18 / 29
第18話 マリア・プレマイレス。
しおりを挟む
「流石は姫様。
あの『死霊創世界』をも、
ああも容易く討ち果たすとは」
瑠詩羽様があの巨大な骸骨を倒したのを見て
ハクリュウさんが驚嘆の声を上げる。
あの巨大骸骨は何もかも溶かす凄い怪物だった。
そんな怪物を難なく倒す瑠詩羽様を僕も凄いと思ったけど、
瑠詩羽様は僕にとっての無敵の戦いの女神様。
だから僕は瑠詩羽様がどんな敵だって負ける筈は無いと思っている。
「あの、ハクリュウさんそろそろ下ろしてくれますか?」
「ああ、空也君。済まないな」
ハクリュウさんはそう答えると僕を地面に下ろしてくれた。
ハクリュウさんは巨大骸骨の腐食ガスから僕を護るために
マントの中に僕を入れるとずっと小脇に抱えてくれていたのである。
僕が死ぬと瑠詩羽様が処刑されてしまう、
だからハクリュウさんに取って僕の命は最優先。
でも僕はいつもハクリュウさんに護ってもらって
申し訳ないと思っている。
せめて自分の命を護れるぐらい強くなれれば…
そこでハクリュウさんに頼んで朝一で戦闘術の稽古をつけて貰っている。
まだ4日目だけど僕は瑠詩羽様の血を飲んで
以前とは比較にならない程強くなっているだからだろうか?
ハクリュウさんの教えてくれる戦闘術も
すっと身体に馴染んでそれなりに形になっている。
もっとハクリュウさんに学びたいな、
と朝練が楽しみな今日この頃である。
「それでは空也君。ヴァーンニクスに戻ろうか?」
「はいっ。…ん? 人の声?」
「た、助けて…」
声が聞こえた方を見れば街の路地に
僕と同い年ぐらいの一人の少女が倒れていた。
「その女は何なのですか空也?」
双子姉妹、紅留亜と慈留亜との戦いを終え、
覇帝姫宮殿要塞ヴァーンニクスに
戻って来たわたし、宇宙宮 瑠詩羽は
戦いの汚れを落とす為、洗い役の空也の帰りを
今か今かと待っていたのだが彼は予期せぬ拾い物をしてきた。
ふふふ、わたしを待たせていた身でありながら、
どこの馬の骨とも知れぬ女まで拾ってくるとは…
随分とやるじゃないですか空也。
これはまたお仕置きが必要ですか空也?空也あ!
「…つまり、助けを呼ぶ声がしたので行ってみれば
その女が倒れていたので背負って
この城に運んできたというのですか?空也?」
「はい、瑠詩羽様」
「でも空也、助けを求められたからと言って
その度に助けてはキリが無いのですよ。
そもそもわたしたちはその様な些事に構う余裕は無いのです。
そこは理解していますか?」
「…はい…。瑠詩羽様、駄目だったでしょうか?」
空也の目が少し潤んでいる。
主人に懇願する子犬の様な目。
わたしにとって空也は可愛い奴隷、
その様に振る舞われると弱い。
「はあ…そういう優しさは空也の良い所でしょう。
わたしには一切無いものです、
奴隷の良い所を尊重するのも主人の役目でしょう。
しかし自分で拾ったものは自身で面倒を見るのが道理。
つまりその女はあなたが責任を持って面倒見るのですよ、
わかりましたか空也?」
「はい、瑠詩羽様! ありがとうございます!」
彼は屈託のない笑顔で答えた。
わたしもつられて笑顔になった。
「ウィナ、フィナ、ティナ。空也のサポートをしてあげなさい」
「「「ハイーー!! 姫サマーー!!」」」
「とにかく、身体を洗うよ」
僕はヴァーンニクスに連れてきた女の子を大浴場に入れて洗うことにした。
あの巨大骸骨の吐いた腐食ガスの匂いは強烈で風呂で洗い流す必要があったのだ。
パミロン三姉妹のみんなが彼女の服を脱がしてくれた。
僕は彼女を連れて大浴場に入る。
「さあ、そこに座ってくれるかな?」
彼女は何も言わずに言われるがままに椅子に座った。
僕は彼女の身体を洗い始めた。
手足を洗い、背中を洗い、
身体の前を洗い、頭を洗い、髪を洗う。
彼女の身体の前を洗うのは流石に抵抗があったけれど、
そこはパミロン三姉妹たちがサポートして洗ってくれた。
「空也モ洗イマスネー」
