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再び富利路にて
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約束の日、正午を過ぎた頃に麺粥店へ行けば、阿波田蘭子嬢は既に来ていた。
店の女将に進められたのだろう、雲呑麺を美味しそうに啜っていた彼女は、大きな紙袋を抱えた坂本良行を見出し、慌てて残りを啜り込んだ。
「あー、あー、そんなに慌てなくても」
「作品の、確認を」
軽くむせる彼女に、お茶を飲ませてやる。
何とか落ち着いた小柄な女性は、良行から原稿の詰まった紙袋を受け取り、その中身に目を通し始めた。
その様子を眺めつつ、良行は事件の結末を思い返していた。
作中では、猊国人商人の代わりに登場させた美国帰りの商売人が、親を自殺に追い込んだ犯人である高利貸を小売商を利用して殺害した事にしている。
だが、実際は小売商関山海の単独犯だ。
マイケル・ウィルソンは、偶々関の娘と親しくなり、彼女に病院を世話しただけであったし、黄晶と取引したのも新たな倉庫を建てる為――彼の会社は店舗を増やすのだそうだ――だったそうだ。ついでに言うと、メリー・関瑞蓮を気に入っているのは寧ろ彼の妻――これはイライアス・ホーク・マーヴィンも勘違いしていたが、Mr.ウィルソンは妻帯者だった。幼馴染みで姉弟気分が抜け切れない為、周囲も勘違いしている人間が多いらしい――だそうだ。
ホーク・葉和偉は、関山海が捕まった事しか教えてはくれなかった。(公僕故致し方ないが)
だが、その後打撲傷まみれになって戻ってきたイライアス・ホーク・マーヴィンによると、黄晶と関山海は同じ村の出身で、そこでちょっとした因縁が生じたらしい。
村でも指折りの美人姉妹の妹を嫁にしたのが関で、姉と結婚したのが黄、だったらしいのだが姉は多情な性質で、黄の稼いだ金で旅役者に貢いだ挙句、駆け落ちしてしまったらしい。
その事に怒り狂った黄は、嫁の実家に使い込んだ金を返せと怒鳴り込んで家土地全て奪いそれでも足りぬと、老夫婦と跡取り息子を人夫として売り飛ばそうとしたらしい。
姉に比べ、ずっと穏やかで真面目な気質の妹は夫に幼い娘を託し、老父母とまだ幼い弟の代わりに、黄の家に女中として働きに出る事にした。
そして、関山海も妻の実家を助けようと娘を妻の父母に預け、遥々星海へ働きに来たのだ。
ところが、漸く商売が軌道に乗り始めた、星海に来て二年目の事。妻の弟が、娘を抱えて関の元へ転がり込んだのだ。
彼が語った事は、最悪だった。
黄晶は、薄給で妻をこき使い、もっと給金が欲しいなら妾になれと言って寄越したそうだ。
だが、亭主である関に貞操を誓う妻が首を縦に振る事はなく、痺れを切らせた黄はある夜疲れて眠っている彼女相手に、強引に関係を持とうとしたらしい。
らしいと言うのは、弟もそこら辺が判らないのだそうだ。
関係を持たされたのか、未遂なのか、そこは永遠に判らないがこの騒ぎの中関の妻は自殺し、孫を父親の下に連れて行くよう息子に言い含めた老夫婦も自害したらしい。
黄晶を恨みつつも、幼い娘と未だ保護の必要な義弟と三人で、この十年関は真面目に働いて来た。
黄晶の方は、自殺騒ぎで元々悪かった風聞ががた落ちになり――嫁に逃げられた事によって向けられた同情は、その後の借財取り立て騒動であっという間に地に落ちていた――、星海とは別の交易都市である天堂市へ逃れ、そこで商売を始めた。
強欲な商売で、一気に巨額の富を築いたまでは良かったが、彼はそこで一つ大失敗をやらかし、十年足らずの間のさばっていたその街から、抱えられるギリギリの金目の物を抱えて逃げてきたらしい。
そこでどんな失敗をしたかについて、調べようとした結果イライアス・ホークは傷まみれになったらしい。
「いやあ、どうやらあのおっさん、あの租界まみれの街で相当まずい事やったんじゃね?
