~地球に追放された第三皇女はこのまま終わるつもりはない~覇帝姫、宇宙宮 瑠詩羽の逆襲!

尾山塩之進

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第25話 空也(くうや)。

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 僕の名前は空也、
 覇帝姫はていき宇宙宮 瑠詩羽うつのみや るしは様の奴隷。
 月でのハクリュウさんとの戦いから帰還した僕は一人、
 覇帝姫宮殿要塞はていききゅうでんようさいヴァーンニクスの
 大浴場の大きな浴槽のお湯にカラダを浸からせていた。
 いつもは戦いが終わったら必ずこの大浴場で汗を流す瑠詩羽様だけど、
 「今日はあなたひとりで入って来なさい」と僕に言い残して居なくなった。
 僕は瑠詩羽様の言いつけ通り、ひとりで大浴場に入った。
 そういえばひとりでここを使うのは初めて。
 この大浴場はとても広く浴槽の数も多い。
 僕は洗い場の一番近くにある浴槽しか使っていないけれど、
 様々な浴槽があるみたいだ。
 あの奥にある紫色のお湯?が
 ボコボコ茹っているのはちょっと気になるけれど…
 君子危うきに近寄らず。今度ウィナさんにでも聞いてみよう。

「…!?」

 突然に気配を感じて大浴場の洗い場のほうに振り向くと、
 そこには瑠詩羽様が一糸まとわぬ姿で立っていた。
 その整った身体はいつも通り美しくてまるで女神様の様だったけれど、
 その顔からはいつもの獅子の様な覇気が全く感じられなかった。
 僕は急いで浴槽から上がると瑠詩羽様の側に駆けつけた。
 瑠詩羽様は何も言わずに、大浴場の椅子に力なく腰かけた。

「…それでは瑠詩羽様。いつも通り洗いますね」

 僕はハンドタオルを手にすると瑠詩羽様のカラダを洗い始めた。
 その美しい背中を。
 美しい手足を。
 美しい頭を。
 美しい髪を。
 そして見るのもはばかれるカラダの前の部分を。

 僕は瑠詩羽様の大切なトコロは目をつぶって見ない様にして洗う。
 最近は見なくても感触で位置はわかる様になっている。
 瑠詩羽様のカラダはほぼ把握したと思っても良いかも知れない。
 おそらくは目をつぶってもその全身を洗えるはず。
 だったら今度からはいっそ、
 最初から最後まで目をつぶったまま洗おうかな…
 そのほうが瑠詩羽様に対して失礼では無いだろうし。
 僕は目をつぶったまま、
 そんなことを考えながら瑠詩羽様のカラダにハンドタオルを滑らせていた。
 だが次の瞬間、瑠詩羽様の目がかっと開いて
 僕の両腕をがっしりと鷲づかみにした。

「空也…今…目を瞑ってわたしのカラダを洗っていましたよね?
そして失礼なことを考えませんでしたか?
このわたしの全身を…
失礼にも…目をつぶったまま洗うなんて…
思いませんでしたか?」

「ひゃいっ! そんなこと思ってません!」

「…噛んでますよ空也!
このわたしのカラダを目をつぶったまま片手間に洗おうなどとは!
どうやらあなたには奴隷としての教育がまだまだ必要な様ですね!
覚悟しない空也!」

「で、でも…目をつぶったまま洗えれば…
瑠詩羽様の裸を見なくて済むから…失礼に当たらないと思って…」

「だから!わたしのカラダを逐一よおく見て!
汚れがないか常に確認しながら洗わなければいけないと!
最初にわたしは言いましたよね!
そもそも未だにあなたはわたしの大切なトコロは見ない様にしてますよね!
いい加減に観念してよおく見なさい!
大体、わたしの大切なトコロなんて毎日あなたがそのカラダで散々触れて!
深く強く繋がって!よおく知っているでしょう!」

「…そ、それでも僕は見ていません!それとこれとは違いますからっ!」

「ふうん…このわたしに口答えとは…随分と言うようになりましたね空也あ!」

瑠詩羽様は僕の手をおもむろに掴むと、そのまま凄い勢いで大浴槽に投げ込んだ。

「ぶ、はあっ!」

 僕は急ぎ大浴槽の底から浮かび上がりお湯からは顔を出して大きく息を吐く。
 熱いお湯にいきなり顔から飛びこまされて息が苦しい。
 僕はもっと呼吸をしようと息を吸い込んだところに、
背後から綺麗で細い腕が伸びてきて僕の身体を羽交い絞めにした。

「空也っ!覚悟なさい!」

 瑠詩羽様は僕の身体を押さえつけて浴槽の底に沈める、
 苦しい、このままじゃ死んじゃう!

