どうしよう、俺の公子様がXXに。

小夜時雨

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置いてけぼりにした僕

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 小領地五家、の先端領地の中心部。
町といってもいい規模だが、獣人が集まって暮らしている人家の群れをようやく見つけてホッとする。

 「お宿はここになります」

 ルフスさんが率先して、必要な荷物を宿へと運んでくれていた。
 フリードは出迎えにきたという領主代行と立ち話をしていた。
 ここの領主は王都にいるとのこと。なので、その代わりとして代行が来てくれて、あれこれと話をしているようだ。変わった情報がないか、新しい話はないか。軽い立ち話で済ませられる内容なのかは謎だが、公子様のご迷惑にならないよう先に行かせてもらおう。

 宿はごく一般的な、誰でも休めるような宿だ。
周りにあるお宿と比べるとこじんまりとしているとはいえ、年季の入った屋根や木造りが古めかしくも威厳のある佇まいだ。
 ルフスさんがほへーと立ち尽くしている僕のそばにそそそ、とやってきて、

 「なんでも、ここはこのあたりで一番古く、
  格式のあるお宿だそうです」
 「へえ」
 「貴族御用達、ってところだそうで」
 
 あーなるほど。
 護衛も守りやすくて、ほどほどに馬車も横付けできる。お馬さんも休めて安心だ。
うん。確かに。

 じっとフリードの様子を伺ってみるが、まだまだ話は長いようだから休ませてもらおう。
旅は長い。

 (婚約者とはいえ、まだ顔見せとか披露はしてないし)

 貴族社会にはね、まだだから。
 お気楽に過ごそう。


 

 サア、と吹き抜ける涼しげな風が2階のこの部屋にまで入り込む。
大開の窓からは緑の匂いと、それと遠く連なる山脈がいまだに顔を覗かせてみえる。
 
 「あーど迫力」
 「本当ですねぇ」

 相変わらず、あの山脈はいつまでも近くて遠い。
地図上では山から離れてようやく目的地なんだよなあ……遠いな……。
 ふう、と思わず嘆息していると、馴染みのある足音が近づいてくる。
ようやくフリードが戻ってきた。ルフスさんが一礼し、入れ替わりで立ち去っていく。

 「すまない、時間がかかってしまって……。
  リヒ、疲れましたか?」
 「それは僕のセリフだよ」

 短時間とはいえ、ずっと馬車に揺られていたというのにまた頭を使って会話をしなきゃならないフリード。さすがすぎる彼を見ていると、今後、僕にこれらが務まるかどうか……うう。
 フリードの細長い指が、僕の耳に髪の毛をかけてくれていた。風で乱れていたらしい。

 「フリード、すごいね本当。
  お疲れさまでした」
 「え、ええ、ありがとうございます……?」
 
 不思議そうに傾げているが、本人は当たり前すぎて自覚なし。
きょとんとしている美しい顔を眺めていると、

 「フリードリヒ様」

ルフスさんが、慌てた様子で話しかけてきた。

 「どうした」
 「申し訳ございません、急遽判明したそうです。
  お部屋がちょうどひとつしかないとのこと。
  リヒト様とご一緒、ということでよろしいでしょうか?」
 「えっ」

 (普通に婚姻前だから別だと思ってたけど……)
 男同士とはいえ。ごほん、とした咳はフリードからだ。

 「そ、そうか……俺は構わないが、リヒは……」
 
 ちら、と視線を投げかけられ、ルフスさんからは頷いてほしいビームが炸裂する。
いずれにせよ選択肢はないし……。

 「うん。別に構わないよ」
 「あ、ありがとうございます!
  この不手際、申し訳ございませんでした」
 「構わない。
  おそらく、急に伝達したから、なのだろう。
  よくあることだ」
 
 (よくある……?)
 僕が訝しげな視線でフリードを見つめていると、彼は苦笑して、

 「ふ、休憩所はここしかない、とか、
  手洗い場はここだけ、とかな。
  ままにあったこと、ただそれだけのこと」
 「うわあ」

 それ夜会の……とか。今までのこと……?
僕の事情を把握した顔をみてとり、過去にあったことだと彼は微笑んだ。

 「無論、子供の頃もあった。
  人攫いの常套句だった……。
  リヒトも、気をつけてください、本当に」
 「僕は大丈夫」

 連れ込まれないから。

 「僕はむしろ連れ込むタイプだし」
 「ふふ……確かに。
  ……頼もしかった……」

 (今、彼は何を想像しているのだろう……)
 僕は思ったが、どこか気恥ずかしそうに両手で己の両頬を触り思い出している途中なので、ルフスさんに今日の献立を聞き出すことにした。旅の醍醐味!!
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