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スパイ包囲網は着々と
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「草って?」
「隠密のこと、ですね、リヒト」
(スパイ、ってことか)
「え、もしかしてあちこちに、隠密、放ってるの?」
「そうです」
(忍者!?)
よく映画やらドラマで見る、敵の中に忍ばせるやつだ。
前世の記憶が一瞬で蘇ってしまった。なんというサツバツな空気なんだろう。挨拶は大事だ。いや、なんだろうこの記憶は。
「……へ、へえー」
「おや、信じてないようだね、リヒ」
「え、えーと。まあ……」
目が泳ぐ。
なんたって、獣人なんだもの。我々は。
(本性に行動が囚われる種族だし……)
馬車の中で見渡す限りの世界はなんとも、山が離れていく景色となっていて大変結構だが、フリードからの視線は僕に吸い付いてしまっていて距離をとってはくれない。
ごくり、と唾を飲み込む。
「あの、フリード。
そんな知能を持つ獣人、っているの?」
「……いますよ、一応」
「いるんだ」
「ええ」
「……本当?」
「本当です」
想像できない……。
記録を残すことすら近代でのことなのに……。
長い沈黙が馬車の中を支配したが、僕の頭の中では、ぐるぐると回る鳥がいた。
時々際どい動きでもって、公園を闊歩する集団鳥類。時々糞をする。鳴き声がぽっぽ。
「……え、まさか、鳩?」
「……」
僕の答えにフリードからの視線が、外れた。
「えええ、嘘でしょ?」
「……遺憾ながら、本当です。
………………昔ながらの、
商売なのですよ、あのグアラン家の」
「そういえば……情報を扱ってるって」
なるほど。
……確かに、鳩ならば……。
「どこにでも忍べるし、飛べるね」
「その通り。
あれは、どこにでも擬態可能ですから。
……もちろん、鳩以外にもいますが、
これ以上は……守秘義務がありますので、
リヒ、すみませんが」
「え、あ、うん」
ローラン・グアランが僕と取引しているので、公子様も僕のために答えることにしたのだろう。
「……ありがとう、フリード」
「いえ」
(しかし、意外と……)
もしかして、あの鳩の一族が落ちぶれる身にされたのって……。
(王宮のいざこざに、ただ巻き込まれただけじゃなくて、
あくまでも可能性だけど)
うーん。
(けど、これ以上は僕にはどうしようも想像することしかできないし)
ちら、と疑問の視線を投げかけると、フリードは困った顔をしながらも器用に微笑んだ。うっ。
「これ以上はお答えできかねますが、
万が一、事態が進展するようであれば、
またお伝えすることもありましょう」
エンバス領土に入った時期が時期なのか、ずいぶんとどんよりな雲が広がっている。
灰色で、かつ、僕にとっては動きやすい薄暗さだが、なんともいいようのない退廃的な空気が漂っている。そう、エンバスの端に入ったのだ。
「いないね、獣人」
僕は窓辺から見渡す限りの荒野を眺めた。
「……本当に、あと少しでエンバスの領都につくの?」
畑、はあるようだが、人の気配はない。
「耕作地は領土の境目で概ね作られている」
「え、そうなんだ」
「特に湖の近辺に。
エンバスとグリューネグの境目には湖がある。
肥沃な土地なので、そこで放牧や農耕を行っている」
「ほー」
フリードリヒの公子らしい蘊蓄(うんちく)を披露されながら、僕は何もない、ただ歩きやすい道としかいいようのない舗装地をドナドナと進んでいくのを、なんとも嫌な気配を感じ取りながらも、ドキドキとした気持ちを持て余しそうになる。緊張? いや、これは武者ぶるい、かもしれなかった。
……そうだ、よく見れば。
あの道の向こう側、急峻な曲がり角を越えればどうやら獣人の気配がするようだ。
手にそれぞれ持ち合わせがあるらしい。まるで、出迎えにきたかのような、それ。
(木立がないから、こそ)
彼らの動きが手に取るようにしてわかる。
僕は、ひっそりと口の端を上げて腕を振るうチャンスがきたと舌なめずりをする。
うん。これは……。
(食前酒だ)
「隠密のこと、ですね、リヒト」
(スパイ、ってことか)
「え、もしかしてあちこちに、隠密、放ってるの?」
「そうです」
(忍者!?)