パミロン三姉妹の長女のウィナさんが僕の背中を洗ってくれる。
僕は断ろうとしたけれど彼女は
「遠慮シナクテモ良イデスヨー」と
僕の背中から手足、頭と迅速かつ丁寧に洗っていく。
流石プロのメイドさんと言った具合だ。
あっ、前は自分で洗えるので止めてくださいウィナさん。
「…ありがとう」
ずっと黙っていたままの少女は
初めて口を開いて僕に感謝の声を述べた。
「どういたしまして」
僕は彼女に助けを求められたから助けた。それだけのことなのだ。
「…僕の名は空也。良かったら君の名前を教えて欲しいな?」
僕は自分の名を名乗ってから彼女の名前を問うた。
これからの事を考えると名前を知らなくてはならないと思ったから。
「…マリア・プレマイレス」
「良い名前だね、よろしくマリア」
「…空也も良い名前だと思う」
彼女は少し頬を赤らめてそう答えた。
僕も自分の名前を褒められて嬉しくなった。
そして自身の頬が赤くなるのを感じた。
「ふふふ、空也。
どこぞの馬の骨ともわからぬ女と仲良くするのは楽しいですか?」
いつの間にか大浴場に入っていた瑠詩羽様は
一糸まとわぬ姿で僕の後ろに仁王立ちしていた。
瑠詩羽様は笑っていたけれど…
何処となく怒っている様にも思えた。
「……」
マリアは突然立ち上がった。
そしてどこから出したのかアイスピックの様なものを握ると
瑠詩羽様に向かって駆け出した。
「えっ!?」
「絶命なさい!」
僕が驚きの声を上げると同時に瑠詩羽様の言葉が響いた。
その声の通りにマリアはその場に倒れ伏して、
二度と動くことは無かった。
「ふふふ、その武器は身体の体内に隠していましたか。
なるほど、柄のスイッチを押すと
その刃に猛毒が発動する仕組みの武器ですね。
その毒の強さからすると、
スイッチを押した段階で自分自身も毒に巻き込まれて死ぬ、
人間特攻兵器でしたか。
まあどちらにしろわたしを仕留めるには
まるで毒のレベルは足りませんけれど。
しかしこんな年端もいかないものが
この様に使い潰されるのは、
見ていて気分が良いものではないですね。
パミロンメイド三姉妹、この者を丁重に弔ってあげなさい」
「「「ハイ、姫サマ」」」
「…え…え…?」
僕は何が起きたのか頭が理解がついていけなかった。
そんな僕をよそに
パミロンメイド三姉妹は動かなくなったマリアを抱える。
すると空間が揺らめいて彼女たちはこの大浴場から消えていった。
「空也、あなたは何もわかって無かった様ですから説明してあげますよ。
あの女はわたしを殺すために送られた刺客。
…いや、先ほどわたしが言った通り使い捨ての人間特攻兵器ですね。
わたしは数多の宇宙を統べる宇宙宮皇家の覇帝姫、
宇宙宮 瑠詩羽。
この大宇宙に生きとし生ける、文明を持つレベルの生物の大まかな思考
そして意思は大体は感じることが出来るのです。
あの女の心は空虚な人形の様でした。
か弱き哀れな人間を演じて上手くわたしの懐に入り込んで、
その隙を見つけ次第すぐに暗殺する様に、
その意思も行動もプログラムとして仕込まれていたのですよ」
「…で、でも、あの子は…マリアは…
自分の名前を僕に褒められたら照れた反応を見せて…
そして僕の名前も褒めて…あれもみんな演技だったの…?」
「それはプログラムでは無い
あの女の本当の人格が見せた反応だったのかも知れませんね。
ですがあの女は一糸まとわぬ姿で現れたわたしを見た瞬間に、
仕込まれたプログラムが暗殺の好機であると判断し、
その通り行動したという訳です。
わたしも刃を向けられたら生かすことは出来ません。
あの女は所詮は空虚な人形、
自意識の部分では何も知らなかったでしょう。
捕縛して尋問しても
あの女にプログラムを埋め込んだ者の大元は
本人は知らないと言う訳ですよ。
そしてわたしたちがこのエウロッパ州に来た時、
あの女と同じ年ごろ、雰囲気を持った少年少女が
あちこちにごまんといたのを気付いてましたか?空也?
