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終章・女神
私は運命と、
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ヴィクリス様のご実家……王家から、婚約の申し出が来たのは彼が卒業した翌年のこと。
一般人が王族からのお手紙を無視することはできず、終始父は震えていたが、母は鷹揚と、
「あら、いいんじゃないかしら?
滅多にない良縁よ!」
と手を叩いて喜んでいた。
さまざまな葛藤が浮かぶ。間違いなく、面倒が多いはず。
「お姉ちゃん、王子様と結婚するの?
てことは、お姫様になるのね! すごーい!」
「いやぁ、どう考えても間違い……じゃないな、この名前は間違いなく、
妹の名前だ。ははぁ、王家も間違える時は間違えるんだなぁ。
インクの色が想像してたより濃くなりすぎて、ほら、
よくあるだろう? 追筆したりとか。
この紙はいかにもな高級紙だ。きっと失敗したんだろうな、
そしてそれを誤魔化したりして!
うーん許せん! このうっかりさんめ!」
「お兄、なんで小刻みに震えているの?」
手紙本体を持って右往左往している家族を尻目に、私は封筒の裏面を見遣る。
王家の紋だ。そしてそれは、ヴィクリス様の……。
(……念押し、ってやつ?)
まだ返事をしていないが身内はすっかり、受けるしかない、とばかり考えているようだ。
「で、でも王家の人間に嫁ぐのは……、
ちょっと勇気がいるよな……」
「ええー! ほらそこは愛の力で」
「相手はあのヴィクリス様だぞ?」
「……うーん、かっこいいし、
素敵だし、お金持ちだし……、
性格良いしお姉ちゃんのこと、
とても大事にしてくれるんじゃない?
お姉ちゃんのこと、いつも見守ってたし」
夢を、見ていた。
いつか私を愛してくれる人がいて、私も愛すると。
「で、どうするの? お姉ちゃん」
(……どうしようか)
あれから結論は出ない。私が頷かないので、そのうち家族はやきもきした。
「どうしよう、お姉ちゃんが落ち込んでいる」
「いつもの魔法馬鹿がなあ」
「魔法の練習ばかりして、ご近所でも悪目立ちしてたのに」
「静かだ……」
あれこれと騒がしい家の中だが、私は静かにただ待ち構えていた。
(返事を出さなければ、どうなるだろう?)
と。
あんなにも頭の良いヴィクリス様である、きっと私の想定外のことをしてくださるか、あるいは堂々と来られるのかもしれなかった。私の予想はいつも当たる。悲しいとわかっているくせに、悲しい道へと突き進んだ。後ろが気になるくせに、振り返ったりして。考えていた通り、彼は私を見つけることはできなかったが、最後の最後で発見してくださった。
(もし前世の私が生きていたら……、
嬉しくて、泣いていただろう)
できれば生きてるうちに……、歳をとったとしても、声をかけていただけたらそれだけで幸せだっただろう。遺髪が寄り添ってくれている、ただそれだけの事実が、ただの宿屋の娘を幸福を呼び戻した。
運命はそれだけじゃない。
美しい少女マドロラをある日見初めたが、前世が前世なだけに、尻込みをした。
長く仕えてくれていた執事にも、言われたな。マドロラと結婚、婚約しないのか、と。
歳が離れすぎていたし、何より選ばれることに臆病だった。
彼女の幸せを遠くから見つめて、それだけを楽しみにして。
(本当は、呼びたかった。貴女の名前を)
面と向かって会えなかったし、言葉にできなかった。
世界をまたにかけて旅をし、商談してきた商人だというのになあ。
(嫉妬は……複雑ではあったが……)
あっただろう、とは思う。
過去の出来事が重たくて、歳をとりすぎて、鈍くなった。
自らを守るためでもった。
心を護るのは私自身。
運命に乱され、辛い道を歩くのも私の選択。
自業自得、ともいえるが、時代でもあったし、そういうタイミングだった。
ただ、それだけ。
(誰も責められない)
確かに、選んでいるのだ。
選択肢がたった一つしかなくても。
消極的に希望した。
でも、今回ばかりは。
私自身で、選び取らねば。
そら、騒がしい足音がやってきた。ふたりぶん。
「お姉ちゃん、ヴィクリス様が!」
「やっぱり来たよ~、って、
まだ返事してなかったのかよ……」
私は苦笑しながら、窓辺にある椅子から立ち上がった。
外には、あの馬車が止まっている。
きっと、私の返事を待ち兼ねているのだ。
一般人が王族からのお手紙を無視することはできず、終始父は震えていたが、母は鷹揚と、
「あら、いいんじゃないかしら?
