴンが顎でベルハイトを示した。つがいとは、人間で言う伴侶のことか?

「違…」「ちがいますっ!!」

 僕が否定するより早く、ベルハイトが大声で否定した。……なぜだろう。今すごく、ベルハイトの向こう脛を蹴りたい。

 確かに僕とベルハイトはそういう関係ではないが、そんなに勢いよく言うことか?そんなに嫌なのか?

「……」

 向こう脛はあんまりかと思い、とりあえず彼の脇腹を無言で小突いた。

「あたっ。…え、なに?なんですか?」

 ベルハイトは小突かれた理由が分からないようで、おろおろしている。申し訳ないが僕も分からない。

 エレメンタルドラゴンはしばらく僕達をじっと見たあと、

『違うのか?お前達の間に強いえにしを感じるのだが』

「「えにし?」」

 僕とベルハイトは互いに顔を見合わせた。
 しだいに赤くなっていくベルハイトの顔を、僕はじっと見つめた。

 レッドモメントみたいだな……。

『……本当に違うのか?人間はよく分からんな』

 なぜかエレメンタルドラゴンが呆れたように溜め息をついた。
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