2 / 68
001:
しおりを挟む
祖母が亡くなり半年が経った。
あんなに元気に毎日庭いじりをしていた祖母が買い物に行く途中で心筋梗塞を起こして亡くなると誰が思うのか。
大きな病気もなく、むしろ200歳まで生きるのではないかとご近所さん達と言っていた程なのに。
だから悲しみよりもみんな驚きの方が強くて、でも皆んな残された私を心配して声をかけてくれて…。
私は5歳の時に母の再婚の邪魔だからという理由で祖父母宅に置いて行かれた。
その際は祖父も健全で、母の最悪な対応に激怒した祖父母は私を養子とし母と縁を切ったらしい。
私が10歳になった頃、事故に巻き込まれて祖父が亡くなった時に母は『絶縁されているから』と葬式にも来なかった。
祖母はその後一人で私を育ててくれた。
でもその祖母も私が高校に入り夏休みを迎える前に亡くなってしまったわけだけれど…。
祖父の葬式には来なかった母が祖母の葬式に再婚相手の連れ子を連れてやってきた時はご近所さんが対応してくれた。
葬式なのに黒とはいえテカテカした安物素材の派手なデザインの服を着てきた母は香典も何も持たずに『遺産を受け取りにきたの』とのたまった。
その言葉を鼻で笑い飛ばしたのはお隣のおばちゃんで、遺産は全て私に行くように法律のプロと税理士に任せている事を暴露したのは祖母が何十年も通っていた理容室のおじさんだった。
既に母が貰える分は縁を切る時に渡しているし、その際にちゃんと法的に有効な書類でもうこれ以上は望まないと署名もした筈なのに覚えていなかったらしい。
母は『実の娘なのよ!』と叫んでいたけれど、子供を捨てて再婚した時点で縁は切れていると周りに冷たく対応されて、最後はブチ切れて帰っていった。
連れ子は私が通う学校の同学年の子で、その後地味な嫌がらせが始まったけれど耐えられない事はない内容だったのでスルーしている。
どうやら私の事を“実の母親から遺産を全て奪ったヤバい奴”としたかったらしいけれど、私の身の上は私の住まう場所では結構有名な出来事だったので『あんた何言ってんの?』でほとんど相手にされず、逆にその子の方がヤバいという認定を受けて皆んなから距離を取られている。
彼女の周りに居る取り巻き達は彼女の見た目だけに騙されている頭が残念な奴らでまともな男子からは相手にされていない様子。
それでも自分は皆んなが競い合って奪うほど人気で愛されているんだと思い込めるから凄いと思う。
ただいろんな噂や嫌がらせをしてまでしてなんでこっちに突っかかってくるのかと一度問いかけてみたい。
気に入らないなら無視でいいじゃないかと思う。
現状私は祖母が残してくれた家に変わらず住み、時々バイトをしながら生活をしている。
生活費や学校にかかる費用は祖母達が残してくれた遺産で賄っているけれど、自分のお小遣いくらいは自分で稼ごうと近所のホームセンターでアルバイトをしているのだ。
多くは望まないので週に二度ほど。
物欲もあまりないのでそれでも貯金が地味に増えていく。
このまま平凡な日々を過ごすのだと思っていた。
祖父母が残してくれたあれこれを守りながら高校を卒業して何処かに就職して地味ながら平凡で無難に生きていくのだと。
『皆さま、今年もいよいよ終わりに近づき、新しい年がそこまでやってきております』
テレビから今年がもうすぐ終わるアナウンスが流れる。
祖母の特製ちゃんちゃんこを着てコタツに入りみかんを食べながら年を越す。
去年までは祖母の姿もあったのに、今は一人である。
少ししんみりとしつつも、それでもテレビに目を向ければ『1分を切りましたー!』という声が響いた。