ふふふ、どうやらわたしがニホン国で空也を奴隷にしたことを、
刺客を放った大元は把握していたということですね。
そして空也と同じ年ごろ雰囲気の少年少女を大量に
このエウロッパ州に無数に配置していたのですよ。
わたしの懐に入りませる為に。
わたしは全て無視しましたが、
空也がその数百数千人の罠のひとつに引っかかったという訳ですよ。
…もしかしたら空也の優しさも織り込んで、
あなたに手を差し伸べて貰うことも計算していたのかも知れませんね。
随分と小賢しい、
だがその為に年端もいかない者をごまんと集めたのですから、
この星で相当な力を持った者たちの様です」
「あ…あ…ああ…」
空也の目から涙がこぼれた。
「瑠詩羽様、もし僕がマリアを連れて来なければ…
彼女は生き続けられていたのかな?
下手な気持ちで助けた僕が…彼女の命を奪ったのかな…?
そうなら僕は…僕は…」
「それはどうでしょうか?
あの女は空虚な人形でした。
例えわたしの暗殺で使われなかったとしても、
プログラムを仕込んだ大元の使い捨ての兵器として
良い様に使われてそう長くは生きられなかったと思いますよ。
そうですね、少なくともわたしは
自分を殺しに来た者には敬意を表しているつもりです。
だからパミロンメイド三姉妹には
あの女を丁重に弔う様に命じました。
少なくともあなたの優しさの結果、
彼女は人としてまともに埋葬されたのですよ。
これは間違いない事実です。
…もうそれで良いではありませんか? 空也?」
「でも…でも…瑠詩羽様…」
それでも納得しない彼をわたしは強く抱きしめた。
わたしは覇道を進む女。
優しさも涙も当の昔に置いてきた。
だが自身の所有物に対する愛着はある。
私の可愛い奴隷が悲しんでいるのは見るに堪えない。
だからわたしは彼を、
泣きじゃくる子をあやす母親の様に抱きしめて
その頭を身体を撫でた。
かつてわたしが自身の母にされたことを真似て。
「…瑠詩羽様…」
空也はそんな私に安堵した様だった。
その表情は母の胸に抱かれて安心する幼子の様にも見えた。
もしかしたら、わたしに「母性」を感じたのだろうか?
だとしたらそれはあり得ない。
わたしはいずれこの大宇宙を支配する覇帝姫、宇宙宮 瑠詩羽。
そんなものはこれ迄も、そしてこれからも持つことはあり得ないのだ。
わたしは彼をそのまま押し倒して、
その身体を大浴場の床に押し付けさせた。
「る、瑠詩羽様っ!?」
彼の顔には、とまどいが見て取れた。
「こんな状態でわたしが”そんなこと”をする筈がないと思いましたか?
ふふっ勝手ですね、それとも願望でしょうか?