よく映画やらドラマで見る、敵の中に忍ばせるやつだ。
前世の記憶が一瞬で蘇ってしまった。なんというサツバツな空気なんだろう。挨拶は大事だ。いや、なんだろうこの記憶は。
「……へ、へえー」
「おや、信じてないようだね、リヒ」
「え、えーと。まあ……」
目が泳ぐ。
なんたって、獣人なんだもの。我々は。
(本性に行動が囚われる種族だし……)
馬車の中で見渡す限りの世界はなんとも、山が離れていく景色となっていて大変結構だが、フリードからの視線は僕に吸い付いてしまっていて距離をとってはくれない。
ごくり、と唾を飲み込む。
「あの、フリード。
そんな知能を持つ獣人、っているの?」
「……いますよ、一応」
「いるんだ」
「ええ」
「……本当?」
「本当です」
想像できない……。
記録を残すことすら近代でのことなのに……。
長い沈黙が馬車の中を支配したが、僕の頭の中では、ぐるぐると回る鳥がいた。
時々際どい動きでもって、公園を闊歩する集団鳥類。時々糞をする。鳴き声がぽっぽ。
「……え、まさか、鳩?」
「……」
僕の答えにフリードからの視線が、外れた。
「えええ、嘘でしょ?」
「……遺憾ながら、本当です。
………………昔ながらの、
商売なのですよ、あのグアラン家の」
「そういえば……情報を扱ってるって」
なるほど。
……確かに、鳩ならば……。
「どこにでも忍べるし、飛べるね」
「その通り。
あれは、どこにでも擬態可能ですから。
……もちろん、鳩以外にもいますが、
これ以上は……守秘義務がありますので、
リヒ、すみませんが」
「え、あ、うん」
ローラン・グアランが僕と取引しているので、公子様も僕のために答えることにしたのだろう。
「……ありがとう、フリード」
「いえ」
(しかし、意外と……)
もしかして、あの鳩の一族が落ちぶれる身にされたのって……。
(王宮のいざこざに、ただ巻き込まれただけじゃなくて、
あくまでも可能性だけど)
うーん。
(けど、これ以上は僕にはどうしようも想像することしかできないし)
ちら、と疑問の視線を投げかけると、フリードは困った顔をしながらも器用に微笑んだ。うっ。
「これ以上はお答えできかねますが、
万が一、事態が進展するようであれば、
またお伝えすることもありましょう」
エンバス領土に入った時期が時期なのか、ずいぶんとどんよりな雲が広がっている。
灰色で、かつ、僕にとっては動きやすい薄暗さだが、なんともいいようのない退廃的な空気が漂っている。そう、エンバスの端に入ったのだ。
「いないね、獣人」
僕は窓辺から見渡す限りの荒野を眺めた。
「……本当に、あと少しでエンバスの領都につくの?」
畑、はあるようだが、人の気配はない。
「耕作地は領土の境目で概ね作られている」
「え、そうなんだ」
「特に湖の近辺に。
エンバスとグリューネグの境目には湖がある。
肥沃な土地なので、そこで放牧や農耕を行っている」
「ほー」
フリードリヒの公子らしい蘊蓄(うんちく)を披露されながら、僕は何もない、ただ歩きやすい道としかいいようのない舗装地をドナドナと進んでいくのを、なんとも嫌な気配を感じ取りながらも、ドキドキとした気持ちを持て余しそうになる。緊張? いや、これは武者ぶるい、かもしれなかった。
……そうだ、よく見れば。
あの道の向こう側、急峻な曲がり角を越えればどうやら獣人の気配がするようだ。
手にそれぞれ持ち合わせがあるらしい。まるで、出迎えにきたかのような、それ。
(木立がないから、こそ)
彼らの動きが手に取るようにしてわかる。
僕は、ひっそりと口の端を上げて腕を振るうチャンスがきたと舌なめずりをする。
うん。これは……。
(食前酒だ)
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