どうしよう、俺の公子様がXXに。

小夜時雨

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婚約者どの、帰宅

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 「失礼!
  客人がいる、と聞いたが……!」

 勢いよくスタイリッシュ帰宅を決めてきたフリードは、客間に一歩、踏み出した途端、想定以上の激しい怒りの顔をしてみせた。
その圧、強すぎる。鋭い眼力も相まって、髪の毛が逆立っているように見える。
 (あ、猫耳)
 そうだった、彼は猫科目の大型猫であった。
ニョキッ、と生えてる美青年の頭の猫耳。絶妙にシュールだ。

 「何をしている、離せ!」
 「うわっ」

 ぼさっとしている間に、フリードはその獣人らしい素早さを活かし、僕とルフスさんの繋がっていた手を大いに振り払った。のけぞった僕を婚約者どのは抱え込んでルフスさんから距離をとにかく稼ぎ、警戒心丸出しでものすごく怒っている。そう、怒っているのだ……。

 「リヒト」
 「は、はい!」
 
 羽交い締めは相手にしたこと幾星霜だが、自分が締め上げられるのは久しぶりかもしれない。
頭上から落ちてくるフリードの声には、苦渋が滲んでいる。

 「間男を連れ込むなど……。
  一体、何を考えている?」

 ぎゅうぎゅうにやや強めに締め上げられながら、僕は答えた。

 「ええと、フリードへのプレゼント?」
 「……は?」
 「具体的にいうと、夜のライフというか」
 「ライフ?」
 「その……全然、してないようだから」

 ーーーーしばらくお待ちください、状態になった婚約者どのは僕を抱え込みながら椅子に座って長考しはじめ、その合間に、椅子から転げ落ちていたルフスさんに対しては執事が、お座りください、と促していた。ごめん。気が利かなくて……。まさかここまでびっくりな態度をとるとは考慮外だったのである。
 (そりゃまあ、少しばかりは怒るかな、って思ったけど)
 
 ルフスさんを身請けした経緯を伝えると、逆立っていた毛は消え失せ、じとっとした目で見られ続けている。

 「あの……ごめん、突然でびっくりしたよね……」
 「その通りです」
 「うっ」

 慇懃無礼な敬語を使われている……。

 「ルフスさんにはね、その。
  フリードの夜のおとm」
 「は?」
 「ええとですね、夜の道具について相談しようと思っていて」

 本当は夜のお道具を買おうと思ったのが建前だし、あったらいいなあ、ぐらいで本音は、ローランの情報を得るためであったが、手段と目的がごっちゃになってしまった。
 (最終目的はお薬だったけど)
 ボールを放てばゴールへと、勢いはいいが、なかなか素直にいかないものである。

 「それでですね、フリードを楽しませようと、
  その相談をまずはしようと思ってたけど、
  本人を連れてきた方が手っ取り早いかと考え直したん」
 「リヒト」
 「はい!」

 にこ、と微笑むフリードの笑みが、黒い。
 怖い。
 僕ははじめて、公子様が公子様である理由がわかった。
 
 「まず、夜の世界の人身売買は契約の範囲内のことだから、
  ダメとはいわない。本当はなくしたいところだが、
  受け皿が消えると奥に仕舞い込まれる。
  なまじ、獣人らが一族総出でやってる場合が多いから、
  根無草になられても困るんだ。治安も悪くなる」
 「あ、うん……」
 「リヒトみたいな可愛い子はさらわれてしまいかねないから、ね……」
 
 ふぅ、とため息つきながら僕の頭に彼は自らの顎を乗せている。

 「フリードのほうが……」
 「まあ、何度も攫われそうにはなった過去はあるけど」
 「あ、ごめんなさい」
 「いや、別にいい。
  昔からそうだった。まあまあにあることだ、見目が良い獣人にとっては」

 そして、婚約者どのはそのなめらかな頬を、僕の頭頂部にぐりぐりとなすりつけてマーキングをし始めた。

 「……しかし、どうしてこう。
  君は可愛らしいんでしょう……」
 
 そうして、まだまだ、彼の猫耳は消えていない。

 「可愛くて可愛くて、たまに食べたくなる」
 

 
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