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庇善苑近く 事件当日
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その日、少し遅目の昼食を摂ろうと、行き付けの庇善苑近くにある麺粥店へ向かっていた坂本良行は、そのお目当ての店に人垣が出来ているのを見て首を捻った。
ついでに言えば、普段道端で蹲っている妄鬼達(平たく言えば魑魅魍魎のこの街での呼び名だ)も、ちらちらと集まり店の中を伺っている。
時刻は昼の一時を過ぎていて、彼の目的とする湯麺と粥の青空食堂ならそろそろ客が減っている筈だった。
だが、人だかりに近付き、最近漸く早口でも聞き取れるようになった周囲の会話に耳を傾けている内に、良行は昼食を別の場所に求めねばならぬと判って大きく首を竦めた。
「おいおい、ありゃ退魔班じゃねえか!」
「そりゃあ、警察も退魔班を出すだろうよ、死んだ奴が奴だ」
「あの業突張りの金貸しが死んだんだ、呪殺の有無は確認するよなあ」
よりにもよって、行き付けの店で人死、しかも退魔班と言う特殊な部門の警官が出て来る騒ぎであった。
星海は、八嶋以上に身近に怪異が暮らす街だ。
八嶋の帝都でも、狐狸妖怪が本性を隠し暮らしていたが、こちらでは隠すものも居れば白昼だろうが堂々と闊歩し、人に大小様々な災禍を齎しているものもいる。
それ故、星海では道士と呼ばれる所謂方術士が、普通に町中を歩き人々の生活に馴染んでいる。
立場的には、八嶋国の僧侶や神祇官と同じなのだろうが、良行にはより生活に密着した存在と思わずにいられなかった。
結婚式は西域風を取り入れる者も増えたそうだが、葬儀は未だに道士に任せる者が多いし、街を歩けば何やら儀式を執り行っている道士の一団を見掛ける事も少なくはない。
そう言う土地柄故に、この街の警察には通称『退魔班』と言う部門がある。
厳密に言うと、道士経験のある警官が臨時で任じられるらしいが、場合によっては在野の現職道士に任せる事もあるそうだ。
人垣の隙間から良行が店の奥を覗き込めば、色鮮やかな黄色い道士服を羽織った中年男性が、小難しい顔で唸りながら不思議な足取りで歩いている。これは『禹歩』と呼ばれる道士の儀式の一種で、要は坊さんの九字切りみたいなものらしい。
長く掛かると思い、人垣に背を向けた良行は、そこで一人の警官と目があった。
現場の警備と人員整理に来ていたらしいその警官は、良行とは顔馴染みの新人警官だった。
その日の夕刻、日勤だった彼、ホーク・葉和偉を捕まえた良行は、買い込んだ食料と共に、この街での塒である下宿屋に帰った。
と言うのも、星海にやって来て宿泊先に困った――お金はそこそこあったが、長期になる事を思うと何処を選ぶか迷ったのだ――良行に声を掛け、自身が使っている下宿屋に誘ったのがホーク自身だからだ。
大家の老婦人に食材を渡すと、良行は自室の隣であるホークの自室へ、途中で買ったコーラ二本を下げて転がり込んだ。
良行は、故郷が名の通った酒豪の産地故に紹興酒の二、三本開けたところで酔う訳ではないし、ホークも興が乗れば樽酒を飲み干す酒豪である。
だが、取り敢えず明日も仕事だろう警官に、酒を飲ませるのは不味かろうと思っての選択であった。酒で情報を売ったと、後日ホークが言われるのを避ける為でもある。
「ホーク君、一本どうだ?」
「あー」
相手が口を濁す理由を、押し掛けた側は大体察している。
ホークは、良行が物書きである事を知っている。が、ジャンルが探偵小説である事は知らない。
先日、同国人だと言う記者らしい人間に、何やら文書を渡しているのを見掛けているホークは、捜査中の事件を書き立てたいのかと、警戒モードに入っているようだ。
取り敢えず、一本相手の前に置きもう一本の王冠を栓抜きで抜きつつ、良行はきっぱりと告げた。
「昼の事はたまたま行き当たっただけの話、そもそも自分の本職は探偵物の小説書き。そのまま、被害者の名前を書いたりはしない」
「小説家!?」
学生時代に学んだ外国語を、この星海に来てから美国寄りから猊国寄りに矯正した。その講師を務めてくれたのが、目の前の七つ年下の公僕の彼だ。
しばらく逡巡した後ホークはコーラの瓶を取り、口外無用を念押しして今日の昼に起きた事件について、警官の立場で判った事を小さな声で話し始めた。
午前中の町内警邏から戻ったホーク達警官に、緊急出動が掛かったのは正午の鐘が鳴る前だった。
麺粥専門店の店員が、「客がもがき苦しんで死んだ」と警察署に駆け込んで来た為である。
最初は食中毒かと思われたものの、被害者が判った途端直ちに警官達が派遣された。
そこで死んだのは、無茶な取立てで知られた高利貸しで、非合法組織との繋がりも囁かれた黄晶だったからである。
ホークを含めた警官達五人は、ウィリアム・劉英華督察(日本警察で言うところの警部補)に率いられて、件の麺粥専門店へとやって来た。
そこで、警官達が見たものは、吐瀉物と見るからに消化不良の排泄物に塗れ、のた打ち回って亡くなっただろう恰幅の良い東方中年男の、手を出すのも憚れるような惨い死に様だった。
見開かれたままの目は充血しており、喉を掻き毟っただろう両手にはぽつぽつと紫色の斑点が浮いていた。夏物らしい麻の背広は、様々な液体でぐしゃぐしゃになっている。
男の周囲には、何十枚もの皺の無い紙幣が飛び散り吐瀉物や排泄物、食べていただろう牛肉入り粥に塗れて散らばっていて、男が金勘定しつつ食事をしていた事を警官達全員が理解した。
はっきり言って、胃液はともかく糞尿に塗れた体重三十貫(約百十二キログラム)はありそうな男の身体が三和土の上に転がっている光景に、大半の警官はこれを自分達が運ぶのかと戦慄した。
だが死体を見ていたホークは、男の麻の上着に張り付いた吐瀉物に、血液らしいものが混ざっている事に気付いて上司を見た。
劉督察も何かを感じた様子で、おろおろする警官の一人に鑑識と退魔班を呼ぶように命じた。
「毒殺、でしょうか」
ホークがそう問うと、督察は顎を擦ってこう答えた。
「その可能性が高いが、この男だと単純に毒殺されたとも思い難い。それこそ、この男に死んで欲しいと思っている人間は、この近隣でも片手では足りないだろうからな」
己と比べても、七つほどしか離れていないにも拘らず督察となった上司の言葉に、ホークもそれもそうだと思ってしまった。
黄晶と言う男は、北の方の出身だったと言うが、詳しい事は知られていない。自身が情報を隠したと言うのもあるが、この星海の人間からすれば奴が何処の出身だろうがどうでも良い事であった。
とにかく、言葉巧みにささやかに金を貸し付け、びっくりするような利息を要求してくる悪質な金貸しである。それも、金が返せない事を前提に貸し付ける悪党で、返せない金を妻や娘、或いは自身の身体で返させる人買いの仲介を行なっている男で、そうやって花街に売られた女子供と、外国船に永年労働者として売り飛ばされた男達も既に百を数えると囁かれていた。
こう聞くと、この男の家にはさぞかし綺麗な女達が一杯いるだろうと思うだろうが、男の家には昔から働いていると言う老爺一人のみで、妻、妾どころか女中一人置いてはいなかった。
とにかく男は、金、金、金の見事なばかりの金の亡者ぶりで、贅沢の為に金を使う事は殆ど無かった。
だから、食事も裏通りの麺粥店で済ませたし、普通に出歩くくらいなら古着屋で買ったくたくた綿製の華服で済ませる事を、この界隈の人間は皆知っている。
この男が、こんな身軽に歩き回って安全な理由は、この近辺を仕切る黒幇(要するに黒社会、マフィアの類)達や一部の猊国商人達に金をばら撒き、保身に努めているからだ。
そんな事もあって、被害者の大半は泣き寝入り、警察に訴えた者もいたものの証文――読み難い端の方に利息が書かれた詐欺すれすれではあっても、一応体裁の整ったもの――を差し出しては正しい取引だと黄晶は胸を張り、それを商人達が援護する為に逃げられ続けていたのだ。
そう言う事情もあって、現場には猊国式鑑識術を学んだ鑑識課の警官達と、食事中を呼びつけられた今月の『退魔班』班員であるリック・呉格漢警署警長(日本警察で言うところの巡査部長)がやって来たのである。
華服の懐から、お茶菓子として買った卵の効いた薄焼き菓子の包みを取り出しつつ、良行は取り敢えず聴いて見た。
「ふうん。で、道士さんは何だって言ってたの?」
「呪詛の類は無いって言ってたよ。寧ろ、奴さんを恨んでた霊達と、迎えに来た冥卒が物凄い勢いで揉めてる声が大きくて、他の事判らなかったって」
「ゑ?」
「だから、奴さんを自身の手でより苦しめたいって言う奴の元被害者達と、冥府で裁きたい冥卒とが争ってるって。奴の両腕掴んで綱引きやってるから、当人も悲鳴上げっぱなしだって言ってたよ。
取り敢えず、あの店掃除したら、道士さん呼んで鎮魂の儀式やるって話だったけど」
傍から聞けば「何だこりゃ」な言葉だろうが、この星海と言う街では特に珍しい話ではない。
貰った薄焼き菓子を齧りつつ、ホーク・葉和偉は言葉を続ける。
「あの後、鑑識の連中が被害者の周囲にあるものと、店の厨房の食品の大半運ぶの手伝ったんだけど、鍋釜はともかく、あのでっかいおっさん運ぶのは大変だったなあ。三十貫程度かと見積もってたんだけど、あれ四十貫だと思う」
「人間は、普段無意識に筋肉を動かして、運ぶ人間の負担を減らそうとするけど、気絶するとそれが無くなるから、ぐっと重くなるって本にあったなあ」
「そう言う事かなあ、警官十人がかりで運んだんだ、ゴム手袋とゴム引きの前掛けしてさ」
話に聞くだけで、悲惨な光景である。
死因解明の為検死を行なうのだろうが、どろどろに汚れた遺体を洗う役目になった人物に胸の内で手を合わせて置く。
今日の時点で、ホークが判っている事はここまでである。
「何か判った事があれば、また教えて欲しい」
「それは……」
「だから、自分は小説の種として、事件をストックしたい。
被害者そのものを晒したりしないし、警官の捜査の邪魔をしたい訳ではない。信じてくれ」
この通りと、頭を下げられて若い警官は絆されたらしい。
あくまでも、自分に判った範囲のみと念押しして、この日の話しは終わりになった。
ついでに言えば、普段道端で蹲っている妄鬼達(平たく言えば魑魅魍魎のこの街での呼び名だ)も、ちらちらと集まり店の中を伺っている。
時刻は昼の一時を過ぎていて、彼の目的とする湯麺と粥の青空食堂ならそろそろ客が減っている筈だった。
だが、人だかりに近付き、最近漸く早口でも聞き取れるようになった周囲の会話に耳を傾けている内に、良行は昼食を別の場所に求めねばならぬと判って大きく首を竦めた。
「おいおい、ありゃ退魔班じゃねえか!」
「そりゃあ、警察も退魔班を出すだろうよ、死んだ奴が奴だ」
「あの業突張りの金貸しが死んだんだ、呪殺の有無は確認するよなあ」
よりにもよって、行き付けの店で人死、しかも退魔班と言う特殊な部門の警官が出て来る騒ぎであった。
星海は、八嶋以上に身近に怪異が暮らす街だ。
八嶋の帝都でも、狐狸妖怪が本性を隠し暮らしていたが、こちらでは隠すものも居れば白昼だろうが堂々と闊歩し、人に大小様々な災禍を齎しているものもいる。
それ故、星海では道士と呼ばれる所謂方術士が、普通に町中を歩き人々の生活に馴染んでいる。
立場的には、八嶋国の僧侶や神祇官と同じなのだろうが、良行にはより生活に密着した存在と思わずにいられなかった。
結婚式は西域風を取り入れる者も増えたそうだが、葬儀は未だに道士に任せる者が多いし、街を歩けば何やら儀式を執り行っている道士の一団を見掛ける事も少なくはない。
そう言う土地柄故に、この街の警察には通称『退魔班』と言う部門がある。
厳密に言うと、道士経験のある警官が臨時で任じられるらしいが、場合によっては在野の現職道士に任せる事もあるそうだ。
人垣の隙間から良行が店の奥を覗き込めば、色鮮やかな黄色い道士服を羽織った中年男性が、小難しい顔で唸りながら不思議な足取りで歩いている。これは『禹歩』と呼ばれる道士の儀式の一種で、要は坊さんの九字切りみたいなものらしい。
長く掛かると思い、人垣に背を向けた良行は、そこで一人の警官と目があった。
現場の警備と人員整理に来ていたらしいその警官は、良行とは顔馴染みの新人警官だった。
その日の夕刻、日勤だった彼、ホーク・葉和偉を捕まえた良行は、買い込んだ食料と共に、この街での塒である下宿屋に帰った。
と言うのも、星海にやって来て宿泊先に困った――お金はそこそこあったが、長期になる事を思うと何処を選ぶか迷ったのだ――良行に声を掛け、自身が使っている下宿屋に誘ったのがホーク自身だからだ。
大家の老婦人に食材を渡すと、良行は自室の隣であるホークの自室へ、途中で買ったコーラ二本を下げて転がり込んだ。
良行は、故郷が名の通った酒豪の産地故に紹興酒の二、三本開けたところで酔う訳ではないし、ホークも興が乗れば樽酒を飲み干す酒豪である。
だが、取り敢えず明日も仕事だろう警官に、酒を飲ませるのは不味かろうと思っての選択であった。酒で情報を売ったと、後日ホークが言われるのを避ける為でもある。
「ホーク君、一本どうだ?」
「あー」
相手が口を濁す理由を、押し掛けた側は大体察している。
ホークは、良行が物書きである事を知っている。が、ジャンルが探偵小説である事は知らない。
