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「ちょっとアタシについてきなさいよ!」
「お断りします」
朝一の時間に連れ子愛莉に絡まれた。
教室に行くまでは絡まれまいと気を抜いて【気配察知】と【隠密】を使ってなかったのが敗因か。
…今後は気を付けようと思う。
「な、ちょっと!」
愛莉は居ないものとするのが一番である。
「アタシが顔貸せって言ってんだから来なさいよ!」
背後でギャーギャー喚く愛莉にうんざりとしながらも無視をして教室に向かう。
愛莉が怒りに震えているのが気配でわかるけれど相手をしないといけない理由はないわけで。

「あんたのせいでパパ会社クビになりそうなのよ!!」
突然そんな言葉を叫んだ。
「それはあんたに対して色々と職場での権力を振りかざした結果でしょ?私全然関係ないし。むしろあんたの我儘が原因じゃん」
それでも冷静にそう突っ込めば愛莉の顔は真っ赤になる。
いつもの取り巻き連中はどこに行ったのか、今日は愛莉一人のようだ。
「アタシのせいじゃないわよ!パパは良かれと思って色々とやってくれただけだし!」
「探求者カードの偽装から始まってよくよく調べたらその地位を使って部下への圧力やらパワハラもちらほら…。魔物寄せはハメられたことだけど、それ以外でもダンジョン産の素材をこっそりお持ち帰りしてアンタへのお土産にしてたんでしょ?正直よくそこそこの役職に就けたねっていうレベルだよね」
寺門さんが愚痴っていた内容をすらすらと言えば周囲に居た生徒たちが『マジか…』という顔になる。
愛莉は顔を真っ赤にしつつも拳を強く握りプルプルしている。

「アンタの父親がどうにかなったのは本人とアンタのせいで私は無実無根。それでもまだ言いがかりをつけてくるなら…」
言いながら私は私の周囲に氷の弾丸を複数生み出す。
宙に静止したままギュルギュルと回る氷の弾丸をみて愛莉は赤かった顔色を青くする。
「――私も黙ってないからね?」
言った瞬間氷の弾丸が愛莉に向かい、ぶつかる瞬間砕けて弾けた。
「ひうっ!」
ぶつかると思った瞬間愛莉は短い悲鳴を上げてその場に尻餅をつく。
カタカタと小さく震える愛莉を見て、私は声をかける事もなく教室に向かう。

愛莉は震えながらも私に憎悪の目を向けていた。


「朝から大変だったねぇ、眞守さん」
「勘弁してほしいね…」
教室につくと藤森さんに労わられた。
藤森さんだけではなく他にも数人に『お疲れ~』と声をかけられた。
ダンジョンでの一件依頼、昔よりもクラスメイト達との距離が近くなったような気がする。
これ食べな~と飴玉をくれたり、これ食べな~と飴玉をくれたり、……なんか扱いが幼い子供なのが気になるけれど。
何のとりとめもない会話をしていればいつのまにかHRの時間になっていた。

「よし、今日もみんな揃ってるな?学校に関する連絡は今日はない。だが昨日ダンジョンでハっちゃけた馬鹿が病院送りになった。なまじ初期に得ていたスキルが良かったらしくて大した準備もせずにどんどん下に潜った結果らしい。幸いダンジョン内を回っていた自衛隊員に早期発見されて命の別状はないらしいが、効果の高いポーションを使わないと生活に支障をきたすレベルの後遺症が残るようだ」
朝から重い話が出た。
何人かが『マジかよ…』と先程とは違ったニュアンスの言葉を吐き、数人いる探求者資格を持ったクラスメイト達が俯いている。
皆ダンジョンにはもう挑戦済みで『やっぱり現実はゲームみたいに甘くないな』なんて言っていたメンバーである。
奇しくもあの異常湧きを経験していたからこそ、彼らはダンジョン攻略をゲームみたいだなんて言わずに真剣に慎重に行うようになったのだそうだ。

「プリントでも配られるが、今回の事でもう資格を取ってるやつもこれからのやつも親御さんともう一度話し合う必要があるかもしれない。探究者は完全に自己責任だ。先生としては一時の憧れだとか勢いで一生を不意に振るってほしくはないからなー」
「「「「はい!」」」
資格の有無関係なく生徒たちは皆真剣な顔で返事をしていた。
「あ、眞守、昼食ったら職員室に来てくれ」
「え?」
帰り際、なぜか私は先生に呼び出されてしまったのだけれど。

「何やったの眞守さん」
「やらかし決定…?本当に何にもやってないんだけどなぁ…」
隣の席の男子に言われて私は小首を傾げた。
「うちのパパ達の件じゃない?」
藤森さんが席までやってきて心配そうに言ってくる。
「え、藤森さんの親父さんになにかしたの?」
驚いた顔をしながら数人が集まってくる。
「いや~、こんな小娘にダンジョン攻略とかできんのか?ってすっごく小馬鹿にされたような言い方されたから…実際に現実を知らしめた」
「「「「それは…」」」」
皆があちゃーっという顔をしている。
「でもさ、正直うちのパパや兄貴、探究者の事を馬鹿にしてたしちょっと自分たちに実力があるからって天狗になってた感あるからそこら辺の長っ鼻へし折ってくれたことはママが感謝してたよ」
「なんでママさんがやらなかったのさ…」
「ママ、パパにはべた惚れだから…」
恥ずかしそうに言う藤森さん。
あの親父さんにねぇ…。
「お兄さんの方は?」
「あ、なんか彼女さんに『やっと自分の高慢な部分が分かった?』って言われた後に振られたらしいよ」
「「「えっ?!!」」」
衝撃的な言葉に私だけではなく他数人の驚きの声が上がる。
「彼女に対してもちょいちょいマウントとったり小馬鹿にする態度があったんだって~。で、眞守さんにがっつり分からされて今までの自分がやってきた非を謝ったらしいんだけど…」
言いながら藤森さんは目を逸らした。
「……彼女、今まで耐えてた分プッツンしちゃって、兄貴を鞄でボコボコにしながら今まで嫌だったことをぶちまけて『もう二度と会いに来ないで!』って…」
「私がきっかけに過ぎなかったんだね…」
そんなんだったら私きっかけじゃなくても終わってたんだな…と理解する。
話が丁度終わった時に英語の教師が教室に入ってきた。

「お前ら席に着け―」
「「「はーい」」」
「今日日ダンジョンダンジョンとお祭り騒ぎだが、ダンジョンで盛り上がるならば英語もちゃんと勉強しておくのが大事だ」
授業開始とともにそんな話が教師の口から出た。
「先生なんで?」
皆が思った疑問を一人の生徒が聞けば、教師はん?という顔をしながらあごひげを撫でる。
「だって世界中の人間が世界各国に出来たダンジョン目当てで来るようになってきただろ?ダンジョン内で他の国の連中が困ってたり、逆に自分たちが困ってたらどうやって意思疎通するんだ?」
その言葉にみんなが『あ』と声を出した。
「そういうことで、基本のおさらいから始めるぞ~。教科書11ページを開け~」

そういえばどこかの国のクランが日本のダンジョンに潜りに来たとかニュースでやっていたな…と思い出す。
海外との言葉の壁…。
どうやらあのスキルスクロールを使う時が来たようだと思いながら私は午前中の授業を真面目に受けていた。
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