手にスマホを持ち、カウントゼロでメッセージを送る準備をする。
少ない友人やお世話になっているご近所さんに送る喪中だけど今後もよろしくお願いしますメールは飾り映えの少ない、でも私からすれば結構頑張ったと思えるものだった。
カウントが30を切る。
宛先に不備はないかを確認する。
カウントが20を切る。
まだかまだかとスマホとテレビを往復してみる。
カウントが10秒を切り――――まず初めにコタツの上に乗っていたコップがカタカタと音を鳴らした。
気づいた時にはテレビの画面は暗くなり部屋の電気も消えていた。
大きな揺れは家具類を大きく揺らし、でも祖父がしっかりと耐震対策をしてくれていたから倒れる心配はなかった。
ご近所のあちこちから悲鳴が上がるけどまだ揺れが大きくて移動もできない。
必死にコタツの中に身を隠すことしかできなかった。
揺れがやっとおさまったところでコタツから出てみれば、外から『大丈夫かすずちゃん!!』とお隣のおじさんの声が聞こえた。
ふらつきながらも窓を開けて『大丈夫ですー!』と返事をすれば『また揺れるかもしれねー気をつけろ!』と言い残して他の近所に声をかけにいったようだ。
心臓が痛いくらい打ち鳴る中、そう言えば祖父母の位牌が…!と思い出し仏壇に向かう。
見てみれば位牌は倒れかけてはいたが2つが支え合うように傾いているだけで倒れておらず、こんな状態なのに二人らしいと笑ってしまう。
位牌を戻す前に倒れてしまった香炉を戻し溢れた灰を回収しておく。
また揺れて溢れてしまうのが嫌だったので今だけ袋の中に香炉ごと入れておく。
掃除が終わったところで位牌を戻し一息ついたところで再び揺れが始まった。
初めよりも大きくないけれど、揺れている時間は長かった。
その時庭先から『ガキッ!!』と凄い音が聞こえてくる。
我が家の庭は祖母が丹精込めて育てた草花があり、装飾やちょっとしたガーデンテーブルも置かれてお洒落なお庭となっている。
祖母が亡くなった後も見よう見まねで私が世話をしてなんとか維持できている感じだけど、その庭に何かがあったら祖母に顔向けできない。
「見に行こう…」
揺れが収まってきたところでふらつきながらも庭に出てみる。
椅子が倒れていたり箒が落ちていたり、小さな植木鉢も落ちて鉢が割れてしまっている。
早く他に移してあげなきゃと物置に向かえば途中で違和感を覚えた。
物置は家の裏側にある。
位置的に庭を越えた先だ。
いくつものアーチを置いてそこに薄ピンクの小ぶりなバラを這わせた祖母自慢のトンネルに違和感を覚えスマホのライトを当ててみれば、トンネルの中に見慣れない扉がついていた。
それはステンドグラスのようなデザインが施された綺麗な扉で、おしゃれな幾何学模様と青いバラの紋様がデザインされている。
あんなの夕方見た時になかったはず。
一体いつの間にあんなものが…?と思いつつ、そばに置いていたガーデニング用の大きな鋏を一応手に取りそのドアを確認しに行く。
材質はガラスと金属だった。
ノブ部分はクリスタルのような透明な物が付けられていてヒヤリとする。
ハサミは一度地面に置き、スマホのライトを強めにつけてドアノブをひねる。
まぁ開いたところで向こう側…物置が見えるだけなのになんでこんなに警戒してるんだと思う。
でも、何故かわからないけれど心が警戒マックス状態で気を許すことができなかった。
ドアをゆっくりと開けていく。
ゆっくりと、ゆっくりと――。
「え?なんで?えぇ…??」
開いていけばいくほど私の声は困惑に変わり、そして頭の中に声が響いた。
《これは神である我からの救いであり試練である》
神?救い??試練???
