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二章・愛の世界
ようやくの、
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公爵邸には若夫婦が住み、かつての夫人もまた同居ではあるものの大きな邸内ではあるので、そこそこの距離感を持って住み続け、まあまあの家族仲で、誰もが描くような幸せな家庭を築き上げたようである。
子供もできた。
ますます騒がしく幸せ感いっぱいの経過を知り、私もまた酔いしれた。小躍りした。
流行り病にかかってしまったという子供のために遠方から薬を手配したりとそういった介入はあったにせよ、概ね、私の力はもう、公爵家には必要ない。彼女の夫君は立派だ。私の目からしても堂々とした采配をし、それなりに撒いた金になるタネに気づいて成長させていく。うむ。
「いいですか、この部屋から出たり大声出して喜んで踊ったりしないように」
「分かった分かった」
「窓も開けないように!」
壮健な執事は騒がしいが、しかしこれが最後かもしれないと私はわがままを言った手前、どうにも頭が上がらない。
あんなにも肥えていた体がここまで鶏ガラになるとは思わなかった。
流行り病に効くという薬は幼児にはテキメンであったが、老い先短いジジイには適さなかったようである。
冷たい空気は肺いっぱいに吸い込むと冷え冷えとした空気は思いっきり咳き込んでしまうので、我慢する。
今日は公爵一家が出かける日だ。
鮮やかな花々が咲き誇るかのように、街中も飾り付けがところぜましとなされている。
光る街灯も、舞い落ちる珍かな雪に人々ははしゃいで見受けられる。
そら、やってきた。
フカフカの椅子に座ったままひょいと覗く。
「可愛らしいですねえ」
「……んんんっ」
ごほん、と肯首したくなるのを抑え、窓辺から彼女たち一家を見守る。
眺めていると、やはり彼女たちもまた嬉々として空を見上げていた。
子供の手を引いて歩く夫と妻、その間にいる子供。
継母もいるようだ。腕を添えている侍女がいるものの、かくしゃくとしている。
(夫人にはずいぶんと世話になったな……)
好きなようにしてかまわない、と切実に伝えてきたかつての彼女は若かりし頃の面影を残したまま、しっかりと地を踏みしめて進んでいる。羨ましいことだ。私の足はもう、役に立たない。
ここからは距離があるし、彼女に一言、お礼を伝えたくなったものの……。
もう公爵邸に行く気力も体力も残されていない私は、こうして座るだけ座って彼ら一家の幸福を目の当たりにするにとどめるのである。手紙のやりとりでしか夫人としか行っていない。弱った体が恨めしい。これだけが私の人生における唯一の楽しみではあったのに………足は動けなくなったし、毎朝、起き上がるのも難しくなっていた。
あと何回、こうして彼女を見守っていられるだろう……。
切ない私の願いは、すでに終わりに近いのだろう。
(だが、)
あともう少し、もう少しだけ、……。
そんな気持ちが運命を振り向かせてしまったのだろう。
ふと、彼女と目があった気がしたのは。
邪な気持ちでいたから、悪いことをしでかしてしまったとか……。
変な汗が背中にぶわりと噴き出たものの、どうにか身をよじって分厚いカーテンに身を潜めた。
子供もできた。
ますます騒がしく幸せ感いっぱいの経過を知り、私もまた酔いしれた。小躍りした。
流行り病にかかってしまったという子供のために遠方から薬を手配したりとそういった介入はあったにせよ、概ね、私の力はもう、公爵家には必要ない。彼女の夫君は立派だ。私の目からしても堂々とした采配をし、それなりに撒いた金になるタネに気づいて成長させていく。うむ。
「いいですか、この部屋から出たり大声出して喜んで踊ったりしないように」
「分かった分かった」
「窓も開けないように!」
壮健な執事は騒がしいが、しかしこれが最後かもしれないと私はわがままを言った手前、どうにも頭が上がらない。
あんなにも肥えていた体がここまで鶏ガラになるとは思わなかった。
流行り病に効くという薬は幼児にはテキメンであったが、老い先短いジジイには適さなかったようである。
冷たい空気は肺いっぱいに吸い込むと冷え冷えとした空気は思いっきり咳き込んでしまうので、我慢する。
今日は公爵一家が出かける日だ。
鮮やかな花々が咲き誇るかのように、街中も飾り付けがところぜましとなされている。
光る街灯も、舞い落ちる珍かな雪に人々ははしゃいで見受けられる。
そら、やってきた。
フカフカの椅子に座ったままひょいと覗く。
「可愛らしいですねえ」
「……んんんっ」
ごほん、と肯首したくなるのを抑え、窓辺から彼女たち一家を見守る。
眺めていると、やはり彼女たちもまた嬉々として空を見上げていた。
子供の手を引いて歩く夫と妻、その間にいる子供。
継母もいるようだ。腕を添えている侍女がいるものの、かくしゃくとしている。
(夫人にはずいぶんと世話になったな……)
好きなようにしてかまわない、と切実に伝えてきたかつての彼女は若かりし頃の面影を残したまま、しっかりと地を踏みしめて進んでいる。羨ましいことだ。私の足はもう、役に立たない。
ここからは距離があるし、彼女に一言、お礼を伝えたくなったものの……。
もう公爵邸に行く気力も体力も残されていない私は、こうして座るだけ座って彼ら一家の幸福を目の当たりにするにとどめるのである。手紙のやりとりでしか夫人としか行っていない。弱った体が恨めしい。これだけが私の人生における唯一の楽しみではあったのに………足は動けなくなったし、毎朝、起き上がるのも難しくなっていた。
あと何回、こうして彼女を見守っていられるだろう……。
切ない私の願いは、すでに終わりに近いのだろう。
(だが、)
あともう少し、もう少しだけ、……。
そんな気持ちが運命を振り向かせてしまったのだろう。
ふと、彼女と目があった気がしたのは。
邪な気持ちでいたから、悪いことをしでかしてしまったとか……。
変な汗が背中にぶわりと噴き出たものの、どうにか身をよじって分厚いカーテンに身を潜めた。
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