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Chapter 1
2
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2 守るべきもののため
その夜、散々暴れたせいか、ベッドに入るとすぐに眠った。
違う。あの人達は何も悪くなかったのに、キレた勢いでつい殴ってしまった。
私を散々いじめていたメンバーに重なって見えて、それに私は怯えて、狂ったように叫んでいた。
でも、力はこれっぽっちも入れてないし、ただ軽く突いただけだ。
本気でやったら、怪我どころでは済まないし、怪我なんてさせたくない。
何でもかんでも自分のせいにされて、その度にメンバーから暴力を受け、何度も病院に行っていた。
明日起きたら謝ろう。もうあの人格にならないように。
*
「麻莉ちゃん、麻莉ちゃん、朝だよ。起きれる?」
誰かの声で目を覚ました。目の前にいたのが、昨日殴ってしまったメンバーで、それに驚いて、勢いよく飛び起きた。
「ごめんね、そんなびっくりするなんて思わなくて。昨日の事、気にしてるかなって思って」
「あの…私こそいきなりあんな事して、本当にごめんなさい。私をいじめてた人と重なってしまって、だから…本当に悪気なんて無かったんです」
朝だと言うのに、しっかりとメイクをしていて、よく見るととても綺麗で、見とれてしまうほどの美人だった。
「麻莉ちゃん…大丈夫?私達も急にあんな事聞いたりしてごめん」
もう一人からも謝られた。とても心配そうな表情をして、これが本当に心配しているのか、それとも惰性でこんな表情をしているのかは敢えて考えなかったけど、双方で和解出来た事は良かった。
「私から謝りに行こうって思ってたのに、ごめんなさい」
しばらく間があって、そっと私の手を取った。
「ううん。麻莉ちゃんが本気で殴ったりしないって分かってたから」
拳に力を入れていない事も分かってて、彼女は敢えてそれに合わせて演技をしてくれていた。
「私達は何があっても味方だから」
その優しい言葉に、心の中の暗闇がすぅっと晴れていくような感覚を覚えて、何故自分の中に二つの人格があるのかを、この二人に話しておくべきだと思った。
*
「私が多重人格なのは自覚してるんです…ただ、一度出てきたら歯止めが効かなくなって、ああやって突然殴ったりしてしまうんです」
二人ともしばらく固まったまま動かなかった。
「どうやったら元の麻莉ちゃんに戻せるの?」
「私も方法が分からなくて、でも突然力が抜けると元に戻るみたいで、ある程度までいったら突然力が抜けるんです」
「…私達が抑えてもダメって事?なかなか難しいね」
「多分…皆の事傷つけたくないから、なるべく考えないようにします」
考えないようにする─ それが一番の方法なのかもしれない。
*
まだ、全員の名前も把握出来ていなかった。
リーダーが、宮嶋郁。
笹木菜央
浅井真海
小野華恵
水沢夏深
宮崎彩鈴
の六人。
それに、今年入ったばかりの練習生が二人いる。
まだステージにも上がった事のない、ホヤホヤの練習生なのだとか。
「まだ全然で、必死に覚えてる最中なんです」
この二人は何故か私にとても懐いていて、自分の妹のように彼女達を可愛いがった。
自分の妹に重なって見えて、この子達が尚更愛おしく思える。
「私の妹が軽度の障害がある子で、妹がライブに来てくれた時にメンバーに障害がある事を貶されて、ついカッとなって殴ってしまった事があったんです…大切な妹をバカにするような奴と一緒にやってられないと思ってグループを辞めて、ここに加入したんです」
自分の中にもう一人いると気づいたのが、この時だ─
「麻莉の妹って、なんか障害でもあるの?あの子、加減ってものを知らないの?めっちゃ強く手握られて、握手はもう終わりだってのに全然はけてくれなかったんだけど。姉であるあなたが野放しにしてるのがいけないんでしょ?ちゃんと首輪でもつけてしつけときなさいよ」
ドクン─ 心臓が音を立ててはっきりと聞き取れるくらいに高鳴った。
「ちょっと…冗談だから。本気でそんな事言う訳…わっ!!」
「ふざけんじゃねぇぞお前、殺すぞ…それが嫌なら今すぐ手ついて謝れ」
彼女の頭を掴んで、思い切り床に叩きつけた。
「謝んのか、殺されてぇのか、ハッキリしろ!」
「謝るから離して」そう言うと、妹に頭を下げて謝罪した。
自分の口から〝殺す〟なんて、今になってみれば信じられないけど、それだけ妹を貶された事が許せなかった。
「ごめんね…怖かったよね」
自分の事をバカにされた事なんて、おそらく彼女は理解出来ていない。
「私のせい?私が来たからお姉ちゃん怒ったんでしょ?」
その言葉に胸が締め付けられた。何も悪くない、彼女に罪は無い。
「誰も悪いなんて思ってないし、気にしないでいいよ」
そう言って、華奢な体を抱きしめた。彼女の体温が懐かしい。
*
「そう…妹さん、今はどうしてるの?」
「最近は少しずつ両親のお手伝いをしてるみたいです」
実家が小さな食堂をやっていて、彼女も手伝いたいと言って、拙いながらも頑張っていると、母から聞いた。
変な客にちょっかいを出されたり、いじめられてないか不安になる。
たとえ障害があっても、彼女は可愛いくて、健常者かと思うほどだから、尚更心配になる。両親やパートのおばさん達がいるからその辺は大丈夫だと思うけど、やっぱり心配だ。
