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二章・愛の世界
脚長おじさん
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それから、私は脚長おじさんになった。
私が運命にできることとはお金を捧げることぐらいであるからして……仕方のないことである。
融資をすると伝えたところ、公爵夫人には散々に頭を下げられ、義理とはいえ娘であるところの可憐なマドロラ……に手を出すのではないかと戦々恐々としていたらしいが、なに、そんなことはしないと私は会うたびに夫人へ言い訳……いや、言い訳じゃないがしどろもどろに説明し、答えたものだ。妾やら愛人にするつもりはないと。これは会うたびに伝える羽目になるが……。
なんせ私は公爵邸の妖精たる彼女……運命のために、彼女のために多額の金を用意し、使いまくったのである。
怪しまれるのも当然だろう。次第に私の様相からして、そういうつもりはない、ということを理解は示してくれたが……支援しがいのある彼女だ、どんなドレスを身につけても美しいものだから……、ああ、私は本当におかしい男だ。
今世も手に入れられない運命のあなたのために、姿もみせずに不気味な動きばかりしてみせるのだから。
マドロラは私の存在だけは認識しているものらしい、夫人にはバラさないよういい含めているが、どことなく湧いてくるお金に疑問は持っていたらしく。まぁ、そうだろう。忍び込ませていたメイドがあれこれと報告してくれるので、あちこちで買いつけたりした有名デザインまみれの宝石片手にむふふと笑う。あれもこれも似合う、と思うとつい金目に糸目をつけず。
そんなスケベそうなオッサンたる私を鏡越しに見返してくる執事はさぞ、主人が壊れたと思ったことだろう。
ある日、そこまで入れ込むなら彼女と婚約、結婚しないのか、と言ってくれたことがある。
ああ、ちゃんと理解している。
執事は主人がようやく迎えた春に浮かれていること、そしてそのために今までの獲得してきた権力や金を使わないことを嘆いているのだ。それでいて不満を抱いている。幼馴染みでもあり忠義ものである彼の言葉はギクリとしたが、まあ、いいんだと答えた。
これは私のこの人生の集大成なのだから、と。
「この青い宝石は彼女の瞳に似合うだろう」
「ご主人様の目の色と同じですね」
「……この瑞々しい色合いは素晴らしいな!
サテンのこのキラキラしい布地は踊ればさぞ美々しいことだろう」
「ご主人様の髪の色がベルト周りにあしらわれて、
軽やかな靴は春風のごとく導いてくれることでしょう、
この国発祥の女性用の軽い靴ですから」
「……」
こんな調子で日々執事にいじめられているが、なに、私の幸福は私が決めることである。
「なるほど、とうとうこの日が……」
しばらくして、社交会で出ずっぱりだった彼女の行動記録に異変がおきたものらしい。
美貌甚だしい彼女の初々しさに、ズキュンときた若武者……ごほん、若者がいたらしい。
可憐なる君、マドロラもまんざらでもなく、その青い瞳を輝かせた。
「そうか……」
とうとう来たか、と少し、息をついたが。
なんとか私の荒波立つ心が平穏を取り戻した。いつか来るとは思っていた。
書面から目を離し、一人っきりの執務室でぼうっと夕闇に静まり返る自室を眺めた。
長く延びゆく影は私の人生。
豪華になった執務室はいつも静かであったが、今日はことのほか静まりかえっている。
老いた白髪がはらりと額にかかった。
「今世も、幸せに……」
少し長く息を吸い、吐いた。
かつての新聞記事では、彼は綺麗な笑みをしてみせていた。
きっと今度もまた、私は彼女のために祈ることだろう。
私が運命にできることとはお金を捧げることぐらいであるからして……仕方のないことである。
融資をすると伝えたところ、公爵夫人には散々に頭を下げられ、義理とはいえ娘であるところの可憐なマドロラ……に手を出すのではないかと戦々恐々としていたらしいが、なに、そんなことはしないと私は会うたびに夫人へ言い訳……いや、言い訳じゃないがしどろもどろに説明し、答えたものだ。妾やら愛人にするつもりはないと。これは会うたびに伝える羽目になるが……。
なんせ私は公爵邸の妖精たる彼女……運命のために、彼女のために多額の金を用意し、使いまくったのである。
怪しまれるのも当然だろう。次第に私の様相からして、そういうつもりはない、ということを理解は示してくれたが……支援しがいのある彼女だ、どんなドレスを身につけても美しいものだから……、ああ、私は本当におかしい男だ。
今世も手に入れられない運命のあなたのために、姿もみせずに不気味な動きばかりしてみせるのだから。
マドロラは私の存在だけは認識しているものらしい、夫人にはバラさないよういい含めているが、どことなく湧いてくるお金に疑問は持っていたらしく。まぁ、そうだろう。忍び込ませていたメイドがあれこれと報告してくれるので、あちこちで買いつけたりした有名デザインまみれの宝石片手にむふふと笑う。あれもこれも似合う、と思うとつい金目に糸目をつけず。
そんなスケベそうなオッサンたる私を鏡越しに見返してくる執事はさぞ、主人が壊れたと思ったことだろう。
ある日、そこまで入れ込むなら彼女と婚約、結婚しないのか、と言ってくれたことがある。
ああ、ちゃんと理解している。
執事は主人がようやく迎えた春に浮かれていること、そしてそのために今までの獲得してきた権力や金を使わないことを嘆いているのだ。それでいて不満を抱いている。幼馴染みでもあり忠義ものである彼の言葉はギクリとしたが、まあ、いいんだと答えた。
これは私のこの人生の集大成なのだから、と。
「この青い宝石は彼女の瞳に似合うだろう」
「ご主人様の目の色と同じですね」
「……この瑞々しい色合いは素晴らしいな!
サテンのこのキラキラしい布地は踊ればさぞ美々しいことだろう」
「ご主人様の髪の色がベルト周りにあしらわれて、
軽やかな靴は春風のごとく導いてくれることでしょう、
この国発祥の女性用の軽い靴ですから」
「……」
こんな調子で日々執事にいじめられているが、なに、私の幸福は私が決めることである。
「なるほど、とうとうこの日が……」
しばらくして、社交会で出ずっぱりだった彼女の行動記録に異変がおきたものらしい。
美貌甚だしい彼女の初々しさに、ズキュンときた若武者……ごほん、若者がいたらしい。
可憐なる君、マドロラもまんざらでもなく、その青い瞳を輝かせた。
「そうか……」
とうとう来たか、と少し、息をついたが。
なんとか私の荒波立つ心が平穏を取り戻した。いつか来るとは思っていた。
書面から目を離し、一人っきりの執務室でぼうっと夕闇に静まり返る自室を眺めた。
長く延びゆく影は私の人生。
豪華になった執務室はいつも静かであったが、今日はことのほか静まりかえっている。
老いた白髪がはらりと額にかかった。
「今世も、幸せに……」
少し長く息を吸い、吐いた。
かつての新聞記事では、彼は綺麗な笑みをしてみせていた。
きっと今度もまた、私は彼女のために祈ることだろう。
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