でもあなたは知っているでしょう、この宇宙宮 瑠詩羽がどういう女か?
あなたと出逢ってこの5日、わたしと散々交わって、
その身体に染みてわかっているでしょう?」
わたしは彼の頬を撫でた、
そしてその胸を、手足を、体のあらゆるトコロを撫でた。
それは彼の男としての性を呼び起こし、
空也は時折「あっ」と声を上げていた。
「わたしは覇帝姫、宇宙宮 瑠詩羽。
自分勝手で、欲望に忠実で、
あなたが望むような愛情など持ち合わせていない存在なのです。
それを今からあなたに再度、思い知らせてあげますね」
わたしは空也の身体を抱きしめて、自身のカラダを重ねた。
******
空也は大浴場の床でその身を丸くして眠っていた。
その顔には涙の跡があった。
わたしはそんな彼を見ながら、
大浴槽の湯に身体を浸からせていた。
わたしは覇帝姫、宇宙宮 瑠詩羽。
優しさも涙も無い、覇道を進む存在です。
わたしの所有物である可愛い奴隷、空也。
その心も体もその思考の全てから血の一滴に至るまで
全てわたしのものなのです。
彼を泣かせて良いのは主人であるわたしだけ。
あのマリアとかいう女を送り込みその結果、
空也を泣かせた者共をわたしは許さない。
お前たち如きの小賢しい策で
わたしの空也に涙を流させる事を許した覚えはない。
そして空也と同じ年ごろ雰囲気の少年少女を
大量に使い捨ての兵器に仕立て上げていたことも気に喰わない。
若く成長する可能性のあるものを犠牲にして、
老いて衰えるだけのものが生き残る事を良しとするなど、
生き物の理を無視している。
この大宇宙ではありえない。
マリアを送り込んだ大元の者共は
生き物の範疇を外れた異質な存在だとでもいうのか?
ああ、気に喰わない。
その思考の何もかもが気に喰わない。
殺そう。全部殺そう。殺し尽くしてやろう。
…だがその前に二か国の制圧結果を聞かなければなりませんね。
「ハクリュウ、エイ国とブツ国の制圧報告をしなさい」
わたしが声をかけると同時に
大浴場の空中にモニター画面が映し出されてハクリュウの顔が浮かんだ。
「姫様。エイ国、ブツ国の制圧は5時間前に既に完了しております。
互いの核弾道ミサイルで両方の戦力はほぼ全滅しておりましたので、
それぞれに『シルフィア』を数機投入して制圧完了しました」
「ご苦労さまです、ハクリュウ。
…早速ですが今から至急
この星の資金の流れ、資源の流れ、人材の流れ、技術の流れを調べなさい。
気になることがあります」
「姫様、御意。しかし既に常任理事国も全て滅びましたし、
この星はもはや瑠詩羽様のもの。何も気にすることは無いのでは?」
「この度のエウロッパ州にくまなく配されていたわたしへの無数の暗殺要員。
最初は残された常任理事国であるエイ国、ブツ国が
主導しているかと思いましたが
二国は紅留亜と慈留亜に壊滅させられた状態で
その様なことが出来たとは思えません。
戦力すなわち実行力が伴わないビスマルク国。
紅留亜と慈留亜に瞬く間に消された宗教都市も同様でしょう。
つまり常任理事国とは別に
この星を支配する本当の支配国家が居るのでは?