黒幣のお偉方が渋い顔したもの」
「Mr.黄は、黒幣の方に顔が利くのでは?」
良行の疑問に答えたのは、帰って来てイライアス・ホークの手当をしてやった警察官の方だ。
「奴に便宜を図っていたのは、北の方の組織や外からこっちに入り込もうとしている外国の連中だったよ。
おかしいと思ったんだ、少なくとも城市の黒幣は縄張りの人間を大事にする筈なのに、あんな高利貸しがのさばるなんて」
……聞けば、親の代から警官をやっているホーク・葉には必然的に黒幣の今お偉いになっているような面子の中に、彼の亡き父――殉職されたそうだ――に恩義を感じている人間が何人かいて、時折彼に情報を流してくれようとする人間もいるらしい。
まあ、和偉自身がまだ単なる市内警邏の警官に過ぎない事もあり、その情報を活用する事は殆ど無い。
今回、参考人であるイライアス・ホークを探すに当たって、根回しを頼んだところほぼ事件が終わった頃に別件で和義安にリンチに遭いかけたイライアスを、彼等に保護して貰う事になったのだ。
「ところでさ、やっぱりあの黒いお札に砒素塗られてた?」
「いや、火伸し掛けてあった方。関曰く、汚れている奴は砒素の粉が見えるかもしれないと思って、出来るだけ綺麗な奴火伸しして殺鼠剤掛けてたって。渡す時も、直に触らない為に袋に入れたそうだ」
赤毛の青年が問うのに、警官は取調べ中に聴いた事と調書で知った事を絡めて答えた。
「ホーク君、エリー君、もしかして、Mr.関が払っていた借金とは」
「……うん、亡くなった奥さんの借金だって。あのくそ親爺、最初娘差し出せって言ったんだって」
「え?」
「ああ、当人が動機として、『妻と、その両親を死なせた奴が、成長して妻に似てきた娘を嫁に寄越せと言われた事で、頭から色々吹っ飛んだ』って」
「土下座して、借金返済に捩じ込んだってさ。尤も、奴さんは何れ親父さんが音を上げるだろうって踏んでたらしくて、そのうち祝言を上げるって触れ回ってたって。
誰も本気にしなかったそうだけどね?」
イライアス・ホークの言葉をホーク・葉が補足し、それに更にイライアスが付け足すのを聞いて、良行は緩く頭を振った。
「断片的な情報が混ざり合って、点心店で聞いた噂が出来上がった訳ですか。
ん? エリー君、Mr.関の話は一体……もしかして、義弟さんから?」
良行の問いに、イライアス・ホークは軽く舌を出すや、そのまま「また来るよ」と言って出て行ってしまった。
その背中を、怒鳴り散らしつつ追い駆けるホーク・葉を見送り、良行は腕を組んで座り直した。
かさりと音を立てて、阿波田蘭子は原稿用紙を揃え直した。
「ありがとうございます、先生。
これで、私も編集長に叱られずに済みますし、読者さんにも顔向け出来ます」
「んー、それなら良かったけど」
頭を掻く良行に向かって、いまや社内で中堅と呼ばれるようになった女流編集者は、原稿用紙を袋に戻し、雲呑麺の代金を椀の傍に置いて立ち上がった。
「もう行くのかい?」
「ええ、今日の最終便で帰りますから」
そう言って、もう一度頭を下げた蘭子に向かって、良行は軽く手を振りつつこう付け足した。
「ああ、じゃあ阿波田さん、今度掲載誌を送る時にでも原稿用紙を二、三帖一緒に送ってくれるかな?