「ふふふ、前にも言いましたけれど、
 あなたはわたしの血で強力な肉体に生まれ変わったのだから
 これぐらいでは死にませんよ、いざとなれば水中呼吸もできる様になります」

 瑠詩羽様はそう言うと僕を浴槽の底に押し付けた、
 そして真正面からその美しい肢体をしだれかけて来た。

「ふふふ、今日はこのまま水の底で繋がる…というのも良いでしょうか空也?」

「ごぼ! ごぼぼぼ!」」

 苦しい、僕は気が遠くなりそうになったその時、
 瑠詩羽様がぼくの僕の身体を持ち上げてお湯の上に顔を出させてくれた。

「まったく…空也は水中呼吸も早く覚えないといけませんね」

 水中呼吸ってどう覚えるの?
 僕は疑問に思っていると、
 瑠詩羽様は僕の胸の中にその女神様の様に綺麗な肢体をしだれかけて、
 華奢で美しい腕を僕の背中に回した。

「ふふふ、こうしてあなたと戯れるのは楽しいですね。
こうしていると色んな辛いことを忘れられそうです。
あなたとこれからもこうして過ごしていければ、
幼い頃から仕えてくれた
わたしの最も頼れる忠臣ハクリュウを失ったことも、
いずれ忘れられるかも知れませんね」

「瑠詩羽様…」

 僕は瑠詩羽様の手をぎゅっと握った。
 いつも輝けるような気迫に溢れていた彼女の顔は陰って、
 今にでも泣き崩れそうに見えたから。
 こんな僕でも、瑠詩羽様を少しでも元気づけられるのならと…
 精一杯の気持ちを込めて。

「ふふ、こんなわたしを慰めてくれるのですか? 空也。
あなたは本当に優しいですね。
そしてわたしはそんなあなたに寄りかかって。
あなたの温もりが欲しくて。
カラダがうづいているのです。
この覇帝姫、宇宙宮 瑠詩羽が。
こんな少年になんかに。
わたしの奴隷なんかに。
慰めて欲しいなんて。
ふふふ。
ははは。
勝手ですよね。
滑稽ですよね。
情けないですよね。
ハクリュウを失ってぽっかり空いた穴を。
あなたの温もりで埋めて欲しいとでも思っているのでしょうか?
あはは。
あなたにココロもカラダも何もかも預けて。
楽になりたいと思ってしまいました。
でもですね空也。
それはありえないのです。
わたしは覇道を進む女。
あなたの優しさに包まれてうつつを抜かすなんてありえないのです。
空也、わたしはですね。
次帝にならなければならないのです。
それが母上との約束なのです。
たいした話では無いかも知れませんけれど…わたしの話を聞いてくれますか?」

 僕はこくりと頷いた。

「わたしの母は庶子でした。
特に何の戦闘力もなければ能力も無い、いたって普通の人だったのです。
ですがそんな母に何を思ったのか、
大宇宙の絶対の支配者である宇宙覇帝うつはてい
自身の数ある妃の一人として母を娶ったのです。

宇宙覇帝と母の間にはひとりの娘が生まれました。
それがこのわたし、宇宙宮 瑠詩羽です。
わたしは宇宙覇帝の大宮殿グランディアスで育ちました。
ですがわたしは幼い頃から宇宙宮皇族の中でも
抜きんでた力を持っていたのです。
その強大な力は既に次帝を継ぐ程とまで言われるものでした。

わたしの強大な力を妬む持つ者は大宮殿内にごまんと居ました。
そして強大な力を持つとはいえ、
まだまだ幼いわたしを暗殺しようと様々な勢力が
日々襲い掛かってきたのです。
無力で何の能力も無い言わば普通のひとである筈の母は、
その身を挺してわたしを暗殺から護ってくれました。
母はとても強い心の人でした。
そんな母はいつもわたしに言っていました。

