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第2部 大帝国のヤンデレ皇子に囚われたりなんてしない!
第13章 アリーシャ、皇子とデートする
「……本当に私だと分からないようですね。町民からこのようにフランクな扱いをされたのは初めてです。新鮮ですね……」
町民エリアに下り、屋台で適当に買い食いをしてブラつく。
実を言うとデートの経験が全く無いので、縁日で創君と一緒に出店を回りまくった時のような感じになってしまったが、庶民のデートを知らないクリスティアーノが相手だ。まぁ、これで良いだろう。
「町の人たちも、まさか皇子がこんなカッコでデートしてるとは思わないでしょ。さっきのオジさんも『兄ちゃん、皇子様によく似てるねー』とか言ってたけど、全然疑ってなかったし」
「……町の人々が私のことをあんなに好意的に見てくれているとは、知りませんでした……」
屋台で買ったホットドッグに似たパンに視線を落とし、しみじみとクリスティアーノが言う。
彼に町の人たちの "皇子" に対する評判を聞かせるのが目的だから、そこは意図的に話を振っていった。
私はクリスティアーノを愛してあげられないけど、既に彼のことを愛している町の人たちの反応を見れば――自分が誰かから愛されているのだということを知れば、歪んでしまった心を変えられるかも知れない。
美味しいホットドッグ風パンを貪りながら、私はクリスティアーノを注意深く観察する。
これまでの "いかにも皇子様" な完璧笑顔や、私を監禁してからの病んだ表情に比べたら、だいぶ年相応の素直な顔を見せてくれるようになった気がするが……。
……それにしても、このパンおいしい。
お城の高級料理も悪くないけど、私にはやっぱりこういうファーストフードとかファンクフードとかB級グルメ的なモノの方が合ってる気がするなー……。
「あら?リーシャさんじゃない。ひょっとしてデート?って言うか、ウッソ、やだ。彼氏サン、クリスティアーノ様に似てない!?」
「あれ、チェリーちゃん。こんな所で何してるの?ひょっとしてまた迷子?」
ちょうど良いところにチェリーが通りかかった。
チェリーは食い入るようにクリスティアーノの顔を凝視してくる。
「リーシャさんったら、どこでこんな逸材を見つけてきたのよ!? あの……彼氏さん、お名前は……?」
ズルい!と言いたげな顔で私を見た後、チェリーは恥じらう乙女の表情でクリスティアーノの名を尋ねる。
困惑した顔で沈黙するクリスティアーノに代わり、私が偽名をでっちあげた。
偽名というか……元々私と創君の間での彼の通称名なのだが。
「この人はクリア。皇子に似てるけど、見ての通り、ただの小粋なタウンボーイよ。ねぇチェリーちゃん、もし良かったら、この人にもクリスティアーノ皇子への愛を語って聞かせてくれない?」
「え!? ちょっと、いきなり何言い出すのよー。こんなクリスティアーノ様とよく似た男子にそんなこと語るなんて、まるで愛の告白みたいじゃない!」
最初のうちこそ、そんな風にキャッキャと照れていたチェリーだったが、それから数分も経たないうちに私たちの隣にどっかり座りこんで熱弁をふるい始めた。
「クリスティアーノ様はもっと報われるべきなのよ!お父上からもお母上からも満足に愛を注いでもらえない孤独の中、それでも曲がることなく皇子の務めを必死に頑張ってこられたのだもの!」
今日もチェリーの話は情熱的だった。熱が入り過ぎて、今にも身を乗り出し、クリアの手を握り締めそうな雰囲気だ。
話を聞くクリアは……何だか不思議な表情をしていた。
目からウロコが落ちたような……悪い夢から覚めたような……それでいて、どこか泣きそうな表情にも見える。
「あっ、いっけなーい。さすがにもう行かないと、店の皆に怒られちゃうわ」
語るだけ語り尽くして満足したらしいチェリーがそう言ってその場を離れても、クリアはしばらく動かなかった。
私は声を掛けず、黙ってその様子を見守る。
「……こんなにも、私のことを知ってくれている……想ってくれている人が、いたのですね。私は今日までその存在を知らず、想ったことも考えたこともなかったと言うのに……」
ぽつり、とクリアがつぶやく。とても重いつぶやきだった。
「皇子として、次期皇帝として頑張っていると、彼ら、彼女らは私を褒めてくれる。しかし私は、ただ理想化された皇子像をなぞっていただけ……。皇帝になるということは、彼ら、彼女らを守っていくということでもあるのに……それを全く、考えてこなかった……」
これは……思った以上に効果があったようだ。
クリアは顔を覆い、自分自身への疑問を投げかける。
「私は、今まで何を考えて生きてきたのでしょう……」
……どうしよう。話が思っていたより重くなり過ぎて、私の手に負えなくなってきた気がする。
「えっと……えっとね……だったら、これから国民のことを大事に想う愛ある皇帝を目指したらいいんじゃないかな」
我ながら「軽いなー」と思いながらも、精一杯のアドバイスを口にする。
その時、ふと視界の端を何か見覚えのある影が横切った。