と、わたしは思っているのです」
「姫様、御意。
早急にこの星における『おのおのの力の流れ』を改めて調査します」
「…ふふふ、小賢しい愚か者たち…
わたしの可愛い奴隷を泣かせた罪は重いですよ…
誰一人残さずその責を取って貰いますからね…」
わたしはそう言うと獲物を待ち伏せる獅子の様に目を細め、微笑んだ。
あの『死霊創世界』をも、
ああも容易く討ち果たすとは」
瑠詩羽様があの巨大な骸骨を倒したのを見て
ハクリュウさんが驚嘆の声を上げる。
あの巨大骸骨は何もかも溶かす凄い怪物だった。
そんな怪物を難なく倒す瑠詩羽様を僕も凄いと思ったけど、
瑠詩羽様は僕にとっての無敵の戦いの女神様。
だから僕は瑠詩羽様がどんな敵だって負ける筈は無いと思っている。
「あの、ハクリュウさんそろそろ下ろしてくれますか?」
「ああ、空也君。済まないな」
ハクリュウさんはそう答えると僕を地面に下ろしてくれた。
ハクリュウさんは巨大骸骨の腐食ガスから僕を護るために
マントの中に僕を入れるとずっと小脇に抱えてくれていたのである。
僕が死ぬと瑠詩羽様が処刑されてしまう、
だからハクリュウさんに取って僕の命は最優先。
でも僕はいつもハクリュウさんに護ってもらって
申し訳ないと思っている。
せめて自分の命を護れるぐらい強くなれれば…
そこでハクリュウさんに頼んで朝一で戦闘術の稽古をつけて貰っている。
まだ4日目だけど僕は瑠詩羽様の血を飲んで
以前とは比較にならない程強くなっているだからだろうか?
ハクリュウさんの教えてくれる戦闘術も
すっと身体に馴染んでそれなりに形になっている。
もっとハクリュウさんに学びたいな、
と朝練が楽しみな今日この頃である。
「それでは空也君。ヴァーンニクスに戻ろうか?」
「はいっ。…ん? 人の声?」
「た、助けて…」
声が聞こえた方を見れば街の路地に
僕と同い年ぐらいの一人の少女が倒れていた。
「その女は何なのですか空也?」
双子姉妹、紅留亜と慈留亜との戦いを終え、
覇帝姫宮殿要塞ヴァーンニクスに
戻って来たわたし、宇宙宮 瑠詩羽は
戦いの汚れを落とす為、洗い役の空也の帰りを
今か今かと待っていたのだが彼は予期せぬ拾い物をしてきた。
ふふふ、わたしを待たせていた身でありながら、
どこの馬の骨とも知れぬ女まで拾ってくるとは…
随分とやるじゃないですか空也。
これはまたお仕置きが必要ですか空也?空也あ!
「…つまり、助けを呼ぶ声がしたので行ってみれば
その女が倒れていたので背負って
この城に運んできたというのですか?空也?」
「はい、瑠詩羽様」
「でも空也、助けを求められたからと言って
その度に助けてはキリが無いのですよ。
そもそもわたしたちはその様な些事に構う余裕は無いのです。
そこは理解していますか?」
「…はい…。瑠詩羽様、駄目だったでしょうか?」
空也の目が少し潤んでいる。
主人に懇願する子犬の様な目。
わたしにとって空也は可愛い奴隷、
その様に振る舞われると弱い。
「はあ…そういう優しさは空也の良い所でしょう。
わたしには一切無いものです、
奴隷の良い所を尊重するのも主人の役目でしょう。
しかし自分で拾ったものは自身で面倒を見るのが道理。
つまりその女はあなたが責任を持って面倒見るのですよ、
わかりましたか空也?」
「はい、瑠詩羽様! ありがとうございます!」
彼は屈託のない笑顔で答えた。
わたしもつられて笑顔になった。
「ウィナ、フィナ、ティナ。空也のサポートをしてあげなさい」
「「「ハイーー!! 姫サマーー!!」」」
「とにかく、身体を洗うよ」
僕はヴァーンニクスに連れてきた女の子を大浴場に入れて洗うことにした。
あの巨大骸骨の吐いた腐食ガスの匂いは強烈で風呂で洗い流す必要があったのだ。
パミロン三姉妹のみんなが彼女の服を脱がしてくれた。
僕は彼女を連れて大浴場に入る。
「さあ、そこに座ってくれるかな?」
彼女は何も言わずに言われるがままに椅子に座った。
僕は彼女の身体を洗い始めた。
手足を洗い、背中を洗い、
身体の前を洗い、頭を洗い、髪を洗う。