「あなたが次帝になったら、
こういった醜い争いが起こらないような穏やかで平安な国を作ってね」

そしてある日、母はわたしの身代わりになって凶弾に倒れました。
母は最後に言いました。
「瑠詩羽、どうか、生き延びて、次帝になってね」
そう言って母はこと切れました。

今になって考えると、母は
『わたしに次帝になって
自分の様に理不尽に殺される人がいない平安な国を作ってほしい』。
きっと母は最期にそう言いたかったんだと思います。

ですが幼いわたしには母の意思はわからなかった。
母の今際の際の言葉だけがわたしに刺さり、重くのしかかったのです。
わたしは生き抜いて次帝になる。
その思いだけで魑魅魍魎が跋扈するこの宇宙宮皇家を生き抜いてきたのです。
それは今でも変わりません。
そして、それこそが、このわたし宇宙宮 瑠詩羽の真芯を構成するものなのです。

わたしはこれからも覇道を進みます。
だからわたしにあなたの優しさは不要なのです。
ですから…ここでお別れです、空也」

 瑠詩羽様はそう言うと僕を突き放した。

「えっ!?」

「宇宙覇帝の命令達成条件は
『地球の最弱国ニホンに住まう最弱の人間を
常に生きたまま側を置くという枷を付けた身の上で、
地球を手早く征服して見せよ』とのことでした。
そしてわたしはニホンの最弱の人間であるあなたを側に置いたまま、
この地球を支配していた星の王『魔深ましん』を討ち、
命令を達成しました。
つまり空也、あなたはわたしに取ってもう用無しという訳ですよ。
わたしとあなたの、主人と奴隷の関係は解消しましょう。
あなたはもう自由です。
何処へなりとも行きなさい」

「え…え…?」

 僕は突然瑠詩羽様に言われた言葉に頭が理解が追い付かなかった。

「で、でも、僕は、
ハクリュウさんに瑠詩羽様の力になれって言われたから…」

「…あなた如きの力がわたしの何になると言うのです!
そしてハクリュウはもうこの世にはいないのですよ。
死人しびとの言葉に|生者《》せいじゃ》が
その人生を左右されるなど在ってはならないのです!
ハクリュウはあなたを気に入って弟子にして、
自身の力を、剣を託しました。
それはあなたのものです。
ですがその力の振るい先は、あなた自身が、
あなたの意思で決めるのです。
あなたはもうわたしの奴隷ではないのです。
その力で、この星を、この太陽系を、
天の川銀河系を征服しても良いのですよ。
わたしはそれぐらいあなたに差し上げても構いません。
それぐらい、あなたがこの7日間、
このわたしの奴隷として仕えてくれた褒美としては安いものですから。
…さあ、ここから立ち去りなさい空也。
これからは、あなたの心も体も、他らなぬあなた自身のものなのですから」

 瑠詩羽様はそう言い放つと、僕からきびすを返して後ろを向いた。

「瑠詩羽様…」

 僕は瑠詩羽様の横顔を見た、彼女の頬に一筋の涙が流れていた。

「ふふ、覇帝姫はていき
宇宙宮 瑠詩羽うつのみや るしはともあろうものが、
自身の奴隷との別れに涙するとは…墜ちたものですね。
ハクリュウとの今生の別れ以来、わたしは泣いてばかりですね。
ふふふ、遥か昔に母上との別れの時に枯れ果てた筈のわたしの涙が、
その時に無くした筈の悲しみの感情というものが、
蘇ったとでも言うのでしょうか?」

「瑠詩羽様あ…」

「ふふっ、空也…何故あなたが号泣するのです?
ああ、あなたがわたしの代わりに
力いっぱい泣いてくれるというのですね?
所詮、涙はとうに枯れ果てて、
雀の涙程度しか涙が出ないわたしの代わりに。
ああ、わたしは。
ハクリュウとの別れの時も。
そして今のあなたとの別れの時も。
本当は、今のあなたの様に、
溢れるぐらいの涙を流して
悲しみたかったのかも知れませんね…」

「瑠詩羽様!それじゃあ!
僕があなたの奴隷として仕えたご褒美として、
僕の願いを叶えて下さい!
僕をこれからもあなたの側に置かせてください!
あなたと一緒にどこまでもついて行きたいんです!」

