GROUND ZERO

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Act.2 硝子瓶の落とし子達

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「ああ、やっぱデカいヤマをこなした後ってのは気分良いよな…今なら誰にだって優しくなれる気がする」
教団から多額の報酬を受けて目先の不安が無くなった山猫は、手元に保管している記憶メディアを読み漁る生活に浸かっていた。
「あん?もしかしてこの画像はこの前のやつと繋がるんじゃあないの…?確か熊さんの所で見せて貰ったメモリーに…」
欠けた記憶同士を擦り合わせて継ぎ接ぐ、行為の有用さをさて置くくらいには夢中になれる彼の唯一の趣味と言えた。
「猫さん!猫さんは居るかいッ!」
突如、焦りを色濃く浮かべた年配の男が部屋に飛び込んで来た。回収業者の熊と呼ばれる男。山猫の口から自然と名前が漏れるぐらいには二人の付き合いは長い。
「あらま、どったのよ熊さん?今丁度そっちにお邪魔しようかと思ってたのに鳩が核弾頭喰らったみたいに青褪めちゃってさ」
「どうしたもこうしたもどうしようもねえ事になっちまって…」
「熊さん…?」
「この前、同業の連中を連れて第二区画をほじくり回してたんだがよぉ…」
全てが一度崩壊し、かつての世界の砕片で埋め尽くされたこの地上において、有用な物であれば何でも拾い集め生計を立てている回収業者達が、肉片となって同業者に回収されるという事件が立て続けに起こっていた。運良く生きて帰った者達は皆、口を揃えてこう言う。
「瓦礫の化物と踊る女を見た―」と。



………



「しっかしだよ、熊さんも気の毒にな…せっかく始めた第二区画の回収業もようやく軌道に乗ってこれからって所でさァ」
マーケットで出回っている安物の固形食糧を手にし、山猫は淡々と続ける。
「俺を含めて同業の仲間達とはさ、肌色の多い桃色の画像を共有し合う仲だったのになー」
「誤解の無い様にハッキリ言うわ。女性の立場からはあまり同情出来ないのだけれど?」
それに対して、腕はさして取り乱す事も無く何時もの調子で返す。
「…連中もこうして情けを掛けられるより、酒でもひっかけた方が喜ぶ性質だったわな」
「……」
「まあ、故人の事を悪く言うもんじゃねぇか…」
受けの悪さを察して、山猫は話題を引っ込めようとした…その時、腕が話を切り出す。
「山猫。もう数年前の話になるのだけど…私の事をひどく雑に開放してくれた時、貴方は研究施設の跡地にあった資料を全部私にくれたわよね?」
「ん…ああ、あの記録はお前の物だと思ったからな。何でそんな昔の話が今出て来るのよ?」
腕はくたびれた数枚の資料を山猫の前に広げて見せた。
「これ、見て分かる―?」
「見て分かる様ならお前をもっと性格の良い女に作り換えて幸せに暮らしてるよ」
「下らない冗談はさておき、似てるのよ」
「…あ?」
「さっきの、熊の話に酷似した能力を持つ生体兵器の記録がその中にあったの。研究は途中で別の施設に移行したらしくて、このデータからは概要くらいしか分からないのだけれど」
「それじゃあ…回収業者達が見た〝瓦礫の化物と踊る女〟ってのはお前と同じ…」
「おそらく、人工進化促進研究機関絡みの話ね。好き勝手に暴れ回っている不出来な妹を躾に行くべきなのかしら」
腕の手元に置かれた資料には仰々しくこの様に表記されていた。
人工進化促進研究機関生体兵器第四号、旋毛型つむじがたと―



………



普段の買い出しと、例の騒ぎに関しての情報収集も兼ねて、山猫はマーケットにある行きつけの食肉店に顔を出していた。
「あい、何時もの出土品。レシピ本が結構有ってさ…新メニューの参考にでもしてよ」
「はい、何時もの変異生物の切れっ端。ちょっとばかし色付けといたよ」
顔を合わせ、一瞬で事が済むくらいには此処の店主とは顔馴染みだ。
「最近さ、巷を賑わしてる〝アレ〟扱ってるかい?」
店主とはそういう関係だったので、こういう深く入り込んだ話も通じる。
「あー…ありゃあ確かに猫さん好みかもな。ちょっと待ってな、奥から持ってくるから」
「いやあ、話が早くて助かんね!」
胡散臭い表情には胡散臭い表情で頷き返してやる。
崩壊後の世界では挨拶よりも交わされるコミュニケーションだ。
「最近、凄腕の請負人じゃないと仕留められない様な変異生物の肉が揚がってくるのさ」
「へえ、今回の騒動と何か関係があるのかい?」
「そうだね。取り敢えずはこいつを見て貰おうかな…」
店主は透明の袋に梱包された、赤黒い肉片をゴトンッとカウンターの上に乗せた。
「被害に遭った活きの良い回収業者。食用で何個か出て行っちまったから、最後の二つさ」
「はぁ~、なんつーかスマートに斬るっていうよりかは〝潰す〟とか〝捩じ切る〟って類の芸風なのなァ…」
袋から覗く肉の断面を見て、山猫は相手の出方や技量を推察する。
「お世辞にも状態はあまり良くねえよ。なんつーか子供に滅茶苦茶に振り回された玩具って感じだ。同じ様なやり方で引き裂かれた変異生物の肉が第二区画で溢れ返ってる…」
「確かにこれは加減もルールも知らねえ餓鬼の遊び方だ。これ、何セット引き取ったよ?」
「ええと、ウチだけでも軽く十数セットは越えてんな。背筋が冷える話になるが、此処らのマーケット全体にはもっと出回ってるよ」
「とんでもねぇなァ…回収業者がマーケットを盛り上げる商材になってどうすんだよ」
「これだけ物騒な事件が続くと、アンタの所にまた、依頼が来るんじゃないか?」
「上手くやるってのは自分の目で見知り、良く聞き、時折見て見ぬフリをする事さ。こういうやべえのにはなるべく関わりたくないね。それに…」
「それに―?」
「熊には悪いが、今回は俺の相棒に譲ろうかなって、思ってるんだ」



………



瓦礫と瓦礫とがひしめき合っているこの地上の所々では、降り積もった世界の砕片で形成された山々が聳え立っている。その隙間を縫う様にして腕は歩く。
世界崩壊が起きてしまった今となっては地上の大部分は瓦礫の海で覆われてしまっており、居住区やマーケットでも無ければ、素人目には何処が何処なのか区別がつかない。世界が見せる表情は随分と削ぎ落とされてしまって、平坦且つ退屈な灰色で塗り潰された景色が、延々と伸びては続いていた。
「これは回収業者の間で出回っている第二区画の地図。それと私の持っている資料を照合すると、ある研究施設の跡地が浮かび上がって来る。事件はずっとこの第二区画で起こっていた…だとすると、未だ居るのでしょう?」
「あはっ」
腕の問い掛けに跳ねる様な高い声が応えた。
「そんな手掛かりなんて別に無くっても、お互いの事はお互いが良く分かっていた…そうじゃないの?腕お姉ちゃん」
全身を布で覆い、鮮やかな銀色の髪を垂らした少女が赤いラインの入った金属製の義手をカチャカチャと鳴らしながら現れた。
「そうね。ここ数日私の意識の海の中を許可無く走り回るモノが在った。自分と似た何かが目覚めたのを感じたわ、旋毛つむじ
「ふふっ、どうやら私達って一方的にお互いを良く知っている関係みたいだね」
旋毛と呼ばれた少女は二人の奇妙な関係を笑ってみせた。しかし腕の表情は変わらない。
「随分と派手に目立つ馬鹿げた事をしでかしたのね…寝相が悪いだけならまだしも頭も悪いのかしら?」
「…ふーん、そういう言い方するんだ。腕お姉ちゃんなら私の気持ちを分かってくれると思ったんだけどな…」
「冗談。同じ研究機関から生まれた生体兵器として私は貴方を止めに来ただけよ」
「そっか…それじゃあ寂しい事になっちゃうけど、仕方が無いのかな」
旋毛が彼女に向けてその手をかざすと小さな音と共に電流が走った。
そして、何かが目を覚ましたかの様に辺りの地面が大きな音を響かせて、軋み、蠢く。
大きな力の流れに乗せられて彼女の周辺に在った廃材が、まるで生き物の様にひとりでに絡み合い、腕の目の前で噛み合っていく。
そして、ゆうに二メートルはある巨大な従僕が旋毛を護る様に生成された。
(…記録の通り、私の能力と似ている。いや、この質量と複雑さは単純に上位互換…?)
「ふふっ、自分が楽する為にはさ、使えるモノは何でも使わないとね。どう?お姉ちゃんにこんな芸当が出来る?」
「殊勝な心掛けだわ―良いお嫁さんになれそうね」



正直な所、平静を装って馬鹿にしてみせる事しか出来ないくらいには旋毛の出力は腕の想定の域を遥かに超えていた。
「遊ぼうか?勝った方が負けた方を思い通りにするってルールで良いんだよね?」
生成された旋毛の従僕はその見た目とは裏腹にスピーディ且つ精密な動作で拳を振り上げて、腕に襲い掛かる。
「あはっ、駄目だよお姉ちゃん。そんなステップ踏んでるとこのコに踏み潰されるよ?」
戦いに入ってから腕が攻めに転じる事無く、避けに徹している事には理由があった。
(おそらく旋毛は私の兵器としてのコンセプト、能力を知っている。そこらの有象無象を片付ける様に〝貫手〟の優位だけで勝ちを攫う事はおそらく出来ない…!)
以前、山猫と戦闘訓練をした時、彼が掛けた言葉が脳裏をよぎる。
「腕、確かによ、お前の見た目と能力と性格を加味すると、奇襲が一番有効な戦法って所は分かるよ?だがね、能力が割れてる相手とは一体どう戦うつもりよ?」
(資料には、生体兵器旋毛型はベース体に三人の少女の血肉と意識を磨り潰したものを使用すると表記されていた。だとしたらこの構築物の中の各部位の反応を担っているのが三人分の意識で、それらを統合し、操作しているのが旋毛―?)
従僕の攻撃を捌きながら、腕は必死に考える。
これまで能力に頼り切っていた彼女が、あまり体験した事の無い戦いだった。
(旋毛が何処まで私の能力を知っているのかは分からない、そして私も旋毛の事を完全に把握してはいない、か―)
「かと言ってこのまま避け続けるのもジリ貧…全く、勝てるかどうか分からない戦いをやるってのは苛々するものね!」
瞬間、腕の能力がせきを切る。巨大な貫手が地面からせり上がり旋毛の従僕を目指して、一直線に伸びて行った。
「その〝貫手〟の能力は良く知っているよ、お姉ちゃん」
全て予想通りだ。自分の掌中から抜け出していない腕の行動に旋毛は嘲笑った。
「言葉だけででしょうッ…!」
腕が強く叫んだのと同時に、貫手はその形を大きく崩した。圧縮されていた肉が千切れる音と共に周囲には大量の血液が四散する。
その目くらましに乗じて、腕は廃材の影に飛び込んで姿を隠した。
「ふーん…ダンスの次は隠れんぼってワケ?お姉ちゃん、随分と自分勝手な遊び方だね」
「血を被せて従僕の視覚は殺した。あとは旋毛を介して操作する分、反応は大分遅れる筈…」
腕が再び力を籠める。周辺の物質を掻き集め、彼女の意識で制御する巨大な貫手を作り出す一撃必殺の能力。
(こちらの貫手は相手を仕留める最小限のものだけ生成出来れば良い…後は―)
腕は先程飛び散った屍肉を操って、再び巨大な貫手を生成し従僕に向けた。
「腕お姉ちゃんは旋毛の事を子供扱いしてるっ!こんな真っ直ぐなやり方でっ!」
旋毛は貫手を従僕で受け止めるプランを採った。
しかし、従僕が引き裂くまでも無く、貫手は崩壊し、肉と瓦礫とを従僕に被せただけだ。
「何、これ…?」
腕が生成したのはいわば、形を取っただけのダミー。
戸惑う旋毛に反対方向から本命である、腕本体が飛び込む形―
「―えっ?え…?そんなのっ?」
「旋毛―疲れたわ。終わりにしましょう」
発現する腕の能力。針の様な鋭い貫手が旋毛を目指して真っ直ぐに伸びて行く。
しかし、それが旋毛を捉えるよりも先に、地面から現れたもう一体の従僕が腕を掴んでいた。
「うっ、嘘でしょ…!」
「あはっ、従僕が一体だけだと思った?最初のが働き屋さんのローラ、今お姉ちゃんを掴んでるのは世話焼きのアンジェーリカ。横着者のエヴァはお昼寝中だよ」
虚を突いて旋毛から従僕を引き剥がすという戦法自体は間違っていない。
ただ、腕は旋毛の能力を読み違えていた。
ベース体に生体兵器三人分の意識を流し込んだ理由は〝三体までの従僕の使役を可能にする〟というコンセプトを満たす為だったのだ。
「勝った方が負けた方を思い通りにする…だったよね?」
旋毛の合図と共に、従僕が次第に力を籠めていく、肉を締め付け、骨が軋む音と共に腕の身体は圧されて、ゆっくりと砕かれていく…
「…ッ!あっ、ああッ…!」
「私ね、お姉ちゃんを殺す為にどう動いたらいいのか本気で考えたよ?お姉ちゃんは―?」
腕は薄れ行く意識の中で思考を巡らせる。
最後に、殺される前に何か出来る事は無いか…?
もう能力等微塵も働かないこんな状況に陥ってでも、自分の持っている優位。相手の抱えている不利は何かと考える。
相手は自分と同じプロジェクトチームが生んだ生体兵器の第四号。
三人の少女の血肉を磨り潰したベース体をサーキットとする。
(三人の少女、三つの意識…私にあって旋毛には無いもの…性能の向上を図る為に削ぎ落としたものッ…!)
「…ってるわよ?」
腕が最後に振れる武器はこれしかなかった。言葉は自然と無意識に、だだ漏れていた。
「え?」
「…ッ、アンタの、父親の事―知ってるわよ?」
「……!」
勿論そんな情報など腕は碌に持ち合わせてはいない。
ただ、持ち帰った研究資料に表記されていた一人の研究者の存在が、旋毛の中でどれだけのウェイトを占めているのか…腕はソレに賭けた。
普段の彼女からは考えられない無様な足掻き方、みっともない悪手だった。
「…パパの事を知っているのッ!」
だが、旋毛の表情からは笑みが、先程までの余裕が完全に消え失せていた。
「違う…!違うの!」
「今のは、私が言ってるんじゃないッ!!」
「パパに、会う?会いたがっているのは、私の中の…誰…なの?」
その瞬間、彼女の意識の中に散らばった断片的な記憶が何度もフラッシュバックした。
初めて見た太陽の記憶、同じ環境で育った友達、手を差し伸べる父親の姿、冷たく蒼い部屋、硝子一枚の向こう側に在る笑み、灼かれた研究資料、ブチ撒けられた赤の痛み…
そして、花があった。全てを都合良く塗り潰し、覆い隠そうとする、一面の花が―
それは旋毛自身のモノか擦り潰された三人の少女の記憶なのかは彼女達にも分からない。
ただ、腕の放ったその言葉、父親の存在は旋毛が成している意識の統合を崩すのに十分過ぎる程の威力を持っていた。
「パ…パ?パパ…!」
「あたしの?それとも、違うッ!!」
「誰の、誰が…パパをッ…したッ…うあ、うああッ…!」
意識が綻び、統率が取れなくなった旋毛はその場に崩れ込んだ。
腕を締め付けていた従僕の力は今では完全に緩んでしまっている。
たった一つの言葉でこの戦いの形勢は完全に逆転した。
「うあ、あ…やめて、やめてよ!嫌だよ、こんなのッ…」
従僕の掌中から解放された腕がよろめきながらも旋毛に詰め寄る。
「私は、私の身体だけをベースにした生体兵器よ…その違いが最後に出たわね」
「うっ、うう…こんなのっ、卑怯だよ。お姉ちゃんは…いきなり放り出された私の気持ちなんて何も知らない癖に!」
「いいえ、知っていたわ。貴方は父親の唯一の残り香を、この研究施設の跡地を守る為に回収業者や変異生物達を殺して廻っていた」
腕には理解っていた。旋毛がこの第二区画から決して動かなかった理由。
そしてそれを知った上で此処まで来た。
「腕お姉ちゃん―」
「私は貴方の殺しを止めに来たわ。でも、殺すなって類の道徳を説きに来た訳じゃない」
「…?」
「旋毛、殺しをやるのなら、人一人を殺すという選択を採るのなら、貴方自身が前に進む為の殺しをしなさい。此処に留まっていても何も始まらないわ」
「……」
「貴方のルールに従うのならば、勝った方が負けた方を思い通りにする―だったわね?」