彼女の身体の前を洗うのは流石に抵抗があったけれど、
そこはパミロン三姉妹たちがサポートして洗ってくれた。
「空也モ洗イマスネー」
パミロン三姉妹の長女のウィナさんが僕の背中を洗ってくれる。
僕は断ろうとしたけれど彼女は
「遠慮シナクテモ良イデスヨー」と
僕の背中から手足、頭と迅速かつ丁寧に洗っていく。
流石プロのメイドさんと言った具合だ。
あっ、前は自分で洗えるので止めてくださいウィナさん。
「…ありがとう」
ずっと黙っていたままの少女は
初めて口を開いて僕に感謝の声を述べた。
「どういたしまして」
僕は彼女に助けを求められたから助けた。それだけのことなのだ。
「…僕の名は空也。良かったら君の名前を教えて欲しいな?」
僕は自分の名を名乗ってから彼女の名前を問うた。
これからの事を考えると名前を知らなくてはならないと思ったから。
「…マリア・プレマイレス」
「良い名前だね、よろしくマリア」
「…空也も良い名前だと思う」
彼女は少し頬を赤らめてそう答えた。
僕も自分の名前を褒められて嬉しくなった。
そして自身の頬が赤くなるのを感じた。
「ふふふ、空也。
どこぞの馬の骨ともわからぬ女と仲良くするのは楽しいですか?」
いつの間にか大浴場に入っていた瑠詩羽様は
一糸まとわぬ姿で僕の後ろに仁王立ちしていた。
瑠詩羽様は笑っていたけれど…
何処となく怒っている様にも思えた。
「……」
マリアは突然立ち上がった。
そしてどこから出したのかアイスピックの様なものを握ると
瑠詩羽様に向かって駆け出した。
「えっ!?」
「絶命なさい!」
僕が驚きの声を上げると同時に瑠詩羽様の言葉が響いた。
その声の通りにマリアはその場に倒れ伏して、
二度と動くことは無かった。
「ふふふ、その武器は身体の体内に隠していましたか。
なるほど、柄のスイッチを押すと
その刃に猛毒が発動する仕組みの武器ですね。
その毒の強さからすると、
スイッチを押した段階で自分自身も毒に巻き込まれて死ぬ、
人間特攻兵器でしたか。
まあどちらにしろわたしを仕留めるには
まるで毒のレベルは足りませんけれど。
しかしこんな年端もいかないものが
この様に使い潰されるのは、
見ていて気分が良いものではないですね。
パミロンメイド三姉妹、この者を丁重に弔ってあげなさい」
「「「ハイ、姫サマ」」」
「…え…え…?」
僕は何が起きたのか頭が理解がついていけなかった。
そんな僕をよそに
パミロンメイド三姉妹は動かなくなったマリアを抱える。
すると空間が揺らめいて彼女たちはこの大浴場から消えていった。
「空也、あなたは何もわかって無かった様ですから説明してあげますよ。
あの女はわたしを殺すために送られた刺客。
…いや、先ほどわたしが言った通り使い捨ての人間特攻兵器ですね。
わたしは数多の宇宙を統べる宇宙宮皇家の覇帝姫、
宇宙宮 瑠詩羽。
この大宇宙に生きとし生ける、文明を持つレベルの生物の大まかな思考
そして意思は大体は感じることが出来るのです。
あの女の心は空虚な人形の様でした。
か弱き哀れな人間を演じて上手くわたしの懐に入り込んで、
その隙を見つけ次第すぐに暗殺する様に、
その意思も行動もプログラムとして仕込まれていたのですよ」
「…で、でも、あの子は…マリアは…
自分の名前を僕に褒められたら照れた反応を見せて…
そして僕の名前も褒めて…あれもみんな演技だったの…?」
「それはプログラムでは無い
あの女の本当の人格が見せた反応だったのかも知れませんね。
ですがあの女は一糸まとわぬ姿で現れたわたしを見た瞬間に、
仕込まれたプログラムが暗殺の好機であると判断し、
その通り行動したという訳です。
わたしも刃を向けられたら生かすことは出来ません。
あの女は所詮は空虚な人形、
自意識の部分では何も知らなかったでしょう。
捕縛して尋問しても
あの女にプログラムを埋め込んだ者の大元は
本人は知らないと言う訳ですよ。
そしてわたしたちがこのエウロッパ州に来た時、
あの女と同じ年ごろ、雰囲気を持った少年少女が
あちこちにごまんといたのを気付いてましたか?空也?