「…空也。
わたしは今さっき、あなたを奴隷から解消し自由な身としました。
もうわたしに従う必要は無くなったのですよ。
それなのに自分からわたしについていきたいと申すのですか?
…良いのですか?」

「はい! 瑠詩羽様!」

「わたしは覇帝姫、宇宙宮 瑠詩羽。
覇道を進む非情の女。
優しさも悲しみもとうの昔に置いてきました。
自分勝手で、欲望に忠実で、
人が求める愛情の類は持ち合わせていない存在です。
そしてこれからもそれらの感情を持つことはあり得ません。

空也、わたしはあなたのことを可愛いと思っています。
愛しいと思っています。
側に居て欲しいと思っています。
そうですね、常人であらば
この感情は『愛情』と呼べるものなのでしょう。
ですが、わたしは熾烈な覇道を歩む覇帝姫、
その心の在り方も、行動も、常人とはかけ離れた存在です。
あなたへのこの思いも。
これは所詮愛玩動物に対する感情。
玩具に対する感情。
一時の迷いの感情。
飽きれば打ち捨てる感情。
新たに心焦がれる対象が出来れば無くなってしまう感情。
わたしのあなたに対しての思いなんて
所詮はそういう希薄なものなのかも知れないのですよ?
そしてわたしの最優先すべきことは、
生き抜いて、次帝になることです。
その為にはあなたを容赦なく切り捨てるかも知れないのです。
わたしが生き残る為の盾としてあなたを犠牲にすることも、
あるかも知れないのです。

 …こんなわたしに、あなたは…ついていきたいと、
本当に思っているのですか?」


「僕にとっての瑠詩羽様は、
僕自身の命と心を救ってくれた無敵の女神様です、
だから僕はあなたにこれからも仕えます!
あなたの側にずっとついていきたいんです!
これが正真正銘の、僕の心からの意思です!」

「そうですか…ふふっ、あなたは本当に変わったひとですね。
わたしのことを女神様と思っていたのですか?
わたしはあなたに色々と酷いことをしたと思いますよ。
そんな酷い女神様に仕えたいなんて…
ふふふ、空也は本当に可笑おかしいです。
でも、嬉しかったですよ、空也。
ハクリュウを失い、情けなくも意気消沈していたわたしを
こんなにも喜ばせて、
元気をくれたあなたには褒美を上げないといけませんね。
…受け取りなさい、空也…」

 瑠詩羽様はそう言うと僕の口にその綺麗で柔らかい唇を重ねた。


「る、瑠詩羽様っ!?」

「ふふっ、そう言えばあなたと口づけをしたのはこれは初めてですね。
空也とは散々カラダを交じ合ったのに、
口づけが初めてなんて…可笑おかしいですね」

「…あ、ああ…瑠詩羽様…」

「ふふ、そんなに赤くなって…本当に空也は可愛いですね。
わたし、今あなたがとても愛おしいです…
だから、もう一度口づけしても良いですか?」

「ひゃいっ!? 瑠詩羽様駄目え!」

 僕は思わず後ずさってしまった。
そして大浴槽の外壁に当たって
そのまま後ろにひっくり返って浴槽内に落ちてしまった。

「ぷ…はあっ!」

 僕は必死にお湯から顔を出して息を吸った。
 そんな僕の両手のひらを瑠詩羽はがっちり掴むと、
そのまま大浴槽の壁に僕の身体を押し付けた。

「…どうして逃げるんですか? 
空也はわたしと口づけするのが嫌なのですか?」

「そ、そんなことはありません瑠詩羽様!
…で、でもそんな急にされると僕の心の準備が…」

「あなたはさっき、わたしの側にずっといたいと、
ずっとわたしについて行きたいと言ったではないですか!
だったら、此処は黙っておとなしく、
わたしに口づけされるべきでしょう!」

「そ、それとこれは別です瑠詩羽様!」

「ふうん、また口答えですか空也?
本当に言うようになりましたね。
まああなたはもうわたしの奴隷では無いのですから、
お仕置きは必要ありませんね。
つまりこれは主人が粗相のない配下をしつけるということです。
ふふふ、これは口づけをし続けたまま、
あなたとカラダを重ねて繋がるというのも…良いかも知れませんね」

