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先生を救出してから数日後、朝のHR終わりに副担任から『今日の昼休み職員室に来てください』と言われてしまった。
「デジャヴ」
「今度は何したの~?」
「今度はどんな物を手に入れたの?」
「今度は何倒したの?」
「今回に限り本当に心当たりはないんですけど…?」
それよりも皆の中での私に対する印象どうなってるんだと言いたい。

あの時と同じように午前中の授業を受けたら早めにお昼を食べて職員室に向かう。
今回は担任の新田先生ではなく副担任の堀北先生だけれど。
「先生来ましたー」
「いらっしゃい、えっとね…これとこれとこれ…」
「え?え?なんですかこれ???」
堀北先生の元に行けば何も言われずにいきなり封筒やら紙袋を渡されてしまう。
「あ、そうだったわね。新田先生に届けてほしいのよ。この封筒は休職に関する書類で、こっちの紙袋は新田先生に頼まれていた資料とかね」
「???なんで私が先生に届けるんですか?先生のご家族とか他の先生とか???」
「え、聞いてないの?新田先生が入院しているところが少し特殊で決められた人しか出入りが出来ないからそこに出入りできるクランメンバーの眞守さんに頼んでほしいって新田先生に言われてたんだけど…」
「…あ~、確かに。あそこはダンジョン協会が運営する病院でダンジョン内で大怪我を負ったり精神的なダメージを負った人が入るところですからね…」
「なんで新田先生はダンジョンなんかに行ったのかしら…」
「それは私にはなんとも。…でも運動神経が抜群な新田先生のことだから体が疼いちゃったんじゃないんですかねぇ…」
「あぁ…」
私の言葉に堀北先生が苦笑する。
「まぁこの荷物を新田先生に渡してほしいのよ。そこそこ深い傷で暫くは教師としての仕事が無理ってことだから出さなきゃいけない書類も多くて」
「分かりました~。うちのクランの責任者さんにお願いしておきます」
荷物を受け取り、私は職員室を後にした。


「悠二のやつ、休職するのか…」
「らしいです。なので書類やら資料やらを先生に届けてもらってもいいですか?」
学校帰りにうちのクランが借りているビルの一室に寄って頼めば、白尾さんは苦い顔をする。
「怪我はもう治ってるし、検査の結果も良好なのになんで休職するんだろうねぇ…」
「心の方は…?」
「全然。と言うかダンジョンリベンジに燃えてるよ」
「えぇ…?」
白尾さんの言葉に私も困惑の声をだす。
「…しかもこの封筒の中身、休職じゃなくて辞職…辞めるつもりじゃないか」
「え」
突然のことに驚き言葉が続かなかった。
「……ただ、まぁあいつに起きたことを考えると教師を続けるっていうのも難しいのかもしれないけど…」
「それはどういう…?」
「…こればっかりはあいつが自分で言わなきゃいけないことだから僕からは何も言えないかな…。安心してよ、悪いようにはしないから」
白尾さんは少しばかり疲れた笑みを浮かべて私の頭をくしゃりと撫でた。

色々とモヤるけれど私に出来る事なんてないのでそのまま帰宅する。
家に帰れば田淵さんたちはダンジョンに潜っており、残ったのは追加要員としてうちに来た3人だった。
「吉永さん、なにか変わったことありましたか?」
「何も問題はありませんでした…」
「そうですか。ありがとうございます」
吉永さんはメンバーの中で一番背が高くて寡黙な人である。
話すことが苦手だと事前に聞いていたので無理に話させようとせずに必要な情報を聞いたら引き上げることにしている。

「あ、すずちゃんこっちこっち」
「あ、水樹さん」
この隊で唯一の女性がリビングで手招きをしてくる。
「これ、これさ、この間の虫ダンジョンのエルダートレントを倒した時に手に入れたやつなんだよね?」
言いながら指差すのはリビングのテーブルに置かれただった。
先生を助ける為に得た宝箱の確認は後回しにして外に出たわけだけれど、暫くその宝箱の存在を忘れていた私である。
一昨日辺りに『そういえば虫ダンジョンで大きな木の魔物倒したって言ってましたけどドロップ品何も出なかったんですか?』と言われて私と田淵さんたちは思い出したのだ。
急いで確認したところドロップ品は『エルダートレントの枝』で4本あった。
宝箱には何が入っていたかというと、この薄青いまだらな卵が1つ入っていただけで、卵の正体は看破の魔眼でも分からなかった。
育て方は親となる者の魔力を与える事。
どうしても離れなければならない時は魔石を卵の側に置いておくといいらしい。
なので家にいる時はナップザックもどきに入れて魔力を流し、学校に行くときは以前これでもかと手に入れたスライムの魔石の中に突っ込んで行くことにしたのだ。
「…うわぁ…。もう半分魔石が空に…」
「食欲旺盛でだよね~」
卵は私の頭ほどのサイズがある。
どう頑張っても学校に持っていけない。
「魔石採ってこないと間に合わなさそうですね…」
「あ、それだったら寺門さんが融通してくれるらしいよ?余ってるスクロールとか武器を回してくれるならって」
「それだったら是非に…!まわせるのは基本の魔術属性のスクロールとインゴット…、それに需要過多なポーション類と…」
「普通は需要過多になんてならないと思うんだよねぇ…」
私のつぶやきに水樹さんが遠い目をしていた。
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