滅多にない良縁よ!」
と手を叩いて喜んでいた。
さまざまな葛藤が浮かぶ。間違いなく、面倒が多いはず。
「お姉ちゃん、王子様と結婚するの?
てことは、お姫様になるのね! すごーい!」
「いやぁ、どう考えても間違い……じゃないな、この名前は間違いなく、
妹の名前だ。ははぁ、王家も間違える時は間違えるんだなぁ。
インクの色が想像してたより濃くなりすぎて、ほら、
よくあるだろう? 追筆したりとか。
この紙はいかにもな高級紙だ。きっと失敗したんだろうな、
そしてそれを誤魔化したりして!
うーん許せん! このうっかりさんめ!」
「お兄、なんで小刻みに震えているの?」
手紙本体を持って右往左往している家族を尻目に、私は封筒の裏面を見遣る。
王家の紋だ。そしてそれは、ヴィクリス様の……。
(……念押し、ってやつ?)
まだ返事をしていないが身内はすっかり、受けるしかない、とばかり考えているようだ。
「で、でも王家の人間に嫁ぐのは……、
ちょっと勇気がいるよな……」
「ええー! ほらそこは愛の力で」
「相手はあのヴィクリス様だぞ?」
「……うーん、かっこいいし、
素敵だし、お金持ちだし……、
性格良いしお姉ちゃんのこと、
とても大事にしてくれるんじゃない?
お姉ちゃんのこと、いつも見守ってたし」
夢を、見ていた。
いつか私を愛してくれる人がいて、私も愛すると。
「で、どうするの? お姉ちゃん」
(……どうしようか)
あれから結論は出ない。私が頷かないので、そのうち家族はやきもきした。
「どうしよう、お姉ちゃんが落ち込んでいる」
「いつもの魔法馬鹿がなあ」
「魔法の練習ばかりして、ご近所でも悪目立ちしてたのに」
「静かだ……」
あれこれと騒がしい家の中だが、私は静かにただ待ち構えていた。
(返事を出さなければ、どうなるだろう?)
と。
あんなにも頭の良いヴィクリス様である、きっと私の想定外のことをしてくださるか、あるいは堂々と来られるのかもしれなかった。私の予想はいつも当たる。悲しいとわかっているくせに、悲しい道へと突き進んだ。後ろが気になるくせに、振り返ったりして。考えていた通り、彼は私を見つけることはできなかったが、最後の最後で発見してくださった。
(もし前世の私が生きていたら……、
嬉しくて、泣いていただろう)
できれば生きてるうちに……、歳をとったとしても、声をかけていただけたらそれだけで幸せだっただろう。遺髪が寄り添ってくれている、ただそれだけの事実が、ただの宿屋の娘を幸福を呼び戻した。
運命はそれだけじゃない。
美しい少女マドロラをある日見初めたが、前世が前世なだけに、尻込みをした。
長く仕えてくれていた執事にも、言われたな。マドロラと結婚、婚約しないのか、と。
歳が離れすぎていたし、何より選ばれることに臆病だった。
彼女の幸せを遠くから見つめて、それだけを楽しみにして。
(本当は、呼びたかった。貴女の名前を)
面と向かって会えなかったし、言葉にできなかった。
世界をまたにかけて旅をし、商談してきた商人だというのになあ。
(嫉妬は……複雑ではあったが……)
あっただろう、とは思う。
過去の出来事が重たくて、歳をとりすぎて、鈍くなった。
自らを守るためでもった。
心を護るのは私自身。
運命に乱され、辛い道を歩くのも私の選択。
自業自得、ともいえるが、時代でもあったし、そういうタイミングだった。
ただ、それだけ。
(誰も責められない)
確かに、選んでいるのだ。
選択肢がたった一つしかなくても。
消極的に希望した。
でも、今回ばかりは。
私自身で、選び取らねば。
そら、騒がしい足音がやってきた。ふたりぶん。
「お姉ちゃん、ヴィクリス様が!」
「やっぱり来たよ~、って、
まだ返事してなかったのかよ……」
私は苦笑しながら、窓辺にある椅子から立ち上がった。
外には、あの馬車が止まっている。
きっと、私の返事を待ち兼ねているのだ。
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