76 / 229
婚約者どの、帰宅
しおりを挟む
「失礼!
客人がいる、と聞いたが……!」
勢いよくスタイリッシュ帰宅を決めてきたフリードは、客間に一歩、踏み出した途端、想定以上の激しい怒りの顔をしてみせた。
その圧、強すぎる。鋭い眼力も相まって、髪の毛が逆立っているように見える。
(あ、猫耳)
そうだった、彼は猫科目の大型猫であった。
ニョキッ、と生えてる美青年の頭の猫耳。絶妙にシュールだ。
「何をしている、離せ!」
「うわっ」
ぼさっとしている間に、フリードはその獣人らしい素早さを活かし、僕とルフスさんの繋がっていた手を大いに振り払った。のけぞった僕を婚約者どのは抱え込んでルフスさんから距離をとにかく稼ぎ、警戒心丸出しでものすごく怒っている。そう、怒っているのだ……。
「リヒト」
「は、はい!」
羽交い締めは相手にしたこと幾星霜だが、自分が締め上げられるのは久しぶりかもしれない。
頭上から落ちてくるフリードの声には、苦渋が滲んでいる。
「間男を連れ込むなど……。
一体、何を考えている?」
ぎゅうぎゅうにやや強めに締め上げられながら、僕は答えた。
「ええと、フリードへのプレゼント?」
「……は?」
「具体的にいうと、夜のライフというか」
「ライフ?」
「その……全然、してないようだから」
ーーーーしばらくお待ちください、状態になった婚約者どのは僕を抱え込みながら椅子に座って長考しはじめ、その合間に、椅子から転げ落ちていたルフスさんに対しては執事が、お座りください、と促していた。ごめん。気が利かなくて……。まさかここまでびっくりな態度をとるとは考慮外だったのである。
(そりゃまあ、少しばかりは怒るかな、って思ったけど)
ルフスさんを身請けした経緯を伝えると、逆立っていた毛は消え失せ、じとっとした目で見られ続けている。
「あの……ごめん、突然でびっくりしたよね……」
「その通りです」
「うっ」
慇懃無礼な敬語を使われている……。
「ルフスさんにはね、その。
フリードの夜のおとm」
「は?」
「ええとですね、夜の道具について相談しようと思っていて」
本当は夜のお道具を買おうと思ったのが建前だし、あったらいいなあ、ぐらいで本音は、ローランの情報を得るためであったが、手段と目的がごっちゃになってしまった。
(最終目的はお薬だったけど)
ボールを放てばゴールへと、勢いはいいが、なかなか素直にいかないものである。
「それでですね、フリードを楽しませようと、
その相談をまずはしようと思ってたけど、
本人を連れてきた方が手っ取り早いかと考え直したん」
「リヒト」
「はい!」
にこ、と微笑むフリードの笑みが、黒い。
怖い。
僕ははじめて、公子様が公子様である理由がわかった。
「まず、夜の世界の人身売買は契約の範囲内のことだから、
ダメとはいわない。本当はなくしたいところだが、
受け皿が消えると奥に仕舞い込まれる。
なまじ、獣人らが一族総出でやってる場合が多いから、
根無草になられても困るんだ。治安も悪くなる」
「あ、うん……」
「リヒトみたいな可愛い子はさらわれてしまいかねないから、ね……」
ふぅ、とため息つきながら僕の頭に彼は自らの顎を乗せている。
「フリードのほうが……」
「まあ、何度も攫われそうにはなった過去はあるけど」
「あ、ごめんなさい」
「いや、別にいい。
昔からそうだった。まあまあにあることだ、見目が良い獣人にとっては」
そして、婚約者どのはそのなめらかな頬を、僕の頭頂部にぐりぐりとなすりつけてマーキングをし始めた。
「……しかし、どうしてこう。
君は可愛らしいんでしょう……」
そうして、まだまだ、彼の猫耳は消えていない。
「可愛くて可愛くて、たまに食べたくなる」
客人がいる、と聞いたが……!」
勢いよくスタイリッシュ帰宅を決めてきたフリードは、客間に一歩、踏み出した途端、想定以上の激しい怒りの顔をしてみせた。
その圧、強すぎる。鋭い眼力も相まって、髪の毛が逆立っているように見える。
(あ、猫耳)
そうだった、彼は猫科目の大型猫であった。
ニョキッ、と生えてる美青年の頭の猫耳。絶妙にシュールだ。
「何をしている、離せ!」
「うわっ」
ぼさっとしている間に、フリードはその獣人らしい素早さを活かし、僕とルフスさんの繋がっていた手を大いに振り払った。のけぞった僕を婚約者どのは抱え込んでルフスさんから距離をとにかく稼ぎ、警戒心丸出しでものすごく怒っている。そう、怒っているのだ……。
「リヒト」
「は、はい!」
羽交い締めは相手にしたこと幾星霜だが、自分が締め上げられるのは久しぶりかもしれない。
頭上から落ちてくるフリードの声には、苦渋が滲んでいる。
「間男を連れ込むなど……。
一体、何を考えている?」
ぎゅうぎゅうにやや強めに締め上げられながら、僕は答えた。
「ええと、フリードへのプレゼント?」
「……は?」
「具体的にいうと、夜のライフというか」
「ライフ?」
「その……全然、してないようだから」