何言ってるんだ?が頭の中の2割を占めて、残りは目の前で開いた扉の先にある異様な状況による困惑だけだった。
扉を開いても向こう側には物置が見えるだけのはずだったのに、そこには何故かゴツゴツした岩肌の洞穴の姿があった――。
あんなに元気に毎日庭いじりをしていた祖母が買い物に行く途中で心筋梗塞を起こして亡くなると誰が思うのか。
大きな病気もなく、むしろ200歳まで生きるのではないかとご近所さん達と言っていた程なのに。
だから悲しみよりもみんな驚きの方が強くて、でも皆んな残された私を心配して声をかけてくれて…。
私は5歳の時に母の再婚の邪魔だからという理由で祖父母宅に置いて行かれた。
その際は祖父も健全で、母の最悪な対応に激怒した祖父母は私を養子とし母と縁を切ったらしい。
私が10歳になった頃、事故に巻き込まれて祖父が亡くなった時に母は『絶縁されているから』と葬式にも来なかった。
祖母はその後一人で私を育ててくれた。
でもその祖母も私が高校に入り夏休みを迎える前に亡くなってしまったわけだけれど…。
祖父の葬式には来なかった母が祖母の葬式に再婚相手の連れ子を連れてやってきた時はご近所さんが対応してくれた。
葬式なのに黒とはいえテカテカした安物素材の派手なデザインの服を着てきた母は香典も何も持たずに『遺産を受け取りにきたの』とのたまった。
その言葉を鼻で笑い飛ばしたのはお隣のおばちゃんで、遺産は全て私に行くように法律のプロと税理士に任せている事を暴露したのは祖母が何十年も通っていた理容室のおじさんだった。
既に母が貰える分は縁を切る時に渡しているし、その際にちゃんと法的に有効な書類でもうこれ以上は望まないと署名もした筈なのに覚えていなかったらしい。
母は『実の娘なのよ!』と叫んでいたけれど、子供を捨てて再婚した時点で縁は切れていると周りに冷たく対応されて、最後はブチ切れて帰っていった。
連れ子は私が通う学校の同学年の子で、その後地味な嫌がらせが始まったけれど耐えられない事はない内容だったのでスルーしている。
どうやら私の事を“実の母親から遺産を全て奪ったヤバい奴”としたかったらしいけれど、私の身の上は私の住まう場所では結構有名な出来事だったので『あんた何言ってんの?』でほとんど相手にされず、逆にその子の方がヤバいという認定を受けて皆んなから距離を取られている。
彼女の周りに居る取り巻き達は彼女の見た目だけに騙されている頭が残念な奴らでまともな男子からは相手にされていない様子。
それでも自分は皆んなが競い合って奪うほど人気で愛されているんだと思い込めるから凄いと思う。
ただいろんな噂や嫌がらせをしてまでしてなんでこっちに突っかかってくるのかと一度問いかけてみたい。
気に入らないなら無視でいいじゃないかと思う。
現状私は祖母が残してくれた家に変わらず住み、時々バイトをしながら生活をしている。
生活費や学校にかかる費用は祖母達が残してくれた遺産で賄っているけれど、自分のお小遣いくらいは自分で稼ごうと近所のホームセンターでアルバイトをしているのだ。
多くは望まないので週に二度ほど。
物欲もあまりないのでそれでも貯金が地味に増えていく。
このまま平凡な日々を過ごすのだと思っていた。
祖父母が残してくれたあれこれを守りながら高校を卒業して何処かに就職して地味ながら平凡で無難に生きていくのだと。
『皆さま、今年もいよいよ終わりに近づき、新しい年がそこまでやってきております』
テレビから今年がもうすぐ終わるアナウンスが流れる。
祖母の特製ちゃんちゃんこを着てコタツに入りみかんを食べながら年を越す。
去年までは祖母の姿もあったのに、今は一人である。
少ししんみりとしつつも、それでもテレビに目を向ければ『1分を切りましたー!』という声が響いた。
手にスマホを持ち、カウントゼロでメッセージを送る準備をする。
少ない友人やお世話になっているご近所さんに送る喪中だけど今後もよろしくお願いしますメールは飾り映えの少ない、でも私からすれば結構頑張ったと思えるものだった。
