死なないで姫様

松原紋

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モブ侍女クソゲーに思いを馳せること

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 いつになるかわからないが野分はもう初花姫付きに内定しているわけだから、一旦、このゲーム自体のことを思い出してみたい。

 私が今いると思われる、「戦国乙女天下をく!」というソシャゲは稀代のクソゲーと称され、クソゲーの中のクソゲーを選ぶ非公式の年間賞なんかにもノミネートされるほどだった。
 寸評で挙げられた悪い点の細かいところまで言うと長くなるが、バッドエンドの多さと展開の雑さ、度重なるフリーズと処理落ち不意の初期化、不便なシステム回りなどが主な要素だったように思う。

 例えば、シナリオー章分の中で、主人公は選択肢をひとつ選ぶごとにライフである「光珠みたま」 を消費する。

 文字通り姫の命が懸かった選択だ。対応を間違えると捕縛軟禁追放、姫の従者や関係者の見せしめ殺し、主人公補正なしで即死もありという理不尽さ。
 重ねて、選択肢がランダム生成だったり急に増減したりする章なんかもある。物語における重大な決断になるほど消費ライフは増えていき、必然、シナリオ後半には必要量のインフレを起こす。

 しかも失敗した選択肢に戻るためにはライフを通常の倍消費しなければならない。ちなみに初期ステータスでの「光珠」の残機は「三」だったはずである。シナリオ進行とミニゲームで上がるプレイヤーレベルに応じて残機数が増え、消費後は時間経過によって回復する。

 この「光珠」は、姫の有する胆力を指すものというのが公式見解だ。修羅場を越えるごとに強くなっていく彼女の精神を表わしている、 というのである。
 ただ、多すぎる死亡不可避選択肢と、彼女の周りで次々死んでいくモブキャラの描写から、 

──光珠みたまを消費して行動を起こす度、 姫は自分だけでなく周囲の人間の命(御魂みたま) もベットしているのでは?

 という波紋を呼ぶ俗説も横行した。


 その選択肢も初期はまだいい方で、これ選んだら死ぬだろうなというのがわかりやすい。

 例えば攻略ルート選択時、逃亡中に織田配下の羽柴秀吉に追いつかれ「殿に内緒で姫を側室に迎えたい」という誘いがあった場合に、下のような三つの選択肢があるとして、

・ 少し時間をください
・ お断りします
・ 品性に欠けた猿め、分を弁えよ

 姫の胆力ひとつで生き延びられるとしたら、一つ目が正解である。
 秀吉は姫が敵視する織田方の武将であるにも関わらず攻略条件なしで即座にルート入りできる、 かなり易しめの攻略難度のキャラクターだ。
 が、それでも一番下を選んだら死ぬ。二番目は一応派生エンディングに行くことができるが、秀吉ルートにおけるトゥルーには絶対行けないので途中でやはり死ぬ。

 こうした現象が、シナリオ全編に共通して起こる。

 ソシャゲ稼働中の当時、攻略情報を募る交流サイトでも「姫様すぐ死ぬ」 「生き延びたと思ったら死んだ…」「上げて落とすな戦国武将」等々の声が寄せられ、一躍ネタ的人気を博したものである。

 そんなゲームでも数年持ち堪えた。
 一に美麗なキャラクタービジュアル、二に豪華な声優、三に世界観の雰囲気だけはよかった、という三拍子が延命に一役買ったことは間違いないだろう。

 共通ルート中に姫が死ぬことは滅多にない。
 そこはいいのだ。今川義元が生きている現時点では、そのお膝元にいる限り人死には圧倒的に少ない。この時代の彼は軍事的にも財政的にも抜きん出た豪傑で、近辺で勢力の拮抗する強豪とは和親を築いている。喧嘩を売ってくるような相手がほとんどいなかった。のちに頭角を現す織田信長との戦に躓きさえしなければ、一門の栄華は長く続くはずだったのだ。

 問題は、既に決定している今川家の凋落までの期間があとどのくらい残っているかわからないことだ。
 なぜわからないか。桶狭間の戦いがいつ起こったのかの詳細を私がまったく知らないからである。何年何月に起きたとか誰が何歳のときのことだとか、日本史の教科書に載っていただろうか。歴史系ゲームにハマっていた手前、有名な武将の名前くらいは知っているつもりだ。それこそ本多忠勝。どの戦争がいつ起きたかはわからないが誰がどの戦争で死ぬ人なのかは、有名な人ならわかる。そのはずだ。
 とは言いつつこのゲームが史実通りにシナリオ進行していくわけがないという妙な確信もある。 
 とりあえず家中にいて織田がどうとかいう話題が出始めたら現行の平和な生活は終了まで秒読みということになるのだろう。

 それから。そもそも私の知っている状況そのままなら、「戦国乙女天下をく!」は既にサービス終了で運営停止、オフライン版もなくコンシューマ移植の話題もないようなまさしくジャンルとしてどん詰まりになったゲームなのだ。
 なので、よくよく考えてみれば初花姫の意思決定をプレイヤーが直接行なっているはずはない。ということは、私が仕えることになった姫様は、デフォルトキャラクターとしての初花姫なのだ。
 だとするとこの先の展開はどうなるんだろう。
 
 現状、私がやったことのあるルート本編のどこにも登場しない人物が何人もいる。
 奥女中の面々は紛うかたないモブキャラだ。
 ある程度名のある武将も、メインキャラでなければ名前がチラッと出るか出ないか。なのに、サブキャラとしてすら登場していない本多忠勝がはっきりとした意思を持って現れてしまった。
 誰々の家臣の誰それ、とかで今後もこのパターンの人が増えていくだろう。
 彼らが、姫の辿る本筋にどのくらい絡んでくるかはさっぱりわからない。

 現時点にルート周回の概念があるかはさておき、ある程度の条件を満たしているとなれば、桶狭間の後のキャラクター選択肢が多すぎて姫の死亡確率が格段に高まる。
 とはいえ彼女は腐っても主人公。致命的なミスさえしなければお相手の各武将ごとにハッピーエンドが用意されているわけで。

 真に危険な目に遭うのはモブだ。物語の途上でどんどん死ぬ。 折々の姫の選択次第では、 姫は死ななくても代わりに侍女や側近、 護衛や、ルートによっては攻略対象以外の当て馬役の男が死ぬことだってあるのだ。
 それに姫の反感を買ったり敵対陣営に行ったりしても死ぬ。

 姫の隠遁先の所在を漏らした護衛
 姫所属陣営の敵方に親族がいて寝返った侍女
 そうそうたる顔ぶれの武将たちから強く求められて争いの火種になりがちな姫を「国を傾ける女郎」 と蔑んだ老臣……

 思い出せないだけで他にもたくさんいたはずだ。姫にへイトを向けたら死ぬ。 さりとて姫の側にいたらいたで巻き添え食らって死ぬ。八方塞がりだ。

 このゲームがネタ的人気を博したその当時、話題に上ったのは何も姫の死亡率だけではなかった。
 風に散らされる木っ端の如く儚いモブの多さから、屈指のモブ虐め作品として高名でもあったのである。

 ともかく下手を打たないこと、生き延びることだ。
 再三再四心に誓うことだが、野分と自分のためにはそうするより他にないのだから。
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