私の運命は高嶺の花【完結】

小夜時雨

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二章・愛の世界

ああ……運命よ、運命のあなた

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 果たして、これで良かったのだろうか。
わからない。

 ただ、わたしが悪い人間になったのは確かだ。
ごめんなさい。
言い訳は、できない。

 愛しい我が子を捨てて家族を見捨てるような振る舞いなど、このわたしが、公爵夫人として生きることを厭うなんて。
許せるはずもない。

 なんて、悲しいことかしら、運命なぞ。



「ははうえ、見てください!
 大きな雪です!」
「まあ、すごいわ」

義母は頼んだ通り、脚長のおじさまがおられるであろう建物の前を通り過ぎた。
こうして、脚長のおじさまは時たま、わたしたちを眺めて満足しているのだという。
ただ、ずっとそうしてきたのだという。

 わたしは心中穏やかではなかったけれど、我が子の小さな手をつないで暮れの街中を歩いた。
義母が少しだけよろけたふりをする。

(ああ、ここなのね)

我が子がまるで承知しているかのように、灰色の空を指さした。
まるで機会がぴたりと噛み合うかのように、わたしは。

「嗚呼……」

思わず、といった吐息が白い息となって空へと吸い込まれていった。
わたしは見つけてしまったのだ。
彼の、青い目を。

 なんと、美しい……。
優しくて、心が……。
 ああ魂が……。
ああ……。

 そうか、あの方はわたしと同じ瞳の色をしていたのだ。
だから、わたしは気に入ったのだろう、このブローチの宝石を。

使い勝手の良い、娘時代からのお気に入り。
だから、キラキラとしていて輝いて見えたのだ。
あの方と、同じだから……。

影に隠れてしまったあの建物をずっと見上げ続けていたかったが、我が子が手をひっぱたので連れて行かれてしまった。立ち止まるにしても、不自然だった。 

嗚呼! 嗚呼! 嗚呼!
嗚呼! ああ……!

叫びたかった。
どうしてわたしは……。
なぜ、後悔しているのだろう。

「ははうえ?」

小さな温もりを、わたしはぎゅっと握りしめるがどうにも握力が弱かったみたいでするりと抜け落ちてしまった。
わたしの運命。
どうしてここにいるのだろう。

「……ごめんね」

小さく謝罪しながら、わたしは母としての役割を果たす。
渦巻き、荒れ狂う感情の波は、ちょっとしたものでは到底止められるものではなかった。

(嗚呼……)

泣きたい。
泣き喚きたい。

婚姻により、わたしと運命の結びつきは消えてしまったはずだった。
けれど、わたしには分かった。

あのおじさまは、わたしの運命だ、と。




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