無意識に目を動かしてその正体を確認し、私は思わず叫びそうになった。
「……レッド!? どうしてココに!?」
町民エリアに下り、屋台で適当に買い食いをしてブラつく。
実を言うとデートの経験が全く無いので、縁日で創君と一緒に出店を回りまくった時のような感じになってしまったが、庶民のデートを知らないクリスティアーノが相手だ。まぁ、これで良いだろう。
「町の人たちも、まさか皇子がこんなカッコでデートしてるとは思わないでしょ。さっきのオジさんも『兄ちゃん、皇子様によく似てるねー』とか言ってたけど、全然疑ってなかったし」
「……町の人々が私のことをあんなに好意的に見てくれているとは、知りませんでした……」
屋台で買ったホットドッグに似たパンに視線を落とし、しみじみとクリスティアーノが言う。
彼に町の人たちの "皇子" に対する評判を聞かせるのが目的だから、そこは意図的に話を振っていった。
私はクリスティアーノを愛してあげられないけど、既に彼のことを愛している町の人たちの反応を見れば――自分が誰かから愛されているのだということを知れば、歪んでしまった心を変えられるかも知れない。
美味しいホットドッグ風パンを貪りながら、私はクリスティアーノを注意深く観察する。
これまでの "いかにも皇子様" な完璧笑顔や、私を監禁してからの病んだ表情に比べたら、だいぶ年相応の素直な顔を見せてくれるようになった気がするが……。
……それにしても、このパンおいしい。
お城の高級料理も悪くないけど、私にはやっぱりこういうファーストフードとかファンクフードとかB級グルメ的なモノの方が合ってる気がするなー……。
「あら?リーシャさんじゃない。ひょっとしてデート?って言うか、ウッソ、やだ。彼氏サン、クリスティアーノ様に似てない!?」
「あれ、チェリーちゃん。こんな所で何してるの?ひょっとしてまた迷子?」
ちょうど良いところにチェリーが通りかかった。
チェリーは食い入るようにクリスティアーノの顔を凝視してくる。
「リーシャさんったら、どこでこんな逸材を見つけてきたのよ!? あの……彼氏さん、お名前は……?」
ズルい!と言いたげな顔で私を見た後、チェリーは恥じらう乙女の表情でクリスティアーノの名を尋ねる。
困惑した顔で沈黙するクリスティアーノに代わり、私が偽名をでっちあげた。
偽名というか……元々私と創君の間での彼の通称名なのだが。
「この人はクリア。皇子に似てるけど、見ての通り、ただの小粋なタウンボーイよ。ねぇチェリーちゃん、もし良かったら、この人にもクリスティアーノ皇子への愛を語って聞かせてくれない?」
「え!? ちょっと、いきなり何言い出すのよー。こんなクリスティアーノ様とよく似た男子にそんなこと語るなんて、まるで愛の告白みたいじゃない!」
最初のうちこそ、そんな風にキャッキャと照れていたチェリーだったが、それから数分も経たないうちに私たちの隣にどっかり座りこんで熱弁をふるい始めた。
「クリスティアーノ様はもっと報われるべきなのよ!お父上からもお母上からも満足に愛を注いでもらえない孤独の中、それでも曲がることなく皇子の務めを必死に頑張ってこられたのだもの!」
今日もチェリーの話は情熱的だった。熱が入り過ぎて、今にも身を乗り出し、クリアの手を握り締めそうな雰囲気だ。
話を聞くクリアは……何だか不思議な表情をしていた。
目からウロコが落ちたような……悪い夢から覚めたような……それでいて、どこか泣きそうな表情にも見える。
「あっ、いっけなーい。さすがにもう行かないと、店の皆に怒られちゃうわ」
語るだけ語り尽くして満足したらしいチェリーがそう言ってその場を離れても、クリアはしばらく動かなかった。
私は声を掛けず、黙ってその様子を見守る。
「……こんなにも、私のことを知ってくれている……想ってくれている人が、いたのですね。私は今日までその存在を知らず、想ったことも考えたこともなかったと言うのに……」
ぽつり、とクリアがつぶやく。とても重いつぶやきだった。
「皇子として、次期皇帝として頑張っていると、彼ら、彼女らは私を褒めてくれる。しかし私は、ただ理想化された皇子像をなぞっていただけ……。皇帝になるということは、彼ら、彼女らを守っていくということでもあるのに……それを全く、考えてこなかった……」
これは……思った以上に効果があったようだ。
クリアは顔を覆い、自分自身への疑問を投げかける。
「私は、今まで何を考えて生きてきたのでしょう……」
……どうしよう。話が思っていたより重くなり過ぎて、私の手に負えなくなってきた気がする。
「えっと……えっとね……だったら、これから国民のことを大事に想う愛ある皇帝を目指したらいいんじゃないかな」
我ながら「軽いなー」と思いながらも、精一杯のアドバイスを口にする。
その時、ふと視界の端を何か見覚えのある影が横切った。
無意識に目を動かしてその正体を確認し、私は思わず叫びそうになった。
「……レッド!? どうしてココに!?」
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