ふふふ、どうやらわたしがニホン国で空也を奴隷にしたことを、
刺客を放った大元は把握していたということですね。
そして空也と同じ年ごろ雰囲気の少年少女を大量に
このエウロッパ州に無数に配置していたのですよ。
わたしの懐に入りませる為に。
わたしは全て無視しましたが、
空也がその数百数千人の罠のひとつに引っかかったという訳ですよ。
…もしかしたら空也の優しさも織り込んで、
あなたに手を差し伸べて貰うことも計算していたのかも知れませんね。
随分と小賢しい、
だがその為に年端もいかない者をごまんと集めたのですから、
この星で相当な力を持った者たちの様です」
「あ…あ…ああ…」
空也の目から涙がこぼれた。
「瑠詩羽様、もし僕がマリアを連れて来なければ…
彼女は生き続けられていたのかな?
下手な気持ちで助けた僕が…彼女の命を奪ったのかな…?
そうなら僕は…僕は…」
「それはどうでしょうか?
あの女は空虚な人形でした。
例えわたしの暗殺で使われなかったとしても、
プログラムを仕込んだ大元の使い捨ての兵器として
良い様に使われてそう長くは生きられなかったと思いますよ。
そうですね、少なくともわたしは
自分を殺しに来た者には敬意を表しているつもりです。
だからパミロンメイド三姉妹には
あの女を丁重に弔う様に命じました。
少なくともあなたの優しさの結果、
彼女は人としてまともに埋葬されたのですよ。
これは間違いない事実です。
…もうそれで良いではありませんか? 空也?」
「でも…でも…瑠詩羽様…」
それでも納得しない彼をわたしは強く抱きしめた。
わたしは覇道を進む女。
優しさも涙も当の昔に置いてきた。
だが自身の所有物に対する愛着はある。
私の可愛い奴隷が悲しんでいるのは見るに堪えない。
だからわたしは彼を、
泣きじゃくる子をあやす母親の様に抱きしめて
その頭を身体を撫でた。
かつてわたしが自身の母にされたことを真似て。
「…瑠詩羽様…」
空也はそんな私に安堵した様だった。
その表情は母の胸に抱かれて安心する幼子の様にも見えた。
もしかしたら、わたしに「母性」を感じたのだろうか?
だとしたらそれはあり得ない。
わたしはいずれこの大宇宙を支配する覇帝姫、宇宙宮 瑠詩羽。
そんなものはこれ迄も、そしてこれからも持つことはあり得ないのだ。
わたしは彼をそのまま押し倒して、
その身体を大浴場の床に押し付けさせた。
「る、瑠詩羽様っ!?」
彼の顔には、とまどいが見て取れた。
「こんな状態でわたしが”そんなこと”をする筈がないと思いましたか?
ふふっ勝手ですね、それとも願望でしょうか?
でもあなたは知っているでしょう、この宇宙宮 瑠詩羽がどういう女か?