「妹さんの為にも頑張らないとね」
守るべきもののために、これからも頑張っていく。
全てはアイツへの〝復讐〟のため─
その夜、散々暴れたせいか、ベッドに入るとすぐに眠った。
違う。あの人達は何も悪くなかったのに、キレた勢いでつい殴ってしまった。
私を散々いじめていたメンバーに重なって見えて、それに私は怯えて、狂ったように叫んでいた。
でも、力はこれっぽっちも入れてないし、ただ軽く突いただけだ。
本気でやったら、怪我どころでは済まないし、怪我なんてさせたくない。
何でもかんでも自分のせいにされて、その度にメンバーから暴力を受け、何度も病院に行っていた。
明日起きたら謝ろう。もうあの人格にならないように。
*
「麻莉ちゃん、麻莉ちゃん、朝だよ。起きれる?」
誰かの声で目を覚ました。目の前にいたのが、昨日殴ってしまったメンバーで、それに驚いて、勢いよく飛び起きた。
「ごめんね、そんなびっくりするなんて思わなくて。昨日の事、気にしてるかなって思って」
「あの…私こそいきなりあんな事して、本当にごめんなさい。私をいじめてた人と重なってしまって、だから…本当に悪気なんて無かったんです」
朝だと言うのに、しっかりとメイクをしていて、よく見るととても綺麗で、見とれてしまうほどの美人だった。
「麻莉ちゃん…大丈夫?私達も急にあんな事聞いたりしてごめん」
もう一人からも謝られた。とても心配そうな表情をして、これが本当に心配しているのか、それとも惰性でこんな表情をしているのかは敢えて考えなかったけど、双方で和解出来た事は良かった。
「私から謝りに行こうって思ってたのに、ごめんなさい」
しばらく間があって、そっと私の手を取った。
「ううん。麻莉ちゃんが本気で殴ったりしないって分かってたから」
拳に力を入れていない事も分かってて、彼女は敢えてそれに合わせて演技をしてくれていた。
「私達は何があっても味方だから」
その優しい言葉に、心の中の暗闇がすぅっと晴れていくような感覚を覚えて、何故自分の中に二つの人格があるのかを、この二人に話しておくべきだと思った。
*
「私が多重人格なのは自覚してるんです…ただ、一度出てきたら歯止めが効かなくなって、ああやって突然殴ったりしてしまうんです」
二人ともしばらく固まったまま動かなかった。
「どうやったら元の麻莉ちゃんに戻せるの?」
「私も方法が分からなくて、でも突然力が抜けると元に戻るみたいで、ある程度までいったら突然力が抜けるんです」
「…私達が抑えてもダメって事?なかなか難しいね」
「多分…皆の事傷つけたくないから、なるべく考えないようにします」
考えないようにする─ それが一番の方法なのかもしれない。
*
まだ、全員の名前も把握出来ていなかった。
リーダーが、宮嶋郁。
笹木菜央
浅井真海
小野華恵
水沢夏深
宮崎彩鈴
の六人。
それに、今年入ったばかりの練習生が二人いる。
まだステージにも上がった事のない、ホヤホヤの練習生なのだとか。
「まだ全然で、必死に覚えてる最中なんです」
この二人は何故か私にとても懐いていて、自分の妹のように彼女達を可愛いがった。
自分の妹に重なって見えて、この子達が尚更愛おしく思える。
「私の妹が軽度の障害がある子で、妹がライブに来てくれた時にメンバーに障害がある事を貶されて、ついカッとなって殴ってしまった事があったんです…大切な妹をバカにするような奴と一緒にやってられないと思ってグループを辞めて、ここに加入したんです」
自分の中にもう一人いると気づいたのが、この時だ─
「麻莉の妹って、なんか障害でもあるの?あの子、加減ってものを知らないの?めっちゃ強く手握られて、握手はもう終わりだってのに全然はけてくれなかったんだけど。姉であるあなたが野放しにしてるのがいけないんでしょ?ちゃんと首輪でもつけてしつけときなさいよ」
ドクン─ 心臓が音を立ててはっきりと聞き取れるくらいに高鳴った。
「ちょっと…冗談だから。本気でそんな事言う訳…わっ!!」
「ふざけんじゃねぇぞお前、殺すぞ…それが嫌なら今すぐ手ついて謝れ」
彼女の頭を掴んで、思い切り床に叩きつけた。
「謝んのか、殺されてぇのか、ハッキリしろ!」
「謝るから離して」そう言うと、妹に頭を下げて謝罪した。
自分の口から〝殺す〟なんて、今になってみれば信じられないけど、それだけ妹を貶された事が許せなかった。
「ごめんね…怖かったよね」
自分の事をバカにされた事なんて、おそらく彼女は理解出来ていない。
「私のせい?私が来たからお姉ちゃん怒ったんでしょ?」
その言葉に胸が締め付けられた。何も悪くない、彼女に罪は無い。
「誰も悪いなんて思ってないし、気にしないでいいよ」
そう言って、華奢な体を抱きしめた。彼女の体温が懐かしい。
*
「そう…妹さん、今はどうしてるの?」
「最近は少しずつ両親のお手伝いをしてるみたいです」
実家が小さな食堂をやっていて、彼女も手伝いたいと言って、拙いながらも頑張っていると、母から聞いた。
変な客にちょっかいを出されたり、いじめられてないか不安になる。
たとえ障害があっても、彼女は可愛いくて、健常者かと思うほどだから、尚更心配になる。両親やパートのおばさん達がいるからその辺は大丈夫だと思うけど、やっぱり心配だ。
「妹さんの為にも頑張らないとね」
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