上 下
37 / 68

036:

しおりを挟む
【ご連絡いただきありがとうございます。
 ご連絡いただいた内容にこちらも驚きを禁じ得ない状態です。
 ただいま各ダンジョンで同じ事例がないかを確認しており、確認され次第保護することになりました――】

困った時のダンジョン管理神さん頼みである。
以前連絡が来たものに返信する形で今回の事を報告したところ返事がすぐに戻ってきた。

『神と知り合いとは…』
なんだか凄い尊敬するような目で見てくる首なし騎士デュラハン
違うんです、以前こういうことがあって――と説明したけれどそれでも『神と交流が――』と目をキラキラするのをやめてくれなかった。
騎士は生真面目で純粋というのが先生の言葉だった。


【―――階層ボスとして異なる世界の魂が使われている件ですが、本来ならばそれでも討伐せねばいけないのがダンジョンとなります。ですが今回に限りその意識が明確ではっきりとしている事、ダンジョンに支配されていない事、本人に戦う意思がないことを確認しておりますので今回はその首なし騎士デュラハンを【テイム】する提案をさせていただきます】

「テイム?!」
『私をですか…?』
素っ頓狂な声を出したら首なし騎士デュラハンもぽかんとした顔になる。

【テイム確率を向上するアイテム(制限時間あり)を一緒にお送りいたしましたのでそちらを使用し、かつ首なし騎士デュラハンはテイムに抵抗せずに受け入れる形でお願いしたいと思います】

どうやらまだ誰とも出会っていない人(?)ならば保護対象だけれど、私のように既に出会っていたり倒されてしまっている人に関しては対象外となるようだ。
まぁ現状私しか出会っていないようだけれど。

「…テイム」
『お願いできますか?』
「倒すのが無理なのでそれしかないですよねぇ…」
気は進まないけれどここまで色々と話して情が湧いていないと言えば嘘になる。
「じゃあやってみますね」
『お願いします』

【万能収納】から送られた『テイム効率アップ薬』というそのまんまな薬を取り出して飲む。
…ものすごく苦渋甘かった。
涙目になっていたら首なし騎士デュラハンが生活魔法で水を創り出してくれたのでそれを手に受け取り飲む。
「…では…」
『はい』
「《テイム》!」

首なし騎士デュラハンのテイムに失敗しました】

「《テイム》!」

首なし騎士デュラハンのテイムに失敗しました】

「《テイム》!」

首なし騎士デュラハンのテイムに失敗しました】

「《テイム》!」

首なし騎士デュラハンのテイムに失―――。


『大丈夫ですか…?』
「ぐふぅ…。お腹が…、でもこれで決めてみせまひゅ…」
さすが大物。
というかテイムの熟練度が低いのも原因だと思う。
魔力回復ポーションを4本飲んだところでお腹が限界になる。

「《テイム》ぅぶ!」

首なし騎士デュラハンのテイムに成功しました。対象に名を刻んでください】

【この世界のダンジョンで誰よりも早く特殊個体の魔物をテイムしました。特別な称号とボーナスが送られます。
 この世界のダンジョンで誰よりも早く階層主をテイムしました。特別な称号とボーナスが与えられます】

久しぶりに聞いたな…なんて思いながら両手で口元を抑える。
普通のポーションはアンプルサイズなのに、なんで魔力回復ポーションは栄養ドリンク並みの量なのか。
『大丈夫ですか…?』
凄く心配そうな顔をする首なし騎士デュラハンと骨馬。
「ちょ、なま、まっ…」
『大丈夫です。ちょっと休んでください』
私が言いたいことを察したのか首なし騎士デュラハンは背中を優しく擦ってくれる。



「名前を刻めって言われたんですけど、ものは試しに貴方を鑑定しても良いですか?何かわかるかもしれないので」
『私はもう主の僕なので断らなくても良いんですよ?』
「いや、僕とか語弊がある言い方やめましょう。ダンジョンを攻略する仲間です、仲間」
こんなイケメンを僕とか…、そこらじゅうの女性に背中どころか全身を刺される恐れがある。
少しばかり体をぶるりと震わせてから首なし騎士デュラハンを視る。


【名前】‐
【年齢】‐(享年24)
【種族】アンデッド:首なし騎士デュラハン
【職業】暗黒騎士

【レベル】57
【体力】2280/2280
【魔力】  20/1720

【スキル】
 生活魔法 魔力操作 魔力感知 気配察知 舞踏Lv.6 貴族作法Lv.8 乗馬術Lv.10  

【戦闘スキル】
 体術Lv.10 剣術Lv.10 小剣術Lv.7 槍術Lv.7 弓術Lv.5 

【固有スキル】
 聖なる護り 全状態異常無効化

【ギフト】
 聖剣召喚(※現在使用不可)

【適性魔術】
 水属性Lv.8 雷属性Lv.10 光属性Lv.10 聖属性Lv.10 闇属性Lv.1

【称号】
 剣聖 王国最強の聖騎士 闇に見初められし者

◆眞守 鈴子のテイムモンスター《信頼度80》


なんかコタローと違った。
人型だから?
それとも他の世界の人だったから?
謎だらけである。

『何かわかりましたか?』
「称号部分を細かく視てみますね?」
私の言葉にそわそわとしている首なし騎士デュラハン
記憶から消えた自分の情報が何か知れるのかも知れないから当たり前かと思う。


【剣聖…かつて存在した世界で聖なる剣に選ばれた者に贈られる称号。光属性・聖属性にプラス効果。アンデッドや闇促成に対するダメージに追加ダメージ。【全状態異常無効化】を取得できる】