あなたと出逢ってこの5日、わたしと散々交わって、
その身体に染みてわかっているでしょう?」
わたしは彼の頬を撫でた、
そしてその胸を、手足を、体のあらゆるトコロを撫でた。
それは彼の男としての性を呼び起こし、
空也は時折「あっ」と声を上げていた。
「わたしは覇帝姫、宇宙宮 瑠詩羽。
自分勝手で、欲望に忠実で、
あなたが望むような愛情など持ち合わせていない存在なのです。
それを今からあなたに再度、思い知らせてあげますね」
わたしは空也の身体を抱きしめて、自身のカラダを重ねた。
******
空也は大浴場の床でその身を丸くして眠っていた。
その顔には涙の跡があった。
わたしはそんな彼を見ながら、
大浴槽の湯に身体を浸からせていた。
わたしは覇帝姫、宇宙宮 瑠詩羽。
優しさも涙も無い、覇道を進む存在です。
わたしの所有物である可愛い奴隷、空也。
その心も体もその思考の全てから血の一滴に至るまで
全てわたしのものなのです。
彼を泣かせて良いのは主人であるわたしだけ。
あのマリアとかいう女を送り込みその結果、
空也を泣かせた者共をわたしは許さない。
お前たち如きの小賢しい策で
わたしの空也に涙を流させる事を許した覚えはない。
そして空也と同じ年ごろ雰囲気の少年少女を
大量に使い捨ての兵器に仕立て上げていたことも気に喰わない。
若く成長する可能性のあるものを犠牲にして、
老いて衰えるだけのものが生き残る事を良しとするなど、
生き物の理を無視している。
この大宇宙ではありえない。
マリアを送り込んだ大元の者共は
生き物の範疇を外れた異質な存在だとでもいうのか?
ああ、気に喰わない。
その思考の何もかもが気に喰わない。
殺そう。全部殺そう。殺し尽くしてやろう。
…だがその前に二か国の制圧結果を聞かなければなりませんね。
「ハクリュウ、エイ国とブツ国の制圧報告をしなさい」
わたしが声をかけると同時に
大浴場の空中にモニター画面が映し出されてハクリュウの顔が浮かんだ。
「姫様。エイ国、ブツ国の制圧は5時間前に既に完了しております。
互いの核弾道ミサイルで両方の戦力はほぼ全滅しておりましたので、
それぞれに『シルフィア』を数機投入して制圧完了しました」
「ご苦労さまです、ハクリュウ。
…早速ですが今から至急
この星の資金の流れ、資源の流れ、人材の流れ、技術の流れを調べなさい。
気になることがあります」
「姫様、御意。しかし既に常任理事国も全て滅びましたし、
この星はもはや瑠詩羽様のもの。何も気にすることは無いのでは?」
「この度のエウロッパ州にくまなく配されていたわたしへの無数の暗殺要員。
最初は残された常任理事国であるエイ国、ブツ国が
主導しているかと思いましたが
二国は紅留亜と慈留亜に壊滅させられた状態で
その様なことが出来たとは思えません。
戦力すなわち実行力が伴わないビスマルク国。
紅留亜と慈留亜に瞬く間に消された宗教都市も同様でしょう。
つまり常任理事国とは別に
この星を支配する本当の支配国家が居るのでは?
と、わたしは思っているのです」
「姫様、御意。
早急にこの星における『おのおのの力の流れ』を改めて調査します」
「…ふふふ、小賢しい愚か者たち…
わたしの可愛い奴隷を泣かせた罪は重いですよ…
誰一人残さずその責を取って貰いますからね…」
わたしはそう言うと獲物を待ち伏せる獅子の様に目を細め、微笑んだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~
いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。
地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。
「――もう、草とだけ暮らせればいい」
絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。
やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる――
「あなたの薬に、国を救ってほしい」
導かれるように再び王都へと向かうレイナ。
医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。
薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える――
これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記
ノン・タロー
ファンタジー
ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。
これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。
設定
この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。
その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる