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装備をしっかりと確認する。
「皆さん準備は?」
「大丈夫だよ」
「問題ありません」
「私もコタローもです」
「抜かりはないですよ」
皆も問題がないということなのでそのままダンジョンに向かう。
ダンジョンが出来てしまったのは噴水池の中心部で、今はダンジョンに入るための桟橋が設置されている。
ダンジョンへの扉は開いたままの状態でちょっとした一軒家ほどのサイズがある。
前にダンジョン見学で見た物よりも少しばかり大きいものだった。

扉の周り、池の周辺は壁で覆われており簡易的に設置されたプレハブ小屋に自衛隊員とダンジョン協会の職員が在中しているらしい。
「クラン月夜見の白尾さんと眞守さん、それに第三部隊の田淵さん横田さん三橋さんですね?照合完了、問題ないです。気をつけて行ってらっしゃいませ」
入場するには探求者カードが必要で、それを職員の方に見せると機械にピッとかざして終了だった。
「ああやって入場した時と退場した時にデータをすり合わせて行方不明者が居ないかを確認するんだ」
長期潜る時は日数を予め申請しておいてそれでも返ってこない場合は自衛隊が探しに行くらしい。
普通に入って戻ってこない場合は3日ほどで捜索が開始されるらしいけれど。
先生の場合、先生の家族が異変に早く気付いたことで捜索も早くされるだろうと言われた。
「海外ではもうダンジョン内で亡くなってる奴が居てね、どうやらダンジョン内で死ぬと遺体は残らないみたいなんだよ」
「よくあるダンジョン設定ですね」
「そうそう。残された武器や防具、それと探求者カードから身元を割り出すって言うのがセオリーになりそうなんだよ」
だからああやって帰ってきていない人がいないのかを確認するのかと思った。


「…蔓草が壁に這ってるんですね。あ、そこの花から微妙にしびれる粉が出てるんで近づかないでください」
「…まさか生えてる植物からそんなものが出てるなんて…」
私の言葉に皆が驚愕する。
「口元、スカーフとかで覆った方がいいかもしれませんね」
「我々は支給されているマスクがありますが…」
「あ、僕も一応個人で持ってるけど」
「私はまずそういうところを見破れますから近づきませんし大丈夫です。まぁ一応スカーフは巻いておきますか」
皆が口元を覆ったのを確認してから再び中を確認する。

このダンジョンはウチのように岩肌をくり抜いたような形状のダンジョンなのだがそこにプラスして木の根や蔓草がそこら中に這って垂れ下がっている状態だった。
まばらに生えている赤黒い花から微量のしびれ粉が出ていて、短時間ならば影響はでなさそうだけれど数時間居続けたら完璧に体がしびれて思うように動けなくなるだろうなという代物だった。

私はスマホを取り出し地図を確認する。
どうやらこの階層には罠も隠し部屋もなさそうで、ならば一直線に下の階に言っても良さそうだと判断する。
…というかこの花は罠扱いじゃないのかというところだけ驚きだったけれど。
「この階に先生の気配はありません。このまま下の階段に向かいます」
「わかった」
私の個のスマホのことも皆知っているので何も言わずに私に付いてくる。
出てくる虫の魔物は白尾さんとコタローが倒してくれる。
…コタローが張り切るのは分かる。見た目通りのやんちゃがしたいお年頃だから。
でもそんなコタローと同じように魔物を屠る白尾さんて…。
「僕は精神が子供なんじゃないよ?戦うのが好きなんだよ?」
なにか察したのかそんな事を言い始めたけれど私を含む皆は『ソウナンデスネー』と流すだけだった。

そのまま2階層、3階層…とただひたすら下へ行く階段を目指して進んでいき、5階層にたどり着く。
「眞守ちゃんが要ると本当に移動が便利だよね」
「魔法の地図のおかげですね」
セーフティエリアで一度休憩を挟めばそんな事を言われた。
「私が知り得た地図の情報は桜子さんが良いように使ってくれるはずですからねぇ…」
「お任せくださいって眼を光らせてたからねぇ…」
私のこの地図の力を聞いた時、桜子さんは不敵に笑っていた。
もしも我が家のダンジョンの攻略が終わったら、いくつか周り地図を作成してほしいとお願いされて私は思わず『はい』と言ってしまうほどに圧が凄かった。
やっぱりウチで最強なのは桜子さんだと思う。