カウントが30を切る。
宛先に不備はないかを確認する。
カウントが20を切る。
まだかまだかとスマホとテレビを往復してみる。
カウントが10秒を切り――――まず初めにコタツの上に乗っていたコップがカタカタと音を鳴らした。
気づいた時にはテレビの画面は暗くなり部屋の電気も消えていた。
大きな揺れは家具類を大きく揺らし、でも祖父がしっかりと耐震対策をしてくれていたから倒れる心配はなかった。
ご近所のあちこちから悲鳴が上がるけどまだ揺れが大きくて移動もできない。
必死にコタツの中に身を隠すことしかできなかった。
揺れがやっとおさまったところでコタツから出てみれば、外から『大丈夫かすずちゃん!!』とお隣のおじさんの声が聞こえた。
ふらつきながらも窓を開けて『大丈夫ですー!』と返事をすれば『また揺れるかもしれねー気をつけろ!』と言い残して他の近所に声をかけにいったようだ。
心臓が痛いくらい打ち鳴る中、そう言えば祖父母の位牌が…!と思い出し仏壇に向かう。
見てみれば位牌は倒れかけてはいたが2つが支え合うように傾いているだけで倒れておらず、こんな状態なのに二人らしいと笑ってしまう。
位牌を戻す前に倒れてしまった香炉を戻し溢れた灰を回収しておく。
また揺れて溢れてしまうのが嫌だったので今だけ袋の中に香炉ごと入れておく。
掃除が終わったところで位牌を戻し一息ついたところで再び揺れが始まった。
初めよりも大きくないけれど、揺れている時間は長かった。
その時庭先から『ガキッ!!』と凄い音が聞こえてくる。
我が家の庭は祖母が丹精込めて育てた草花があり、装飾やちょっとしたガーデンテーブルも置かれてお洒落なお庭となっている。
祖母が亡くなった後も見よう見まねで私が世話をしてなんとか維持できている感じだけど、その庭に何かがあったら祖母に顔向けできない。
「見に行こう…」
揺れが収まってきたところでふらつきながらも庭に出てみる。
椅子が倒れていたり箒が落ちていたり、小さな植木鉢も落ちて鉢が割れてしまっている。
早く他に移してあげなきゃと物置に向かえば途中で違和感を覚えた。
物置は家の裏側にある。
位置的に庭を越えた先だ。
いくつものアーチを置いてそこに薄ピンクの小ぶりなバラを這わせた祖母自慢のトンネルに違和感を覚えスマホのライトを当ててみれば、トンネルの中に見慣れない扉がついていた。
それはステンドグラスのようなデザインが施された綺麗な扉で、おしゃれな幾何学模様と青いバラの紋様がデザインされている。
あんなの夕方見た時になかったはず。
一体いつの間にあんなものが…?と思いつつ、そばに置いていたガーデニング用の大きな鋏を一応手に取りそのドアを確認しに行く。
材質はガラスと金属だった。
ノブ部分はクリスタルのような透明な物が付けられていてヒヤリとする。
ハサミは一度地面に置き、スマホのライトを強めにつけてドアノブをひねる。
まぁ開いたところで向こう側…物置が見えるだけなのになんでこんなに警戒してるんだと思う。
でも、何故かわからないけれど心が警戒マックス状態で気を許すことができなかった。
ドアをゆっくりと開けていく。
ゆっくりと、ゆっくりと――。
「え?なんで?えぇ…??」
開いていけばいくほど私の声は困惑に変わり、そして頭の中に声が響いた。
《これは神である我からの救いであり試練である》
神?救い??試練???
何言ってるんだ?が頭の中の2割を占めて、残りは目の前で開いた扉の先にある異様な状況による困惑だけだった。
扉を開いても向こう側には物置が見えるだけのはずだったのに、そこには何故かゴツゴツした岩肌の洞穴の姿があった――。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
56
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる