改訂版 勇者と聖女の育成請け負います_みんなで育てれば怖くないね

にしのみつてる

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第1章

混練機とミキサーの失敗 ~権力の前には何も残らなかった~

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 冒険者中級講習が終わった夕方、受付に寄るように言われてシローとスミレに『粘土を練る依頼』が来たのだった。

「シロー様、スミレ様、ハインツ工房からお二人に粘土を練る指名依頼が来ております」
「これって、依頼を断ることは出来ますか?」

「出来ません。断った場合は依頼失敗とみなし、資格を2ランクダウンでお二人は冒険者除外になりますが、よろしいのですか?」

「それって、半ばギルドからの脅しともとれますけど……」
「そんな事はありませんが……いろいろとしがらみがありますので」

「はっきり言いますが、前回の報酬が20日の依頼予定で手取り銀貨2枚って、俺たちの宿代にもならないくらい安すぎたのでお断りしたいのです」

「はぁ、そんなはずはりません。20日の依頼ですと、金貨2枚は確実に支払われるはずです」
「少々お待ち下さい、前回の依頼書を確認いたします」

 受付チーフのモニカさんは新人受付のエミリーが計算間違いをしている事に直ぐに気がついた。本来は金貨2枚を銀貨2枚しか支払いがされていなかった。直ぐにエミリーが呼ばれギルドマスターから注意を受け、差額分の金貨1枚と銀貨8枚が支払われた。

「本当にスミマセンでした。こちらの計算間違いでした」
「謝罪は受け入れます。それと今回の依頼も同じ金額ですか?」

「はい、それはできる限り沢山練って欲しいそうです」

「わかりました。では、明日の朝、工房に行ってきます」
「よろしくお願いします」

 ◇ ◇ ◇ ◇

 翌朝、、ハインツ工房に着いた2人は早々に作業に取り掛かった。
「スミレさん、前回と同じだけど、今回は粘土がちょっと硬いね。水を少し多めで練ってみよう」
「シローさん、水を入れすぎないでね」
「スミレさん、分かっていますよ」

「ウオーター」
「ニディング」
 粘土はシローの土魔法で一度に練られたのだった。
「クレイボール」
「クレイボール」

「シローさん、いい感じで練りがったね」
「スミレさんの指導のおかげですよ」

(ナビ子さ~ん、具現化で粘土を練る機械は出来ないかな?)
 シローは前世の鉄工所の知識から左官屋が使うコンクリートミキサーを頭の中で思い浮かべた。同時にコンクリートミキサーの設計図を羊皮紙に自動で書き写した。

(シローさん、このミキサーであれば具現化で直ぐに作れます)
「スミレさん、手伝って」
「ええ」

 シローはスミレさんと手を繋いで魔力を循環させた。ドドーン、太鼓の音が鳴って、コンクリートミキサーは直ぐに具現化で出来上がった。動力はゴブリンの魔石1つで1ヶ月は動くようになっていた。

「次は練った粘土を押し出す機械だ」
 この機械も前世の鉄工所の知識で製陶所向けの混練機を具現化で作った。混練機の設計図も羊皮紙に自動で書き写した。


「スミレさん、実際に動かしてみようよ」

 シローさん、動かす前に、ハインツさん一家を呼んできましょう」
 そうだね」

「すみませ~ん、タニヤさんちょっと土場に来て下さい~」
「ああ、今行くよ」

「驚いた、あんたたち、この機械を作ったのかい」
「はい、そうですよ」

「あんた~、大変だよ~、シローさんが凄い機械を作ったよ~」
「タニヤ、慌ててどうしたんだ?」

「あんた、大変なんだよ、シローさんが粘土を練る機械を作ったんだよ」
「タニヤ、本当なのか?」
「本当よ」

「シローさん、実演してみてくれ」
「まずは、このミキサーに水一杯と瓶一杯の粘土を入れます。入れたらスイッチを押します」
 ゴロン、ゴロン、ゴロン、ゴロン、ゴロン、ゴロン、ゴロン、ゴロン、ゴロン、ゴロン、ゴロン、ゴロン……
 ミキサーはゆっくりと回転し、丁度よい硬さの粘土が出来上がった。


「シローさん、この機械はすごいな」
「ハインツさん、凄いのはこっちの機械です」

 シローは出来上がった粘土を混練機に入れてスイッチを押した」
 グワーン、グワーン、グワーン……

 二つのローラーが粘土を更にかき混ぜて筒からニュルニュルと押し出してきたのでシローは包丁でボールの大きさに切った。

「シローさん、この機械は更にすごいな」
「ハインツさん、この機械なら魔法が出来ない人でも粘土を練れますよ」

「そうだな、今から陶芸ギルドに行くので、この機械を登録をさせてくれ」
「ええ、お願いします」


 こうして、シローが発明したミキサーと混練機は、『アマダ式』として陶芸ギルドに正式登録された。さらに、鍛冶師でも製造ができるように設計図を羊皮紙に写し、同じく陶芸ギルドで保管された。

「シローさん、この機械の値段は陶芸ギルドと冒険者ギルドで決めてもいいか?」
「ええ、もちろん構いませんよ」

 この日、ハインツ工房にとっても、シローたちにとっても、後に大きな転機となる一日となる筈だった。

 だが──その夜、陶芸ギルドの報告書が領主館に届いたことで、事態は一変した。

 領主ヴァルディス・グラウベル男爵は、報告書を読んだ瞬間に顔をしかめた。

「魔法で機械を作った? しかも村人が使えるようにした? そんなもの、俺の許可なしに広めるなど言語道断だ」

 ゴーダ男爵は即座に陶芸ギルドに通達を出した。

「アマダ式の機械は領内の特許とする。以後、製造・販売・使用には領主の許可が必要とする」

 さらに、ギルドに対してこう命じた。

「発明者の名は記録から削除せよ。代わりに“ゴーダ式”と記載するように」

 陶芸ギルドは逆らえなかった。ゴーダ男爵の命令は絶対であり、違反すれば営業停止と罰金が課されるからだ。

 そして翌日──

 シローはギルドから呼び出され、こう告げられた。

「申し訳ありません。領主館の命令により、アマダ式の名称は変更され、“ゴーダ式”として登録されました」
「えっ……俺が作ったのに?」

「はい……それと、報酬の金貨20枚についても、ゴーダ男爵の管理下に置かれましたので、お渡しはできません」

 その報酬は、後日領主館から新人受付のエミリーを通じて渡される予定だったが──

 ゴーダ男爵の娘、エミリーはその金貨20枚をこっそり着服し、シローの手元には何も残らなかった。

 結局、アマダ式の粘土を練る機械はトキセロ村で量産され、権利を持っていることになったのはハインツ工房と制作に関わった鍛冶師、そして領主、ゴーダ男爵だけだった。

 シローの名は記録から消され、彼の発明は闇に葬られ誰も知ることはなかった。



続く──
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