転生したら亀だった 亀の甲羅を背負った元傭兵のオッサン

にしのみつてる

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1章

ぷるぷるの記憶、ソイリアの恋豆腐

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 甲羅AIが静かに告げる。

 ――《目的地:ソイリア。ジャンル:精霊料理×豆腐錬成》

 カメ吉はグラスを傾けながら、ぽつりと呟いた。

「俺の甲羅、豆腐も焼くぞ。崩れず、揺れて、踊るやつだ」

 リナが地図を見ながら言う。

「ソイリアはエルフの里。空気が澄んでいて、木の上に住んでいて、人族は入れてもらえないって噂ですよ」

 ミナが目を輝かせる。

「えっ、家が浮いてるの!?それってぷるぷるしてるの!?それ、絶対かわいい♡」

 ――《新メニュー候補:『踊る豆腐ステーキ』》

 カメ吉は甲羅の上で豆腐を揺らしながら、しっとりと歌い始めた。

「エルフ~ソイリアアルテミヤ~恋に疲れたエルフが~ひとり~豆腐~」

 ミナがターンを決める。そのステップは、まるで豆腐の舞。  
 ぷるぷると揺れる足元に、甲羅AIが反応する。

 ――《ターン成功。豆腐、踊る。ぷるぷる指数:98。感動まであと2》

「よし…あとひと揺れで泣ける豆腐だ」

 その瞬間、森の霧がふわりと割れ、銀髪のエルフが現れた。  
 深青のローブが風に揺れ、杖のクリスタルがぷるっと光る。

「その豆腐…まだ、心が揺れていない」

 名をセイラン。アルテミヤの精霊料理師。  
 彼は静かに杖を掲げ、豆腐に向かって詠唱を始めた。

「精霊よ…この豆腐に、恋の記憶を…」

 豆腐が震え、水分が一筋の涙のように流れ落ちる。

「これは…泣いてる…!」

 ――《新メニュー確定:『泣ける豆腐ステーキ・アルテミヤ風』》

 ミナがそっとひと口食べる。  
 その瞬間、目にうっすら涙が浮かぶ。

「…これ、恋の味がする…」

 その言葉が森の空気を震わせた。 木々の葉がざわめき、精霊の風がふわりと吹き抜ける。

 すると、霧の奥から静かに一人のエルフが現れた。 銀髪に深青のローブ、杖のクリスタルが淡く光を放っている。

 彼の名はセイラン。アルテミヤの精霊料理師であり、森の味覚を司る者。

 彼はミナの涙に目を留め、静かに歩み寄る。

「その豆腐……まだ、心が揺れていない」

 ミナが驚いて振り返る。

「えっ!?豆腐に心あるの!?ていうか、揺れてるよ!?ぷるぷるしてるよ!」

 セイランは微笑み、杖を掲げて詠唱を始める。

「精霊よ……この豆腐に、恋の記憶を」

 豆腐がふるりと震え、水分が一筋の涙のように流れ落ちる。

 カメ吉が息を呑む。

「おお……豆腐が泣いてる……!これは、ただの水分じゃねぇ。涙だ……!」

 リナが呟く。

「これ、料理なのか……儀式なのか……」

 甲羅AIが静かに告げる。

 ――《新メニュー確定:『泣ける豆腐ステーキ・アルテミヤ風』》

 セイランは豆腐の揺れを見届け、静かに頷いた。

「その甲羅……精霊認定だ。アルテミヤの厨房に、正式採用する」
「マジか。俺、昇格?甲羅主任?」

 ――《昇格:甲羅主任。豆腐感動部門》

 リナが苦笑する。

「なんか…すごいことになってるけど、これ、旅の始まりだったよね?」

 ミナがそっとステップを踏み、豆腐の前で一回転。  
 その動きに合わせて、豆腐がふわりと跳ねた。

 ――《ターン成功。豆腐、共鳴。恋の揺れ:検出》

「…これは、恋豆腐の完成形。揺れに感情が宿った瞬間だ」

 ミナが再びひと口食べる。  
 ほんのり甘く、少ししょっぱく、最後にふわっと切ない。

「…これ、失恋の味。でも、嫌いじゃない」

 ――《新メニュー候補:『失恋豆腐ステーキ・カメ吉風』》

 セイランは静かに杖を掲げる。

「この豆腐、アルテミヤの恋祭に供されるべきだ」

 森の広場は熱気に包まれ、祭りは最高潮。  
 精霊たちも木の葉も、ぷるぷるとリズムに乗っていた。

 若手エルフDJが叫ぶ。

「次はカメ吉ダンサーズの『恋する失恋豆腐ステーキ』だ~!」

 魔導ギターが鳴り響き、甲羅の上で豆腐がぷるぷると踊る。  
 カメ吉がセンターに立ち、歌い始める。

「あなたは豆腐好きなのに~  
 私のぷるぷるには目もくれない…  
 失恋の予感、でも私たちの運命はまだ焼き上がってない~」

 ミナが涙目でステップを踏み、豆腐の揺れと完全にシンクロ。  
 観客のエルフたちが一斉に「ぷるぷる~!」と叫ぶ。

 ――《豆腐共鳴率:100%。恋の波動、最大値》

「この豆腐…もう、料理じゃない。これは、感情の結晶だ」


 こうして、カメ吉は豆腐マエスター屋台の称号をセイランから正式に授与された。  
 譜面『恋する失恋豆腐ステーキ』と、甲羅を模した特製グリルの製法も伝えられた。

 その鉄板は、恋と涙とぷるぷるを焼き上げる、精霊料理の聖具となった。

 祭りは笑いと涙と豆腐の香りに満ちていた。  
 精霊たちは踊り、葉っぱは揺れ、豆腐は跳ねた。  
 そして祭りは、最高潮のまま、静かに幕を閉じた。

 その夜――

 アルテミヤの空には、ぷるっとした月が浮かび、森の奥ではそっと芽吹く気配があった。  
 恋する豆腐ステーキが、誰かの心を揺らし、誰かの運命を焼き上げたのだ。

 そして数ヶ月後。  
 エルフの里には、ちょっぴりベビーブームが訪れる。

 ぷるっと生まれたベビーエルフたちは、  
 ふわふわの髪と、きらきらの瞳と、ほんのり豆腐の香りをまとっていた。

「俺の甲羅…未来も焼いてたか…」

 ――《新称号追加:ぷるぷるの父》

 エルフの森は深い。  
 風が通るたび、葉のささやきが過去の祭りを語り継ぐ。  
 ぷるぷると揺れる豆腐の記憶は、精霊たちの間で歌となり、踊りとなり、そして物語となった。

 アルテミヤの神殿には、今もカメ吉の譜面が飾られている。  
『恋する失恋豆腐ステーキ』――その旋律は、恋に疲れた者の心をそっとほぐし、焼きたての希望を届ける。

 セイランはその譜面を前に、静かに目を閉じる。

「この豆腐は、ただの料理じゃない。これは、心の揺れを焼き上げた記録だ」

 そして、森の奥では今日もまた、ぷるっと生まれたベビーエルフが、  
 ふわふわの髪を揺らしながら、初めてのターンを決める。

 カメ吉の甲羅は今、屋台の奥で静かに光っている。  
 焼き目のひとつひとつが、誰かの恋の跡。

 ソイリアの風は今日も優しく、  
 ぷるぷると、未来を揺らしていた。


 続く──
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