今回思ったより使っちゃったから、次の分書くのに心許無くて」
その言葉に目を丸くした後、蘭子は満面の笑顔を浮かべ、「はい、必ず!」と告げて帰って行った。
ふうっと、大きく息を吐き首を鳴らしている良行の前に、ことっと音を立てて湯麺が置かれる。
顔を上げれば、店の女将が笑っている。
「お疲れ様、旦那。三日で書き上げるとは大したものだねえ」
「勢いがつけばね」
笑い返して箸を取ると、ある事を思い出して良行は眉を下げた。
「しまった。うっかりエリー君とホーク君の名前変えずに書いてしまった。
んー、まあ、八嶋のカストリ誌の読物なんて、こっちまで流れる筈も無いし、まあいいか」
そう自己完結し、良行はそのまま湯麺を食べ始めた。
二ヵ月後、編集部から届けられた雑誌には、『南洋推理覚書 東西双鷹』と言う題名が大きく入っていた。
流石に、華国語を覚えて意味を悟ったイライアス・ホーク・マーヴィンに、『モデル料』と称してたかられホーク・葉和偉に助けられる事になるが、まあ、それも先の話である。
店の女将に進められたのだろう、雲呑麺を美味しそうに啜っていた彼女は、大きな紙袋を抱えた坂本良行を見出し、慌てて残りを啜り込んだ。
「あー、あー、そんなに慌てなくても」
「作品の、確認を」
軽くむせる彼女に、お茶を飲ませてやる。
何とか落ち着いた小柄な女性は、良行から原稿の詰まった紙袋を受け取り、その中身に目を通し始めた。
その様子を眺めつつ、良行は事件の結末を思い返していた。
作中では、猊国人商人の代わりに登場させた美国帰りの商売人が、親を自殺に追い込んだ犯人である高利貸を小売商を利用して殺害した事にしている。
だが、実際は小売商関山海の単独犯だ。
マイケル・ウィルソンは、偶々関の娘と親しくなり、彼女に病院を世話しただけであったし、黄晶と取引したのも新たな倉庫を建てる為――彼の会社は店舗を増やすのだそうだ――だったそうだ。ついでに言うと、メリー・関瑞蓮を気に入っているのは寧ろ彼の妻――これはイライアス・ホーク・マーヴィンも勘違いしていたが、Mr.ウィルソンは妻帯者だった。幼馴染みで姉弟気分が抜け切れない為、周囲も勘違いしている人間が多いらしい――だそうだ。
ホーク・葉和偉は、関山海が捕まった事しか教えてはくれなかった。(公僕故致し方ないが)
だが、その後打撲傷まみれになって戻ってきたイライアス・ホーク・マーヴィンによると、黄晶と関山海は同じ村の出身で、そこでちょっとした因縁が生じたらしい。
村でも指折りの美人姉妹の妹を嫁にしたのが関で、姉と結婚したのが黄、だったらしいのだが姉は多情な性質で、黄の稼いだ金で旅役者に貢いだ挙句、駆け落ちしてしまったらしい。
その事に怒り狂った黄は、嫁の実家に使い込んだ金を返せと怒鳴り込んで家土地全て奪いそれでも足りぬと、老夫婦と跡取り息子を人夫として売り飛ばそうとしたらしい。
姉に比べ、ずっと穏やかで真面目な気質の妹は夫に幼い娘を託し、老父母とまだ幼い弟の代わりに、黄の家に女中として働きに出る事にした。
そして、関山海も妻の実家を助けようと娘を妻の父母に預け、遥々星海へ働きに来たのだ。
ところが、漸く商売が軌道に乗り始めた、星海に来て二年目の事。妻の弟が、娘を抱えて関の元へ転がり込んだのだ。
彼が語った事は、最悪だった。
黄晶は、薄給で妻をこき使い、もっと給金が欲しいなら妾になれと言って寄越したそうだ。
だが、亭主である関に貞操を誓う妻が首を縦に振る事はなく、痺れを切らせた黄はある夜疲れて眠っている彼女相手に、強引に関係を持とうとしたらしい。
らしいと言うのは、弟もそこら辺が判らないのだそうだ。
関係を持たされたのか、未遂なのか、そこは永遠に判らないがこの騒ぎの中関の妻は自殺し、孫を父親の下に連れて行くよう息子に言い含めた老夫婦も自害したらしい。
黄晶を恨みつつも、幼い娘と未だ保護の必要な義弟と三人で、この十年関は真面目に働いて来た。
黄晶の方は、自殺騒ぎで元々悪かった風聞ががた落ちになり――嫁に逃げられた事によって向けられた同情は、その後の借財取り立て騒動であっという間に地に落ちていた――、星海とは別の交易都市である天堂市へ逃れ、そこで商売を始めた。
強欲な商売で、一気に巨額の富を築いたまでは良かったが、彼はそこで一つ大失敗をやらかし、十年足らずの間のさばっていたその街から、抱えられるギリギリの金目の物を抱えて逃げてきたらしい。
そこでどんな失敗をしたかについて、調べようとした結果イライアス・ホークは傷まみれになったらしい。
「いやあ、どうやらあのおっさん、あの租界まみれの街で相当まずい事やったんじゃね?