ーーーーしばらくお待ちください、状態になった婚約者どのは僕を抱え込みながら椅子に座って長考しはじめ、その合間に、椅子から転げ落ちていたルフスさんに対しては執事が、お座りください、と促していた。ごめん。気が利かなくて……。まさかここまでびっくりな態度をとるとは考慮外だったのである。
(そりゃまあ、少しばかりは怒るかな、って思ったけど)
ルフスさんを身請けした経緯を伝えると、逆立っていた毛は消え失せ、じとっとした目で見られ続けている。
「あの……ごめん、突然でびっくりしたよね……」
「その通りです」
「うっ」
慇懃無礼な敬語を使われている……。
「ルフスさんにはね、その。
フリードの夜のおとm」
「は?」
「ええとですね、夜の道具について相談しようと思っていて」
本当は夜のお道具を買おうと思ったのが建前だし、あったらいいなあ、ぐらいで本音は、ローランの情報を得るためであったが、手段と目的がごっちゃになってしまった。
(最終目的はお薬だったけど)
ボールを放てばゴールへと、勢いはいいが、なかなか素直にいかないものである。
「それでですね、フリードを楽しませようと、
その相談をまずはしようと思ってたけど、
本人を連れてきた方が手っ取り早いかと考え直したん」
「リヒト」
「はい!」
にこ、と微笑むフリードの笑みが、黒い。
怖い。
僕ははじめて、公子様が公子様である理由がわかった。
「まず、夜の世界の人身売買は契約の範囲内のことだから、
ダメとはいわない。本当はなくしたいところだが、
受け皿が消えると奥に仕舞い込まれる。
なまじ、獣人らが一族総出でやってる場合が多いから、
根無草になられても困るんだ。治安も悪くなる」
「あ、うん……」
「リヒトみたいな可愛い子はさらわれてしまいかねないから、ね……」
ふぅ、とため息つきながら僕の頭に彼は自らの顎を乗せている。
「フリードのほうが……」
「まあ、何度も攫われそうにはなった過去はあるけど」
「あ、ごめんなさい」
「いや、別にいい。
昔からそうだった。まあまあにあることだ、見目が良い獣人にとっては」
そして、婚約者どのはそのなめらかな頬を、僕の頭頂部にぐりぐりとなすりつけてマーキングをし始めた。
「……しかし、どうしてこう。
君は可愛らしいんでしょう……」
そうして、まだまだ、彼の猫耳は消えていない。
「可愛くて可愛くて、たまに食べたくなる」
24
あなたにおすすめの小説
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....
不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!
タッター
BL
ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。
自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。
――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。
そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように――
「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」
「無理。邪魔」
「ガーン!」
とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。
「……その子、生きてるっすか?」
「……ああ」
◆◆◆
溺愛攻め
×
明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け
【本編完結】才色兼備の幼馴染♂に振り回されるくらいなら、いっそ赤い糸で縛って欲しい。
誉コウ
BL
才色兼備で『氷の王子』と呼ばれる幼なじみ、藍と俺は気づけばいつも一緒にいた。
その関係が当たり前すぎて、壊れるなんて思ってなかった——藍が「彼女作ってもいい?」なんて言い出すまでは。
胸の奥がざわつき、藍が他の誰かに取られる想像だけで苦しくなる。
それでも「友達」のままでいられるならと思っていたのに、藍の言葉に行動に振り回されていく。
運命の赤い糸が見えていれば、この関係を紐解けるのに。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
異世界転移した先は陰間茶屋でした
四季織
BL
気が付いたら、見たこともない部屋にいた。そこは和洋折衷の異世界で、俺を拾ってくれたのは陰間茶屋のオーナーだった。以来、俺は陰間として働いている。全くお客がつかない人気のない陰間だけど。
※「異世界に来た俺の話」と同じ世界です。
※謎解き要素はありません。
※ミステリー小説のネタバレのようなものがありますので、ご注意ください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる