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クラン事務所にはいつものメンバープラスチビ狐とスライムの姿が…。
真剣な話をしないといけないのに絵面が酷い。

いきなり現れたスライムは『管理神だ』と名乗った。
本体で地上に来ると色々と明鏡が出るし、何よりも黒幕にバレるという事でこの体を作ったらしい。
普通のスライムよりも強めに作ったからけられたり投げられたくらいじゃ弾けないと言っていた。
「神の名は人には発音できない故、便宜上スライムのスイとでもしておいてくれ」
という事でスイさんとなった。
「えっとですね…」
桜子さんが飲み物とちょっとしたお菓子を皆に配り終えるのを待って話を始める。
話を始める前にチビ狐がスキルによる盗聴や盗撮を防ぐ結界を張ってくれたので話す内容がバレることはない。
一応カモフラージュにそれっぽい小物を置いているので直前まで除いている存在が居たら勘違いしてくれている事だろう。
管理神のスイさんが出てきてしゃべりだしたのも結界を張った後なのでバレていないと思う。

「――という事で『鷹田 零』という人物は【看破の魔眼】で見たところ禍の種を見た時に表記されていた『****』という存在の使徒という事が分かりました。元異世界の民…とあったので多分…」
言いながらユリウスさんを見ればユリウスさんはぐっと危険に力を入れた。
「きっと私と同じような存在なのでしょうね…」
「以前鈴子殿に教えられて世界各地のダンジョンを調べたところ、ユリウス殿のようにダンジョンの魔物として縛られていた・・・・・・元異世界人が居ましたので保護した。…ただユリウス殿のように元の名前が分からず、中には理性を封じられて獣のように人を襲うようにされていた者も居て…。こちらは神眼持ちがその魂の穢れを落として細部まで見る事で名を取り戻そうとしている所だ」
「どれほどの…?」
「…数百人…とだけ。その一部が完全に心を壊されて獣と化していたのでこちらで救い・・を与えた」
その魂は一度神様預かりとして傷つき穢れた部分を浄化するらしい。
「残りの魂は?」
「一次預かり、この世界がもう少し安定した暁に転生の輪に放つ予定だ」
どうやらひどい事にはならそうだと知ってユリウスさんがホッと胸を撫でおろしていた。
「…そして使徒となった元異世界人…、彼の事は…」
「私に任せてください。同じ世界を生きていた者として鉄槌を下します」
「でも…」
「私は騎士として国を守る為に魔物だけではなく人も斬り捨てていました。だから慣れているんです。…でも鈴さんは違う。…いえ、どうかこのまま人を斬ることなど無い人生を送ってください」
ユリウスさんは私の手を取ってそう願う。
「……ユリウスさん」
「この優しい手を人の血で汚さないでください」
「そうだな。眞守はそんなことしないでいいからな?前世を思い出した分俺も殺れるから心配するな」
高ランクの冒険者は盗賊などの討伐も請け負うし護衛の依頼で襲ってくる人間も斬り捨てなければならない。
だから前世の先生も経験済みだと頭をくしゃりとしてくる。
「…面目ない。本来ならばこちらが色々と対処しなければならないのだが、これ以上好き勝手されない為にダンジョンの警戒を強めているんだ。それに加えて保護した魂の件でも色々と手が足りない状態でな…」
すまなそうにその身を崩すスイさん。
「まぁ、神が直接関与したと知られるとどういう動きをするのかわかりませぬから…」
チビ狐の口から出る言葉はいつもの幼い声ではなく白狐のものだ。
チビ狐を通してこの話し合いに参加している。
「まず周りがその【魅了】の餌食にならぬようにしなくてはなりませんね…」
「そうですね。でも結構な人数が居ますし…」
どうしたものかと頭を抱える。
「あぁ、それなら…」
そう言ってスライムボディから小さな小瓶がペッと出される。
「これを使うと良い。これを学校のいろんな場所で撒けば誰もがこの粉を吸い込むはず。これは今回特別に作った魅了無効効果がある粉薬で吸い込めば一か月は効果を持続させる」
「いいんですか?」
「今回の事は我々も無視できない事態だから特別だ。この小瓶は一種の特殊収納になっている。学校中に10回以上撒いても中身は容易に無くならない」
「ありがとうございます」
「ただし、既に魅了状態に堕ちている者は容易にそれを解除することは出来ない。精神操作系のスキルはその根が深いんだ。長い時間をかけて正気に戻すか術者が死ぬかしない」
結構重い話になってしまった。

「明日これを学校中に撒いておきます」
「もしもの時の為に私も学校に…」
ユリウスさんが真剣な顔で言ってくる。
「いや、ユリウスさんが来たら学校また大騒ぎになっちゃうので……」
「なぜですか?」
「なぜって…」
自分の容姿が凄く整っていると理解してほしいんですが。
「学校っていうのは部外者が容易に入れる場所じゃないんだからしょうがない。でも眞守、危険だと思ったら即座に転移しろよ?」
「わかりました」
先生がフォローしてくれたことでユリウスさんが学校にまで護衛をしようとするのを防ぐことが出来た。
「ならば私が一緒に行きましょう」
そう声を上げたのはチビ狐――白狐だった。
「一日中というのは無理ですが、学業を行っている間ならば私が傍に」
「でも…」
「私の管理するダンジョンを救ったお礼がまだしっかりと返せておりません。お任せくださいな」
言ってふふ…と笑う。
「頼めるか?」
「お任せください」
スライムに恭しく頭を下げるチビ狐…、中身はとても神聖な存在同士のやり取りなのに見た目って大事だな…と思わせる一瞬だった。
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