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終章・女神
たとえどんな相手だろうと
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運命の君。
その言葉は、間違いなく私を捕らえていた。
「な、何を言って……」
「動揺するのも無理はありません。
もう、分かっておられるのでしょう?」
う、と詰まる。
もはや尋問だ。
王子様の視線が強すぎて、思わず足下に目を向ける。
「ニバリスさん。
あなたは権力が苦手であることは承知しています。
金でどうこうされるのも、嫌そうです。
けれど、もっと辛いと考えているのは、
運命と結ばれるという当然の価値観通りに
生きていけないこと。
忘れられないこと。
……愛する運命が、運命であることを認識してくれないこと。
それは、きっと何よりも辛くて苦しい。
君は、ずっとそんな想いを抱えて生きていくのですか?」
唐突に……。
(でも……、そう、その通り……)
私のひっそりとした生き方は、確かに。
「はい……。
そうですね。私は……、
運命だとしても……」
顔を上げて、苦し紛れに見つめてやると、彼もまたぐっと込み上げた顔をしてみせた。
整った顔立ちの美男子だというのに、その青い瞳がいけない。
どこもかしこも、実は違うというのに。
微妙に異なる虹彩を持つヴィクリス様と、晴天のごとく突き抜けた青瞳を持つ第三王子が重なる。
(私の……運命の、初恋の人は……、
こんなにも意地悪じゃあない……)
苦し紛れではあったが、心の中で吐露された真実は私の中に嵐を巻き起こした。
「生き方を変えられる、わけがない」
「いいや、変えられる」
ヴィクリス様ははっきりと物申してきた。
ついでとばかりに歪む私の視界の中を思いっきり飛び込んできて、背後にある壁に両手を突き……乗り出してきた。
「っ、ぁ……」
狭い馬車内かつ、唐突な動きに私は固まった。
王子様は私の目前に、いる。
ヴィクリス様の腕に覆われていて、まるで囲われているかのようだった。
「だからこそ、俺は改革してきたんです。
君がいつまでもそこにいることを、案じて。
俺が年下だったとしても君は手を伸ばさなかった。
運命だって、分かっていたくせに……」
耳元にて呪詛のように囁かれるので、思わず顔を背けた。
「……そうやって、距離を置かれるのは昔からだった。
君は……、遠くに行きたがる」
「ひっ」
低い声が、また近くなった。
「だからこそ、……俺は、
君が逃げたいと思われないように、
せめて立ち止まるように、
誠意を示したい」
瞬き、静かにしていると。
すぐに解放され、私は席に戻りつつあるヴィクリス様を呆気にとられて眺め続けた。
彼は、つい今しがたの怖い雰囲気を取り払い、いつもの先輩の顔に戻った。
「……ヴィクリス様」
「ごめんね。
怖い思いを、させて。
でも……俺にとって君はいつまでたってもキラキラとしていて、
まるで奇跡のように輝いて見えるんです」
そう謝罪をする王子様だって、私には眩しく見える。
学院で初めて会った時から。
「……私だって……」
静寂に響く、頼りない女学生の声と、上級生の声と車輪。
馬車はしばらくして、ニバリス家に到着した。
その言葉は、間違いなく私を捕らえていた。
「な、何を言って……」
「動揺するのも無理はありません。
もう、分かっておられるのでしょう?」
う、と詰まる。
もはや尋問だ。
王子様の視線が強すぎて、思わず足下に目を向ける。
「ニバリスさん。
あなたは権力が苦手であることは承知しています。
金でどうこうされるのも、嫌そうです。
けれど、もっと辛いと考えているのは、
運命と結ばれるという当然の価値観通りに
生きていけないこと。
忘れられないこと。
……愛する運命が、運命であることを認識してくれないこと。
それは、きっと何よりも辛くて苦しい。
君は、ずっとそんな想いを抱えて生きていくのですか?」
唐突に……。
(でも……、そう、その通り……)
私のひっそりとした生き方は、確かに。
「はい……。
そうですね。私は……、
運命だとしても……」
顔を上げて、苦し紛れに見つめてやると、彼もまたぐっと込み上げた顔をしてみせた。
整った顔立ちの美男子だというのに、その青い瞳がいけない。
どこもかしこも、実は違うというのに。
微妙に異なる虹彩を持つヴィクリス様と、晴天のごとく突き抜けた青瞳を持つ第三王子が重なる。
(私の……運命の、初恋の人は……、
こんなにも意地悪じゃあない……)
苦し紛れではあったが、心の中で吐露された真実は私の中に嵐を巻き起こした。
「生き方を変えられる、わけがない」
「いいや、変えられる」
ヴィクリス様ははっきりと物申してきた。
ついでとばかりに歪む私の視界の中を思いっきり飛び込んできて、背後にある壁に両手を突き……乗り出してきた。
「っ、ぁ……」
狭い馬車内かつ、唐突な動きに私は固まった。
王子様は私の目前に、いる。
ヴィクリス様の腕に覆われていて、まるで囲われているかのようだった。
「だからこそ、俺は改革してきたんです。
君がいつまでもそこにいることを、案じて。
俺が年下だったとしても君は手を伸ばさなかった。
運命だって、分かっていたくせに……」
耳元にて呪詛のように囁かれるので、思わず顔を背けた。
「……そうやって、距離を置かれるのは昔からだった。
君は……、遠くに行きたがる」
「ひっ」
低い声が、また近くなった。
「だからこそ、……俺は、
君が逃げたいと思われないように、
せめて立ち止まるように、
誠意を示したい」
瞬き、静かにしていると。
すぐに解放され、私は席に戻りつつあるヴィクリス様を呆気にとられて眺め続けた。
彼は、つい今しがたの怖い雰囲気を取り払い、いつもの先輩の顔に戻った。
「……ヴィクリス様」
「ごめんね。
怖い思いを、させて。
でも……俺にとって君はいつまでたってもキラキラとしていて、
まるで奇跡のように輝いて見えるんです」
そう謝罪をする王子様だって、私には眩しく見える。
学院で初めて会った時から。
「……私だって……」
静寂に響く、頼りない女学生の声と、上級生の声と車輪。
馬車はしばらくして、ニバリス家に到着した。
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