………



「お、なんだ?何も言わずに飛び出したと思ったら帰ってたのかよ?」
マーケットの買出しから戻るなり、山猫は疲弊している腕に声を掛ける。
「で、例の妹には会えたのか?」
「ええ、淑女としてどう振る舞ったらいいのか手ほどきしてきたわ」
顔を突っ伏したままの腕が芯の通っていない声で応える。大分参っている様だった。
「さよか」
適当に相槌を打ちながら彼は食糧の備蓄をテキパキと所定の場所へと振り分けて行く。
「山猫…」
「ああ、分かるぜ。それはお願いする時のトーンだったよな」
「手放しに美味しいとは言えないアレを頂戴。今日は温める気すら起きないわ」
「しょうがねーなァ…ほらよっ!」
いつもの固形食糧を一つ手に取って、腕に向かって軽く放る。
上手くキャッチ出来ずに、彼女が取り乱す所までが一連の流れとして組み込まれている。
「…ありがと」
「…砕けてねえよな?固形食糧のままだよな?」
「山猫…相手の事をしっかりと考えて、どう動くのかって疲れるわね―」
「慣れねえ事をやってきたのね。しかしな。そういうの避けては通れねえ世の中だぜ?」
「…私、向いてない。勝てる戦い以外は、したくない―」
「そっか…ところで腕、コイツを見てくれ。俺のメモリーと熊さんのを合わせるとだな、こんな際どいエロ画像が出来るんだぜー?」
「…継ぎ接ぎ、か―」
「…れ?腕?いつもみたくよ、俺の頬をさ、引っ張たいてはくれねえの?」
「何処まで行けるのかは分からないけれど、後はあの子次第って所かしらね―」



………



「ゲームと違って、レベリングって一箇所に留まってちゃ駄目みたい…」
そう言って彼女は、ゲームーオーバーと表示された携帯ゲーム機の電源を落とす。
第二区画に広がる瓦礫の海、人工進化促進研究機関の跡地に取り残された少女が一人。
「ローラ、アンジェーリカ。エヴァは…こんな時も出て来ないの?仕方の無い子だなあ」
旋毛の声と共に、目の前には二体の従僕が生成された。
〝横着者のエヴァ〟の事は諦めて、彼女はそのまま話を続ける。
「此処から離れる事で、パパが残したメモリー、誰かに持って行かれちゃうかもしれないけれど…私、パパを探しに行っても良いかな?」
その言葉を受けて、旋毛の使役する二体の従僕〝働き屋さんのローラ〟と、〝世話焼きのアンジェーリカ〟はこくりと、小さく頷いた。
(パパがどんな形をしていたって構わない。肉体なんて無くっても、認識してくれる事で、意識で私の事を抱き締めて貰えるのなら―)
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