徒然推理覚書  『死蜂冥道』

怪傑忍者猫

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九月一日

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 栄城路ウィンセンローと言うのは、星海の城市でも下町と言った風情の辺り、、佐麻地ジョーマァディ当たりの通りでも大きめのものである。
 東海に浮かぶ島国、『八嶋』からやって来た探偵小説書き、自称『三文文士』の坂本良行が塒にしている下宿屋『風雷旅館フォンロイロイグン』――元々は旅籠だったそうだ――は、地上三階、地下一階の見た目は華国ロンファ風、実は猊国ブリテン式の機材が色々入った最新型の建造物だ。
 例えば、一階から三階まで結ぶ昇降機が設置されているし、地下に設置されたボイラーのおかげで蛇口からお湯が出る。フロントに行けば電話機も設置されているし、近年普及が進んだ瓦斯釜や瓦斯オーブンが入居者用の簡易キッチンにも設置されている。
 また、入浴習慣がある良行には、小さいが湯船付きの浴室がある個室を借りられたのは僥倖であった。
 ま、種を明かせば大家が新し物好きと言う事なのだが、良行と彼をここに連れて来たホーク・葉和偉イップ・ウーウェイとは、ありがたく機材を活用して暮らしている。
 お茶を入れたり、外から持ち帰った惣菜を温めたりと、一人暮らしを快適に過ごしている。

 さて、そんな日々を送る良行の下に、八嶋の出版社から小包が届いたのは、そろそろ中秋節という時分である。
 中に入っていたのは、先日元担当に渡した原稿が掲載された『冗談倶楽部』と、新品の原稿用紙三帖にきっちりと梱包されている状態で万年筆一本、そして後日書留で原稿料を送るという旨の手紙が入っていた。
「ほお、坂田の万年筆じゃ。……こりゃ、次回作の催促だな」
 万年筆が出来て、そろそろ四〇年。八嶋国でも国内生産されるようになったものの中でも、名品と名高い坂田製作所の万年筆である。
 恐らくは、生真面目な元担当からではなく、彼女の先輩の誰かからのメッセージだろうと見当を付ける。
 さてとばかりに貰い物の文机に向かい、使い掛けの原稿用紙とインク壺を並べた。
「どの話にするか……」
 腕を組んで首を捻った良行は、ふっと風を通す為に開けていた窓から、ついっと一匹の蜜蜂が入って来たのに気付いた。
「蜜蜂か」
 そう呟くと、良行は華服の合わせから懐に入れていた手帳を取り出した。
 そして、草臥れ白紙ページの減ったその手帳を捲り、そこに書き込んだ自身の文字を熱心に読み始めた。

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