 瑠詩羽様はそう言うと妖艶な笑みを浮かべながら、
僕の顔にその可憐な唇を近づけて来た。


「だ、駄目です!
そんなことされたら僕は呼吸できなくて死んじゃいます!」

「ふふ、わたしの血で強靭なカラダに生まれ変わったあなたは
そんな事では死にませんよ?
いざとなったら皮膚呼吸だけでも息がまかなえる様になりますから。
…それでは空也、覚悟して下さいね」

 だ、駄目え! 僕は必死の抵抗で顔を横に向けた。

「ちょっと空也! ここまで来て往生際が悪いですよ!
いい加減に覚悟を決めて!
この覇帝姫はていき
宇宙宮 瑠詩羽うつのみや るしはの唇を受けなさい!」

「だ、駄目です瑠詩羽様!駄…目…あ、れ…?」

 必死に横を向き続けていた僕の視線の先、大浴槽の真ん中に、
焔を思わせる足まで届く長い赤髪をした一人の少女が、
一糸纏わぬ姿でお湯にその身を浸からせたままこちらを見ていた」

「うん? どうしたのですか空也?
えっ…? しゃ舎留那しゃるな!?
ど、どうしてあなたが此処に居るのですっ!!」

「どうしてって瑠詩羽…アンタの大浴場って出来がいいからね、
ちょっと入らせてもらおうと来たのよ」

「で、でもいつの間に!?
いつから居たんですか!?
わたしはあなたが来たなんて気付きませんでしたし!」

「いや、普通に大浴場の入り口から入って来ただけよ…
いつから?
アンタが空也を浴槽に投げ飛ばした辺りからかな?
何かイチャイチャしたり自分の過去語りをしたりまたイチャイチャしたり…
一体アタシは瑠詩羽に何を見せ付けられているんだろうなって思っていたわよ」

「な、何言ってるんですか舎留那!
このわたしがイチャイチャするなんてあり得ません!
それも、く、空也相手になんか絶対にあり得ないです!」

「…いやアンタ、さっきキスしていたじゃないのよ。
それから空也に更にキスを迫って、
あげく乳繰り合おうとしてたじゃない?
それでイチャイチャしていない何て馬鹿にも程があるわよ」

「…あっ…あ、あ…あああああっーー!!」

 瑠詩羽様は突如顔を真っ赤にして叫んで、
そして自身の膝を抱きこむ様な姿勢でどぼん!
と音を立てて大浴槽のお湯の中に飛び込んだ。
 じゅおおおとお湯が音を立てて沸騰した。

「アハハハハハ!何だそれ瑠詩羽!
空也相手に熱を上げていたのをアタシに見られて恥ずかしかったのかしら?
アハハ!今さら処女じゃあるまいし!何を隠れてるのよお!」

 舎留那さんはそう言うと、
 お湯の中に頭の先まで沈めていた瑠詩羽様を
 無理やりお湯の上に引っ張り上げた。

「ちょちょっと舎留那っ!?止めてください!」

「アハハ!
惑星アクアパスに生息する巨大水棲生物オクトパス・タイショウみたいに、
顔を真っ赤にして恥ずかしがっている
可愛いお姉ちゃんの顔が見たいかなあって思って」

「こんな時だけ妹ぶるのはやめなさい舎留那あ!」

「…で、瑠詩羽?空也とはいつケッコンするの?
式はいつ?仲人はアタシが務めてもいいわよ!」

「このこの覇帝姫はていき
宇宙宮 瑠詩羽うつのみや るしは
自分の奴隷なんかと!
しかも空也なんかと婚姻なんてあり得ません!」

「アンタさっき空也はもう奴隷じゃないって言ってたじゃないの?」

「そ、そうでした…。
で、でも空也はわたしの配下の様なものですからっ!
絶対なるあるじであるわたしが
配下とそんな関係になるなんてあり得ないのです!」

「ふうん、つまり空也とはケッコンとかそういう関係には成らないんだ?」

「そうですよっ!
当り前じゃないですか!
今さら何言ってるんですか舎留那!」

「…だったら空也、アタシの元に来なさい。
アタシ直属の将軍にしてあげるわ、最高の厚遇であなたを迎えてあげる」

 舎留那さんはそう言うと僕の手を取った。

「急に何言ってるんですか舎留那!
わたしをからかっているんですか!?」

「アタシは月で空也を気に入ったって言ったじゃない?
アレ本気だから。
そもそも空也はアタシの好みのタイプだしね。
そういえば瑠詩羽とアタシって力は同格だからかな?
昔から男の趣味も似通ってたっけね?
そして空也はハクリュウの力も継いでいるから戦闘力の面でも問題なし。
瑠詩羽は空也のことは要らないって言うんだから、
これはアタシが貰い受けるしかないわよね?
アタシは別にお姉ちゃんの御下がりでも全然嫌じゃないし。
アハハ!むしろそのほうが燃えるじゃない!」