先日、同国人だと言う記者らしい人間に、何やら文書を渡しているのを見掛けているホークは、捜査中の事件を書き立てたいのかと、警戒モードに入っているようだ。
取り敢えず、一本相手の前に置きもう一本の王冠を栓抜きで抜きつつ、良行はきっぱりと告げた。
「昼の事はたまたま行き当たっただけの話、そもそも自分の本職は探偵物の小説書き。そのまま、被害者の名前を書いたりはしない」
「小説家!?」
学生時代に学んだ外国語を、この星海に来てから美国寄りから猊国寄りに矯正した。その講師を務めてくれたのが、目の前の七つ年下の公僕の彼だ。
しばらく逡巡した後ホークはコーラの瓶を取り、口外無用を念押しして今日の昼に起きた事件について、警官の立場で判った事を小さな声で話し始めた。
午前中の町内警邏から戻ったホーク達警官に、緊急出動が掛かったのは正午の鐘が鳴る前だった。
麺粥専門店の店員が、「客がもがき苦しんで死んだ」と警察署に駆け込んで来た為である。
最初は食中毒かと思われたものの、被害者が判った途端直ちに警官達が派遣された。
そこで死んだのは、無茶な取立てで知られた高利貸しで、非合法組織との繋がりも囁かれた黄晶だったからである。
ホークを含めた警官達五人は、ウィリアム・劉英華督察(日本警察で言うところの警部補)に率いられて、件の麺粥専門店へとやって来た。
そこで、警官達が見たものは、吐瀉物と見るからに消化不良の排泄物に塗れ、のた打ち回って亡くなっただろう恰幅の良い東方中年男の、手を出すのも憚れるような惨い死に様だった。
見開かれたままの目は充血しており、喉を掻き毟っただろう両手にはぽつぽつと紫色の斑点が浮いていた。夏物らしい麻の背広は、様々な液体でぐしゃぐしゃになっている。
男の周囲には、何十枚もの皺の無い紙幣が飛び散り吐瀉物や排泄物、食べていただろう牛肉入り粥に塗れて散らばっていて、男が金勘定しつつ食事をしていた事を警官達全員が理解した。
はっきり言って、胃液はともかく糞尿に塗れた体重三十貫(約百十二キログラム)はありそうな男の身体が三和土の上に転がっている光景に、大半の警官はこれを自分達が運ぶのかと戦慄した。
だが死体を見ていたホークは、男の麻の上着に張り付いた吐瀉物に、血液らしいものが混ざっている事に気付いて上司を見た。
劉督察も何かを感じた様子で、おろおろする警官の一人に鑑識と退魔班を呼ぶように命じた。
「毒殺、でしょうか」
ホークがそう問うと、督察は顎を擦ってこう答えた。
「その可能性が高いが、この男だと単純に毒殺されたとも思い難い。それこそ、この男に死んで欲しいと思っている人間は、この近隣でも片手では足りないだろうからな」
己と比べても、七つほどしか離れていないにも拘らず督察となった上司の言葉に、ホークもそれもそうだと思ってしまった。
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「ふうん。で、道士さんは何だって言ってたの?」
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取り敢えず、あの店掃除したら、道士さん呼んで鎮魂の儀式やるって話だったけど」
傍から聞けば「何だこりゃ」な言葉だろうが、この星海と言う街では特に珍しい話ではない。
貰った薄焼き菓子を齧りつつ、ホーク・葉和偉は言葉を続ける。
「あの後、鑑識の連中が被害者の周囲にあるものと、店の厨房の食品の大半運ぶの手伝ったんだけど、鍋釜はともかく、あのでっかいおっさん運ぶのは大変だったなあ。三十貫程度かと見積もってたんだけど、あれ四十貫だと思う」
「人間は、普段無意識に筋肉を動かして、運ぶ人間の負担を減らそうとするけど、気絶するとそれが無くなるから、ぐっと重くなるって本にあったなあ」
「そう言う事かなあ、警官十人がかりで運んだんだ、ゴム手袋とゴム引きの前掛けしてさ」
話に聞くだけで、悲惨な光景である。
死因解明の為検死を行なうのだろうが、どろどろに汚れた遺体を洗う役目になった人物に胸の内で手を合わせて置く。
今日の時点で、ホークが判っている事はここまでである。
「何か判った事があれば、また教えて欲しい」
「それは……」
「だから、自分は小説の種として、事件をストックしたい。
被害者そのものを晒したりしないし、警官の捜査の邪魔をしたい訳ではない。信じてくれ」
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