「一応4階層までは他の探求者さんも居たようですけど、この階層には居ないようです」
「多分あの辺りで体に違和感を感じ始めるんだろうね」
言いながら白尾さんはサンドイッチにかぶりつく。
「インスタントのスープですけどどうぞー」
「ありがとうございます」
アウトドア用のコップに注いだオニオンスープの元に【生活魔法】で生み出したお湯を注ぎ渡す。
「生活魔法便利ですね…」
「魔術でもやろうと思えば出来るんでしょうけど加減が難しそうですよね…」
田淵さんと三橋さんがのほほんという。
横田さんはコタローに餌をあげてご満悦だ。
「ダンジョン内で温かいものが摂取できるありがたみだよね…。魔法の鞄様様だよ」
「我々は運良く魔法の鞄を得られましたが、まだ他の隊のメンバーは荷物をバックパックに積めて探索していますからね」
「余分に手に入ったら回してほしいって言われましたよね」
「ウチは頑張れば6人分手に入りそうですけどそれでも容量が中とかあったら奇跡なのに」
田淵さん達メンバーで魔法の鞄を持っているのは田淵さんと横田さん、それと居残り組の一人である。
ダンジョンに潜る際田淵さんが持つ中サイズの魔法の鞄を持って入るのだそうだ。
できれば小サイズでいいから全員分をというのが田淵さんの考えだったりする。
「他ではそんなすぐに手に入るかと言われる事も、眞守ちゃんのダンジョンだとできちゃうからやばい」
「下級神が色々といじってしまったせいですね~」
主にボス部屋を。
それまでの階層の魔物と釣り合わない魔物をボスとしておいた影響なのかボスのドロップするアイテムが結構良かったりするそうだ。
大抵はポーションやちょっとしたナイフくらいなのに、ここでは運がいいと魔法の鞄が出てくる事がある。
田淵さんに渡した中サイズと居残り組が持っている小サイズは私がレンタルという形で押し付けたものだけれど、横田さんが持っているものに関しては彼らが倒したボスからドロップされたものだし、白尾さんが持っているのは隠し部屋から出たものだ。
「こんなにポンポン魔法の鞄が出てくるとか普通はないですからね」
「他の場所をあんまり知らないからなんともですが、見知らぬ人にひけらかすとかしませんよ?」
「でも知り合ったらどんどん色々と渡してくるじゃないですか」
私が言えば三橋さんが苦笑い気味に言う。
「知り合った相手が大怪我したり死んじゃうの嫌じゃないですか…」
「眞守さん…」
育ての親である祖父母を亡くしている身としてはそこらへんは譲れなかった。
ちょっと『死』というものん敏感になっているということも自覚している。
だからこそ先生の安否が気になるのだ。

休憩も終わりセーフティゾーンから出る。
向かうのは下に向かうための階段でそこは今まで通り変わらない。

「ストップ!」
階段を降りたところで私は皆を止める。
「どうしたの?」
スマホの地図に眼を落とす私に白尾さんが問いかける。
「この階層、妙な罠が1つあります」
「妙な…?」
私の言葉に皆の眼が私のスマホに向かう。
「この通路にあるここ」
言って指を指せば、皆が『こんな罠が…?』と絶句する。
その場所に書かれた罠の名称は『転移の罠』。
どうやらそれを踏むとこのダンジョン内のどこかに飛ばされてしまうという物だった。

「先生がこれを踏んだとしたら飛ばされた先で怪我をしているかもしれません」
「急いだほうが良いかもしれないね」
私の言葉に皆は頷き、そこからは魔物を無視して突き進んだ。
どうしても相手をしなければならない時は走りながら魔術を使用し、今回はドロップ品をスルーしていく。
階段をおりてきて30分、走った先にあったのは小さな個室だった。
特に何かが有るわけでもなく、でも魔法の地図にははっきりと罠の表記があるわけで。
「…ここですね。生えている草で分かりづらいですけど転移用の魔法陣がうまい具合に隠されてます」
隠されていても【看破の魔眼】を持っている私には通じないわけで。

「眞守さん、これ」
横田さんが何かを見つけて持ってきた。
「コタローが部屋の隅で見つけたんです」
それは片方のスニーカーだった。

【新田 悠司のスニーカー…ポイズンスパイダーに追いかけられこの部屋に追い詰められた時に脱げたスニーカー(左)】

【看破の魔眼】が持ち主をか確定させる。

「先生のです」
「ならほぼ決まりですね」
「ポイズンスパイダーに追われて逃げた先で転移の罠を踏むとか…ヤバいね」
田淵さんと白尾さんは言うなり罠がある床を見つめる。
「ここで止まるということは?」
「ありません」
「…でしょうね。気をしっかりと引き締めていきましょう」
私の言葉を聞いて田淵さんは他メンバーに注意を飛ばす。
「念のため手を繋いで皆で踏みましょう」
「バラバラになった場合は私が皆さんを探しに行きますので」
「わかったよ」
「では…」
もしもの時のことを話し終え、皆で手を繋ぎ罠を踏む。
床から光が放たれたと思えば一瞬の浮遊感を覚え視界が一転する。

「どうやらバラバラにはならなかったようですね」
田淵さんの言葉に周りを見れば皆の姿がちゃんとあった。
「…でもこれは想定外です」
転移した先に広がっていたのは――大森林だった。
今まで居たような洞窟型ではなく、空があり風が吹き、木々が乱雑に生えている。

「…30階層」
「え?」
「ここ30階層らしいです」
スマホで確認した階層を言えば皆が黙り込んでしまった。
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