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序章・運命の世界
運命とは?
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其の人に出会うと眩しい、らしい。
頭の先から足のつま先に至るまであまりの輝きに衝撃を受け、心臓が鷲掴みにされるそうな。
まさしく、運命。
人々は言う。
「当たり前のことだ、」と。
確かに。
(その通りだ、と思う)
サラサラと、滑り心地が良さそうな手入れの行き届いた髪。
高貴な顔立ちのなんたる甘やかさ、庶民には手が届かないオーダーメイド仕立ての装い。
ささやかながらも高値に違いない小ぶりな宝石が、ピカりと左の指間に光る。
(ああ……なんてこと)
紙面いっぱいに掲載されている一面記事の彼から目が離せなくなったのは、早朝の出来事だった。
知ってはいたんだ。お名前だけは。
「はー、とうとうご結婚か」
「あんた、まだご婚約よ。
王族だから婚約式ね」
両親がくさくさしながらも、第三王子の情報を垂れ流してくる。
婚約指輪、綺麗ねー、と。
「あちこちの御令嬢と浮名を流してたよなあ~ははは」
そう、忘れられないであろうこの人は、ひどく奔放で有名だった。
「確か、公爵家のお姫様もいたよな、
あんなぼんきゅぼんと何年もイチャイチャして、
絶世の美女の歌姫ともお手て繋いで夜道を出歩いてたとかなんとか。
口と口を合わせるホラ、
濃厚な絵も散々出回って長い間話題になってたよな~、
あの外見ならどんな女でも選び放題なのに、
なんでまあ、隣国の、それも一番地味な姫君とくっついたんだか」
「そんな女でも王位継承者だからねえ……王の配偶者なんて、
なかなか無い良い話だし、
モテる王子様なんだから何十人も侍らすのは仕方ないんじゃない?
隣の国に婿入りなんだから予定調和ってことでしょうよ」
「そういう取り決めがあったのかもなあ」
毎朝、我が家のみならず、全世帯に配達される新聞には雲上人の恋愛模様が加熱気味に掲載されている。
それはこの国が、愛と運命の女神を国教としているからだ。
まるで劇場の一コマのような文字が踊っている。
(ねぇねぇ、聞いて聞いて!
さっき、王子様歩いてたの初めて見たよ!)
嫁いで行った姉の言葉を思い出す。
はて。いつの頃の話だっけ。
(第三王子様だったわ!
はーびっくりするほどカッコよかった!)
それに私はなんと返事をしただろうか。
うんともすんとも言わなかった気がする。
多分、興味がなかったから。
(腕になんかすごい美人連れてたけど。
……あー、遠くからでもわかるぐらいだったわ、
なぁんて素敵な王子様!
お忍びでもあんな派手じゃ目撃談多いの納得だわー。
わたしも、もう少し待っていればなあ!
ああー絶好の機会が!!)
お姉ちゃん旦那様が泣くよ、とでも言ったのかもしれない。
まったく気にも止めなかった。
(ま、そんなことより。
帰る前にこの体型を元に戻さなきゃね!)
産後、生まれたての赤ん坊を私に持たせて微笑む姉の笑顔は幸せいっぱいだ。
立派な主婦となり、母となった、いつも通りの満足そうな姉。
じゃあ、私は?
ちら、と手元の新聞に目を落とすと、世の淑女をいかにもときめかさんとばかりに美しい王子様がきりっとした立ち姿で、優しく私を見上げている。
頭の先から足のつま先に至るまであまりの輝きに衝撃を受け、心臓が鷲掴みにされるそうな。
まさしく、運命。
人々は言う。
「当たり前のことだ、」と。
確かに。
(その通りだ、と思う)
サラサラと、滑り心地が良さそうな手入れの行き届いた髪。
高貴な顔立ちのなんたる甘やかさ、庶民には手が届かないオーダーメイド仕立ての装い。
ささやかながらも高値に違いない小ぶりな宝石が、ピカりと左の指間に光る。
(ああ……なんてこと)
紙面いっぱいに掲載されている一面記事の彼から目が離せなくなったのは、早朝の出来事だった。
知ってはいたんだ。お名前だけは。
「はー、とうとうご結婚か」
「あんた、まだご婚約よ。
王族だから婚約式ね」
両親がくさくさしながらも、第三王子の情報を垂れ流してくる。
婚約指輪、綺麗ねー、と。
「あちこちの御令嬢と浮名を流してたよなあ~ははは」
そう、忘れられないであろうこの人は、ひどく奔放で有名だった。
「確か、公爵家のお姫様もいたよな、
あんなぼんきゅぼんと何年もイチャイチャして、
絶世の美女の歌姫ともお手て繋いで夜道を出歩いてたとかなんとか。
口と口を合わせるホラ、
濃厚な絵も散々出回って長い間話題になってたよな~、
あの外見ならどんな女でも選び放題なのに、
なんでまあ、隣国の、それも一番地味な姫君とくっついたんだか」
「そんな女でも王位継承者だからねえ……王の配偶者なんて、
なかなか無い良い話だし、
モテる王子様なんだから何十人も侍らすのは仕方ないんじゃない?
隣の国に婿入りなんだから予定調和ってことでしょうよ」
「そういう取り決めがあったのかもなあ」
毎朝、我が家のみならず、全世帯に配達される新聞には雲上人の恋愛模様が加熱気味に掲載されている。
それはこの国が、愛と運命の女神を国教としているからだ。
まるで劇場の一コマのような文字が踊っている。
(ねぇねぇ、聞いて聞いて!
さっき、王子様歩いてたの初めて見たよ!)
嫁いで行った姉の言葉を思い出す。
はて。いつの頃の話だっけ。
(第三王子様だったわ!
はーびっくりするほどカッコよかった!)
それに私はなんと返事をしただろうか。
うんともすんとも言わなかった気がする。
多分、興味がなかったから。
(腕になんかすごい美人連れてたけど。
……あー、遠くからでもわかるぐらいだったわ、
なぁんて素敵な王子様!
お忍びでもあんな派手じゃ目撃談多いの納得だわー。
わたしも、もう少し待っていればなあ!
ああー絶好の機会が!!)
お姉ちゃん旦那様が泣くよ、とでも言ったのかもしれない。
まったく気にも止めなかった。
(ま、そんなことより。
帰る前にこの体型を元に戻さなきゃね!)
産後、生まれたての赤ん坊を私に持たせて微笑む姉の笑顔は幸せいっぱいだ。
立派な主婦となり、母となった、いつも通りの満足そうな姉。
じゃあ、私は?
ちら、と手元の新聞に目を落とすと、世の淑女をいかにもときめかさんとばかりに美しい王子様がきりっとした立ち姿で、優しく私を見上げている。
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