「そ、そんなの駄目です!
大体わたしは空也が要らないなんて言ってませんから!
勝手に言葉を足さないでください!」

「でもケッコンとか
そういう関係にはならないって言っていたわよね?
アタシは普通にケッコンするし。
ねえ空也、こんな身勝手で酷いお姉ちゃんなんて捨てて、
アタシの側に来なさいよね。
アタシはこう見えて男に尽くすタイプなのよ。
あなたの身も心もすべて、アタシの愛の炎で包んで上げるわ!」

「そんなもので空也を包まないでください!
空也が燃えちゃいますから!」

「大丈夫でしょ?どうせアンタ、
毎日空也相手に無理やり乳繰り合ってたんでしょ? 
瑠詩羽の超コングパワーに毎日、空也は耐えられたんだから
アタシの炎なんて暖房みたいなものよ」

「超コングパワーとか言わないで下さい!
あと無理やりじゃないです!
それにわたしがちょっぴり無茶しても、
空也はいつも最後は悦んでくれましたら!
だから全然問題ありませんから!」

「…今のはちょっと引いたかも。
アンタ、いくら空也がアンタの血で
強靭なカラダになっているからって言っても、
元地球人なんだから少しは優しくしてあげなさいよね…。
ねえ空也、やっぱアタシと行こう。
こんな瑠詩羽の所に居たままじゃ、いくら命があっても足りないわよ」

「ちょっと舎留那っ!
無理やり空也の手を引いて連れて行かないで下さい!
それから空也!舎留那の手を振り払ってちゃんと抵抗なさい!
…ま、まさか!?本当にわたしより舎留那のほうが良いと思っているのですか!
こ、これは主人として不忠な配下に対して躾けが必要ですか空也!空也あ!」

「きゃーお姉ちゃんの妬きもちヒステリー怖いー!
さっ空也、こんな怖い所からは早く出ようねー」

「白々しい甘えた声を出しながら
わたしの空也に抱き着かないでください舎留那あー!」


 舎留那さん相手に激昂している瑠詩羽様は怖いけど、
 楽しそうにも見えた。
 その時、ハクリュウさんの言葉を思いだした。
 僕と舎留那さんが居れば、瑠詩羽様が心許して楽し気に過ごせる場を作れる。
 それを見届けられて満足だと。
 ハクリュウさん、これで良いですか?
 僕は、瑠詩羽様が心許されて、楽し気に過ごせられる場を作れてますか?
 そして僕は、ハクリュウさんが近くで、この光景を見ている様な気配がした。
 僕はその優しい気配に向けて微笑んでみせた。

「…な、何故そこで笑うのです空也! れはもう許しませんよ!
空也!舎留那!二人とも許しません!
ここで覚悟なさいっ!
この覇帝姫はていき宇宙宮 瑠詩羽うつのみや るしは
引導を渡してあげます!」

「いいわねえ瑠詩羽!
空也を巡ってここで姉妹激突も乙じゃない!
それじゃあいくわよっ!!」

 瑠詩羽様と舎留那さんは大浴場の中心でがっぷり四つに組み合った。
 凄まじい力場が大浴場に溢れる。
 僕は急ぎ大浴槽の中に飛び込んで緊急避難した。

「ヴァーンニクスの船内は多次元防壁で覆われていますから、
一次元の戦闘だけなら問題はないですね!
…ならば決着を付けましょうか舎留那あー!!」

 ぼおん! と凄まじい音がして
ふたりの戦姫せんきの凄まじいエネルギーが衝突し、
大浴場内の椅子や洗面器が空中に舞い上がって
嵐の中の木の葉の様に荒れ狂う。

「舎留那ぁーー!!」
「瑠詩羽っーー!!」

 そして大浴場は閃光に包まれた。
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セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

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