黒幣のお偉方が渋い顔したもの」
「Mr.黄は、黒幣の方に顔が利くのでは?」
良行の疑問に答えたのは、帰って来てイライアス・ホークの手当をしてやった警察官の方だ。
「奴に便宜を図っていたのは、北の方の組織や外からこっちに入り込もうとしている外国の連中だったよ。
おかしいと思ったんだ、少なくとも城市の黒幣は縄張りの人間を大事にする筈なのに、あんな高利貸しがのさばるなんて」
……聞けば、親の代から警官をやっているホーク・葉には必然的に黒幣の今お偉いになっているような面子の中に、彼の亡き父――殉職されたそうだ――に恩義を感じている人間が何人かいて、時折彼に情報を流してくれようとする人間もいるらしい。
まあ、和偉自身がまだ単なる市内警邏の警官に過ぎない事もあり、その情報を活用する事は殆ど無い。
今回、参考人であるイライアス・ホークを探すに当たって、根回しを頼んだところほぼ事件が終わった頃に別件で和義安にリンチに遭いかけたイライアスを、彼等に保護して貰う事になったのだ。
「ところでさ、やっぱりあの黒いお札に砒素塗られてた?」
「いや、火伸し掛けてあった方。関曰く、汚れている奴は砒素の粉が見えるかもしれないと思って、出来るだけ綺麗な奴火伸しして殺鼠剤掛けてたって。渡す時も、直に触らない為に袋に入れたそうだ」
赤毛の青年が問うのに、警官は取調べ中に聴いた事と調書で知った事を絡めて答えた。
「ホーク君、エリー君、もしかして、Mr.関が払っていた借金とは」
「……うん、亡くなった奥さんの借金だって。あのくそ親爺、最初娘差し出せって言ったんだって」
「え?」
「ああ、当人が動機として、『妻と、その両親を死なせた奴が、成長して妻に似てきた娘を嫁に寄越せと言われた事で、頭から色々吹っ飛んだ』って」
「土下座して、借金返済に捩じ込んだってさ。尤も、奴さんは何れ親父さんが音を上げるだろうって踏んでたらしくて、そのうち祝言を上げるって触れ回ってたって。
誰も本気にしなかったそうだけどね?」
イライアス・ホークの言葉をホーク・葉が補足し、それに更にイライアスが付け足すのを聞いて、良行は緩く頭を振った。
「断片的な情報が混ざり合って、点心店で聞いた噂が出来上がった訳ですか。
ん? エリー君、Mr.関の話は一体……もしかして、義弟さんから?」
良行の問いに、イライアス・ホークは軽く舌を出すや、そのまま「また来るよ」と言って出て行ってしまった。
その背中を、怒鳴り散らしつつ追い駆けるホーク・葉を見送り、良行は腕を組んで座り直した。
かさりと音を立てて、阿波田蘭子は原稿用紙を揃え直した。
「ありがとうございます、先生。
これで、私も編集長に叱られずに済みますし、読者さんにも顔向け出来ます」
「んー、それなら良かったけど」
頭を掻く良行に向かって、いまや社内で中堅と呼ばれるようになった女流編集者は、原稿用紙を袋に戻し、雲呑麺の代金を椀の傍に置いて立ち上がった。
「もう行くのかい?」
「ええ、今日の最終便で帰りますから」
そう言って、もう一度頭を下げた蘭子に向かって、良行は軽く手を振りつつこう付け足した。
「ああ、じゃあ阿波田さん、今度掲載誌を送る時にでも原稿用紙を二、三帖一緒に送ってくれるかな?
今回思ったより使っちゃったから、次の分書くのに心許無くて」
その言葉に目を丸くした後、蘭子は満面の笑顔を浮かべ、「はい、必ず!」と告げて帰って行った。
ふうっと、大きく息を吐き首を鳴らしている良行の前に、ことっと音を立てて湯麺が置かれる。
顔を上げれば、店の女将が笑っている。
「お疲れ様、旦那。三日で書き上げるとは大したものだねえ」
「勢いがつけばね」
笑い返して箸を取ると、ある事を思い出して良行は眉を下げた。
「しまった。うっかりエリー君とホーク君の名前変えずに書いてしまった。
んー、まあ、八嶋のカストリ誌の読物なんて、こっちまで流れる筈も無いし、まあいいか」
そう自己完結し、良行はそのまま湯麺を食べ始めた。
二ヵ月後、編集部から届けられた雑誌には、『南洋推理覚書 東西双鷹』と言う題名が大きく入っていた。
流石に、華国語を覚えて意味を悟ったイライアス・ホーク・マーヴィンに、『モデル料』と称してたかられホーク・葉和偉に助けられる事になるが、まあ、それも先の話である。
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