【王国最強の騎士…かつて存在した国で最強の強さを持つ者に贈られた称号。戦闘センスが向上し、戦の女神に微笑まれることが多くなる。戦闘で得る経験値量が増える】


【闇に見初められし者…一度死してなお、その類稀な才能を見出されてもう一度生を与えられた者に贈られる称号。どのような存在になるのかは完全にランダム。生を与えられた者はその代償に自分に関する情報を失う】


「…名前とか家族に関する情報有りませんでしたね…」
『そうですか…』
首なし騎士デュラハンはしょぼんと肩を落としてしまう。
これは名付け大変なことになりそうだと首なし騎士デュラハンを見れば、彼の首元に銀色の鎖が垂れ下がっているのを見つける。

「ペンダント…?」
『あ、そうです。多分私の家族の肖像画だと思うんですけど…。中の人物は黒く塗りつぶされていて…』
言いながらペンダントを取り外して見せてくれた。
シンプルな楕円のロケット部分を開けば、即このサイズにこんなに巧妙な絵が描けるな…というような姿絵が描かれていた。
ただし顔は黒く煤けて判別がつかない。

【クロムウェル伯爵家当主・夫人の姿絵】

「クロムウェル家…」
『…え?』
「クロムウェル家の伯爵家当主・夫人の姿絵って鑑定結果が。家名はクロムウェルですね」
家名がわかっただけでも御の字じゃないかと笑って見せれば首なし騎士デュラハンはその紫色の瞳を潤ませる。
『…ありがとうございます!ありがとうございます!!!』
「うきゅっ?!」
がっつり鎧を着込んだ大柄なイケメンにハグされた。

死ぬかと思った。

骨馬が首なし騎士デュラハンの髪を噛んで引っ張ってくれたから助かった。
あ、体力が半分減ってる。
その後首なし騎士デュラハンは土下座せんばかりに謝ってくれたので今後は気を付けてほしいという事で許した。
あと主呼びはやめてくれとも。
何故かと言われたのでこの世界ではそんな呼び方をされると変に目立つからと言えば『そういうものなんですね…』と何とか理解してくれた。

テイムは出来たが名前を付けていないのでまだ仮テイムといった感じでまだボス部屋の扉は開いていない。

一応先生に家名だけは鑑定で分かりましたと送っておいた。
これで何かわかればいいんだけど、分からなかった時用の為に何か考えておかなくちゃ…と思ったらすぐさま返事が戻ってきた。


【セイクレッド方面の記憶持ちが居て分かった。剣聖の名前はユリウス=クロムウェル。王国最強でレベル50の壁を越えたやべぇやつだったわ】

向こうで先生がひきつった笑みを浮かべているのがイメージできる。
「名前分かったみたいですよ。セイクレッド王国あたりで活躍していた記憶持ちが居たみたいです」
『本当ですか?!』
「どうしますか?前の名をそのままつけるか、新しい名前を付けるか――ですけど」
できれば元の名前だと私は名前を考えないで済むのですが…と思う。
首なし騎士デュラハンは少しばかり考えた末私の前で方膝をつく。
『許されるのならば前の名で…』
「わかりました。貴方の名前はユリウス。家名はクロムウェル。ユリウス=クロムウェル、ダンジョン攻略のお手伝いお願いします」
言った瞬間光がはじけた。

首なし騎士デュラハン――ユリウスさんを中心に。

黒かった髪が白に近い金の色に変わる。
ボロボロで土色だった肌が潤いと明るさを取り戻し、その肌に血の色が戻る。
なんと、横に居た骨馬も普通の白い馬になってるではないですか。

「…思い出せました」
言って極上の微笑みを浮かべるイケメンが目の前にいる。
「私はユリウス=クロムウェル。セイクレッド王国第一騎士団団長を務め、聖剣の名を承った――」
言って目の前に白く輝く一本の件を喚びだす。
「どうやら名を取り戻すと色々と・・・と戻るようですね…」
「色々…?」
そういえば骨馬も馬になったしね…と馬の方を見れば違いますと笑われる。
「もう一度私を視てください。種族の部分です」
言われてもう一度視てみる。


【名前】ユリウス=クロムウェル
【年齢】24
【種族】人間
【職業】剣聖

「え?」
アンデッドだったのに名前を付けたら人に戻った。
「どういう…???」
「私にも詳細は…。ですが私はどうやら生き直す機会を与えられたようです。…ふふ、お前もか」
言って鼻っ面で『自分も忘れないでください』と主張する馬の首を擦る。

「あぁ、どうやら扉が開いたようですね」
みれば部屋の中心に大きな宝箱が鎮座し、その向こうの扉が開いていた。
「…色々とまだ考えないといけないですけど…、今日はアレを回収して帰りましょう」
あとの事は明日の自分にまかせる。
問題の先送りだがしょうがない。

今日の私の頭はキャパオーバーである。

ボス部屋を抜けたところで【転移】をして自宅に戻った。
「顔が死んでるな、眞守」
「先生、あとの事は頼んだ。あとお馬さんの家もどうにか…」
ユリウスさんや馬の事を先生に任せると私は自室にふらふらと向かう。
先生もユリウスさんも私の疲れを察してか何も言わなかった。

いや、色々とあったにしては体が重すぎない?なんて思いながら衣服を脱ぎ散らかし、自分に《クリーン》をかけてベッドの中に潜り込んだのだった。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

猫が繋ぐ縁

恋愛 / 完結 24h.ポイント:142pt お気に入り:189

主役達の物語の裏側で(+α)

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,002pt お気に入り:43

「蝕人植物」―植物の叛逆―

ホラー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

聖騎士の盾

BL / 完結 24h.ポイント:163pt お気に入り:759

王子に転生したので悪役令嬢と正統派ヒロインと共に無双する

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:681pt お気に入り:276

桔梗の花を手折るとき

大衆娯楽 / 連載中 24h.ポイント:285pt お気に入り:2

処理中です...