~地球に追放された第三皇女はこのまま終わるつもりはない~覇帝姫、宇宙宮 瑠詩羽の逆襲!

尾山塩之進

文字の大きさ
9 / 29

第9話 宇宙宮 瑠詩羽(うつのみや るしは)という女。

しおりを挟む
「ふふふ、何をどう言いつくろうとも…
これがわたしの初の肉親殺しになるのですね。
そして最初に殺したのが
わたしが幼い頃よく遊んでもらっていた
導名雅みちながお兄様とは…
なかなか感慨深いものがありますね」

 導名雅との戦いを終えて、自分の城である
 覇帝姫宮殿要塞はていききゅうでんようさいヴァーンニクスに
 戻って来たわたしは戦いの汗を流すために
 大浴場内の椅子に腰かけて思いにふけっていた。
 もちろん一糸まとわぬ姿でである。

「空也?手が止まってますよ。
もっと強くわたしの背中を流しなさい」

「は、はい! 瑠詩羽様!」

 空也は戸惑いながらもわたしの背中をハンドタオルで強く擦り始めた。
 わたしが初の肉親殺しに対して少し思いにふけていたのを、
 先日空也が自分の母親を殺したことに(正確にはわたしが殺した)重ねて、
 わたしに対して気を使っていましたか?
 ふふ、そんなこと気にする必要は無いのに。優しい子ですね空也。

「それでは空也、わたしの手を洗いなさい」

「はい、瑠詩羽様!」

 わたしは右腕を横に伸ばした。
 空也はわたしの腕を左手で支えると
 右手に持ったタオルで丁寧に擦って磨いていく。
 導名雅を殺した手がこんなことで綺麗になる訳は無いし、
 別に綺麗にする必要も無いのだろう。
 だがそこは初の肉親殺しであり兄殺しなのである。
 覇帝姫はていき宇宙宮 瑠詩羽うつのみや るしはとて人の子、
 流石に心に来るものはあったのである。
 兄殺しの血にまみれたわたしの手は
 空也の優しく温かい手で洗われて綺麗になった気がした。
 右腕が一通り洗い終わるとわたしは左腕を横に伸ばす。
 空也は今度は左腕を支えるとタオルを当てて擦り始めた。
 兄の兜を盾を鎧を砕き、
 その身体を砕いたわたしの手が空也に洗われて綺麗になっていく。
 もちろんそんなことで兄殺しの血塗られたこの手が
 綺麗になる訳はない、只の気休めだ。
 だが今のわたしにはその気休めが欲しかったのだ。
 わたしは空也の手を自らの両手で包み込むと
 そのまま自分の胸に押し当てた。

「る、瑠詩羽様!?」

「…空也、しばらくこのままでお願いします…。
ふふ、この覇帝姫、宇宙宮 瑠詩羽ともあろうものが、
人の肌を、温もりを求めるなんて…
数多あまたの国々を星々を制してきたこのわたしが…
無数の人々を、あらゆる生物を屠ってきたこのわたしの手が…
殺戮の血に染まりきっている筈の
わたしの身体が震えているのですよ…
只の一人の兄を殺したというだけで!
ふふふ、あはは!
なんて滑稽なのでしょうか!
そして人の手を!
人の肌を!
人の温もりを求めている!
失った兄の温もりを
他人の温もりで補おうとでも思っているのでしょうか!
兄を殺したのは他らなぬ、わたしだというのに!
何て自分勝手で!
何て滑稽な!
これは笑えます!
笑うしかないですよ!
空也!
あなたも笑ってください!
こんな惨めで滑稽なわたしを!
わたしを笑いあざけることを許しますから!
さあ笑ってください!
空也!
笑ってください!
笑って!
あはは!
あははははは!
あはははははははは!!」

「…瑠詩羽様…」

 空也は両腕でわたしを包むように抱きしめてくれた。
 彼は泣いていた。
 ぽろぽろと泣いていた。

「何故泣くのですか空也。
わたしは全く泣いていないというのに。
ああ、もしかして、わたしの代わりに泣いてくれているのですか?
あのですね空也、わたしはですね。
とうの昔に、母上が亡くなった時に、
涙など枯れ果てて、もう泣くことが出来無くなってしまったのですよ。
そんなわたしの替わりに、あなたは泣いてくれるとでも言うのですか?
ふふ、優しい子ですね空也は。
でもですね空也。
この宇宙宮 瑠詩羽が優しさに包まれるなどありえないのですよ。
そんなものにうつつを抜かすなどあり得ないのです。
だってわたしは次帝として名を馳せる覇帝姫なのです。
わたしはいずれこの大宇宙を支配する存在。
それが亡くなった母との約束。
覇道を進むこのわたしに優しさのまどろみなど不要なのです。
だから空也。
わたしはあなたの肌の温もりだけ頂きましょう。
その優しさはお返しします。
そうです、わたしはあなたの温もりが、
つまり身体だけが目当てということです。
ふふふ、わたしを酷い女と思いますか?
それが、それこそが、この覇帝姫、宇宙宮 瑠詩羽なのですよ。
わかりましたか空也?
それを今からわからせてあげますね。
覚悟してくださいね」

 わたしはそう言うと、
 空也の身体を強く抱きしめて、自身の身体を彼に重ねた。








 ****** 








「ふう…お風呂は命の洗濯とは誰が言い出したか知りませんけれど、
理にかかった物言いですよね」

 わたしは自身の身体を湯舟に深く浸からせながらつぶやいた。
 そのつぶやきに対しての返事は無い。
 替わりに浴槽の横でその身を横たえている
 空也の荒げた呼吸音が聞こえるのみである。
 わたしは浴槽の淵から手を伸ばすと空也のおでこを撫でてあげた。
 ご苦労様でしたね空也。
 ふふ、わたしは空也に
 宇宙宮 瑠詩羽がどういう女かわからせてあげたのだ。
 ただそれだけで深い意味は無いのである。


「ハクリュウ、戦果報告をしなさい」

 わたしが声をかけると同時に
 大浴場の空中に画面が映し出されてハクリュウの顔が浮かぶ

「姫様。ベイ国の制圧は2時間前に既に完了しております」

「昨日の最弱国に比べたらかかってますね、
流石はこの星で少なくとも表立っては一番の国といったところでしょうか」

「はっ、姫様。
この国を落とした瞬間から『シルフィア』を国境防衛に配置はしましたが、
前の最弱国と違って周辺国がすぐに攻めてくることはありませんでした」

「この星の支配国家を公称する国が突然動きを停めたのですから、
警戒しているのが普通でしょうか?
まあ用心深いというより単に臆病なのかもしれませんけれど。
しかしベイ国がこの体たらくだったのですから、
つまりは唐土国からどこくがこの星の本当の支配国家と言うことになりますね。
唐土国がどれ程の戦力を持っていて、そして王がどれだけ強いのか、楽しみですね」

 わたしは目を細めると、明日の唐土国との戦いに期待して胸を馳せた。
 今度こそ、この星の支配国家と、この星の王と戦えるのだ。
 わたしは今度こそ血が沸き肉躍る熾烈な戦闘を期待して、
獲物を期待する獅子の様に瞳を細めて笑みを浮かべた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
 ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。  これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

処理中です...